秋吉理香子『絶対正義』5つの魅力をネタバレ!イヤミス小説がドラマ化

更新:2019.3.7 作成:2019.3.7

正義感が強くて、違反や嘘を決して許さない高規範子。一見よいことのように感じますが、彼女の正義は度を越していました。やがて彼女の正義のせいで、周りの人間に不幸が訪れることになるのです。 2016年に刊行された、秋吉理香子の小説である本作。いわゆる「イヤミス」と呼ばれるジャンルで、2019年にはテレビドラマ化もされて注目を浴びました。今回は、そんな『絶対正義』の魅力をご紹介いたします。範子のねじ曲がった正義に秘められた狂気を、ぜひ感じてみてください。

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小説『絶対正義』あらすじをネタバレ紹介!2019年2月テレビドラマ化

本作は秋吉理香子氏による小説で、いわゆるイヤミスというジャンルの作品。イヤミスというのは、読んだら嫌な気分になるミステリーという意味です。

本作はそんなイヤミスの王道ともいえるくらい、読後感が悪いのが特徴。しかし、そこに至るまでの話はキリキリと切羽詰まったような迫力に満ち、読みだしたら止めることができません。

本作の主人公は、すべてに絶対的な正義を求める、高規範子。名前の真ん中の「規範」を体現するように、その正義は絶対的です。学生の頃はどんな大人も認める理想の優等生で、わずかな規律違反も許さず、違反者には容赦なく罰を与えてきました。

それは、範子の周りにいる人物達を救いながらも、追い詰めていくのです。

彼女の友人である西山由美子、理穂・ウィリアムズ、今村和樹、石森麗香達は、そんな範子の正義に助けられることもありましたが、同時に行き過ぎた正義感に息苦しさを感じていました。それでも、範子の正しさは決して間違っていないため、彼女達はむしろ息苦しさを感じてしまう自分が悪いのだ、と思ってしまうのです。

著者
秋吉 理香子
出版日
2016-11-10

 

そんな関係は、成長して大人になってからも続いていきました。大人になった4人の友人達は、それぞれ悩みを抱えながらも必死に生きていましたが、そんな彼らに対しても、範子は絶対的な正義を振りかざします。そんな正義に追い詰められた4人は、やがて……。

ストーリーを軽く読むだけでも、息の詰まるような雰囲気の漂う本作。2019年2月にはフジテレビでテレビドラマ化されました。イヤミスな内容はもちろんですが、元TBSアナウンサーの田中みな実が主要キャラクターの1人である石森麗香役として出演していることでも話題になった作品です。

嫌な気分になっても、どうして目が離せない。そんな本作を読んでみてはいかがでしょうか。

 

『絶対正義』の魅力1:著者・秋吉理香子の世界観!『暗黒女子』など

本作の作者・秋吉理香子は、小説だけではなく、アニメ製作などもおこなうクリエイターです。

多数の作品を執筆していますが、なかでも2013年に刊行された小説『暗黒女子』は映画化もされるほどの人気作となりました。この作品は、ある女子高を舞台に、不可解な死を遂げた女子生徒の謎に迫るというミステリーです。

著者
秋吉 理香子
出版日
2016-06-16

 

こちらも、『絶対正義』と同じくイヤミス作品。しかし本作『絶対正義』は、『暗黒女子』よりもそのラストの後味の悪さが際立っています。さらに、学生時代から大人となるまでが描かれるので、幅広い読者層が共感できるようになっているのも特徴です。
 

共感しやすい分、作品にのめり込んでしまい、嫌な感じを存分に味わうことができるでしょう。読んでいてモヤモヤする後味の悪い内容ながら、つい「わかる」と相槌を打ってしまう。だから読むのを止められないというのが、秋吉作品独特の魅力なのです。

そんななかでも最高にイヤミスをきわめた本作。秋吉理香子氏の世界観を思い切り感じることができる一冊といえるでしょう。

 

『絶対正義』の魅力2:あなたの側にもいる!? リアルな登場人物!

 

高規範子の周りにいるメインキャラクター達は、いずれもどこか現実的で、身の回りにいるようなリアリティのある存在です。メインとなるのは、西山由美子、理穂・ウィリアムズ、今村和樹、石森麗香の4人。

由美子は子育て中の主婦ですが、無職の夫を抱えているため苦労が絶えません。それでもさまざまなことに耐えているのも、すべては子供を守るためです。

理穂は、起業家として働くキャリアウーマン。はたから見ると華やかな生活を送っているものの、子供に恵まれないことに悩んでいます。

麗香は女優として活動していますが、公にできない恋人がおり、常に周りを気にする生活を送っている人物。

フリーライターの和樹は、自分のやりたいことをやるために必死で働いています。

4人ともそれぞれに悩みを抱えていますが、特別に悪いことをするわけでもなく、ただ一生懸命に日々を送っている人々なのです。彼らの悩みはいずれもどこか身近に感じることができるもので、さらにそれに立ち向かっている姿には、読者も共感を持って読むことができるでしょう。

しかし、そんな彼らに、ねじ曲がった正義を振りかざす範子が迫るのです。

 

『絶対正義』の魅力3:主人公・範子の恐ろしさ……貫く「正義」

 

『絶対正義』というタイトルからもわかるように、本作の何よりの魅力は高規範子でしょう。名前の真ん中に「規範」という文字があるという、もはや名前からして正義の塊といったキャラクター。そんな彼女が守るのは、法に基づく正義です。

