今回は、読むと気分が滅入ってしまうような、暗鬱になる漫画をご紹介します。狂った登場人物や世界観はトラウマもので、見るに耐えられないものばかり…。でもなぜか読むのをやめられない、そんな不思議な魅力を持つ作品を読んでみませんか?
どこにでもいそうな少年プンプンを主人公にした漫画『おやすみプンプン』。プンプンの波乱の人生を描いた作品です。作中、彼と彼の家族、親戚はトリの落書きのような姿で描かれます。外見だけはとても可愛らしいトリが登場してくる作品ですが、沈鬱な気持ちになること必須の内容でしょう。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
物語の前半は、彼の学生時代を描きます。プンプンは好きな女の子にも一途で、良い関係を築いていきます。そんな中で、各キャラクターの闇が軒並深いというのが本作の特徴。作画もプンプン家族以外はリアルに描かれるので、なおさらキャラクターが引き立ちます。無職になり精神的に不安定なプンプンパパや、そんな生活に不安でノイローゼ気味のプンプンママ、殺したいほど嘘をつく人が嫌いというクラスメイトで、プンプンの好きな愛子ちゃんといった人物が出てきます。
今まで紹介した作品群との決定的な違いは、人間関係の不安や葛藤がリアルに描かれているところです。取り立てて浮世離れしている内容ではないため、感情移入しやすく、この点が暗鬱になる漫画と言われる所以なのではないでしょうか。勇気のある方はぜひご覧ください。
『おやすみプンプン』の魅力を紹介したこちらの記事もおすすめです。
『おやすみプンプン』あらすじと魅力をネタバレ!鬱すぎるプンプンの人生とは?【13巻完結】
名作鬱漫画として多くの人を魅了する、浅野いにおの『おやすみプンプン』。今回は読者の心に傷と感動を与える本作のあらすじと魅力をご紹介します。スマホアプリで無料で読むこともできるので、気になった方はまずはアプリで読んでみるのもおすすめです。
本作の舞台は、北海道の片田舎(小樽市がモデル)。ヒロインであるチセは、シュウジに密かに恋心を抱いていて、ついに告白。不器用なりに幸せな交際を始めます。そんなある日、謎の敵が空から飛来してきました。街から戦火が広がる中、シュウジが見たものは「最終兵器」と化したチセでした。今までの日常が壊れてしまった世界と、すっかり変貌してしたチセに対して、シュウジはどのように向き合っていくのでしょうか……。
- 著者
- 高橋 しん
- 出版日
本作では、チセとシュウジの関係をたどっていくことがメインとなります。そもそも敵はどこからやってきて、なにが目的なのかはほとんど描かれておらず、二人の切ない恋愛に焦点が当てられています。
チセが兵器になったあとも、シュウジと恋人関係は続きますが、今まで通りとはいきません。戦争が苛烈になるにつれ、兵器としてのチセの出番が増え、敵を倒せば倒すほどチセの兵器としての成長が進んでいきます。シュウジを気遣うチセは、自分からシュウジを遠ざけようとするのでした。戦争によって引き裂かれた二人というのは、なんとも切ないものです。お互いに好きであるのに、そばにいられないというあまりに悲惨な青春を、ぜひあなたの目でお確かめください。
2002年には、テレビアニメ化もされています。
『最終兵器彼女』について気になった方はこちらの記事もぜひご覧ください。
『最終兵器彼女』完結から約15年。名作漫画をもう1度考察【ネタバレ注意】
2000年に「ビックコミックスピリッツ」に掲載され、良くも悪くも話題になった名作漫画。完結からおよそ15年が経った『最終兵器彼女』をふりかえってみました。
夏休みに自然学校に参加していた15人の少年少女たちは、海辺の洞窟内に不思議なアジトを見つけます。アジトの主は、正体不明の謎の男。男は15人に自作のゲームへの参加を持ち掛けます。
ゲームはいたって単純。地球を襲う巨大ロボットに対し、15人の子供たちが操縦者となり、巨大ロボットで立ち向かうゲームです。暇をもてあそんでいた15人はゲームに参加することを決意しますが、なんとゲームの戦闘に勝っても負けても、操縦者は命を奪われる運命にあったのです!
しかもゲームに負けると、少年少女たちの地球が滅亡……。過酷で理不尽な運命を背負った15人の子供たちは、地球を救うために戦いに挑んでいきます。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
「子供たちが地球を救う」という設定はよくありますが、少年少女たちが「勝っても負けても死ぬ」という理不尽な設定が加わることで、ストーリーの面白さがより一層強まります。
少年少女たちは何のために、何と闘っているのか?シンプルながら切なく理不尽な設定に、読者は一気に作品の世界観に引き込まれていきます。
また15人の子供たちは、育った環境も性格もバラバラです。貧しい家庭できょうだいを支える少年や、売春婦を母に持つ少女、妹に暴力をふるう少年、学校の教師と関係を持つ少女など……。
「必ず死ぬ」という設定ながら、ストーリーが暗くなりすぎないのは15人それぞれが抱く思い、覚悟、心理状態が丁寧に描かれているからといえるでしょう。
15体の巨大ロボット、15パターンの戦い方がそれぞれ迫力があるうえ、「そうだったの!?」と驚くような設定もあって、読んでいて全く飽きません。幼い15人が過酷な運命を背負いながら、必死で地球を守ろうとする様子は感動するはず。全11巻なので、一気読みも可能です!
2007年には、テレビアニメ化もされています。
『ぼくらの』についてはこちらで詳しく紹介しています。
漫画『ぼくらの』最終巻まで全巻ネタバレ紹介!5分でわかる魅力!
