富士見書房の「ドラゴンエイジ」を中心として活躍していた、日本の漫画家。獣医師見習いを主人公にした『やえかのカルテ』、近世のフランスへ渡仏した少女の現地交流を描く『異国迷路のクロワーゼ』など、精神的成長を描くことを得意とした作家でした。 残念ながら2017年に急死してしまいましたが、そんな武田日向についてご紹介したいと思います。
武田日向(たけだ ひなた)は日本の女性漫画家、イラストレーターです。誕生日は1978年8月11日で、2017年に亡くなりました。没年齢は38歳でした。
出身地や血液型、詳しい経歴は公開されていません。
やえかのカルテ (1) (ドラゴンコミックス)
2011年頃から体調不良(おそらく死因となった病気)で連載作品を休載し、長期に渉る病気療養をおこなっていました。
そして2017年5月、武田が挿絵を務める『GOSICK -ゴシック-』公式ブログにて、同作の原作者である桜庭一樹から、2017年1月に病気のため死去していたことが報告されたのです。
死因となった病気は肺胞出血という噂が一時流れましたが公式には発表されておらず、未だに不明となっています。
武田日向の丁寧な仕事は、熱心なファンのよく知るところです。細部に渉って配慮が行き届いており、芸術的なまでのクオリティが保たれています。
- 著者
- 桜庭 一樹
- 出版日
特に『GOSICK -ゴシック-』で長年パートナーだった桜庭一樹は彼女の訃報に際して、素晴らしい仕事の数々を絶賛し、世界観構築に多大な貢献があったことを告白していました。
目が回るような繊細で細かい衣装や、絵画と見紛う背景美術などを見るに、その絶賛も納得です。
武田日向に関して、もちろん忘れてはいけないのが可憐な美少女です。
すべて同じ武田の手になる美少女であるにも関わらず、どのキャラクターを見ても、それぞれまったく別作品、別の時代、異なる性格であることが一目瞭然。
あるキャラは儚く守りたくなるような少女で、また別のあるキャラは小柄ながらも芯の強さがちゃんと感じられるのです。
作品それぞれに合わせた統一感がありつつ、少し引いてみるとしっかり武田日向のキャラクターであることがわかる。非常に巧みなデザインが人気です。
武田日向が亡くなるまではほとんど周知されていませんでしたが、イラストレーターの千野えながは4歳年の離れた実妹です。そういわれてみると、線の細さや淡い色使いにどことなく似た雰囲気が感じられます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2006-10-14
千野は『やえかのカルテ』連載中に姉のアシスタントをおこない、大きく刺激を受けていたと述懐しています。
武田の方も似た嗜好で、同業者の妹に対しては幼いころから姉として、また先導者として思うところがあったのではないでしょうか。
武田日向の代表作といえば、漫画家としては『異国迷路のクロワーゼ』、イラストレーターとしては『GOSICK -ゴシック-』が挙げられるでしょう。
『異国迷路のクロワーゼ』は19世紀後半、フランスに単身で渡った少女・湯音(ゆね)を主人公とした、異国情緒溢れる異文化交流譚となっています。
ほんの10歳程度にしか見えない(実際は数え歳で15歳)日本人形のようなおかっぱ少女が、パリの下町の工芸店のお世話になりつつ、若き店主クロードや周囲の人々に支えられて成長していく物語です。
武田の人柄を反映してか、ハートフルな展開で心温まるお話でした。2011年にはTVアニメ化もされた秀作だったのですが、作者の体調不良により長く休載となり、後に未完の遺作となったのです。
- 著者
- 武田 日向
- 出版日
- 2007-12-08
一方『GOSICK -ゴシック-』は、ミステリーやライトノベルなど幅広く活躍する女性作家・桜庭一樹の代表作。武田はシリーズ開始当初から制作に携わり、桜庭曰く一緒に作品を作り上げた間柄だそうです。
第1次大戦からしばらく経ったヨーロッパを舞台に、留学生の少年・久城一弥(くじょう かずや)と、同じ寄宿学校に通う金髪碧眼の少女・ヴィクトリカが、2人でさまざまな謎を解いていく推理小説となっています。
同作は時代背景を反映した興味深い設定に、主人公をはじめとした魅力的な登場人物が特徴。本格ミステリーも味わえるとあって、未だに根強いファンの付いている作品です。
こちらも2011年にTVアニメ化されて、評判になりました。
いつ、どこかは定かではない、中世日本。
人里離れた山奥に、ひっそりとたたずむ神社があります。そこには神社を祀る美しい隻眼の巫女と、まだ幼い彼女の妹アトリがいました。
ある時、姉の留守中に、化狐が神社を訪ねてきたのです。
本作は武田日向の短編集『狐とアトリ』に収録されている表題作です。日向らしいしっとりとした姉妹の関係に和風伝奇のエッセンスが入り交じって、凄みのあるエピソードに仕上がっています。
アトリは姉を慕う優しい娘で、嘘が何よりも嫌いでした。しかし、姉の不在中にやって来た化狐の言葉から、彼女は大事な姉に疑いの目を向けてしまいます。些細な嘘から始まった不審は徐々に広がり……。
可愛らしい絵柄と、ちょっと背筋がぞっとするような展開に、ぐいぐいと引き込まれていくことでしょう。
- 著者
- 武田 日向
- 出版日
- 2007-06-09
実(みのり)という名前の病弱な少女が主人公。物静かな彼女は、性格も内向的でした。
そんなある日、彼女の過ごしている病室に新たな患者が入院してきます。その人物は、実とは正反対に明るく社交的でお洒落な少女・叶(かなえ)でした。
タイプの違う2人でしたが、徐々に打ち解けていきます。
本作も前述した短編と同じく、武田日向短編集『狐とアトリ』に収録されている作品です。偶然に病院で出会った、正反対の女の子同士による友情を描いたエピソードとなっています。
ファンタジー色のほとんどない現実的なお話ですが、その分だけ日向の優れたストーリーテリングの腕前が光ります。見事な物語の組み立てによって、短編とは思えない、奥行きのある感動的な話に仕上がっているのです。
登場人物の心の交流が、巧みな心理描写で描かれ、現実に向き合って行く様子には説得力があります。後日談もあわせて読めば、感涙必至の名作でしょう。
いかがでしたか?武田日向は、惜しまれながらも亡くなった作家でした。新たな作品が読めないのは残念ですが、少しでも多くの人に作品を知って頂ければと思います。