同性愛者であることを隠している少年と、BL好きであることを隠している少女。やがて始まる2人の交際は、鈍い痛みを帯びてくるものになるのです。『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』通称「カノホモ」。マイノリティな性的指向のため、肩身の狭い思いを抱いている人々に焦点をあてたリアリティある作品です。発売から瞬く間に注目を浴び、NHK総合でドラマ化も決定しています。 この記事では、今大注目の小説「カノホモ」のあらすじや作者、見所などをご紹介。ネタバレも含みますので、読む際はご注意ください。
本作は、WEB小説投稿サイト「カクヨム」で発表された浅原ナオト原作の青春小説です。
主人公・安藤純は同性愛者であり、そのことを家族や周囲に隠しながら高校生活を送っています。そのことをひけめに感じていたある日、同級生の三浦紗枝がBL(ボーイズラブ)本を買っているところを目撃。これをきっかけに、2人の関係が縮まっていきます。
安藤は同性愛者ではあるものの、大半の男子高校生が思うように大人になれば家族を築き、血の繋がった子供も持ちたいという憧れを抱いています。紗枝と行動をともにすることが多くなった安藤は、ゲイだということを隠しながら彼女と付き合うことを決意。
しかし、このことが周囲も巻き込んでいくことになるのでした。
- 著者
- 浅原 ナオト
- 出版日
- 2018-02-21
ラブコメ要素はもちろん、マイノリティの人達がかかえる問題点にも真剣に向き合っている本作。同性愛者の主人公という視点での葛藤、周囲との交流をリアルに描きます。
また、2019年4月20日(土)23時30分より、NHK総合にて『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』というタイトルでテレビドラマ化も決定。安藤純役を金子大地、三浦紗枝役を藤野涼子、佐々木誠役を谷原章介が演じます。
2016年からWEB小説投稿サイト「カクヨム」にて執筆活動を開始した小説家。
マイノリティで、孤独を感じている人達に焦点をあてた人間ドラマをテーマにした作品が多く、『僕とぼくと星空の秘密基地』『お前はすでに死んでいる。』 『小笠原先輩は余命半年』『曇り空のZOO』『御徒町カグヤナイツ』などがあります。
また『ある同性愛者のクリスマス』は、『彼女は好きなものはホモであって僕ではない』が好評なことを記念して執筆した番外編となっています。
重いテーマについて書いているにもかかわらず、軽い文体のためとても読みやすいのが特徴の作家です。
では、ここで「カノホモ」の登場人物を簡単に紹介していきましょう。
純はある日の本屋で、BL本を手に取る紗枝に遭遇します。彼女は過去のトラウマからBL好きであることを隠していたので、彼に見られたことに動揺。しかし、一方の純は、心の中で冷ややかな感想を抱いていました。
「ファンタジー」。彼女が手に取ったBL作品を見て、そのように感じたのです。
「ホモとか、気持ち悪いじゃん」気持ち悪い。
仕方ない。心を止めることは出来ない。身体が止まればいい。
(略)どうしたって僕はマイノリティだ。
摩擦をゼロにするように、空気抵抗を無視するように
存在しないことにされてもおかしくない存在。
気持ち悪いなんて評価、もう聞き飽きるほど耳にしている。
だけど何回殴られたって、痛いものは痛い。(後略)
(『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』より引用)
本作で語られる、純の気持ちです。彼が目の当たりにしてきた、ホモの「リアル」が感じられるセリフとなっています。
漫画作品ではホモが大勢いて、幸せな展開がくり広げられることも多くあります。しかし、実際は圧倒的にマイノリティー。周りから理解されることも少ない純は、同じマイノリティーであるゲイ仲間と積極的に関わっていくのです。
読んでいて、常に胸に鈍い痛みを感じるような純の描写。そんな彼からは、ホモとして「ふつう」に生きることの難しさ、苦しさが感じられるでしょう。
紗枝に告白された純は、将来のことも考えて彼女と付き合うことに。
いつかは家庭を持ち、子供も欲しいという考えからではありましたが、決して紗枝を道具として見ているわけではありません。人としては、しっかりと好意を抱いてくれているのです。しかし、告白にOKをだしたものの、いざ彼女をベッドに押し倒しても、やはり体が反応することはありません。
紗枝のことが好きなことには間違いないのに、異性であるがために性対象でない彼女のことは、どうしても抱けない。
一方の紗枝は、好きな人に求めてもらない状況が続きます。それでも、簡単に好きだという気持ちは消えません。
お互い両想いにもかかわらず、体の関係はもてない。そもそも、恋愛とはどこか違う関係。そんな2人のには、異性愛者の恋とはまた違った切なさがあるのです。
純が恋をしている相手は、既婚者であり子持ちのゲイ・マコト。不倫関係、つまり叶わない恋を続けています。
マコトと出会ったきっかけは出会い系サイトでした。純は両親が離婚しており、約10年父親には会っていません。そのためか、年上に好意を抱いてしまうのでした。
一方、マコトも訳ありでした。結婚したものの奥さんを愛することができず、さらに中学生になった息子を違った目で見ている自分に気づきます。その気持ちをふっきるためにも、年下の相手を探そうとして純と出会うのです。
お互い苦しい思いを抱えた者同士の交流も見所ですが、さらに純の心理描写が刺さる設定の妙です。
紗枝のことも好きだけれど、それ以上にマコトが好き。彼への恋愛感情と、紗枝への親愛の狭間で葛藤するさまが、読者を引き込んできます。
本作は、BL好きの女子高生が、男性しか好きになれない男の子に恋をするという一風変わった設定です。しかし本作の見所は、そんな突飛さだけではありません。
社会的少数派が、社会で生きていくうえで抱える困難、家族への想いなどがリアルに取り上げられているのです。純だけでなく、周囲の人もさまざまな悩みを抱えています。
紗枝はBLが好きなことがバレていじめられた経験があり、マコトは妻を愛せないことへの悩みを深めていきます。そんな彼らの悩み、またそれに対する周りの反応が、細かなやりとりや描写から感じられ、自分ごとのように考えることができるのです。
生きていく上で、登場人物たちが自分の悩みにどう向き合い、解決していくのか。骨太なテーマが本作をさらに魅力的にしています。
純は同性愛者であること、紗枝はBL好きの腐女子であることを周りに隠して生活をしてきました。
しかし、マコトとキスをしているところを紗枝に見られてしまい、同性愛者であることがバレてしまいます。そのことを説明した場所が学校だったため、クラスメイトの雄介にも知られることになってしまい、そのままクラス全員が純の秘密を知ってしまうのでした。
- 著者
- 浅原 ナオト
- 出版日
- 2018-02-21
今まで必死に守ってきた世界が崩れた時、純はまさかの行動に出ます。なんと、教室の窓から飛び降りてしまうのです。果たして、彼のその後は……。そして、純を守るために紗江がとった行動とは……。
最後2人がとった行動に、「自分が好きなものには胸を張っていい」というメッセージを感じることができるのではないでしょうか。トラウマを乗り越える紗枝の姿に影響を受けた純は、自分の悩みにしっかりと向き合うようになるのです。
性的マイノリティーな立場にある人への考え方や接し方といったものを、考えるきっかけにもなる本作。ぜひ、原作で単純な設定だけでは語れない、展開や描写の素晴らしさをご覧ください。