ロボット漫画の傑作にして鬱漫画の代表『ぼくらの』を詳しくご紹介します。乗ったら死んでしまうというロボット・ジアース。地球を守るためのパイロットとして選ばれたのは、全員子供たちでした。過酷で壮大な戦いの結末とは。
シイナは小学6年生の元気で明るい女の子。ある日、星型の不思議な生き物に出会い、それを「ホシ丸」と名付け、共にすごします。しかし実はその正体は「竜の子」と呼ばれる存在で、彼女はそれらを使って世界をリセットしようとする「リンク者」との戦いに参戦することになっていき……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
少女たちの心の葛藤と、それに感情移入した読者をさらに追い込む彼女たちの死の克明な様子が心にくる作品です。
シイナは明るい子ですが、実は母親にトラウマを抱えています。彼女が幼い時にある理由で仕事一筋になってしまった母はシイナとほとんど関わりを持ちませんでした。また、彼女の名前は漢字表記で「秕」なのですが、その意味は「中身が無い実」、「実ることのない種子」という希望のないもの。彼女はそんな自分の名前が嫌いでした。
母を憎み、つけられた名も疎み、ルーツに思い入れが持てない彼女ですが、それを隠して健気に生きていたのです。
ここまででかなりハードな設定なので既に心がやられるのですが、更に巻き込まれた戦争によってシイナの周囲の人が次々と亡くなっていきます。その殺され方もえぐい。
苦しみ、痛みを感じ、ひどい姿になって殺される少女たち。そして徐々にシイナの精神状態も危うくなっていくのです。つらい、救いがない展開で本当に心がやられます。果たして最後はどうなるのか。最終話のどんでん返しにまた驚かされる鬱漫画の名作です。
2003年には、テレビアニメ化もされています。
『なるたる』が気になる方はこちらをご覧ください。
『なるたる』ミミズジュース⁉グロシーンを厳選!鬱・胸糞展開をネタバレ紹介
ミミズジュースや豚食いなど、知る人ぞ知るグロいシーンをご紹介。アニメ化もされた名作漫画『なるたる』は、作者の鬼頭莫宏(きとう もひろ)が精神的に落ち込んでいた時期に描いたものだとか。いじめ、グロいシーンなどハードな内容が描かれた鬱漫画です。
主人公トビオは、少し冷めた性格の高校生。夢も目標も持たず、現実に過度な期待をせず、そこそこの人生を楽しめればいいと思っています。仲間たちと人並みに楽しい青春をおくることに満足をしていた彼は、ある日、仲間と悪ふざけで学校に爆弾を仕掛けて爆発させます。本人たちは花火のようなつもりで仕掛けた爆弾でしたが、予想以上の規模になり、死傷者が出ます。そこそこの人生から一転、トビオたちの高校生活はこれからどうなっていくのでしょうか……。
- 著者
- ["荒木 光", "金城 宗幸"]
- 出版日
本作を見た人は、はじめはギャグマンガだと思うはず。特に前半は、高校生同士でしょうもないギャグを言ったり、くだらない悪ふざけをしたりとギャグ要素が満載です。それゆえに、爆破事件への転落が響くのでしょう。
自分たちではなく、テロリストの仕業だと思い込んだり、気になる女の子と遊んで現実逃避したりといった、彼らが追い詰められていく描写と、前半のギャグシーンとの落差が激しくなっています。
作中、このようなメリハリのきいた展開になっていますので、次のトビオたちの行動に逐一目が離せません。ほかの鬱々とする漫画とは一味違う、シュールな展開を楽しんでみてくださいね。
『僕たちがやりました』についてはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。
漫画『僕たちがやりました』の青春×鬱な魅力をネタバレ紹介!
2017年夏ドラマの原作漫画『僕たちがやりました』。予想外の鬱展開にハラハラするこの青春漫画の魅力を、最終回まで徹底的に解明します。これを読めば作品の良さがもっと実感できるポイントとは?ネタバレを含んでお伝えしますのでご注意ください。
10日で5割、1日で3割など、超暴利で消費者から搾取する闇金融「カウカウファイナンス」の社長、丑嶋と、その利用者たちを描いたストーリーです。ドラマ化、映画化もされた人気作です。
本作はタイトルが独特。「奴隷くん」「債務者くん」「若い女くん」「闇金狩りくん」など、作品の中心人物の特徴にくんがつけられています。その呼称で騙されがちですが、内容はかなりハードな鬱漫画。彼らのどうしようもない人間性と社会問題にフォーカスしています。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
- 2004-07-30
今回は第1話「奴隷くん」をご紹介。このストーリーの中心人物はパチンコ依存症の主婦。彼女たちは困ったら旦那の給料をあてにすればいいという後ろ盾から、1日3割の利子で金を借り続けます。
ある日、限度額いっぱいになった主婦があと1万貸して欲しいとやってきます。「なんでもしますから!」という彼女の言葉を聞き、丑嶋は彼女をあるパチンコ屋へと連れて行きます。そこで彼女は男たちの相手をするのです。その数をこなし、なんとか金を手に入れた時の彼女の顔は凄惨。読んでいて胸糞悪くなるだらしなさと、依存症の病気の恐ろしさを感じます。それから彼女は家に帰り、家でひとりで待っていた子供を抱きしめ泣き崩れるのです。もうしないから、と。
読んでいてすごく嫌な気分にさせられるのにページをめくる手が止まらないのは、その闇がリアルに描かれているから。自分たちの近くにある少し向こう側の怖さ。一歩間違えたら自分も「そちら側」にいってしまう、もしくはすでに「そちら側」にいるのではないかというスリルがあります。そんな人間の闇を描いた社会派鬱漫画の怖さをぜひ作品でお確かめください。
『闇金ウシジマくん』について紹介したこちらもご覧ください。
『闇金ウシジマくん』が無料で読める!最新42巻までの見所をネタバレ紹介!
闇金融という裏社会のストーリーでありながら、ドラマ化、映画化までされた『闇金ウシジマくん』。この記事ではその魅力を、やばすぎる登場人物とストーリーの見所からご紹介していきます。スマホの漫画アプリ「マンガワン」で無料で読むこともできるのでそちらもぜひ!
