加藤千恵のおすすめ文庫小説6選。ビタースイートな恋を、見つけてみない?

更新:2021.12.14

高校生歌人として注目された加藤千恵。歌人として培った表現の巧みさを活かし、切ない恋愛小説の描き手ともなっています。今回は、加藤千恵の作品のおすすめを6作ご紹介します。

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短歌から、ほろ苦い恋愛小説まで扱う作家・加藤千恵とは?

加藤千恵は日本の歌人であり、小説家です。1983年に北海道旭川市で生まれ、北海道立旭川北高等学校を経て、立教大学文学部日本文学科に入学します。

高校時代より創作を始め、インターネット上で作品を発表し、NHKの短歌番組の常連入選者でした。

2000年に「うたう」作品賞佳作、2001年には雑誌『ハッピーマウンテン』、処女短歌集『ハッピーアイスクリーム』を出版。後者の歌集は、ベストセラーとなりました。

進学で上京してからは、本格的に活動を始め、2002年には第2短歌集『たぶん絶対』を出版します。

雑誌『Zipper』では、短歌エッセイの連載をスタート。恋愛小説の執筆も開始しました。

加藤千恵初の恋愛小説『ハニー ビター ハニー』

大切な親友の彼氏に惹かれて寝てしまう女、同棲している彼氏に好きな女性ができてしまった女、ライブで一目惚れしたボーカルの男に誘われるまま、ホテルで初体験する女……など、甘くてほろ苦い、切ない恋の話が9本収録された短編集。

著者
加藤 千恵
出版日
2009-10-20


ストーリーはほとんどがハッピーエンドではなく、やりきれなさが存分に詰められています。しかし読後には、恋はやはり甘ったるいものと思えるのだから不思議です。

ずるい男性に恋して傷ついている女の子たちを描いているのに、つらさ以外の感情のほうが浮かび、胸に染み渡っていくような、イマドキの恋愛物語。

すらすらと読めますので、一度手にとってみてくださいね。

恋の切なさと、とまどいを描く『さよならの余熱』

同棲中の恋人が好きで優しくしたいのに、どうしても責めてしまう言葉ばかり言ってしまう女や、会社員と付き合い始めた途端に援交の噂を立てられる女子高校生など、恋の甘い切なさ、とまどいを描いた短編が9本収録されています。本作の短編は、それぞれが切り離されておらず、ある作品では脇役だった登場人物が、別の作品では主人公になったりします。

著者
加藤 千恵
出版日
2010-12-16


タイトルから想像できるかもしれませんが、収録されている作品は別れ話が多いです。

作家の西加奈子が解説「ミクロの目で丁寧にすくいだし、きちんと対峙し、真摯に描こうとする」は本作を端的に表しています。

恋したい気持ちになる1冊を、あなたの手元に置いてみませんか?

18歳から25歳までの誕生日『誕生日のできごと』

主人公は、変わり者の姉をかっこいいと思う恵里。彼女の18歳から25歳までの誕生日の出来事を定点観測的に描く連作短編です。

著者
加藤千恵
出版日
2010-09-07


恋愛、進学、就職、車の免許取得などを通して、主人公の変化、成長を表現します。親しかった友人と疎遠になったり、姉の人生が予想外のものになっていたり、読者の心に残る場面は多いはず。

各章のタイトル名は、ハヤシライス、バーニャカウダ、カップ麺など、その年の誕生日に食べた物で、本作の象徴的なテーマに繋がっています。おいしそうな料理についての記述豊富にあるのも、本作の特徴かもしれません。

恋愛の比重は大きいですが、ひとりの女性の成長の記録として、とても自然に読むことができますよ。

舞台は、言い伝えのある中学校『春へつづく』

本連作短編集では、生まれて初めての相手に告白をしようする少年、母親から「お父さんはミュージシャンの岡村靖幸よ」と言い聞かされてきた少女、自称「本の森の番人で1200歳」の図書館司書などの物語が、地方都市の中学校を舞台に展開されます。地方都市のモデルは、北海道・旭川市。それぞれの短編は「卒業式の日に開かずの教室に入ったら願いが叶う」という学校の言い伝えによって繋がっていて、最終話で伏線がみごとにまとまります。

著者
加藤千恵
出版日
2013-05-01


中学生の日常シーンを淡々と描く話は、どれもバットエンド傾向にありますが、後味は悪くありません。

ただ、中学生にしては少々達観しすぎているような場面や、逆に大人の行動は衝動的で子どもっぽいと思わせる場面もあります。加藤千恵の計算ずくの表現だったらすごいのですが、どうなのでしょう。

読後には、ふうっと春を感じるような1冊。切ないけれど癒されます。

同じ映画を観た女性たちのストーリー『映画じゃない日々』

本連作短編の主人公の年齢や境遇は、バラバラ。彼女たちの共通項は、「ある映画館でレディースデーにある映画を観ている」こと。同じ映画館で同じ映画を観ていても、映画を観にきた理由も感想も、その後の行動もまったく違います。それらの様子を眺める感覚がとても面白い作品です。

著者
加藤 千恵
出版日
2012-10-12


それぞれの作品後に短歌が添えられている点は、歌人である作者ならでは。短歌は本文の行間に描かれた心境などを表現しており、重要な役割を果たしています。また、すべての作品が「○○じゃない××」というタイトルで統一されており、とても洒落た構成です。

映画好きにはもちろん、映画好きでない方にもとても響く1作です。

1人きりの夜、寝る前に時間をかけて大切に読みたくなる『真夜中の果物』

うまくいかない辛く切ない恋をしている人にだけ見える世界があり、感じとれる感覚があります。

そんな様々な恋愛経験を経た女性たちのせつない記憶を切り取ったこの『真夜中の果物』。37個のショートストーリーと短歌たちはほろ苦く、読む人の胸を締め付けてきます。

この本のタイトルである『真夜中の果物』の果物の意味。実は、37個ものショートストーリーはいくつものフルーツにたとえられます。

例えば、レモンのように酸っぱかったり、少し苦みがあったりと、人によって味わい方もさまざまです。

著者
加藤 千恵
出版日
2011-02-09

 

この本は甘い甘い幸せを絵にかいたような理想の、少女漫画のような恋愛ではありません。切ない恋愛をさまざまなシチュエーションにあわせて綴ったな大人の恋愛ショートストーリー&短歌集です。大変読みやすく、また読む人によって手触りが少し異なるショートストーリー集となっています。

電車移動などの短い時間でも、恋愛のショートストーリーに引き込まれてしまうでしょう。それに、歌人・加藤千恵が綴る美しい自由律俳句や短歌が合わさって、同時に胸に迫ってきます。

過去の自分の恋と重なるものがあれば、一瞬であの瞬間にタイムスリップさせてくれるかもしれません。

様々な恋の場面を描く、加藤千恵。恋をしている人もしていない人も、これから恋をしたい人も、彼女のビタースイートな作風が心にグッとくるはず。

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