SF作家レイ・ブラッドベリのおすすめ5選!不朽の名作『火星年代記』作者!

更新:2021.12.14

近未来や火星を舞台にしたSF小説、ブラックユーモアと皮肉に満ちた短編小説など、ありとあらゆるジャンルを手掛けたレイ・ブラッドベリ。今回は、詩的で抒情的な文体が魅力の万能作家・ブラッドベリのおすすめ5作品を、ご紹介します。

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SFと短編の名手、ブラッドベリとは?

1920年、アメリカで生まれます。1938年〜42年までは新聞販売を行い、この間に書かれた共作が『スーパー・サイエンス・ストーリーズ』に掲載され、プロ作家の道を歩むことになります。

1947年には、処女短編集『黒いカーニバル』を刊行。その後、『刺青の男』や、火星の植民地化計画などを描く『火星年代記』で、世間に広く知られるようになります。1947年と48年には、オー・ヘンリー賞を受賞します。

『華氏451度』など映画化された作品も多く、近未来、SF、短編集、長編など、幅広い作品を数多く執筆しました。

1: 横暴な地球人、冷静な火星人『火星年代記』

ブラッドベリの代表的なSF作品。舞台は火星ですが、文明批判の色濃い内容です。アメリカと日本ではテレビドラマ化されたため、知名度は高く、名前を聞いたことがあるという方も多いはず。

著者
レイ ブラッドベリ
出版日
2010-07-10


20世紀末、人類は火星を探検しますが、3度にわたって失敗します。火星人は、テレパシー幻覚を見せる能力が高度に発達しており、心の隙につけ込み、人類を自滅させたり、殺したりしたからです。遂に4度目には植民地化に成功します。人類は殺戮を繰り返した挙句、火星人をほぼ絶滅させました。やがて地球上で大規模な戦争がはじまり、移住してきた地球人は、火星を見捨てて地球に帰ることになります。

火星人の日常生活は、幻想的でロマンチック。たとえば、「水晶の家に住み、庭には葡萄酒の木が生えている」といった描写がされています。彼らは冷静で、自分たちの生活が脅かされない限り殺生を避け、対話で軋轢を解決する傾向があります。だからと言って、無害ではない火星人。

筆者が、欲にとらわれた地球人を批判していることは確かですが、火星人も残酷なことをします。彼らは、好きな姿に変身でき、テレパシーを使って相手の思考を読み取ることができます。これにより、相手の弱点を把握したり、戦意を喪失させたりできます。作中では、危害を加えようとする地球人を殺すため、彼らの記憶を読み取り、愛する者の姿になりきる手法が頻繁に使用されます。愛する者の姿をした者に殺される場面では、胸をえぐられます。しかし、火星に移住した老夫婦の前には、火星人は、亡き息子の姿で現れ、一時の慰めを与えます。火星人の能力のどのように使われるかは、関わった人によって違います。様々な異人の交流に注目して、各話を楽しんでください。

2: 幻想と現実の物語『太陽の金の林檎』

幻想と詩情にあふれた22編。その中から、読後に余韻をもたらす『太陽の金の林檎』『目に見えぬ少年』をご紹介します。

著者
レイ ブラッドベリ
出版日
2012-09-07


『太陽の金の林檎』は、冷え切った地球の動力源を確保するため、宇宙旅行隊が太陽の一部を持ち帰るという話。非常に短い話ですが、宇宙船の事故によって、仲間を亡くしたり、太陽に近づきすぎたために船内の温度が上昇し、乗組員が死を覚悟したりと、スリリングで濃密な描写が続きます。

緊迫したシーンも描かれますが、地球を持ち帰るという計画は、宇宙船の隊長にとっては「小さな昆虫(人間)がライオン(太陽)をちくりとさして上手く逃げ切る遊び」というロマン。手に汗握るシーン、そして太陽の火を採る際の美しい描写などを、ぜひ楽しんでみてください。

『目に見えぬ少年』では、森の奥に住み、自分を魔女だと思い込み、怪しげな儀式を日々行う老婆の元に、小さな子どもが遊びに来ます。親が一週間ほど家を離れるので、暇を持て余しているのです。人と話すこともないさびしい生活の中で、彼に愛着の湧いた老婆は、子どもをそばに置きたいと考えます。「少年が家に帰っても、その姿が誰にも見えなければ、魔術を知る私と暮らすしかないと考えるだろう」と、「体を透明にする魔法」を少年にかけ、思いのままにしようとしますが…。

心の機微を捉えられないゆえの子どもの残酷さと、物語開始時と終了後の老婆の心境の変化に注目です。結局、他人は自分の思う通りには動かない。しかし、空想と狂気の世界なら、現実を甘美なものに変えても文句は言われない。なんとなく物悲しい物語です。

3: 死までのゆるやかな道『10月はたそがれの国』

ブラッドベリの名声を確立させた19編の短編が収録されています。抒情的な作品はほぼなく、彼の初期作品の特徴であるホラーや怪奇物がほとんどです。どの作品にも悪夢と死の影がつきまとい、容赦のないバッドエンドが待ち構えます。精神的に余裕があるときに、読むことをお勧めします。今回は、特に後味の悪い『つぎの番』『使者』をご紹介します。