雪深い田舎町、大津馬町。半年前に、両親の仕事の関係で妹と共に東京から引っ越してきた野咲春花は、今年で廃校になる大津馬中学校に転入します。そこは最後の卒業生ということもあり、かなり閉鎖的で限定されたコミュニティとなっていました。そんな狭い社会に突如現れた春花がいじめの標的になるのはそう時間はかからなかったようです。
靴を隠される、机に落書きから始まり、次第にエスカレートしていく春花への不条理ないじめ。春花は、いじめに加担せず春花に好意的に接してくれる相場晄から教えてもらった三角草の花言葉「はにかみや」の言葉を胸に、卒業まで耐え抜くことを誓います。
- 著者
- 押切 蓮介
- 出版日
- 2013-03-12
後日、娘の様子がおかしいと春花の父は学校訪問をしますが、教師の南は事を荒らげない方がいいと父を追い返します。生徒たちにもいたずらされた父は、もう学校に行かなくてもいいと春花に伝えます。春花はその言葉には返事をしませんでしたが、熱が出たこともあり学校を数日間休むことに。
しかし、春花をいじめることで動き始めていた新しいコミュニティの形は、春花がいなくなることで歪な方向にと曲がっていくのでした。その歪曲が形となって表れた、野咲家への放火。両親を失い、全身火傷を負った妹のために復讐を静かに開始する春花。復讐の先に春の雪融けは来るのでしょうか。
本作品は閉鎖的で限定的なコミュニティにおける、異質性を排除したがる力学の陰惨さをテーマにしています。復讐の物語が成立するよう、目撃者がいないことや人通りが少なく犠牲者の発見が遅れるなどの理由から、作品の舞台として田舎町が選択されているようですが、上記の陰惨さについて言えば、都会における学校現場でも変わりないでしょう。どこか遠い世界の物語として鑑賞させられるのではなく、身近にあり得るお話として各登場人物の感情が拾えるのもそういった点からでしょう。
また、いじめの陰惨さとその復讐という陰惨な表現だけでなく、物語の最初から最後まで学校からの卒業を意識させられるストーリーが展開されていきます。学校という閉鎖的な人間関係、コミュニティから卒業できずにいる子供たちが、春花の復讐によって与えられる死の間際に、自身の大切なもの(家族や愛する人など)を実感させられることで、それらを真に大切にしてこなかった未熟な今までの自分から卒業させられていくお話ともいえます。
『ミスミソウ』についてはこちらをご覧ください。
『ミスミソウ』の見所を最終回までネタバレ紹介!傑作ホラー漫画の鬱展開…
心優しかった少女は、家族を全員殺され、殺人鬼と化す……! 2018年に映画化された押切蓮介の名作サイコホラー漫画『ミスミソウ』。いじめによって変わり果てた少女の復讐劇です。読み進めるほどに辛いのに、なぜか止められない、名作鬱漫画としても名高い本作。 今回はその魅力を壮絶な欝シーン、名シーンから最終回までご紹介!ネタバレと過激なシーンの描写がありますのでご注意ください。
古谷兎丸が描いた『ライチ☆光クラブ』の前日譚となる本作。『ライチ☆光クラブ』は元々、東京グランギニョルという劇団の演劇でしたがそれに惚れ込んだ古谷兎丸が漫画化したものです。その『ライチ☆光クラブ』も狂ったお話なのですが、紹介する『ぼくらの☆ひかりクラブ』の方が、ただの小学生たちが徐々に狂った集団になっていく過程を見るという点でより陰鬱な気持ちにさせられます。
- 著者
- 古屋兎丸
- 出版日
- 2011-11-29
螢光町に住む3人の小学生、タミヤ、カネダ、ダフ。3人のリーダー格だったタミヤは、ふたりを自身が見つけた秘密基地となる廃工場に案内し、そこでパチンコやチェスといった遊びをするようになります。
3人の下の名前の頭文字をとって「光(ひかり)クラブ」と名付けられた3人だけの秘密クラブ。ある日、そんな秘密基地を常川という転校生に見られてしまい、仲間に入れることに。それから徐々に楽しいはずの「光クラブ」は人数も増えながら変化していき……。
占い師に「世界を手に入れる」と言われ、世界征服に憑りつかれた常川。世界征服のためのマシンを造りながら、組織自体はナチスを参考にカルト化していく「光クラブ」。次第に私刑や見せしめも行なわれていくことになります。子どもだからこそ、純粋にそしてときに無邪気に信奉してしまう恐ろしさと、その結果が招く結末とは。
本作での不条理とは常軌を逸しているという意味での不条理。我々から見れば常軌を逸していると見える子どもたちの秘密クラブも、それを信奉してしまっている子どもから見れば後戻りができなくなっているのです。
最終的な「光クラブ」のメンバーは9人。その9人ともが狂っている訳ではありません。狂気を孕んだ人間と純粋無垢な人間とが合わさったときに何が起こるのか、どう狂気の集団が出来上がってしまうのか、とても社会的な課題を見据えた作品と言えます。
救いようはどれほどにもあるのに、子どもたちは「世界征服」を止められない。ダークな世界観の中で少年たちはどう動くのか、どうぞご照覧ください。
2012年には、テレビアニメ化もされています。
中学3年生の住田は母親と河川敷に住んでいる少年。金も無く、貸しボート屋という明日も知れぬ稼業を営む彼はしみったれた現実に辟易しながらも普通の生活を送ることを夢見ていました。
しかしある日、蒸発した父親が暴力団とともに彼の前に再び現れ、暴力を受けます。そして母親も男と駆け落ち。その不遇さに堪え兼ね、父親を殺します。そしてもう「普通の生活」に戻れないと知った彼は自分の残りの人生を社会のために捧げようと決心します。そして「悪い奴」を殺すために深夜の街を徘徊しだすのですが……。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2012-11-09
それまでギャグ漫画で人気だった古谷実初のサスペンスホラー漫画です。主人公の住田がそれなりに現実に折り合いをつけて生きてきた様子は、身近なダウナーさがあります。微妙に嫌になることがあっても仕方ないと諦めてきた目は中学生にしてどこか悲壮感漂ったものです。
そんな身近な存在だった少年がどんどんと闇に堕ちていく姿はまさに鬱漫画展開。次々と人を殺す住田ですが、同時にそれは彼の心を殺していることでもあります。残虐なことをしている人物なのになぜか彼に同情心を抱いてしまうのです。
そんな彼を救おうとするクラスメイトの景子。住田の唯一の理解者なのですが、彼の深い傷を癒すのは容易いことではなく、お互い思っているのにどうしようもない様子にも心がやられます。果たして景子と出会った住田は何か変わることができるのか。その結末は作品でお楽しみください。
『ヒミズ』の魅力を紹介したこちらもご覧ください。
漫画『ヒミズ』全4巻の魅力をネタバレ紹介!【映画作品原作】
これまでの作風だったギャグ漫画の世界観から一変、ギャグ要素無しのシリアス漫画として臨んだ、古谷実渾身の力作『ヒミズ』。同作品は、2012年に染谷将太と二階堂ふみのW主演で実写映画化もされ、話題になりました。新たな古谷漫画の魅力をどうぞ知ってください!
