日本でも人気の高いフランスの小説家ピエール・ルメートル。そんな彼が日本で「このミステリーがすごい!」大賞をはじめとしたさまざまな賞を受賞してたのが、本作『天国でまた会おう』です。 生きること、家族のこと……戦後に環境が大きく変わってしまった、2人の男の物語が紡がれていきます。あまりにも衝撃なラストまで、目が離せません。 今回は、そんな本作の魅力をご紹介。2019年3月には映画化もする、本作の見所をお伝えしましょう。
フランスの小説家で、日本でも人気の高いピエール・ルメートルが描く本作。
主人公は、アルベール・マイヤールという男。1918年、戦地に赴いていた彼は、ひょんなことから上官であるアンリ・ドルネー・プラデルの悪事に気づきます。しかし、そのせいでプラデルの策略にかかり、命を狙われてしまうのです。
その際に彼を救ったのが、エドゥアール・ペリクール。しかし、アルベールを救った彼は砲弾を顔面に受け、大怪我を負ってしまいます。そして砲弾は、彼の下あごをそっくりえぐり取ってしまったのです。
それでも、かろうじて命は取り留めたエドゥアール。命を救ってもらったアルベールは、戦後、怪我の痛みにのたうち回るエドゥアールを支えながら、貧しい暮らしを送ることになるのでした。
- 著者
- ["ピエール ルメートル", "Pierre Lemaitre"]
- 出版日
- 2015-10-16
一方プラデルは、失った自身の家の名誉を回復するため、エドゥアールの実家であり、地位と名声を持つペリクール家に近づきます。
そんななかで、痛みのためにモルヒネやヘロインにおぼれていくエドゥアールと、彼を支えるアルベールは、ある悪事へと手を染めていくことになり……。
顔をえぐり取られたエドゥワールの描写はとてもグロテスクで、衝撃的なもの。また、プラデルやアルベールの悲壮な思いや、歪みながらも存在する愛の形などからも目が離せません。
ラストまで読んだ時、『天国でまた会おう』という印象的なタイトルの意味についても考えさせられることでしょう。
2019年3月に公開が決定している映画版では、原作者ピエール・ルメートル自らが脚本を担当しており、これからますます注目度が高くなっていくこと間違いなし。
本作に登場するキャラクターは、いずれも強烈なインパクトを放っています。
まず、ビジュアル的にも、性格的にも異才を放っているのが、エドゥアール・ペリクールです。アルベールを救った代償として顔の大部分を失ってしまった彼は、戦後に怪我の痛みをごまかすため、モルヒネやヘロインに溺れていきます。
一方で、彼には絵の才能がありました。やがて彼はその才能を活かし、突拍子もない犯罪を思いつくのです。
そんな彼を懸命に支えるのが、彼に命を救われたアルベール・マイヤール。元軍人とはいえ配給もままならず、仕事もろくに得られないなか、重症のエドゥアールを介護しながらの生活はとても過酷なものでした。
それでも彼に恩義を感じている彼は、エドゥアールを支え続けます。本作のなかではもっとも真面目で平凡的な人物であり、だからこそ読者は彼に強く感情移入することができるでしょう。
そして、2人をそんな状態に追い込んだ張本人ともいえる元凶が、アンリ・ドルネー=プラデル。彼の実家はかつて貴族として栄華をきわめていましたが、それも昔のこと。今ではさまざまな事業の失敗で落ちぶれています。
しかし、過去の栄光を忘れられない彼は貴族としての名前を取り戻すために、ペリクール家を利用しようと考えるのです。とにかく読んでいて、これこそ悪党といえるキャラクターですが、これもまた人間の本質ともいえるもの。妙にリアリティーあるキャラクターとなっています。
他にもインパクトの強いキャラクターが多く登場し、それがストーリーに奥行きを持たせている本作。ストーリーはもちろんですが、そんなキャラクターの存在感も、ぜひ楽しんでみてください。
本作の見所は、愛情や絆、恩義などといった、人と人との繋がりにあります。
アルベールの命を救う代わりに顔を失ったエドゥアールと、その恩義に報いるために献身的に彼を支えるアルベール。この2人はもちろん、エドゥアールと彼の父親の間にある確執も、本作のストーリーに深く関わってきます。
エドゥアールは、その大怪我と、もともと親子関係がよくなかったことから、戦死したことにして家には帰っていません。彼とアルベールは己の才能を活かして、とある犯罪へと手を染めていくわけですが、それは予想外の結末へとつながっていきます。
