「閃光のハサウェイ」全巻ネタバレ考察!アニメ化決定の鬱小説の面白さを解説

更新:2021.11.17

角川スニーカー文庫から発売されている、富野由悠季の作品。アニメ史に残る超名作『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に連なるその後の出来事、宇宙世紀0105年の動乱を描いた物語となっています。 2019年冬から劇場版3部作が公開予定の本作、小説版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』についてご紹介しましょう。

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小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が面白い!タイトルの意味とは?【あらすじ】

 

「シャアの反乱」ともいわれる第2次ネオ・ジオン抗争から約10年後、宇宙世紀0105年。

地球圏は表面上平和を保っていましたが、地球連邦政府やその特権階級による横暴な差別が、地球では根強くおこなわれていました。彼らの行為は、母なる星の汚染をますます進めるだけで、宇宙移民の理念と逆行していたのです。

大敵のいなくなった地球連邦に対し、異を唱える力のある者はもはやいなくなっていました。

そんな時、政府首脳高官の暗殺を敢行し、連邦の粛正に乗り出した秘密結社「マフティー・ナビーユ・エリン」が台頭します。首謀者は組織と同じ名前マフティーを名乗り、アムロやシャアの再来と人々の支持を集めていくのです。

その正体は一年戦争の功労者ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアでした。

 

著者
富野 由悠季
出版日
1989-02-13

 

彼は新型「Ξ(クスィー)ガンダム」に搭乗し、地球連邦排斥のため、戦闘を仕掛けていきます。タイトル「閃光のハサウェイ」は、主人公ハサウェイがシャアの意志に共感し、ガンダムに乗って閃光の如く駆け抜ける内容からきているのでしょう。

 

著者
富野 由悠季
出版日
1988-02-01

 

本作はガンダムシリーズ最高峰との呼び名も高い『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』と地続きの物語となっています。厳密には映画「逆襲のシャア」ではなく、完成前の第1稿を元にしたパラレル小説「ベルトーチカ・チルドレン」の続編です。

そのため、たとえばα・アジールを撃破したのがチェーン・アギではなくハサウェイであるなど、映画とは多少の食い違いが出てきます。

非常に無慈悲なラストが描かれることから、本作は鬱小説ともいわれているようです。

 

登場人物を解説!

 

架空の戦争を描くガンダムシリーズは、思想の違いを描写する都合上、伝統的に多数のキャラクターが登場する群像劇となっています。それは、本作も同様です。すべて紹介すると書き切れないので、特に重要な人物に絞ってご紹介しましょう。

まずは、ハサウェイ・ノア。偽名でマフティー・ナビーユ・エリンを使う、同名組織の表向きのリーダーです。旧来の作品にも脇役で登場し、ニュータイプ(進化した人類。ある種のエスパー)の素養を感じさせていましたが、今回は主人公として、新型ガンダムで戦います。

ヒロインはギギ・アンダルシア。ハサウェイのトラウマとなっている「逆襲のシャア」のクェス・パラヤを連想させる、ニュータイプ的少女です。意味深な予言で荷担した側に戦況を傾ける(ように感じられる)、謎めいた存在。

そして、もう1人の主人公といえるのが、連邦軍大佐ケネス・スレッグです。物語冒頭の事件からハサウェイと親身になるのですが、皮肉にもそんな彼がマフティー=ハサウェイ討伐の指揮を執ることになります。

出番こそ少ないものの、シリーズファンにはブライト・ノアも見逃せません。反連邦組織マフティーのリーダーがハサウェイということを知らない、悲劇の人物として描かれます。

 

作品の魅力1:ガンダムの生みの親、富野由悠季による正統続編

 

「閃光のハサウェイ」最大の魅力は、なんといっても、ガンダムを生み出した監督・富野由悠季が直々に手がけた作品ということでしょう。シリーズの表裏を知り尽くし、部外者が知ることも出来ないボツ設定まで参照出来る作者が、超名作「逆襲のシャア」の続編として発表したとあっては、ガンダムファン必読です。

刊行された1989年の時点では、映画『機動戦士ガンダムF91』が製作されるまで、ガンダムシリーズとしてはもっとも未来の宇宙世紀の話だったということも、注目すべき点です(「閃光のハサウェイ」以前にも宇宙世紀0200年代の『ガイア・ギア』という作品がありましたが)。

また作者が作者だけに、ファンにはお馴染みとなっている独特な台詞回し、通称「富野節」も健在。

やっているけど、カーゴが死んじまっては、乗りうつったら死ぬよ
(『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻より引用)

こういったところも、本作注目のポイントです。

 

作品の魅力2:新型ガンダムの勇姿とライバル機

 

ガンダムというコンテンツは、今や単一の作品の枠を越えて1つのブランドと化しており、そこで描かれる出来事や設定は「歴史」と呼んで差し支えないほど膨大なものとなっています。

ガンダムシリーズは大まかに「宇宙世紀モノ」と、世界観の異なる「アナザーガンダム」の2つに分けることが出来ます(『∀ガンダム』の設定まで語ると長くなるので割愛)。初代から続く宇宙世紀の作品は正史とされ、それらに登場する機動兵器「モビルスーツ(MS)」は、時代によって変化していきます。

特に、宇宙世紀0100年代はMSの恐竜的進化(巨大化、複雑化、重武装化に由来するたとえ)といわれる、軍事技術の全盛期です。

そうした背景のもと、宇宙世紀の技術全部盛りのようなMSとして主役機「Ξガンダム」が出てきます。「Ξ」は14番目のギリシャ文字で、13番目の文字「ν(ニュー)」、つまり「νガンダム」の後継という意味で名付けられました。

