小学生に、見たことのない戦争を教えるのは難しいことです。戦争は痛い、つらい、悲しい……どんな言葉を連ねても、その本質を理解してもらえるかはわかりません。そこで今回は、小学生が戦争を考えるきっかけになるおすすめの絵本を紹介していきます。
京都大学の学生と教員が中心となって結成された「自由と平和のための京大有志の会」。本書は、この団体が発表した声明書を、子どもにもわかりやすいよう絵本に描き直したものです。
くにとくにのけんかを せんそうといいます
せんそうは「ぼくがころされないようにさきにころすんだ」というだれかのいいわけではじまります
せんそうは はじまるとだれにもとめられません(『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』より引用)
戦争とは何か、戦争が起こる原因とは何か、戦争がはじまるとどうなるのか、本書を読めばそんな疑問の答えがわかります。
- 著者
- 自由と平和のための京大有志の会
- 出版日
- 2015-09-11
「戦争って何?戦争はなぜやってはいけないの?」と子どもが疑問を抱いたら、本書を読んであげてください。想像のなかで描いていた出来事を体感し、命の重さを実感することができるでしょう。
日本だけでなく、世界中の国が戦争を「やめて」といえる社会を実現するために何ができるのか、考えるきっかけとなるはずです。
太い筆で荒々しく描かれたイラストからは、戦争に対する怒りが伝わってきます。大人も子どもも胸を打たれる作品です。
ちょうちょとちょうちょはせんそうしない
こどもとこどもはせんそうしない
けんかはするけどせんそうしない(『せんそうしない』より引用)
くり返される「せんそうしない」という詩が印象的な作品。シンプルだからこそ、力強く心に響きます。
国民的詩人である谷川俊太郎の、平和への願いが詰まった一冊です。
- 著者
- ["谷川 俊太郎", "江頭 路子"]
- 出版日
- 2015-07-16
きらきら光る海で、にこにこと笑いながら海水浴を楽しむ子どもたち。色とりどりの淡い水彩画で描かれた日常からは、穏やかで幸せな様子が伝わってきます。
しかしあるページを堺に色使いがガラっと変わり、破壊されて荒涼とした街の残骸と、黒い空が現れます。それまでの日常とのあまりのギャップに、強烈に心に刺さるでしょう。
ひとがひとにころされる
しぬよりさきにころされる(『せんそうしない』より引用)
廃墟のイラストに添えられた文章は、最小限の言葉で戦争のすべてを物語っています。この絵本を読めば、戦争を体験していない子どもでもその本質を知ることができるでしょう。
沖縄の端っこ、与那国島に住む小学一年生の男の子がかいた詩が、絵本になりました。
ああ、ぼくは、へいわなときにうまれてよかったよ。
このへいわが、ずっとつづいてほしい。
みんなのえがおが、ずっとつづいてほしい。(『へいわってすてきだね』より引用)
戦争は悲しくて嫌なこと。平和であるということはとても素敵で嬉しいこと。小学一年生だからこそ書ける素直でまっすぐな想いは、読む人の心を動かします。
- 著者
- 安里有生
- 出版日
- 2014-06-17
この詩を書いた7歳の男の子は、戦争を考えて、想像して、今当たり前のようにある平和の大切さに気づきました。
お友達と仲良く遊んで、家族が元気で、お腹がいっぱいになるまでご飯を食べて……。幸せな日常に感謝をし、ずっと続いてほしいと願う気持ちから「平和」は生まれるのでしょう。
朴とつとした素朴なイラストが、この詩の美しさをさらに引き立てます。 同じ世代の子どもの心にこの絵本はどう響くのか、ぜひ読んであげてください。
2004年から毎年、日本で使われなくなったランドセルや文具を、アフガニスタンの子どもたちに贈る活動がおこなわれていることをご存知ですか?本書はその活動を、アフガニスタンの空や土、人々の暮らしとともに写した写真絵本です。
幸せ!これで勉強できるんだよ!
ほら、すごいよ!(『ランドセルは海を越えて』より引用)
おさがりのランドセルも、戦争状態が続くアフガニスタンの小学生にとっては、最高の贈り物。ランドセルをもらった彼らのはじけるような笑顔が、眩しく記録されています。
- 著者
- 内堀 タケシ
- 出版日
- 2013-04-09
長く戦争状態が続くアフガニスタンでは、5歳になる前に亡くなってしまう子どもが多いんだとか。生きていること自体が尊いなか、人々は懸命に暮らしています。
ランドセルを机にして不自由な環境で勉強する子どもたち。写真だからこそ伝わってくるそのリアルさに、日本の小学生たちは何を感じるのでしょうか。
世界には、学校に通うことすらできない環境に住む子どもがたくさんいます。大人でも文字を読めない人が多く、彼らは社会で起きている出来事の意味を知ることすらできず、貧しさから抜け出す方法もわかりません。
学校で不自由なく学べるということ、まわりの人を助けるということについて、あらためて真剣に考えられる作品です。
実際に起こった事件を、子どもでもわかりやすいよう絵本にした作品。作者の アーサー・ビナードはアメリカの詩人ですが、この物語の舞台は日本の焼津です。
1954年、遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」に乗った23人の漁師は、アメリカがおこなった水爆実験に遭遇してしまいました。被爆した彼らの身体に次々と起こる異変。被爆した半年後、ついに無線長の久保山が命を落としてしまいます。
「久保山さんのことをわすれない」とひとびとはいった。
けれどわすれるのを
じっとまっているひとたちもいる。(『ここが家だ ベン・シャーの第五福竜丸』より引用)
知らないではすまされない事実。タイトルの『ここが家だ』の意味は何なのか、ご自分の目で確かめてみてください。
- 著者
- アーサー・ビナード
- 出版日
- 2006-09-26
この絵本のなかでは、理不尽な出来事が連続して起こります。悔しくて、歯がゆくなるかもしれません。そして残念なことに、これは実際に現実で起きてしまったことなのです。
アメリカの国民的な画家ベン・シャーンが描く、鋭く激しいイラストは、事件の悲しさを際立たせ、読む人の心をゆさぶります。
自国だけでなく、世界中、地球中がお互いを思いやる気持ちを持たないと、このような残酷な事件はなくならないでしょう。作者の平和を願う気持ちを受け止めてみてください。
日常のありがたさや、命の重み……。戦争が無い日本で生きる子どもたちは、平和について真剣に考えたことがあるでしょうか。ご紹介した絵本に共通しているのは、戦争をしてはいけないという強い気持ちです。この世界から戦争が無くなることを願います。