最後、エドゥアールは父親と再会。予想外の反応を見せる父を前に、エドゥアールはさまざまな感情が溢れ出てきます。そんな彼が選んだのは、衝撃的な結末だったのです。
このラストをどう解釈するかは人それぞれですが、『天国でまた会おう』というタイトルと合わせると、さまざまな考え方ができます。ハッピーエンドやバッドエンドなどの言葉だけでは片づけられない本作のラストこそ、この作品最大の魅力といえるでしょう。
本作は上下巻と続編を含めると3部作ですが、本編となるのは上下巻の2冊です。上巻では、アルベールとエドゥアールのいる戦場から物語が始まります。
プレデルの悪事を知ってしまったために生き埋めにされたアルベールと、それを助けようとして顔の大部分を失ってしまったエドゥアール。これにより、2人の運命が位置付けられることになります。
そして戦争が終わり、ここから始まるのは2人の壮絶な生活でした。一方プレデルは、エドゥアールの実家を利用して財を成していきます。
- 著者
- ["ピエール ルメートル", "Pierre Lemaitre"]
- 出版日
- 2015-10-16
上巻での見所は、エドゥアールの怪我をはじめ、2人の壮絶な生活などを描くグロテスクな描写です。また、プレデルの酷さも容赦がありません。読んでいてイライラする方も多いでしょう。
エドゥアールは、自らの画力を活かし、ある犯罪を思いつきます。それは国中を巻き込む、大掛かりな詐欺計画でした。気弱なアルデールはその計画を聞いてどんどん落ち込んでいきますが、一方のエドゥアールはどこまでも楽天的。この2人の対比も面白いところです。
果たして、この突拍子もない計画の実態とは?
上巻ということもあり、主人公のアルデールやエドゥアールが悲惨さや、プレデルの悪党ぶりが際立っているので、なかなかじれったい思いを感じることもあるかもしれません。
しかし、そのぶん下巻への期待が膨らんでいきます。
下巻では、上巻を受けて物語が加速度的に進んでいきます。
エドゥアールとアルベールにとってプレデルは諸悪の根源のような存在ですが、彼らが直接プレデルに復讐をするようなことはありません。それよりも注目したいのは、エドゥアールと父親の関係でしょう。
- 著者
- ["ピエール ルメートル", "Pierre Lemaitre"]
- 出版日
- 2015-10-16
それまで、頑なに息子のことを認めようとしなかった父親。そんな彼は、息子が死んでしまったと思い、複雑な感情を抱いていました。エドゥアールが自分の死を装ってまで家へ帰りたくないくらいなので、その確執はとても深いものなのです。
そんな2人は、やがて予想外の再会を果たすこととなります。久しぶりに会った父親は、かつての父親とは別人のようになっていました。
そんな彼を前にしたエドゥアールは……。
そこで何が起こり、どんな結末を迎えるのか。その衝撃の最後は、ぜひ本編を手に取って確認してみてください。
主人公となるのは、エドゥアールの姉であるマドレーヌ。前作でプラデルと結婚していた彼女は、彼との離婚を果たし、幼い息子のポールとともに実家で暮らしていました。
そんな彼女の、父の葬儀の場面から、物語が始まる本作。その葬儀のなかで、彼女をある悲劇が襲います。なんと、ポールが3階から転落してしまうのです。
心労がたたって起きてしまった父の死、息子の看護、そして父の遺産を狙う魔の手……。陰謀が渦巻くなかで、彼女が選んだ道とは……。
- 著者
- ["ピエール ルメートル", "Pierre Lemaitre"]
- 出版日
- 2018-11-20
3部作の最後となる本作。主人公は、前作の主人公であるエドゥアールの姉のマドレーヌです。政治家が私欲を満たすなかで進まぬ戦後の復興、隣国ドイツで起こるヒトラーの独裁など、不穏な空気が漂う時代を生き抜く、1人の女性の姿が描かれます。
彼女の身に起こるさまざまな悲劇。そのなかで息子を守りながら戦う、女性の強さを感じることができる作品です。『天国でまた会おう』の続編という位置付けにはなっていますが、完全に独立した物語なので、前作を読んでいない方にも楽しんでいただける作品となっています。
また本作では、前作でプラデルの部下として脇役で登場したデュプレが、意外な活躍を見せてくれる場面も。こうした点も注目でしょう。
いかがでしたか?陰鬱なところやグロテスクなところもありますが、それ以上に、人間の複雑な愛情を感じることのできる作品になっています。クライムサスペンスのようなところもあるので、興味のある方はこれを機会に手に取ってみてください。