著者
レイ・ブラッドベリ
出版日
1965-12-24


『つぎの番』の主人公は、メキシコ旅行中の若い夫婦。ある小さな町で観光をしていると、町人から「ここでは死人をミイラにして墓地に安置している」と聞きます。学術的にミイラに関心のある夫は、嫌がる妻を連れてミイラを見に行きます。妻は、土の中の狭い空間にずらりと死人が立つ姿を見て、死の恐怖におののきます。妻は、強迫観念にかられ、旅行者であるにも関わらず、「自分も死んだらミイラにされこの町に安置される」と思い込むように。墓地を離れてからも「私が死んだらあそこに入れないで」と、何度も狂ったように夫に頼みます。夫は「馬鹿な事をいうな」と一笑に付しますが、ノイローゼになった妻は体調を崩し…。

非常に短い短編で、物語の最後の数行までなにが起こったのかわかりません。妻に異変が起きたことはわかりますが、具体的な事件や、夫の感情描写がほぼないため、読者が想像するしかなく、モヤモヤ感が残ります。ラストの夫の晴々した様子には、疑問を抱かざるを得ません。再読すると、初読時には気づかなかった含みに、はっとさせられることでしょう。

『使者』は、体が弱くほぼ寝たきりの少年と、彼の飼い犬のお話。外に出られない少年が季節の移り変わりを知ることができるのは、犬のおかげです。外で自由に走り回る犬が、彼の元に、秋の風と匂いを届けてくれます。

少年の話し相手は、彼の元に訪ねに来てくれる学校の若い女性の先生でしたが、ある日、彼女は自動車事故で亡くなります。死の冷たさを知った少年は、犬に「訪問者歓迎」の札を付け、自分の部屋を訪れる友達を望むようになります。

ある日、犬の様子がおかしくなり、行方をくらまします。外部から情報を得られず、閉ざされる少年の世界。やがて季節は、冬に移り変ります。ドアの向こうには、誰かが立っている気配がします。

鍵となるのは、先生が亡くなった際に、少年が母親に「お墓の中で横になってばかりじゃあきるだろう。どうして時々起きてこないの?」と聞いたこと。

オチは、日本の幽霊話を思わせます。犬は、誰をどこから連れてきてくれたのでしょうか?少年のその後は、読者の想像にゆだねられています。

4: 人の心からあふれ出す毒『メランコリイの妙薬』

他の短編集と比べると毒は控えめで、ブラックな結末の作品はほぼありません。しかし、ハッピーエンドかといわれると疑問が残るような、モヤモヤ感が残ります。メルヘンチックな内容が多く、読みやすいお話が多いです。本作で収録されている22編の中から、今回は、現代社会に警鐘を鳴らす『誰も降りなかった町』をご紹介します。

著者
レイ・ブラッドベリ
出版日


殺人願望を秘めた男が、長年温めてきた計画を実行しようと駅に降り立ちました。見知らぬ街の見知らぬ人間を殺す計画。標的にされた老人は、「私も待っていた。殺しても後腐れのない余所者(よそもの)が来ることを」と思いがけないことを言います。会ってはいけない人間同士が、関わってしまったのです。

誰もが無自覚に抱える闇に焦点が当てられています。爆発しそうなストレスや、鬱屈を抱えているのは、自分だけとは限りません。極限まで追いつめられた人間は果たしてどうなるのか、と考えさせられます。

5: ホラーと幻想的な作品の傑作集『黒いカーニバル』

24編が収録された、ブラッドベリ初期作品の傑作集。ホラー作品と、幻想的な作品の割合は半々であり、両方の世界観を堪能したい方におすすめです。今回は、特に抒情的な『青い壜』をご紹介します。

著者
レイ ブラッドベリ
出版日
2013-09-05


舞台は、地球がほぼ壊滅した近未来。都市も崩壊し、生き残る人間もわずか。そんな折、世界のどこかには、手に入れた者の願いをなんでも叶える「青い壜」がある、という噂が流れます。「年を取りたくない」「金持ちになりたい」と多くの人間が、「青い壜」を探します。主人公も、壜を手に入れるため、奔走します。「俺は酒が飲めればそれでいい」という欲のない無害な友人を引き連れ、破壊行動や、壜の奪い合いに身を投じていきます。

金銭を手に入れたい主人公は殺人もいとわず、青い壜を手に入れます。しかし、壜の飲み物を飲んだ途端、なにかが起こります。一方、壜をめぐる争いに興味のない友人。迫る人類滅亡を受け入れ、小さな喜びを見つけながら静かに生活し、現状に満足しています。

どこまでも欲深い人間と、欲のないつましい人間。本当の幸せとはなにか−−両者の違いから学べることは多いはず。

ブラッドベリの描く世界は、幻想的で、風景や心の機微がとても丁寧に描かれます。それらの特徴がとりわけ顕著な作品『火星年代記』。水晶の家で暮らし、葡萄酒の運河を青銅の船で移動するなど、優雅で幻想的な火星人の生活が、精緻に表現されています。ぜひ、彼の織り成す繊細な文章を堪能してくださいね。

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