極度の恥ずかしがり屋の女の子に、相手のことが大好きすぎて大嫌いになってしまった女子高生、母子家庭の母子、いわくつきの部屋に住む大学生など様々な「ちょっと変わった」人たちの日常を描いた短編集です。
ギャグだったり、ほっこりする話だったりと様々なテイストの話が多いのですが、そんな緩んだ心に定期的にくる鬱な話がなかなか辛い。今回は第5巻56話の「お兄ちゃんが」というお話をご紹介。本作の中でもそのバッドエンドがじわじわと心にくると話題のストーリーです。
- 著者
- 阿部 共実
- 出版日
- 2012-03-08
風吹はある日、母からのおつかいでおばさんのところに届け物をしに行きます。おばさんの家には風吹が昔から仲良くしてもらって慕っていたお兄ちゃんがいます。しかし何年ぶりかに会ったお兄ちゃんは幼い頃とは全く違いました。「お前いくつだっけ?」「アルプス一万尺しようぜ」「あっ これさっき聞いたっけ」……。
彼の話す言葉は意思の疎通が取れず、言うことも変なことの繰り返し。その奇妙な言葉とどこを見ているか分からない目は、精神病エンドかな、とミスリードを誘うほどゾクゾクとする怖さがあります。
かつてはメガネをしていて勉強もできて体格も良く、突拍子も無い冗談など言う人ではなかったお兄ちゃん。風吹は彼が恐ろしくなり逃げ出します。しかしその時に階段の一番上から転んでしまい……。
この階段から転んで過去回想、ラストまで4ページ。この短い間で全てが繋がり、どうしようもない鬱的な悲しさが襲ってきます。少しだけネタバレをすると、このタイトルを補足するとするならば「私のせいでお兄ちゃんが」というもの。その内容はぜひ作品でお確かめください。
『空が灰色だから』について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
『空が灰色だから』が5分でわかる!トラウマエピソードベスト10【ネタバレ】
今回は『空が灰色だから』で特にトラウマ注意のおすすめエピソードをご紹介。「週刊少年チャンピオン」に連載され、主に10代半ばの少年少女達を主人公にしたエピソードが収録される本作。 主人公がエピソードごとにかわる1話完結のオムニバス形式の作品で、青春漫画でありながら後味の悪いホラーテイストの話もあるなど、それぞれに独特な世界観が楽しめます。
生きる意味、死ぬ意味、愛する意味、それらの意味を世界に見出そうとするも、世界は人間に近づいてきてはくれない。いわゆる不条理の考え方ですが、そうした不条理をそのまま描いたのが、ジョージ秋山の作品『アシュラ』です。人肉食がテーマの本作品は発表当時、悪書扱いされ、社会に衝撃を与えました。
- 著者
- ジョージ秋山
- 出版日
舞台は律令時代の日本。飢餓が蔓延し、生きていくのもやっとという時代。死に行く人、死んだばかりの人でさえも食糧として捉えてしまう時代。ひとりの子を宿した母親もその例に漏れず、人を食べ、子を育て、そして産み落とします。しかし育てていく途中、飢えに苦しんだ母親はその子を火に投げ入れ、食べようとするのですが……。
なんとか生き延びた子ども「アシュラ」は、ごみを漁り、人を食べ、成長していきます。荘園の村娘、若狭に匿われ、育てられる中で言葉を覚えていくのですが、言葉を覚えるまでのアシュラはただただ得体の知れない獣のよう。しかし、言葉を覚え、自分以外の人間とコミュニケーションを図れるようになると、その獣性以外にも、彼が抱えた世界への嘆き悲しみがあることが分かるのでした。
作中では人とは何か、理性とは何か、人を愛するとはどういうことか、世界の真理を突き付けられる人々の様子が描かれています。21世紀の現代社会の常識は一切通用しない時代背景の中でも、人間が生きる意味、死ぬ意味、愛する意味を問う姿勢は共通です。不条理な世界の中で産み落とされた命はどこへ向かうのでしょう。
また作画についても不必要に残虐なシーンで構成されている訳ではなく、人を傷つけてしまうことに対して丁寧に考えられていることが分かる描写になっています。そのため、本作の訴えかけてくるテーマ性をそのままダイレクトに受け取ることができるでしょう。作品発表は1970年ですが電子版も出ており、40年以上経った今でも読み継がれる地力のある作品です。
2012年には、劇場版アニメ映画が上映されました。
同じ学校の美少女間宮に突如告白された佐々良。女性同士であることに、最初は戸惑っていましたが、佐々良は恋愛において、ある願望を抱いていたのです。それは、自分だけを見てくれる相手に、死ぬほど愛されたいというもの。間宮に「死んでくれたら付き合ってもいい」と伝えると、間宮は佐々良の前から去っていきます。次の日、行方不明になったと校内で騒がれていた間宮が、なんと幽霊になって現れるのでした。そして二人は恋人同士になるというのが、この作品の始まりです。
- 著者
- ガオシ
- 出版日
- 2014-10-17
本作の気分が滅入るポイントですが、とにかく佐々良の豹変ぶりが凄すぎます。最初は、だいぶ変わった嗜好を持つものの、可愛い女子校生かと思うかもしれません。恋愛哲学に関しては狂っていますが、あくまでそれ以外は普通の女の子「風」なのです。
しかし間宮や、間宮のストーカーである女生徒に罵声を浴びせるシーンは鳥肌もの。後半からは、ほとんどの登場人物が最初の印象とはうって変わり、狂った本性を見せるシーンが多々ありますが、やはり佐々良の豹変ぶりとは一線を画すものがあります。マトモな人間の方が異常に見える作品です。
『間宮さんといっしょ』についてはこちらで詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。
『間宮さんといっしょ』が面白い!百合サイコ漫画の見所をキャラからネタバレ!