Ξの全体的なデザインはZZガンダム、あるいはSガンダムの系譜が感じられるでしょう。νガンダムの影響が色濃く見えるユニコーンガンダムと比べると(『機動戦士ガンダムUC』は後付けなので当然ですが)、νの後継という割りにはやや異端に見えるかもしれません。

重力下でも自由に飛行出来るミノフスキークラフトを搭載した、画期的なMSです。後の時代でも、同様の機能を持つのはV2ガンダムなどのごく限られた機体だけなので、いかに優れた性能かおわかりいただけるのではないでしょうか。

そんなΞのライバルMSが、「ペーネロペー」です。名前からはわかりませんが、こちらもガンダムタイプのMS。後付けですが、オデュッセウスガンダムという機体にフライトユニットを装着した姿とされました。

どちらもアナハイム・エレクトロニクス製で兄弟機のような関係にあり、性能はほぼ互角。当初はシャアの反乱で実戦経験のあるハサウェイが有利でしたが、ペーネロペーのパイロットであるレーン・エイムも急成長していきます。

 

小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻の見所をネタバレ紹介!

 

月から密かに送り出されたガンダム受領のため、高官向けシャトル「ハウンゼン」に乗船していたハサウェイは、数奇な運命の巡り合わせで反乱組織「マフティー」殲滅の任を負った軍人ケネスと懇意になります。

彼はケネスら連邦の目を狡猾にかいくぐり、Ξガンダムに乗り込むこと自体には成功します。が、直前に隕石に偽装したガンダム降下を察知されたことで、ケネス率いるキルケー部隊と接触。新鋭MSペーネロペーとの戦闘に突入するのでした。

 

著者
富野 由悠季
出版日
1989-02-13

 

物語を重層的に見せる登場人物の因縁作りは、さすが富野監督の手腕と唸らせられるでしょう。見所となるMS戦闘においても、まずマフティー軍の量産機であるメッサーとペーネロペーに先に戦わせておいて、性能差を実感させてから主役機との対決に持ち込むところが見事です。

まずはゲリラ戦を得意とする「マフティー」の勝利に終わりますが、果たして……。

 

小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』中巻の見所をネタバレ紹介!

 

地球連邦の抑圧とそれに対する不満は、民衆の「マフティー」への政治的支持と、「マフティー」とは別にオエンベリの私設軍集結によって表面化しつつありました。

ケネスのキルケー部隊の前任者、キンバレー司令は「マフティー」とその賛同者への見せしめとして、オエンベリの私設軍を苛烈なまでに虐殺し尽くします。

ハサウェイらはオエンベリとの合流こそ叶いませんでしたが、壊滅させた張本人たるキンバレーの身柄拿捕に成功。懸案事項だった連邦会議の開催地が、香港のコワンチョウになったことを知ります。

 

著者
富野 由悠季
出版日
1990-03-01

 

中巻では連邦のさらなる暴虐と、志はともかく、組織的に遅れを取る「マフティー」が対比されます。

戦いのなかで、自分と理想の象徴としてのマフティーのギャップに思い悩んでいくハサウェイ。シャアに共感して立ち上がっても、英雄やカリスマになり切れない、等身大の青年像が垣間見えます。

物語としては結末に向けての助走に相当し、人間ドラマの方が多く見られるでしょう。

 

小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』下巻の見所をネタバレ紹介!

 

連邦の閣僚会議開催地は、オーストラリアのアデレードでした。地球の汚染を深化させ、事実上一部の特権階級の私物とさせる法案の可決を阻止すべく、「マフティー」はMS部隊を派遣しつつ電波ジャックでこの事実を曝露。

揺れる世論とは無関係に、ケネスのキルケー部隊とペーネロペーが、Ξガンダム=ハサウェイの前に立ち塞がります。

最後の決戦。数度の実戦を経たレーン・エイムは驚くほど成長していましたが、ハサウェイはすべての実力を出し切って、アデレードへと後一歩迫るのです……。

 

著者
富野 由悠季
出版日
1990-04-11

 

短くも激動の物語が、ここで完結します。戦闘が激化するのはもちろんのこと、人間ドラマも劇的な展開を迎えるところが見所でしょう。

くだんの放送を見たケネスは、その演説をしているのがハサウェイであると勘付きます。このようにして折り重ねられた人間関係の糸が、立体的に浮かび上がっていくのです。

果たしてハサウェイは、アムロやシャアが成し遂げられなかった地球の意識革命――人類の革新に到達することが出来るのでしょうか?その衝撃的で胸を締め付けるような結末は、ぜひご自身の目でお確かめください。

 

映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』7月23日公開決定!特報映像も!

 

宇宙世紀を題材にしたガンダム作品の振り返りと次の100年を構築するための「UC NexT 0100」プロジェクト。その第2弾作品である映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の公開日が7月23日に決定しました。

第1弾作品の映画は2019年に公開された『機動戦士ガンダムNT』。小説とは違うストーリー構成やラストだったということもあり、小説と映画の両方を楽しめる作品でした。第2弾である今回も、また小説とは違う展開を期待できます。

監督は「虐殺器官」の村瀬修功が務めるほか、脚本を「機動戦士ガンダムUC」のむとうやすゆき、キャラクターデザイン原案を「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の美樹本晴彦、キャラクターデザインをpablo uchida、恩田尚之、工原しげきの3人が担当します。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト(http://gundam-hathaway.net/)から、特報映像が届いています。映画の公開まで待てないという方はこちらをぜひご覧ください。

今回ご紹介したのは、2019年から公開予定の三部作映画の、原作に当たる小説です。映画は細部が異なる話になるかもしれませんが、そういった部分を楽しむためにも、予習の意味でご一読してはいかがでしょうか?

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