「漫画アクション」で連載されていた、きづきあきら・サトウナンキ連名による作品。センセーショナルを売りとする配信者と、その食い物にされる女性を描き、現代インターネットの闇を浮かび上がらせる問題作となっています。
物語の主人公の修二は、「しゅーじ」の別名で、ネット配信で商品紹介を中心に生放送をする大学生です。かつて人気者だった彼は昔日を忘れられず、自堕落に過ごしていました。
そんなある時、彼は売春でその日暮らしをする、メイという女性と出会います。
- 著者
- ["きづき あきら", "サトウナンキ"]
- 出版日
- 2016-03-28
この2人の出会いから、現代社会が内包する闇が浮き彫りにされていきます。
モチーフの性質上、本編では底辺の屑な人物のゲスなやり取りが、赤裸々に描かれる本作。最底辺で弄ばれる者、それを食い物にする者、上からそれらを操る者……現実にあり得そうな闇が、ありありと描かれているのです。
胸くその悪い展開ばかり、いわゆる鬱漫画なので、耐性のない方はご注意ください。
大学生の修二は、学校にもろくに行かず、過日の人気を追って無目的に生放送をするネット配信者でした。
彼はある日、一発でアクセス数の伸びるネタを求めて外出をし、そこで偶然メイと出会います。
- 著者
- ["きづき あきら", "サトウナンキ"]
- 出版日
- 2016-03-28
メイの様子にただならぬ雰囲気を感じた彼は、彼女を「オモチャ」にして視聴者を稼ぐことを思い付きました。彼女をホテルに囲い、パトロン(支援者)を募って、リスナーの望むような見世物にしようというわけです。
その日暮らしもままならなかったメイにとっては願ってもない話……でしたが、そこで突き付けられる要求は、とても正気の人間が耐えられる屈辱ではありませんでした。
そして彼女の気持ちとは裏腹に、その要求はどんどんエスカレートしていきます。見るのも悲惨ですが、この先どうなるかという思いで、読むのをやめられなくなってしまうでしょう。それこそ、作中でメイが悲惨な目に遭うほどに、視聴者が増えるのと同じよう……。
善意の友人のフリをした嘉門のお膳立てで、売春の元締めのギバ相手に窮地に陥った修二とメイ。「ネット配信」に着目したギバが手を引いたことで、とりあえずことなきを得ました。
どんどん調子に乗る修二は、メイの妹との接触を画策し始めます。
- 著者
- ["きづき あきら", "サトウナンキ"]
- 出版日
- 2016-07-28
嘉門ら面白がるリスナーの後押しがあったとはいえ、修二は前巻ラストで思わぬ男気を見せました。そのことから、メイからの好感度が上がるものの、それで彼の人間性が変わるかというと、そんなことはありません。
次に企むのはメイがもっとも嫌がる肉親、妹との再会です。それによって前半ではメイの心の傷をえぐり、後半には洒落にならない緊急事態が発生します。
メイの美容計画など、修二も彼女を気にする素振りはあるものの、いまいち振り切れないクズのままなところが歯痒いです。
強姦に死体発見の生中継……途轍もない事態が次々に起こりました。ですがその実、それらはギバの思惑のうえで成り立っており、仕掛けられたことだったのです。
そうとは知らない修二は、見えない糸に操られるが如く、リスキーな配信の深みにはまっていきます。
- 著者
- きづき あきら
- 出版日
- 2016-11-28
このあたりから段々と本作のタイトル『奈落の羊』の羊とは、メイだけを指しているのではなく、修二のことでもあるということがわかってきます。踊らされていることに気付かずに危険な行為に身を染めていくのは、麻薬中毒者のそれに近いかもしれません。
その一方で修二とメイの間には、奇妙な絆が形成されていきます。愛でもなく、恋でもなく、信頼でもない、言葉にしがたい不思議な関係に、修二は戸惑います。
そんな折り、メイの知り合いの女性・ユウキが、無職限定の合コン企画を提案してくるのです。複雑な思いに駆られる修二でしたが、その預かり知らぬところで彼の身内に危険が迫っていたのでした。
手段を選ばないギバの手口から、修二はようやく裏の世界の恐ろしさを実感し始めました。もはや抜け出せない状況と、半ば依存しつつあるメイへの気持ちの板挟みとなり、彼は困惑します。
そんななか出し抜けに、メイと連絡が取れなくなるのでした。
- 著者
- ["きづき あきら", "サトウ ナンキ"]
- 出版日
- 2017-03-28
メイはこれまでの配信によって評判が上がり、風俗に身売りされていったのです。修二は素直になれないながらも、思い切った行動で彼女を連れて逃げ始めます。
些細な行き違いでメイが風俗に行く決断をしたところからの逃亡劇で、かすかにこの物語に希望が差し込めたように思えるのですが……。
クズな人間とゲスい展開しかない本作だけあって、後半にとんでもないことが起こります。修二の家族に迫っていたギバの魔の手が、ついに実姉を捕らえてしまうのです。
修二は自業自得とはいえ、無関係の家族が酷い目に遭うのは読んでいてもつらくなります。
相楽真凛(さがら まりん)は高級マンションに住む女子小学生。ですが彼女には、顔を隠してゲーム配信する「まりん」という別の顔がありました。
彼女はただの小学生ではありません。非常に頭がよく、大人を利用する狡猾な子供だったのです。
- 著者
- ["きづき あきら", "サトウ ナンキ"]
- 出版日
- 2017-07-28
消息不明となった修二とメイに変わって、新たな人物と場所が舞台となり、新しい物語が始まります。この真凛という少女はユウキに対して執念を燃やしており、ことなかれ主義の教師である三園を巻き込んで、立ち向かっていこうとします。
ですが、そううまくいくはずがありません。ユウキがターゲットの1人であるなら、当然のようにギバが関わってきます。賢いとはいえ、ただの小学生が裏世界の住人を相手にしてただで済むはずもなく……。
果たして、その運命は?修二とメイとどのようにリンクしていくのか?物語はクライマックスへと進んでいきます。
消息不明となっていた修二とメイ。彼らは身を隠していただけで、死んではいませんでした。ギバへの反撃の機会を窺って、地下に潜っていたのです。
そして彼らはついに、鍵を握る小学生「まりん」こと相楽真凛との接触に成功します。
- 著者
- きづき あきら
- 出版日
- 2017-11-28
ネットの闇を浮き彫りにするサスペンス漫画、ついに完結。裏で操られ、いいように弄ばれていた最底辺の羊――修二達がいよいよ打って出ます。
ギバのこれまでの行動が巧妙な策だと看破した彼らは、そのことを利用して、ギバ達を追い詰めようとするのですが……。
ストレートにハッピーエンドにいかないだろうことは、おそらくご想像のとおり。ギバ一味による最後の外道行為、メイや嘉門の本音と思惑などが明かされ、見所が目白押しとなっています。
この救いようのない物語にどのような決着が付くのか、ぜひ実際にご覧ください。
『奈落の羊』のように後味の悪さが残る鬱漫画が気になる方は<鬱漫画おすすめ?ワースト23!きついのに読む手を止められない!>、<胸糞悪すぎなおすすめ鬱漫画7選!>の2つ記事もおすすめです。
いかがでしたか?『奈落の羊』は徹頭徹尾、後味の悪い、胸くそ悪さの付きまとう作品です。本作には本当に起こり得る、そして、どこかで今起こっているかもしれないという凄みがあります。