「裏サンデー」で連載中の『間宮さんといっしょ』は現在長期休載中ですが、当初は圧倒的な支持を得て、異例の即連載化という実績を残しています。この記事ではサイコパスな一面を持った主要人物5人を、ネタバレを含みながら紹介していきましょう。
主人公絲子は、無理心中をしようと目の前で死んだ母親の顔が悲惨な笑顔であったため、一切笑えなくなってしまいます。そんな彼女に寄り添ってくれた少年が冬弥です。大人になり、絲子は笑顔を取り戻し、二人は結婚式をあげます。生まれ故郷である水籠村で二人の結婚が祝われる中、なぞの化物が冬弥を襲い、絲子も殴られ意識を失います。再び彼女が目を覚ました時に見たものは、人形になった自分で……。
- 著者
- 茂木 清香
- 出版日
- 2014-08-20
謎に包まれた部分が多いため、読み進めていかなければ、ストーリーの全貌が見えていきません。本作で憂鬱になる点は、話の内容・ストーリ性よりもその画力にあるでしょう。女性が嘔吐物を飲み込むシーンや、妊婦から謎の肉塊が生えてくるシーンなど、画力のスゴさに圧倒されます。絵の綺麗さがかえって気持ち悪さを煽っているようにも思われるでしょう。
『青の母』について紹介したこちらもおすすめです。
エログロホラー漫画『青の母』の魅力を全巻ネタバレ紹介!
独特のセンスが光る和風ホラーとして、一部のファンに熱狂的な支持を受けた『青の母』。多くの謎が渦巻くストーリー展開は、読み始めると止められない中毒性があります。続編であり前日譚と言われる『鬼喰い少女と月梟』もあわせて紹介します。
女装コミュニティのオフ会で知り合ったまりか、ユイ、パロウはそれぞれに事情を抱えて女の格好をしています。まりかは体と心が一致していない自分のために、亡くなった姉の身代わりを演じるユイは精神的に壊れてしまった母親のために、パロウは好きになったストレートの男の人のために。彼らのちょっと人とは違う性癖と成長して変わって行く「変態」の様子を描いた作品です。
- 著者
- ふみふみこ
- 出版日
- 2012-08-10
本作はただでさえイバラの道を歩む彼らの、一筋縄ではいかない想いに心が苦しくなる作品。作者ふみふみこ初の複数巻作品です。今回はメインキャラクターのひとり、まりかをご紹介します。
パロウに想いを寄せるまりかでしたが、他に好きな人がいる彼にも体を弄ぶようなことをされ、つい体が反応してしまいます。そのことによって自分の体についている余分なものを気持ち悪いと思うようになるのです。普段着ている男用の制服もますます窮屈なものに。
そしてある日、学校で彼が女性の心を持つという事実が広まるのですが、ここで内気だった彼女は「変態」します。ここまでの一連の流れのモノローグは、マイノリティの辛さと思春期ゆえの鬱屈さが見事に描かれてます。その展開はまさに鬱漫画。見ている方も辛くなってきます。しかし、彼女の成長によってそのフラストレーションが一気に発散され、読者に爽快感を与えるのです。
ところが今度はユイの家庭環境に試練が与えられます。次々と巻き起こる3人それぞれの辛い事情から目が離せないおすすめ漫画です。
『ぼくらのへんたい』について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
『ぼくらのへんたい』が無料!切なくて泣ける隠れた名作を全巻ネタバレ紹介!
女装を共通点とするパロウ、まりか、ユイの3人。彼らの心の闇と葛藤を描いた『ぼくらのへんたい』を、ネタバレ含めて全巻紹介していきます。スマホの漫画アプリで無料で読むことができますよ。
社会的に「子ども」でいられる期間は、約18年。現代では18歳で選挙権を得ているため、そこから大人とみなす人もいれば、21、2歳で大学を卒業し、社会に出てからが大人と考える人もいるでしょう。大人、子どもの括りはあれども、社会に出てしまえば一緒。むしろ、子どもは社会情勢によっては、多大なる苦労を強いられます。
『RAINBOW 二舎六房の七人』は、戦後の日本を舞台とした物語です。戦争で疲弊し、荒廃を極めた世の中では、大人も子どもも生きるのに必死でした。そんな爪跡が残る昭和30年、犯罪に手を染めた少年6人が、湘南にある少年院に送られたことで、運命の出会いを果たします。
- 著者
- 安部 譲二
- 出版日
- 2003-04-05
昭和30年、湘南特別少年院、二舎六房に6人の少年たちが送られてきました。
殺人未遂で入所した、短気で兄貴肌の水上真理雄。原爆で孤児となり、窃盗を繰り返してきた前田昇。暴力行為で入所した硬派な大男、遠山忠義。終戦後の混乱で人間不信となり、詐欺横領で捕まった野本龍次。金髪碧眼の二枚目である横須賀丈は不順異性交遊。怪力男である松浦万作は、暴行傷害。それぞれの理由で彼らは少年院へ来ました。1カ所に集められた6人は、ボクシングの世界チャンプになることを夢見る、桜木六郎太と出会います。
六郎太は理不尽な理由で少年院に入所していましたが、夢や希望を忘れていない人物でした。優しくない現実に辛酸をなめ、絶望していた6人に、愛と勇気を持つことを教えます。そんな六郎太を6人は「アンチャン」と慕い、外に出ることを目標に、少年院生活を送ります。
本作は、とにかく大人の汚さが目立つ物語です。悪い人間は見た目から悪いため、読者が何もないようにと願っていても、理不尽な出来事で7人は簡単にピンチに陥ります。回避できない事が多く、その度に7人の少年ではなく、読者が絶望するという鬱展開。しかし、1つの願いと約束を胸に生きようとする少年たちの姿に、読者の心も奮い立たされます。「人間」は絶望になることもあれば、希望になることもある。どうしようもない世界で、1つの希望に心が救われる、そんな作品です。
不幸な物語を読みたいときというのは、どういう時でしょうか?刺激を求めたり、あまりにむしゃくしゃしすぎて幸せな人間を見たくないと思ったり、という時もあるでしょう。自身が満たされているからこそ、不幸な人生を覗き見たい、という好奇心もあるでしょうか。何にせよ、不幸は不幸でも、適度なものが良い、と思わせてくれる作品があります。