たとえば学校では、校則はもちろん、礼儀や服装も徹底して守ります。その姿は大人から見れば、スキのない優等生。そんな彼女が大人になれば、誰から見ても正しい、正義感溢れる人になるのです。

彼女の正義は当然のごとく正しいのですが、それはもはや異常ともいえるほど度が過ぎています。そして、己が正義を守るだけではなく、それを周りにまで求めるのです。少しでも周りが彼女の持つ正義に反するようなことをすれば、容赦なく断罪されてしまいます。

とはいえ、その正義に救われる者もいるのが事実。それが和樹や由美子達で、彼女に救われたことのある4人は、そのことがあって範子に逆らうことができませんでした。「正義」があれば、どんなことをしても許されるという考えの持ち主。それが高規範子というキャラクターなのです。

 

『絶対正義』の魅力4:これぞイヤミス!人間の本質が見える

 

先述した通りイヤミスとは、その作品を読むことで嫌な気持ちになるミステリー作品のこと。

しかし、イヤミスと一言で言っても、後味がひどく悪いものであったり、読むのも辛い内容であったりとさまざまです。同作者の『暗黒女子』もイヤミスですが、ラストの読後感は悪いものばかりではありません。

しかし本作では、ラストもそれに至るまでの内容もなかなか強烈で、終始モヤモヤした気持ちになる方も多いでしょう。

たとえば、範子の振りかざす正義。理穂は自分を原因とした不妊で悩んでおり、夫からは卵子提供を提案されていました。しかし、そのことに抵抗を覚えていた理穂は、その案を拒み続けています。それを知った範子は、自分が卵子を提供しようと言い出すのです。

夫は、範子のその提案を救いの手のように考えているようですが、理穂にとってはあり得ないことです。範子のことを信じ切っている夫とは、それをきっかけにギクシャクした雰囲気になってしまいます。

また、フリーライターの和樹は、何年もかけて取材をした本が文学賞にノミネートされて喜んでいたのに、その取材に違法性があると範子に言われてしまうのです。この本は、悪徳政治家の闇を暴くというもの。それは、世間からも大きく評価されていました。しかし、どんな小さな悪事も許さない範子は、彼の取材を執拗に攻めてくるのです。

範子の行為は、法に照らし合わせたり、見方を変えたりすれば正しいこであり、親切でもあります。しかし、それは確実に和樹や理穂達を追い詰めるものでもありました。度を越えたこの正義は、もはや悪と言っても過言ではありません。

しかし、法律を遵守している範子のことを、周りの人は決して悪いと言えないのです。そこにあるギャップには、読んでいる間ずっとモヤモヤする気持ちを感じざるを得ないでしょう。

また、読み進めるうちに、範子は本当は正義感が強いのではなく、正義を振りかざして相手を追い詰めることに快感を覚えているのではないかとすら思えてきます。

マウンティングなんて言葉もありますが、人は大なり小なり人の上に立ちたいと思うもの。本作では、そんな人のいやらしいところ、あまり認めたくないところまで鋭く描ききっているので、余計に読者の気持ちをかき乱すのかもしれません。

さらに、イヤミスの真骨頂といえるのが、ラストです。そのラストには、ここで終わり!?と思う衝撃と、嫌な後味を感じることができるはずです。

 

『絶対正義』の魅力5:結末までハラハラ展開!【ネタバレ注意】

 

高校時代、由美子、理穂、和樹、麗香達の4人は仲良しグループでした。そこへ、新しく入ってきたのが、高規範子。常に正しい彼女の正義感に息苦しさを感じつつも、その正義によってピンチを救われたことのある4人は、彼女に追い詰められながらも、同時に彼女のことを誇りにも思っていました。

やがて社会人になった4人と範子は再会、また5人で会うようになるのですが、範子の正義はいろいろな悩みを抱えている4人を追い詰めていくことになるのです。

 

著者
秋吉 理香子
出版日
2016-11-10

 

すでにご紹介した通り、4人の悩みは決して間違いといえるものではありません。しかし、範子から見ると、彼らがはっきりとした態度を取らないことすらも罪となり得るのです。

僅かな違法性から、揚げ足取りともいえるようなことまでを次々に指摘され、4人はしだいに追い詰められていきます。そして、とうとう範子を殺してしまうのです。範子は正義の塊のような存在なのに、その正義によって彼らは殺人犯となってしまったのでした。

そして、そんな罪から5年が経ってから、4人の元にはなぜか範子から「思い出の会」への招待状が届きます。死んだ人間からの招待状――それを送ったのは、範子の娘の律子でした。彼女もまた母の正義に追い詰められていた1人なのですが、果たして彼女はどういった目的で彼らを集めたのでしょうか。

ここで描かれるのは、律子の中に存在する矛盾した2つの思いです。

その内容は、正義という名前の狂気を感じるもの。正しいことが本当に正しいのか、ふと考えてしまう方も多いかもしれません。
 

その後味の悪い結末を、ぜひご自身の目でお確かめください。

 

いかがでしたか?イヤミスは読後感がよいものではないので、本作は好みも分かれる作品です。これまで、なんとなく読んでこなかったという方も多いかもしれません。しかし、人間の本質のようなものを垣間見ることができるのも、イヤミスの特徴。これを機会に、『絶対正義』を手に取ってみてはいかがでしょうか。