幅広い作風でSF小説界を席巻する梶尾真治。5度も星雲賞を受賞し、長年評価され続けている作家であることがうかがえます。今回は、そんな梶尾真治のおすすめ作品をご紹介します。
梶尾真治は熊本県出身の作家。1971年にプロ作家としてデビューしました。父親は有名な俳人であり、カジオ貝印石油の社長も務めていた人物で、梶尾のSF作家としての活動を快く思っていなかったそうです。そのせいもあってか、当時の熊本ではSFファン以外からの梶尾の評価は決して高くなかったようです。
プロデビューを果たしてからも、父の経営するカジオ貝印石油の社員として働いていました。やがて父親から社長業を引き継ぎ、しばらくは社長と兼業して作家活動を行っていたようです。
2004年に「専業作家宣言」を行い、社長業を引退。現在は、専業作家として活動しています。
料理人と老人が、味覚でコミュニケーションをとる謎の生物と外交を進めていく作品『地球はプレイン・ヨーグルト』。タイトルは、謎の生物が表した地球の味。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
凄腕の料理人が、政府から極秘に連れていかれた場所にいたのは、政界の影の支配者であり超絶味覚の持ち主である老人と、マリモのような奇妙な生物。その生物は、体表に意思を込めた体液を分泌し、それを触手でなめとって意思伝達を行うという異星人だったのです。
異星人との交渉者として選ばれた老人と料理人。老人が異星人をなめて意思を読み取り、料理人が返答となる味の料理を作る、という手法で外交を進めていきます。そんな中、事件が発生して…。
どこか不気味な雰囲気の漂うSFストーリー。味覚でコミュニケーションをとる生命体という発想がユニークですね。
ちなみに本作、後味の悪い作品として評判なようです。どう後味が悪いのか、ぜひ実際に読んで確かめてみてください。
梶尾の初期作品の中でも評価が高い『サラマンダー殲滅』。地球とは異なる惑星を舞台に、平凡な主婦の復讐劇が描かれます。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
- 2006-09-07
惑星ヤポリスに住む神鷹静香は、主婦として平凡に暮らしていましたが、汎銀河聖開放戦線によるテロ行為により、夫と娘を亡くします。精神的にダメージを負った静香でしたが、父により、生きる目的を意図的に植えつけられ、回復します。植えつけられた目的とは、「夫と娘を殺した汎銀河聖開放戦線に復讐すること」でした…。
平凡な主婦が、復讐という目的を植えつけられ、そのために行動していく。SF小説としては、ポピュラーな設定のように思えますが、読んでいくとそのポピュラーな設定こそが、作品の面白さの源であることがわかります。
舞台は、惑星ヤポリスだけではなく、他の惑星にも及び、非常に壮大な作品となっています。たとえば、タイトルの「サラマンダー」は、汎銀河聖開放戦線のアジトの名称で、たどり着くためには、1400度を超える高温の中を突き進む必要があります。そんな各惑星独自の設定も、本作の魅力の一つ。本格SFを楽しみたい人に、ぜひ読んでもらいたい1作です。
梶尾の名前を、世に広く知らしめた作品『黄泉がえり』。草彅剛主演映画の原作小説として、話題になりました。映画版とはいろいろと設定が異なるので、映画を見たという方でも、また新しく楽しめる作品となっています。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
- 2002-11-28
熊本地方で地震があった後、各地の市民センターに奇妙な問い合わせが殺到します。それは「死んだはずの人が生き返った」という内容でした。同じころ、会社員の児島も、死んだはずの児島の父が来ているという電話を、妻から受けました。何かのイタズラか詐欺ではないかと思い家に帰ると、そこにいたのは紛れもなく自分の父でした。熊本を中心とした「死んだ者がよみがえる」という不思議な現象は、「黄泉がえり」と呼ばれるようになり、やがて様々な調査や研究が行われるようになります…。
映画版とは、人物設定なども異なる本作。映画版では、人々の思いに焦点が置かれていましたが、本書では、人々の思いだけでなく、「黄泉がえり」の原因となった「もの」の存在にもきちんとフォーカスが当てられ、その二つが絡み合ってストーリーが構成されています。ラストシーンも圧巻と言わざるを得ません。