『ハッピーピープル』はタイトルがとても幸せそうな作品です。タイトルが、と頭に付けたのは、中身が全く幸せな内容ではないからです。表紙とタイトルのギャップもかなりのものですが、中身とタイトルのギャップもなかなかのもの。読者の感想を見ると、胸糞悪い、醜悪、作者は大丈夫か、といった言葉ばかり出てくるため、初めて手に取る読者の好奇心と不安をあおります。
- 著者
- 釋 英勝
- 出版日
本作にメインとなる主人公はおらず、短編集的な内容です。共通項をあげるならば、暴力的かつ理不尽な出来事が起こる、現代の日常物語が展開されます。社会風刺の側面があり、例えば殺人を犯した少年が、少年法により無罪放免となる、という物語など。現代日本でもある程度、少年というだけで守られていたり、刑が軽減されているのは事実です。極端な形で見せられるせいか、より社会の矛盾が浮き彫りにされます。
タイトルに反して誰かが不幸になる物語でもあるので、勧善懲悪という言葉を真逆で行くスタイルと言えます。不幸なものはより不幸となり、ちょっとした出来事で犯罪を疑われ、そのまま犯人にされるなど、現実で起こったら笑って済ませられない話ばかりが登場。これが自分の身に起こったら、と考えるだけで背筋が凍ってりまいそうです。
グロテスクな描写も多く、犯罪系の過激な描写が多いため、苦手意識のある方はご注意ください。物語自体はまとまっていますが、スッキリせずモヤモヤ感が残るうえに、人間の醜いところばかり見せられるので、精神的なダメージは大きめです。一番怖いのは人間、という言葉を体現したような作品、世界観に飲み込まれすぎないように、お気を付けください。
日本は安全で平等だと言われていますが、安全も人間として平等であることも、誰もが享受できるわけではありません。生まれた環境や境遇により、生活が困難になる人は、驚くほど多くいます。そんな人たちを助ける法が定められている、とはいってもうまく機能しているとは言えません。
『キーチ!!』は、突如想像もしていなかったような不幸に見舞われた少年が、様々な人や事件に巻き込まれながら、成長していく姿を描きます。成長物語なので、酷い鬱展開はありませんが、様々な大人が関わる理不尽な状況は数多く登場し、どうにもならない状況に直面したときの気鬱さが感じられます。
- 著者
- 新井 英樹
- 出版日
幼稚園児の染谷輝一は、放浪癖のある暴れん坊です。無口できかん坊で、年上相手でも喧嘩をするような子供でしたが、両親には深く愛され、平和に暮らしていました。そんな時、両親が通り魔の被害に遭い、死亡。両親の祖父母と生活することになった矢先、輝一は家を飛び出してしまいます。
ホームレスの中年女性、モモに拾われたり、モモの旧知であり女性、秋元の世話になったりした輝一。山を放浪するなど紆余曲折あったものの、予定通り祖父母と生活することになります。しかし、幼少期からの気性は成長してからも変わらず、問題行動ばかり起こしていました。後に、小学校で秀才の甲斐慶一郎と出会い、いじめられっ子の佐治さとみを助けたことから、輝一の運命は変わります。
優秀な小学生が、社会に疑問を投げかけていくという展開になっていきますが、相手は海千山千の大人ばかり。輝一たちに協力する大人も現れますが、憤りを覚えるほどの理不尽な出来事も次々と起こります。その理不尽に立ち向かっていく輝一は、清々しいほど真っすぐ。力強ささえ感じる輝一の生きざまに、読者は心打たれるでしょう。
『キーチ!!』について紹介したこちらもおすすめです。
電車移動時間にもってこいの傑作選【橋本淳】
どうも橋本淳です。これを書いている現在は、まだ冬の寒さが拭えず桜の木々たちもまだかまだかと開花を伺っているとそんな時期。私は4月2日にスタートしたNHKドラマ『PTAグランパ!』というドラマを連日撮影中という毎日でございます。←宣伝失礼
幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉があるように、実際には何でもないような日常風景が、人間の思い込みや状況で恐怖の対象に代わることがあります。しかし、暗闇の中で覗く鏡や、ちょっとした隙間、目の端をよぎる人影などに、人間はドキッとするもの。そして何が恐ろしく見えたのか、確認することで安堵を得るのです。
ギャンブルで多額の借金をした男が、高額の報酬の代わりに請け負っているのは、謎のコンテナの運搬。運搬先にある水産会社にはいったい何が?という、どこか後ろ暗い雰囲気から始まる物語が『うなぎ鬼』です。中身のわからないコンテナと、高額報酬というだけで、ある程度不気味さを察することができますが、これは「裏社会の物語」、単純にそれだけではない恐怖が待ち受けています。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2014-09-22
多額の借金を抱え、千脇エンタープライズ社長の千脇に見受けされた倉見勝は、ガタイが良く、厳つい顔をしていますが、実は泣き虫で怖がりです。売掛金の回収をしていましたが、1回15万円で60キロほどのコンテナをマルヨシ水産に運搬する、という仕事を請け負うことになります。薄暗く、生臭い水産会社で養殖されていたのは鰻。しかし、コンテナの中身はわからず、薄気味悪いと思いつつ倉見は仕事をしていました。
しかし、水産会社にコンテナを運ぶだけで15万円という多額の報酬。自分が何を運んでいるかわからない、という恐怖に耐えかねた倉見は、コンテナの中身を見てしまいます。中身は最初の時点では明確にされません。しかし、倉見も読者も、それが何かを察することはできるため、その後の物語の中でも、もしかしてという恐怖がぬぐえなくなってしまいます。
本作は、借金を抱えた倉見が、少しずつ裏社会に引きずり込まれ、抜け出せなくなっていく過程が本題です。その中で、様々な人間の闇と、知ってしまったからこそ感じる恐怖を実感します。本当に大丈夫なのか、と疑いながら生きていくのは辛いこと。見たものが全て、じられなくなってしまう、そんな作品です。
『うなぎ鬼』についてはこちらの記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
漫画『うなぎ鬼』の引き込まれる闇の怖さを全巻ネタバレ紹介!
