【2019年】本屋大賞ノミネート作のおすすめポイントを徹底解説【後編】

更新:2019.3.25 作成:2019.3.25

全国の書店員たちが1番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」。毎年4月に発表され、話題を集めています。今回は、2019年に最終選考にノミネートされた全10作品の魅力や見どころを、前編・後編に分けてご紹介。未読のものがあればぜひ読んでみてください。

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前編はコチラ。
 

本屋大賞ノミネート作品6:知念実希人の『ひとつむぎの手』

 

主人公の平良祐介は、大学病院できつい勤務に耐えている30代なかばの医師です。一流の心臓外科医を学生時代から目指していて、腕を磨くため執刀数の多い関連病院への出向を望んでいます。
 

そんなある日、祐介は心臓外科のトップである赤石教授から、3人の研修医の指導を任されることになりました。3人のうち最低でも2人を心臓外科に入局させれば、見返りとして希望の関連病院への出向を考慮しようとほのめかされます。

目の前にニンジンをぶら下げられ、必死で指導に当たりますが、熱意は空回り。さらに赤石を告発する怪文書が出回り、犯人探しまで命じられてしまうのです。

 

著者
知念 実希人
出版日
2018-09-21

 

作者の知念実希人は、『誰がための刃』で「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞して2012年にデビュー。以降、多くの医療ミステリーを発表している小説家兼現役の医師です。本屋大賞には、2018年『崩れる脳を抱きしめて』のノミネートに続いて2回目です。

医療モノというと、主人公は優秀な頭脳をもっているなどどこか超人的な要素を兼ね備えていることが多いですが、本書の祐介は本当に普通の人間。不器用ゆえに院内の面倒な人間関係に疲れてしまったり、天才的な外科医をねたんでしまったりする、人間味あふれる青年です。だからこそ読者も応援してしまうのでしょう。

物語はサスペンス要素が強い一方で、患者と真剣に向き合う彼の想いや成長を感じられる人間ドラマでもあります。ラストは思いがけない感動の結末で、満足度の高い一冊です。

 

本屋大賞ノミネート作品7:平野啓一郎の『ある男』

 

弁護士の城戸は、宮城県に住んでいる里枝から連絡を受け「ある男」についての調査を始めることになりました。

里枝は離婚の際に引き取った長男を連れて「大祐」という男と再婚。長女ももうけて4人で幸せに暮らしていたそうです。しかし「大祐」が突然交通事故で死亡。すると義兄から、再婚相手だった男は「大祐」とはまったくの別人だったことを知らされました。

「大祐」を名乗っていた「ある男」とはいったい誰なのでしょうか。

 

著者
平野 啓一郎
出版日
2018-09-28

 

作者の平野啓一郎は、京都大学在学中だった1998年に『日蝕』でデビュー。「三島由紀夫の再来」といわれ、「芥川賞」も受賞しました。本屋大賞のノミネートは今回が初めてです。

「小説家としてデビューしてから、今年で二十年となりますが、『ある男』は、今僕が感じ、考えていることが、最もよく表現出来た作品になったと思っています。例によって、「私とは何か?」という問いがあり、死生観が掘り下げられていますが、最大のテーマは愛です。」(『ある男』特設サイトより引用)

謎だらけの「ある男」の正体を追いかけていくなかで、現代社会が抱えるさまざまな問題を浮き彫りにしていく作品です。一切の過去を捨て、「大祐」として生きてきた男を追いかける城戸を通じて、読者は自分とは何なのだろうと考えをめぐらせることになります。

なぜ「ある男」は過去を捨てたのでしょうか。そして愛していた人が見知らぬ男だったことを知った家族は、何を思うのでしょうか。

 

本屋大賞ノミネート作品8:三浦しをんの『愛なき世界』

 