地球滅亡がわかった世界で、選ばれた者たちが、地球を脱出する『怨讐星域』。著者は、本作で、5度目となる星雲賞を受賞しました。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
- 2015-05-22
太陽フレアの影響で、5年以内に地球が滅亡することが明らかにされます。事実公表時には、アメリカ大統領をはじめとする3万人の選ばれた人間が、すでに宇宙船「ノアズ・アーク」で地球から脱出していました。取り残された人々は、恨みを抱きます。彼らは、空間転移装置を発展させて、先に逃げた「ノアズ・アーク」の先回りを計画します。しかし、中には、地球に残る意思を固めた者たちもいたのでした…。
『怨讐星域』は、もともと短編連作として『S-Fマガジン』に連載されていた作品です。文庫化するにあたって加筆・修正が加えられ、3冊にまとめられました。
地球が滅亡するとわかり、脱出を試みるというのは、ありきたりなテーマかもしれません。本作では、先に地球を脱出した「ノアズ・アーク」の人々、地球に取り残されて空間転移装置で脱出を試みる人々、そして地球に残ることを決めた人々の3つの視点で物語が進む所が特徴的です。「ノアズ・アーク」の人々は、狭い宇宙船生活に苦しみ、地球を脱出しようとする人々は、空間転移装置の座標誤差によって死者が出ます。地球に残ると決めた人たちは、残り少ない人生を穏やかに迎えようとします。異なる立場で作品が進むことで、物語に深みが生まれています。
テーマとしてもわかりやすいので、SFが初めてという人にもおすすめの作品です。
演劇集団「キャラメルボックス」によって舞台化もされた『未来のおもいで』。恋愛を軸とした、時空ファンタジー小説。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
白鳥山に登った滝水浩一は、突然の雨で洞窟に駆け込みます。そこには、同じく雨宿りしている沙穂流という美しい女性がいました。雨が上がり、先に出ていった沙穂流でしたが、洞窟の中に手帳を忘れていました。
沙穂流に心惹かれていた滝水は、手帳を届けるため、その住所に向かいますが、沙穂流という女性は存在しませんでした。調べていくうちに、沙穂流は、滝水とは異なる時代の人間であることがわかり…。
時を超えて男女が思いを深め合うストーリー。滝水だけでなく、沙穂流も彼に惹かれており、もう一度会いたいとお互い何度も山に登ります。それぞれの思いが丁寧に描かれており、純粋な恋愛ストーリーも楽しめます。また、とある方法で、2人の文通が始まるのですが、それもとってもロマンチック。恋愛小説が好きな人、ファンタジーやSFが好きな人の両方が楽しめる作品です。
失恋旅行中の「ぼく」と「自分には生物が発生してから30億年以上の記憶がある」と語るエマノンとの交流を描く表題作のほか、エマノンを中心とした4つのストーリーが描かれます。
世界観の中心になる少女エマノンは、エキゾチックな雰囲気やバックパックを背負った旅人のような姿、そして長い髪が印象的な存在として描かれます。続く他の「エマノン」シリーズにも登場し、コアなSFファンの間で人気の高いヒロインです。
- 著者
- 梶尾 真治
- 出版日
- 2013-12-06
30億年という圧倒的な長さの時間を記憶として持つエマノン。そんな宿命を背負った彼女の思考や哲学はふつうの人とはかけ離れていて、どこか寂しさや諦めのような心情をまとっています。
表題作の「おもいでエマノン」では、そんなエマノンと「ぼく」との不思議な交流が描かれます。二人の会話には大きな起承転結はありません。ただ青年が旅の中で偶然出会った不思議な少女との会話を綴った、という作風です。
たった一晩会話を交わしただけの「ぼく」とエマノン。そこに特別な物語はなく、それなのに読後には小さな失恋の後のようなノスタルジックな気持ちが残ります。
ストーリーの中に漂う温かくてどこか哀しい雰囲気を感じて、最後にはじんわりと余韻に浸れる名作「おもいでエマノン」。切ない気持ちになりたいときは、ぜひ手に取ってみてください。
本格的なSFだけでなく、心温まるストーリーも丁寧に描く梶尾真治。ぜひ梶尾の描くSFワールドを堪能してみてください。