口だけが達者な格闘技オタクの貧弱青年の物語の舞台は、脳内での妄想から、現実のリングの上へ! 華々しくない主人公の活躍が斬新で面白い。そんな格闘漫画が、本作『脳内格闘アキバシュート』。主人公の輝かしい活躍の数々ではなく、泥臭く、カッコ悪く這いずり回りながら前進する様子が描かれた作品です。今回は、そんな本作の魅力を全巻分ご紹介しましょう。
主人公である桜庭秀斗は、とにかく格闘技の知識を語りだしたら止まらない程の格闘技オタク。家でも、延々とサンドバッグを叩き続けるトレーニングを続けていました。
しかし格闘技経験は一切なく、身体もヒョロヒョロの貧弱男子です。しかも合コンの帰りに不良にボコボコにされたり、女の子にカッコいいところを見せたい気持ちで訪れたジムでまたボコボコにされたりと、とにかくよいことがありません。
そんな彼のもとに陰鬱な雰囲気を纏った謎の女性がキックボクシングジムの勧誘に訪れます。そこから桜庭の運命は一転するのでした。
- 著者
- 本田 真吾
- 出版日
- 2008-01-28
本作の魅力はさまざまですが、なんといっても他の格闘技漫画と比較しても顕著な、主人公の情けなさでしょう。
すでにあらすじでもご紹介しましたが、主人公の桜庭は口だけは達者な格闘技オタクで、実力も実戦経験もないのに自信満々。他者の分析と、この時自分ならこうするという戦術を語りまくります。
もちろん知識だけは一人前なので、その指摘が的を射ている事も。ですが、経験が圧倒的に不足している事により、自分がいざその場に立った時には一切実践する事が出来ず、ただただ相手のなすがままにやられてしまうのでした。
そんな彼の性質は、実は物語の終盤近くまで変わる事はありません。何度か実戦を経ても、まだ、その脳内では最強という自身の妄想に囚われる事となります。
その妄想はプロの格闘技チャンプに対しても対抗意識を燃やすくらい身の程知らずで、実力者である彼らに対しても、なぜか偉そうな態度をとり続けるのでした。
はっきり言って、序盤の彼には主人公らしい要素が1つもないのですが、だからこそ強くなるために地道な一歩を進めていく姿に、なんとも言えない感慨が生まれるのです。
カッコよくない主人公だからこそ、カッコよくなるための1つ1つの足掻きがドラマになるのです。前向きに成長を志す主人公たちとはちょっと違う、彼の魅力を楽しんでみてはいかがでしょうか。
ここからは、各単行本の見所についてネタバレ紹介していきましょう。第1巻では桜庭の紹介に加えて、キックボクシングを始めるまでの話が描かれています。
1人でいても、合コンに行っても、とにかく口だけは達者に格闘技知識を語り続けていた桜庭。そんな彼がいたる場所でボコボコにされるうちにたどり着いたのは、キックボクシングジムである氷堂ジムでした。
ジムでキックボクシングを始めたばかりの素人同然の人物に、ローキックで完封されてしまった彼はさらに自信を喪失し、逃げ出した先で空手道場に通い始めます。
逃げた先で、ようやく自分を鍛えられる居場所を見つけられたと思っていたのですが、そこに氷堂ジムに彼を招いた張本人・真理愛が再び現れて……。
- 著者
- 本田 真吾
- 出版日
- 2008-01-28
本巻の見所は、桜庭があちこちでボコボコにされるさまです。
合コンの帰り道ではストリートファイトで不良にボコボコにされ、女の子にカッコつけようと一緒に行ったジムでは、現役の格闘選手にボコボコにされ、強くなるために訪れた氷堂ジムでは、格闘技を始めたばかりの人物に一方的にボコボコにされ……と、とにもかくにも、のされ続けます。
しかし実力のなさを反省して自己向上を図ろうとするのではなく、そうなった事実を認めず、直視せず、さらには言い訳しながら、なお自分には格闘技の才能があると思い続けるのです。
格闘技漫画は数あれど、ここまで往生際の悪い主人公はなかなかいなかったのではないでしょうか。新鮮な面白さに引き込まれる内容です。
秋葉の運命が少しずつ変わり始める第2巻です。彼はほとんど強制的に、空手道場から氷堂ジムに連れ戻されてしまいました。
そこで待っていたのは、ジムに所属する先輩ファイターの梶原勇悟。桜庭と同じ21歳という若さで、格闘技団体FUSIONのチャンピオンにまで上り詰めた男だったのです。
