久しぶりに元彼と再会するという甘酸っぱい展開からスタートする、『元カレが腐男子になっておりまして。』。しかし出会った場所は、何と書店のBLコーナーで……。 隠れオタクで腐女子の主人公が、自分とまったく同じ趣味にはまってしまった元カレと再会したことで、あれこれ面白おかしい展開になるオタクラブ(?)コメディです。本作はスマホの漫画アプリでも掲載が始まったので、気になった方はまずそちらをどうぞ。
主人公・赤土桃(あかど もも)は、腐女子趣味を生き甲斐にしているごく普通の隠れオタクOL。そんな彼女は、ある時思わぬ人物と再会を果たします。
それは、高校時代の元カレ・片倉錫也(かたくらすずや)。なんと彼は、BL好きの腐男子になっていたのです。
- 著者
- 麦芋
- 出版日
- 2018-01-22
なんらかの理由によって、別れた男女が運命的に再会する、というのはラブストーリーとしては珍しくない展開。ある種のベタベタではありますが、本作では、シチュエーションが違うだけでこうも変わるのかと設定の面白さを感じさせられる始まりです。
オタクと無縁だったはずの元彼がオタクと化し、なおかつ腐っている。予想の斜め上をいく情報過多な状況によって、恋愛の王道展開が、オタクあるある爆笑コメディに早変わりするのです。
ただそれだけならばただの1発ネタ、出オチに終わってしまうでしょう。本作では日陰者の連帯感、オタク同士の友情、そして少しほろ苦い大人のあれこれまで話がおよんでいくところが面白く、独自の魅力となっているのです。
本作の魅力は、共感度の高い登場人物たちにあります。
まず、主人公・赤土桃。表向きには会社勤めをする普通のOLですが、学生時代から腐女子趣味で、自身でも個人サークル「行き止まり」を主宰する気合いの入ったオタクです。
春日幸音(かすが ゆきね)は桃と同期のOLですが、彼女も小説サークル「シンメトリー」を運営する隠れオタク仲間です。
そして、本作のもう1人の主人公といえるのが、桃の高校時代の元カレ・片倉錫也。当時はなんとなく桃と付き合っていたものの、彼女がうっかりBL本を彼の部屋に忘れたことがきっかけで、なんとなく疎遠となってしまいました。
そして、その忘れられた本こそ、彼が腐男子道に進むきっかけとなったのです。
人知れず染まってしまった彼は、ただでさえ肩身の狭いBL趣味に加えて、男性であることから慎重に慎重にオタクであることを隠していました。それが桃との再会によって同志と巡り会い、打ち解けていくところが微笑ましくて面白く感じられます。
自分の性癖を元カレに晒せと?
隠そう…
隠そう桃ちゃん…
君のような勘のいい女は好きよ…
(『元カレが腐男子になっておりまして。』1巻より引用)
こういったオタク同士だけに通じるパロディ台詞が、作中の随所で出てくるのもポイントでしょう。
元カレが元カノの影響で腐男子になった、というだけでも充分面白いのですが、そこへ畳みかけるように推しが丸被りということが判明します。
錫也がこの道にはまったきっかけは桃が置き忘れた本で、それは彼女の嗜好で選ばれたもの。そこを辿って染まっていったわけですから、考えてみればある意味必然かもしれません。
さらに傑作なのが、彼は桃のサークル「行き止まり」の大ファンということ。これも入り口を考えれば当然かも……。
かくして2人は趣味が合致して意気投合し、オタク仲間となります。ただし、桃(と幸音も)は自分が錫也が大好きなサークル作家であることは秘密にしているのです。
同人活動とは、いわば性癖の曝露大会。秘密にするのは、その事実を元カレに知られたくないという桃のせめてもの抵抗なのです。
「元」とはいえ、桃と錫也はカップルでした。それも、知られたくない秘密を知られてしまった、という誤解からすれ違って自然消滅してしまった関係です。
そんな2人が、めでたく(?)意気投合して同じ趣味の同志としてよりを戻すのは、運命的な出会いから考えても自然な流れでしょう。読んでいれば当然、そういったラブ的な展開も期待してしまうもの。ですが錫也の反応は、ようやく出来たオタク仲間を歓迎するだけ。甘い要素は微塵も感じられません。
そうはいっても、数少ない仲間、気の置けない友人として接していくうち、自然と距離は縮まっていきます。果たして2人はくっつくのか?くっつかないのか?という部分も見所なのです。
また、幸音も幸音で、海外旅行中に偶然出会ったオタクのイタリア人・シルヴィオと接点が出来ます。彼はオープンなオタクとして物語に関わってくるので、そこも注目してください。
ある月末の給料日、桃は行きつけのアニメショップへと足を運びました。目当てはショップ委託のBL同人誌。すると、BLコーナーには先客の男性がいました。
彼女は、珍しい腐男子だと思うのですが……よく見ればそれは、元カレの錫也だったのです。
- 著者
- 麦芋
- 出版日
- 2018-01-22
衝撃的すぎる元カレ元カノの再会。場所が場所だけに、ロマンスも何もあったものではありません。
お互い自然消滅した相手ということで、当初の受け答えはギクシャクしてしまいます。そこでの手の内、胸の内を探るやり取りは、「どこまでいけるか?」という距離感を計る、隠れオタク特有のムーブそのもの。
およそ再会した彼氏彼女の再会に相応しくない会話なのですが、そこがギャップがあって面白いところでしょう。
そんな衝撃的な再会を果たした2人は、なぜか出勤中のエレベーターで再び会うことになります。なんと、彼らの職場は同じ建物内にあったのです。まさに運命的。そこから2人の関係は、徐々に縮まっていくことになるのでした。
打ち解けてからの錫也の屈託のなさ、複雑な心境の桃という対比も楽しめますので、ぜひご注目ください。
自分が同人作家であることを隠しつつ、桃は錫也となんだかんだよい関係を築いていきます。さらに駄目元で応募していた2.5次元のミュージカルの2人1組チケットに当選し、鈴谷を誘うことに。
当初、2.5次元に精通してなかった錫也は新しいオタ活に興味津々で挑むのですが、舞台当日に思わぬ事態が起こります。
元カレが腐男子になっておりまして。(2) (ガンガンコミックスpixiv)
2018年09月21日
腐女子向けの公演だったため、当然女性客だらけ。事情があって桃は一時退席し、1人残された錫也は浮きまくりだったのです。さらに彼はその場違い感から、周囲に転売人に誤解されてしまうのでした。
同好の士に受け入れられない、白い目で見られるという、悲しい事態。しかし、この窮地で桃は機転を利かせて、最終的に観劇は大成功。絆の深まりとともに、腐男子への無理解というシリアスな側面が描かれるところも、単なるコメディに終始しない本作の魅力です。
そして、この巻の最後では、ついに桃が恐れていた事態が……!
いかがでしたか?腐女子にまつわるあるあるネタから、複雑な感情入り乱れるラブストーリーまで網羅した、楽しい作品です。ご紹介した内容のどれか1つでも琴線に触れたなら、一読してみることをおすすめします。