料理人になるため、とある大学の近くにある洋食屋で見習いをしている藤丸陽太。常連客である大学院生の本村紗英に恋をします。

しかし彼女の頭のなかは、研究対象のシロイヌナズナでいっぱい。藤丸には見向きもしません。それでも果敢にアプローチをしていくうちに、彼も奥深い植物の世界に魅せられていくのです。

 

著者
三浦 しをん
出版日
2018-09-07

 

2000年に『格闘する者に○』でデビューをし、2006年には『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」を受賞している三浦しをん。本屋大賞には過去4回ノミネートされ、2012年には『舟を編む』で大賞を受賞しています。

彼女の作品の魅力は、なんといっても個性的な登場人物たち。本書でも植物学を学ぶ学生や教授たちといった、いわゆる「オタク」な人々が生き生きと描かれています。彼らは、人の役に立つために研究しようとか、偉大な功績を残そうなどとは考えていません。

「好きだから」という一心で研究に没頭していて、そんな姿に料理人を目指す藤丸の心も動かされていくのです。

ユーモアにあふれた文章は読みやすく、どんどんページをめくってしまいます。愛とリスペクトにあふれた作品です。

 

本屋大賞ノミネート作品9:深緑野分の『ベルリンは晴れているか』

 

舞台となるのは1945年のドイツ。第二次世界大戦に敗北して、米ソ英仏4国の統治下におかれたベルリンです。

ある日、戦時中にドイツ人の少女アウグステを助けてくれた男が、歯磨き粉に含まれた毒で死ぬという怪事件が起きました。歯磨き粉は米国製だったため、米国の兵員食堂で働くアウグステは犯行を疑われてしまいます。

そんななか、男の死を彼の甥に伝えるため旅立つのですが、なぜか途中で陽気な泥棒と行動をともにすることになります。

 

著者
深緑 野分
出版日
2018-09-26

 

作者の深緑野分は、2010年に『オーブランの少女』で「ミステリーズ!新人賞」に入選し、デビューしました。2016年には『戦場のコックたち』で本屋大賞と「直木賞」にノミネートされています。本書は2019年に一般のユーザーがもっとも面白いと思った小説をツイートで投票する「Twitter文学賞」で、国内編第1位に選ばれました。

ポツダム会談直前のベルリンで起きた毒殺事件を中心とする2日間を描いたミステリー小説。その反面で、市井の人たちから見た戦争体験記でもあります。当時の状況について詳細に調べあげたことが伝わる、歴史ものとしても読めるでしょう。

人種差別や、国家と個人の関係などを考えるきっかけになる一冊。時代に翻弄される少女の行く末はどうなるのでしょうか。

 

本屋大賞ノミネート作品10:森見登美彦の『熱帯』

 

かつて途中まで読んだ小説『熱帯』の続きが気になっていた作家。ある読書会で、謎めいた言葉を耳にします。参加者の女性が言うには「この本を最後まで読んだ人間はいない」とのこと。

この秘密を解き明かすべく集まった「学団」のメンバーや、神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」など強烈なキャラクターが終結し、『熱帯』をめぐる冒険を始めます。

 

著者
森見 登美彦
出版日
2018-11-16

 

作者の森見登美彦は、2003年に『太陽の塔』で「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞し、デビューしました。本屋大賞には過去に5回ノミネートされています。本書は「直木賞」にもノミネートされ、話題の作品です。

「最後まで読んだ人間はいない」という奇書を求める人々の追跡劇が描かれています。本書自体も、連載を抱えすぎた森見登美彦の事情で、3章までで一時中断していて、読者は小説内の作品同様、最後まで読めないかもしれないとハラハラしていました。

ひとつの物語が次の物語を生む複雑な入れ子構造と、散りばめられた多数の伏線に翻弄され、読者が幻想的な世界に入りこめるのが魅力的。

「我ながら呆れるような怪作である」と作者が語る一冊。物語を愛するすべての人におすすめです。

 

前後編に分けて2019年本屋大賞のノミネート作品をご紹介してきました。結果はともかく、どれも良作ばかりでおすすめです。ぜひ実際に読んでみてください。