『ミステリと言う勿れ』は、『7SEEDS』で知られる作者・田村由美の漫画作品です。2020年1月現在、月刊誌「flowers(フラワーズ)」にて連載中、5巻まで発売されています。「このマンガがすごい!2019」のオンナ編2位に、さらに翌年も4位にランクインし、注目が集まっている作品です。 この記事では、ミステリのようでミステリじゃない、独特な本作の魅力と見所をご紹介します。
探偵でも何でもない、マイペースな大学生・久能整(くのう ととのう)。彼は物語が始めってすぐに、事件に巻き込まれていきます。
休日、自宅でカレーを作っている整のところに、警察の訪問がありました。近所で発生した殺人事件の参考人として、警察に突然の任意同行を求められるのです。
取り調べにあたる刑事は、彼が犯人だと確信しているようですが、まったく身に覚えがなく戸惑う整。取り調べが進む中、整がマイペースに「今気になる事」「気になっている事」を刑事達相手に喋り倒すうち、今回の事件の意外な側面が見えてきて……?
- 著者
- 田村由美
- 出版日
- 2018-01-10
一見ぼんやりしているように見える主人公が、持ち前の沈着冷静さと観察眼を発揮して、人物や物事の隠された側面を会話によって引き出していくという不思議な「ミステリじゃないミステリ」。
次々と起こるさまざまな事件の中、彼が喋っているだけで、なぜか出来事の本質があぶり出されて解決にたどり着いたり、逆に現場を混乱させたりするシュールな展開が面白いです。
うざくて面倒くさくて空気を読まない、だけど何だか憎めない整の「常々思っている事」に、ちょっと耳を傾けてみませんか?
本作品の面白さには、主人公・整のクセのあるおかしさも、一役買っているように思います。整は、社交的というわけでもないのですが、自分が気になる事をそのまま放っておく事ができません。
殺人容疑で取り調べを受けている最中に、女刑事の振る舞いについて諭したり、相手の刑事の結婚生活が気になって、それについて訊ねてしまったり……。とにかく空気を読むということがありません。
彼の基本は、自分ルール・自分主観です。他人がそれに合わせるのは中々面倒くさい……。しかし、そこが整の魅力でもあります。彼の喋りは、シュールでときに痛烈、たまに理不尽です。
けれど、確かに今まで思いもしなかった事を思い知らせてくれたり、考えさせられたりしてしまいます。彼の考えに納得させられたり、反発したりするうちに、段々とこの面倒くさい主人公がクセになってしまうのです。
何を言い出すのか?そして、彼が「常々考えている事」は何なのか?つい、ワクワクして読み進めてしまいます。
散々マイペースだとお話した主人公・整ですが、彼の魅力は、謎多き部分にもあります。
弱点は「カレーに弱い」事。基本的に沈着冷静、でも空気は読めない大学生、友達も彼女もいない様子……。整についての情報は、少しずつ分かっていきますが、おそらく物語の格となる謎が残ります。
それは彼のルーツに関連する情報です。彼の考え方や価値観の端々に、子供時代のわだかまり、父親の影が見え隠れしているようなのですが、生まれや家族については、あまり語ろうとしません。整は一体どのような過去を背負っているのでしょうか。
少しずつ明らかになってきましたが、幼いころ広島に住んでいた時期があるようです。しかし、広島出身なのかと尋ねられると沈黙し、かつての同級生と遭遇しても人違いだと言い張ってその場を後にします。幼少期の広島で、彼に何があったのか……。
「父親」「広島」「幼少期」そして「傷」は、整を知る上での重要なファクターになっているよう。今後、これらの謎が明かされるのかはまだ分かりませんが、整の秘密に注目してみるのも面白いかもしれません。
バスジャック事件に巻き込まれた事がきっかけで、整と知り合いになった人物・犬堂我路(いぬどう がろ)。「僕の事をうざいって言わない珍しい人」であるガロに整は好感を抱き、ガロのほうも整を面白く思っているようですが、事件の後でガロは姿を消してしまうのでした。
しかしガロは行方不明になった後も、整の近況を把握しているようです。事件に巻き込まれるように誘導したり、突発的に起こった整の入院の際にはお見舞いを送ってきたりするのです。
そしてそれにはただの友情とは言い難い事情が絡んでいるようで……?
第4巻で整が偶然知り合った人物・三船三千夫(みふね みちお)。彼がしていた牡牛座のマークが入った指輪。そして、それを目にした整の元にガロから送られてきたのは、射手座のマークが刻まれた指輪……。
彼は何を知っているのでしょうか?そして、なぜ整に意味深なメッセージを送るのでしょうか?
今後も物語に関わってくると思われる注目の人物・犬堂ガロ。彼の謎と秘密に注目しながら本作を楽しむのもおすすめです。
主人公・整は、とにかく事件に巻き込まれます。
第1巻では殺人事件にバスジャック、第2~3巻では旧家・狩集(かりあつまり)家の遺産相続騒動と行く手に事件と謎が待ち構えているのです。
友人・ガロが行方不明になると切断された人の手首が自宅に届けられ、新幹線に乗ると隣の席の女性が見ていた手紙に見え隠れする不穏なメッセージが目に入り……。
彼の日常にはいつも非日常が潜んでいます。
- 著者
- 田村 由美
- 出版日
- 2018-10-10
そんな中で、整が一体何を考え喋りまくるのか、ぜひそれを楽しんで頂きたい3巻までの展開。
「どうして人を殺してはいけないのか」と問われたら、あなたなら何と答えますか?
変わった視点で話始める整の答えは、目からウロコ。思わず笑ってしまうかもしれません。
これ以外にも、整に投げかけられる疑問や問いへは、つい自分も頷いたり首を傾げたり……自分ならどう答えるか「う〜ん」と考えてしまうものばかり。
人の持つ多面性や恐ろしさ、1つの方向からでは見えなかった事実、多くの事を見せてくれるこの作品は、読む度に新しい発見を感じさせてくれます。
また、作者・田村もあとがきで言うように、本作品は主人公の整がただ話をするだけで、事件が解決していきます。その整の喋りの面白さも見所。
閉鎖空間での会話だけのお話、舞台劇のようなイメージで作っていると言いますが、会話の端々に混じるパワーワードに思わず吹き出してしまう事があります。
考える部分があったり、整の喋りや視点がクセになったりと、真面目な部分も柔らかい部分も楽しめる本作。そんなところに注目して読み進められてしまう内容です。
広島で巻き込まれた旧家・狩集家の遺産相続問題が解決し、帰宅した整は、雨の中で記憶喪失の人物と出会います。「話をしていれば記憶が戻るかもしれない」という理由で会話を続けるうちに、彼は自分が「どこかに爆弾を仕掛けた気がする」という、まさに爆弾発言をして……!?
- 著者
- 田村由美
- 出版日
- 2019-02-08
4巻の見所は、記憶喪失の爆弾魔・三船三千夫との出会いと、ガロから送られてきた星座マークが刻印された指輪、検査入院をした整が出会う不思議な少女・ライカの登場です。
三船の持ち物と同じ星座が刻印された指輪……このタイミングで送られてきた指輪は新たに登場した少女・ライカに関連があるのでしょうか?送り主のガロの意図は?
入院した整が、紙ぱんつに衝撃を受けたり、温室の多肉植物にはしゃぐ姿も見られます!次巻が待ち遠しくなる展開満載です。果たして、整は無事に退院できるのでしょうか?
主人公・整の変わった視点と、納得させられてしまう、軽妙なトークが魅力的な本作。今後がとても気になる『ミステリという勿れ』、おすすめの作品です。