アングラ・サイコサスペンス漫画の名作『うなぎ鬼』。借金を機に闇の世界へと足を踏み込むことになった主人公が、徐々にその深部へと堕ちていく様子が描かれた内容です。 この記事では、作品の魅力と結末までの見どころについてご紹介したいと思います。作品から漂うでディープな世界観をお楽しみください。 また、ネタバレが気になる方は無料で読めるスマホアプリもありますのでそちらもどうぞ。
眼が大きければ、鼻が高ければ、身長が、学歴が、性別が……。人には様々なコンプレックスや、忘れたくても忘れられないトラウマがあり、傷が人格形成に大きな影響を及ぼします。他人から見れば小さなことでも、その人にとっては重大なこと。不完全な自分に劣等感を抱きながら、日常を生きているのです。
『ホムンクルス』は、人の劣等感を視覚できる能力を持つことになった男の物語。人の心の中が何でも見えるというわけではなく、コンプレックスやトラウマを象徴した形として、人間の外見が変化して見えます。たとえば内向的な少女の外見が、貝のようになっていたり……と、少々グロテスクな感じに。
人間の深層心理が生み出した物を「ホムンクルス」と呼び、その宿り主である人間の心の闇に迫っていきます。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2003-07-30
新宿西口の公演で、車上ホームレス生活を送る名越進は、ある日医大生の伊藤学と出会い、報酬として70万円を獲得できる代わりに、手術を受けないかと持ち掛けられます。頭蓋骨に穴をあけ、第六感を目覚めさせる、という「トレパネーション」手術を受けた名越。術後には、右目を瞑り左目だけで人を見ると、人間の深層心理が異形化して見える能力を手に入れていました。
異形のものをホムンクルスと名付け、それを持つ人々と関わりを持ち始めた名越。その人の持つ心の問題を解決することで、ホムンクルスを開放させていきます。誰もが見ず知らずの人に心を開かないように、名越に対しても人々は懐疑的。ホムンクルスからその人の持つ心の闇を推測する、推理ゲームのような感覚でも、物語を楽しむことができます。
しかし、それだけで終わらないのが本作のすごいところ。人の心を開放するなら鬱漫画ではないじゃないか、と言われそうですが、物語が進行するにつれて鬱展開へ突入です。自身の解放されないコンプレックスを抱えながら、超人的な力で人の悩みに向き合っていく名越の精神崩壊度に要注意。人の心の闇と、物語の結末に、心がザワつき、落ち着かなくなりますよ。
『ホムンクルス』についてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
漫画『ホムンクルス』の結末が怖すぎる!あらすじ、面白さをネタバレ解説!【映画化】
前頭部に穴を開ける手術「トレパネーション」を受けた主人公は、他人の深層心理が「異形の姿」で見えるように……。その能力を使って、自分や他人の精神に潜むコンプレックスや、忘れられないトラウマと向き合っていくサスペンス・ホラー漫画となっています。 2021年4月には、映画化も決定している本作。この記事では、『ホムンクルス』のあらすじから、面白さや魅力まで解説していきます。
経済的に発展し、外界に向くようになった今日の日本。しかし昭和初期は、村社会的感覚が抜けず、閉鎖的な思考が色濃く残っていました。近代化と因習が混ざり合う不均衡さに、戦争による荒廃が加わり、より重苦しい空気が漂います。
『鉄腕アトム』や『火の鳥』など、数多くの名作を生み出してきた手塚治虫は、漫画の神様と言われる人物です。子どもに向けた希望にあふれる物語だけではなく、『ブラックジャック』のように、人の倫理観に問いかけるような作品も多く残しました。『奇子』も、そんな作品のひとつ。日本特有の閉鎖的な考え方と、ひとつの事件が呼び起こした物語が描かれています。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 2010-11-12
舞台は1949年、戦後の日本です。東北地方の大地主、天外家の仁朗は、復員後にGHQの工作員として働いていました。命令により、共産主義の男の殺害に関与しますが、その後処理を行っていたところを、近所に住む知的障害の少女、お涼と、自身の異母妹である奇子に見られてしまいます。
殺人の発覚を恐れた彼はお涼を殺害し、逃亡。奇子は天外家の体裁を保つため、肺炎で死亡したことにされ、その後は暗い土蔵の中で幽閉されたまま育てられることとなりました。
時が経ち、土蔵が取り壊されたことによって外の世界に出てきた奇子は、美しい娘に成長していました。しかし、閉鎖的な空間で育ったため、常識もなく貞操観念も薄い娘に育ってしまったのです。
彼女を取り巻く物語が展開されますが、そもそも子どもを土蔵に幽閉して育てる、という考え方の異常性から始まる物語です。純粋ゆえに貞操観念がおかしい彼女の怪しい魅力に、キャラクターも読者もすぐに虜になってしまいます。
奇子自身の出生の理由も、胸糞悪いと感じる読者も多いでしょう。ドロドロした人間関係に背筋がうっすらと寒くなります。家により人生を狂わされた彼女の運命はどうなるのか、漫画の神様が描く究極のエロス、退廃的な鬱漫画をご堪能ください。
『奇子』についてはこちらで紹介しています。ぜひご覧ください。
『奇子』5分でわかる怪しい4つの魅力!手塚治虫のトラウマ級エロホラー【ネタバレあり】