自分と同じ時間を過ごしてきたはずなのに、圧倒的にレベルに差があることを痛感した桜庭は、それでも自らを奮い立たせてジムに所属する事を心に決めます。
しかし待っていたのは、超短期間でのプロテスト合格やトーナメント出場といった無茶ぶりと、それに合わせた過酷なトレーニングメニュー構成だったのです。
果たして桜庭は、なんとか強くなることが出来るのでしょうか。
- 著者
- 本田 真吾
- 出版日
- 2008-06-28
本巻の見所は、桜庭のプロテスト合格までの一連の流れでしょう。ジムに連れ戻されたからというもの、彼はプロテストの合格に向けて延々と基礎体力作りとスパーリングを続けます。
彼に許された打撃の練習はたった1つ、左のミドルキックのみです。明らかにバリエーションがなく、地味で代わり映えしない練習の日々に嫌気が差しつつも、他に頼るものもなかった彼はただ愚直にその練習をくり返していきます。
しかし、そんな彼が真剣にそれだけを続けてきた結果は、プロテスト当日にはしっかりと形になり、難関団体のテストに無事合格できたのでした。
かなりまぐれっぽい合格ではありましたが、ようやく努力の末に結果を勝ち取った瞬間が、読んでいて元気をもらえる展開です。
2巻の最後にトーナメント戦に出場する事となった秋葉ですが、なんと早々に敗退してしまう事に。そしてすっかり自信を失った彼は、家に引きこもってはインターネット掲示板「駄ちゃんねる」に書き込みを続ける日々を送っていました。
さらにストリートファイトでかち合う事になってしまった相手からもボコボコにされてしまいます。明らかに自分や他の格闘技好きな人達を見下していたその相手の様子に、悔しさでいっぱいになる桜庭。
その相手が元柔道家のキックボクシング転向者であることを知った彼は、リベンジに向けてあらためて特訓することにしたのでした。
そして新たに首相撲を習得した秋葉は、真理愛によって仕組まれたマッチングにより、因縁の相手と試合の場で再戦する事になるのです。
- 著者
- 本田 真吾
- 出版日
- 2008-10-28
本巻の見所は、やはり最後の桜庭と因縁の相手との再戦でしょう。
次巻まで続きますが、この試合はこれまで桜庭が練習してきたことの集大成ともいえる内容です。相手はキックボクシングこそ素人同然の状態とはいえ、武道の経験は桜庭とは比べ物にならない程のベテラン。十分な身体能力と格闘センスをもって、キックボクシングの技量不足を補っているのです。
そんな相手に対し、桜庭はこれまでキックボクシングを始めてから習った事のみを、ただ愚直に練習し続けてきました。そしてとにかく真剣に打ち込んできたミドルキックの練習の成果が、本巻のラストでしっかりと発揮されるのです。
新たに習得した技術だけではなく、それと組み合わせるためにしっかりと自分の必殺技としてミドルキックを習得していたあたりが、なんとも感慨深い一幕といえるのではないでしょうか。
ついに最終巻となる第4巻です。本巻では、無事に再選相手へのリベンジを果たし、ついに桜庭は試合に勝利します。
しかし、その終了間際。再戦相手から投げ技などの柔道技(もちろん反則)を使って倒され、本気を出せばいつでも殺せると言われてしまうのです。そんな彼は、勝ったはずなのにどこか空虚な気持ちを抱えていました。
しかし、真理愛からの、少しずつだけど確かに変わっている、という言葉を聞いて、あらためて練習に打ち込む事にしたのでした。
そこから物語上の時間は飛び、最後はなんと桜庭の対戦相手として、とんでもない相手が……。
- 著者
- 本田 真吾
- 出版日
- 2009-02-28
本巻の見所は、やはり最終試合です。マッチメイクや具体的な展開などについては、ぜひご自身の目で読み進めて頂きたいと思います。
ですが、桜庭本人の成長と、その集大成をもって生じた試合の結果に、思わず感動してしまうのではないでしょうか。戦う男の物語が好きなら間違いなく満足できる最終巻となっていますので、ぜひご一読ください。
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