お人好しで誰からも頼られてしまう主人公。そんな彼のお隣さんは、甘え体質なお姉さんで……!? そんな彼女の世話をついつい焼いてしまう男子高校生とお姉さんの、年の差ラブコメです。 本作『ダメな彼女は甘えたい』は、「月刊少年マガジン」で連載されている、よしだもろへの作品。今回の記事では、その魅力や見所をたっぷりご紹介しましょう。
お人好しの苦学生、「イットー」こと上埜一等(うえの いっとう)。
彼は頼まれたら断れないという持ち前の人のよさを利用され、高校でもバイト先でも都合のよい人として扱われていました。
- 著者
- よしだ もろへ
- 出版日
- 2018-07-17
そんなイットーは、ある時ひょんなことからアパートの隣室に住んでいた漫画家・野薔薇ひふみの手伝いをすることになります。彼女はあまりにも自活能力のない駄目な女性で、人のよいの彼は気がかりで仕方ありません。
ちょうど同じ時期、水商売をしていて移り気な母親がなんとイットーを残して家を飛び出したことから、彼は1人暮らしを余儀なくされます。
そういった事情も相まって、人恋しい彼は、なんとなく隣人との交流を深めていくのでした。
基本的に『ダメな彼女は甘えたい』はラブコメなので、キャラクターの魅力が作品の主軸となってきます。その点でいえば、ヒロインはかなりぶっ飛んでいるといえるかもしれません。
まず主人公・上埜一等。同級生やバイト先では「上野君」、ひふみのように親しい人間からは「イットー君」と呼ばれています。
善行は巡り巡って自分に返ってくるという、正しい意味の「情けは人のためならず」(あるいは「ペイフォワード」)を実践する少年です。ただ、その善意は悪気のない周囲に消費されているのが現状。
彼は勉強やバイト仕事はそつなくこなし、母子家庭で母親が水商売をしており、家庭のことが出来ないという事情ゆえに家事にも精通しているという、アクティブな万能キャラです。
そして、ヒロイン・野薔薇ひふみ。メディアミックスもされた『バスルームの花子』という代表作のある、プロの漫画家です。詳しくは後述しますが、炊事洗濯がまるで駄目な残念女子の見本のようなキャラ。しかも、半ば引きこもりときています。
彼らは正反対なキャラであまりにも対称的なために、凸凹でちょうどいいというか、割れ鍋に綴じ蓋的なお似合い感があります。
もう1人、サブヒロイン的なポジションで登場するのが、芦垣やえ。ひふみの担当編集……ではなく、担当編集である芦垣太三の娘です。
ひふみの身の回りから日常生活の監督、原稿の催促、アシスタントも務める何でも屋的な少女。年齢的には年下ですが、1番大人びています。なんらかの事情で学校に行かず、ひふみに教わっているとか……。
この他、ひふみを盲目的に慕う女性漫画家や、同性のイットーを狙う耽美な男性漫画家など、癖のあるキャラが登場します。
ここからはヒロイン・ひふみの残念な行状というか罪状を、具体的に列挙していきましょう。
漫画家であることからある程度は予想出来ますが、彼女はいわゆるオタクです。それも、重度の。漫画アニメゲームを問わず、深いところまでどっぷり浸かった、一家言あるめんどくさいタイプのオタクなのです。さらに付け加えると、若干腐ってもいます。
そして、ちょくちょく描写される仕事場兼自室が酷いです。一言で言えば、汚部屋。ゴミと私物の区別が付かないほど散らかっており、常時足の踏み場がない状態。イットーが掃除しなければ数日で腐界が生まれ、黒光りするGと共生するくらい酷い有様となります。
当然のように料理も出来ず、主に外食や菓子類で済ませて偏っているせいか、おそらく味覚障害。何を出されても美味しいと食べてしまいます。手抜きだろうと手が込んでいようとお構いなく、一律同じ「美味しい」の反応なので、作る側としては恐ろしくやり甲斐のない相手です。
さらに怠け癖があり、すぐに仕事をサボってゲームに興じようとします。この思考パターンは、小学生男子のそれに近いでしょう。
しかし、その素顔は超絶美人で、体も肉感的なグラマラスボディなところは、さすがヒロイン――と言いたいところですが、野暮ったい服装と瓶底メガネですべて台無しなのでした。
このように非常に残念極まりないヒロインのひふみですが、イットーとは相性がいいのか、彼がどんなに構えていてもするりと内側に入ってきます。
頭を撫でてもらう、膝枕してもらうなど、熟練夫婦やカップルでもない限りは必ずワンクッション必要となる動作を、持ち前の甘え体質でナチュラルに決めていくのです。イットー側も行為におよんでから違和感を覚えるほど、あまりにも自然な甘え方。
元々のお人好しも相まってイットーは彼女の世話を焼いていくのですが、それが果たして親しい隣人という疑似家族への親愛からなのか、はたまた愛情なのかが微妙なラインです。
ひふみは自覚のない恋愛症状であることがちょくちょく仄めかされていますが、問題はイットーの方。彼自身は水商売の母親を見て育ったせいで、恋愛ごとや年上女性に対して非常にドライな感性をしています。そんな彼の、今後の変化を見守りたいところ。
季節は、いつの間にかクリスマスとなっていました。一緒に過ごすのが当たり前と化してきたイットーとひふみですが、そんな彼らの前に立ち塞がる出版社のパーティ。ひふみはそこに招待され、イットーはイットーで同級生のクリスマス会に呼ばれていきます。
普段いいように使われているものの、イットーはこれを機に、なんとなく人脈を築いていくのです。
ひふみもディープな趣味の合う異性の漫画家・歌麿と巡り会うのですが、これがなんと女性には目もくれない男性目当ての人物だったのでした。
ひふみの方も異性として意識しているわけではないので、それは構わないのですが、彼の好みがイットーと合致していて、何やら複雑な人間関係になりそうな予感が……?
- 著者
- よしだ もろへ
- 出版日
- 2018-07-17
イットーにナチュラルに依存しつつあるひふみの反応も面白く、見所のある話となっています。自分でもよくわからない焼き餅からの安堵感、安心感を覚える描写は、途轍もなく王道なラブコメといえるでしょう。
びびったり怒ったり緩んだり、百面相状態となるひふみの表情の落差が可愛らしいです。
その一方で、漫画家・野薔薇ひふみに訪れるピンチからも目が離せません。
いかがでしたか?ヒロインがここまでダメダメだと、庇護欲を煽られるどころか、逆に引いてしまうかも……。しかし、そこはやはり、お人好しの主人公とぴったりということでしょうか。『ダメな彼女は甘えたい』の今後の展開に、要注目です!