1972年から1973年まで『ビッグコミック』で連載された、手塚治虫の作品『奇子』。「漫画の神様」の作品といえば、誰もが知る『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』などが有名ではないでしょうか。しかし、実は子供向けではない大人向けの作品も数多く存在するのです。 本作もその1つ。古い因習の残る田舎の旧家を舞台に、ある事件から1人の少女を巡って、肉親同士のドロドロの愛憎劇がくり広げられていきます。 本作はスマホの漫画アプリに無料連載されているので、気になった方はそちらもお試しください。
戦において、盤石な守備を築いた場所を攻略することほど、困難なことはありません。「攻城戦は下策である」と、かの孫子も言っている通り、守備が固められている場所を攻略するには、長期間、かなりの量の兵力が必要です。そんな難攻不落の場所に、挑み続ける者と、守り続ける者の物語があります。
『狼の口 ヴォルフスムント』は、14世紀の初頭、アルプス地方を舞台とした物語。このころ日本は鎌倉時代の後期、2度にわたる元寇があり、北条政権に不満が募っていた不穏な時代でした。ヨーロッパではペストが大流行し、大勢の死亡者を出しましたが、それと同時にイタリア・ルネサンスにより、新たな時代が始まっていました。
- 著者
- 久慈光久
- 出版日
- 2010-02-15
アルプス地方の山脈を越えてドイツとイタリアを最短でつなぐ道、南北交通の要であるザンクト=ゴットハルト峠には、難攻不落として知られる関所がありました。
以前はアルプスの民が支配していた場所でしたが、オーストリアのハプスグルブ家の軍が占拠してからは状況が一変し、人の出入りが厳重に管理され、地元の民ですら自由に通行のできない関所となってしまっています。
関所、通称「狼の口」の番人をしているのがヴォルフラム。密行者を見逃さない鋭い観察眼と、容赦なく断罪していく、冷徹さを持っています。地元の民たちは圧政を不満に思い、なんとか「狼の口」を攻略しようとするのですが、鉄壁の要塞と番人ヴォルフラムが立ちはだかります。
本作は、圧政に苦しむ人々が勝利を勝ち取る物語ではありません。ひたすらに壁に挑み続け、番人に駆逐されるという鬱な展開が続きます。
小さな反乱の芽は育ち、やがて大きな反乱を巻き起こしますが、果たして「狼の口」は陥落するのでしょうか。長い絶望の物語と読むか、鉄壁なヴォルフラムを称賛しながら読むのかは、読者次第です。
昔々、あるところにお姫さまがいました。そんな口上から始まるおとぎ話のお姫さまたちは、困難に見舞われながらも、最後には幸せを獲得します。女の子が夢見るような要素が詰まっている、お姫さまという立場。しかし中には、自身の運命に翻弄され続ける姫も存在するのです。
小さなころから毒を摂取し続けたことで、体液が人体に害を及ぼす毒となってしまった少女たち。毒姫と呼ばれる少女のうちのひとり、リコリスは、その体質ゆえに、愛することも愛されることもありません。ただ相手を毒殺するために存在していました。
- 著者
- 三原ミツカズ
- 出版日
- 2013-12-06
燃えるような赤い髪をもった美貌の少女、リコリスは隣国の王子を毒殺するため、献上品として贈られることになりました。しかし、正体を見破られ、囚われの身となってしまいます。亡くなった王の代わりを務める3人の王子は、彼女と関わるうちにその真っすぐさに惹かれていきますが、穏やかな日々が続くことはありませんでした。
生まれながらに、人を殺すことでしか生きることができないリコリスと、様々な秘密や事情を抱えた3人の王子たちが織りなす、陰謀と恋の物語が主軸となります。姫と王子が出てくるならばハッピーエンドを期待したいところですが、物語は破滅と絶望へ向かっていく様がひしひしと感じられ、読者は祈るような気持ちでページを捲るしかない鬱漫画です。
美しく、まっすぐでありながらも自身の運命を受け入れすぎてしまった姫と、3人の王子たち。読後も後味の悪さは拭えません。どうして、という欝々とした気持ちから抜け出すことができず、やりきれなさが残ってしまいます。しかし、その運命を見届けるまでは、とページを捲る手を止めさせることのない、強い力のある作品です。
食事は日々生きていくのに必要な行為ですが、そこに楽しみを見出している人は多いでしょう。給料日だからお肉、今月は頑張ったからちょっとお高いスイーツ……自身へのご褒美や心の栄養としても、食事は欠かすことができない重要なものです。
しかし中には、食事を楽しむという概念を持っていない人もいるわけで、そんな人の欝々とした食事風景を描いた作品が『鬱ごはん』です。新手のグルメ漫画ではありますが、他作品との違いは何といっても食事の時の描写。本作では食事のシーンが、圧倒的な負のオーラに包まれています。
- 著者
- 施川ユウキ
- 出版日
- 2013-04-19
主人公の鬱野たけしは、大学を卒業して就職浪人中。性格はナイーヴで、卑屈かつ弱気、厭世的であるため友達も少なく、孤独です。
彼は食事を作業として位置付けており、その感想は無味乾燥といっても過言ではないくらい情緒も何もありません。ただ咀嚼し、栄養にする、そんな食事風景が続きます。
鬱野がただ欝々とした日常生活を送り、その中で食事をする、という日常を描いた漫画ではありますが、とにかく彼がネガティブというところがポイント。何か良いことが起きるわけでもなく、むしろちょっとかわいそうな展開になり余計に欝々するという、鬱の無限ループをくり返しています。
気分が引きずられやすい人はお気を付けください。笑い飛ばせる方は、ちょっと不幸なネガティブな青年の日常として読むことができるでしょう。
欝々していてもお腹は空く、ちょっと悲しい日常グルメ鬱漫画をお楽しみください。
いかがでしたか?一般的な作品とは違いマイナーなジャンルですが、いろいろな意味で心を突き動かされること間違いありません。後味は基本的に悪いですので、バットエンド好きなどにはたまらない作品。ぜひ楽しんでみてくださいね。