「カーネギー賞」の受賞作おすすめ5選!イギリスの権威ある児童文学賞!

更新:2021.11.17

イギリスで出版された優れた児童文学に贈られる「カーネギー賞」。フィクション、ノンフィクションを問わず、さまざまなジャンルから選ばれるのが特徴です。この記事では、歴代受賞作のなかから特におすすめの作品をご紹介していきます。

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「カーネギー賞」とは

 

イギリスの優れた児童文学に贈られる「カーネギー賞」。正式名称は「The Carnegie Medal」といい、イギリスの図書館協会が主催しています。

同賞が設立されたのは、1937年のこと。スコットランド出身で「鉄鋼王」と呼ばれた実業家アンドリュー・カーネギーが、生前図書館の設立や発展におおいに貢献したとして、彼の業績をたたえるためにつくられました。

対象となるのは、直近の1年間にイギリスで出版された英文の児童書。フィクションだけでなく、伝記などのノンフィクションも含まれます。審査は児童図書館の司書と過去の受賞者がおこない、子どもの意見、さらには教師や親の意見が反映されることもあるそうです。

では「カーネギー賞」の歴代受賞作のなかから、特におすすめの作品をご紹介していきましょう。

大人も子どもも楽しめるおすすめ「カーネギー賞」受賞作『黄金の羅針盤』

 

3部作から成るファンタジー小説「ライラの冒険」シリーズの1作目です。

舞台は、人間の魂は「守護精霊(ダイモン)」として身体の外に存在している不思議な世界。ダイモンは動物の姿をしていて、常に人間のそばにいて、喋ることもできます。

主人公のライラは、12歳の少女。行方不明になった友人を探す過程で黄金の羅針盤を手に入れ、世界の謎に迫っていきます。謎の物質「ダスト」を研究し、異端であるとして捕らわれの身となった叔父を探すため、北極へと向かいました。

著者
フィリップ・プルマン 大久保 寛 Philip Pullman
出版日

 

1995年に「カーネギー賞」を受賞した作品です。さらに2007年には、歴代に出版された児童文学のなかからもっとも優れた作品に贈られる「カーネギー・オブ・カーネギー」も受賞しています。そのほかにも多数の文学賞を受賞し、2007年にはハリウッドで映画化もされました。

ダイモンが飛び交う不思議な世界で、まだ幼いライラが果敢に困難に挑んでいく様子がスリリングに描かれているのが魅力です。おてんばで強気ながらも、まっすぐな彼女の姿に勇気付けられます。

単なるファンタジーではなく、宗教問題も絡む壮大な物語。大人も楽しめる一冊です。

幻想的な「カーネギー賞」受賞作『肩胛骨は翼のなごり』

 

主人公は、10歳の少年マイケル。生まれたばかりの妹が心臓病を患っていて、両親は妹につきっきり。マイケルも心配で気が気ではありません。

そんな彼の家族が引っ越した先の古びたガレージには、スケリグという奇妙な男が住み着いていました。病に蝕まれた彼の体は埃にまみれ、ハエがたかり、かなりグロテスクです。しかし彼の背中には「天使の翼のなごり」があり……。

著者
デイヴィッド アーモンド
出版日
2009-01-22

 

1998年に「カーネギー賞」を受賞した、デイヴィッド・アーモンドのデビュー作です。アーモンドは、優れた児童文学作家に贈られ「小さなノーベル賞」といわれるほど影響力のある「国際アンデルセン賞」も受賞しています。

マイケルは、隣家に住む友人のミナとともに、スケリグとの交流を深めていきます。ガレージという狭い空間で流れる、秘密の時間は妙に幻想的。優しい雰囲気のなかで、生きることや命に対して向き合っていくのです。

現代の『Skellig』からあえて変更された邦題は、物語にぴったり。病を克服したスケリグがもたらす不思議な出来事を、ぜひ一緒に体験してみてください。

自由を求める少年を描いた「カーネギー賞」受賞作『ボグ・チャイルド』

 

舞台は1981年の北アイルランド。高校生のファーガスは、独立を目指して紛争が続く地元を出ることを夢見て、医師になるための勉強をしていました。

ある日湿地に出かけると、泥の中に埋まる少女の死体を見つけます。首には縄が巻き付き、背中には刺し傷がありました。泥の作用で腐敗はしていませんが、どうやら鉄器時代のものだそう。

一方で、ファーガスの兄、ジョーは、独立紛争に参加してハンガーストライキをおこないます。これはまさに死へのカウントダウン。この事実を知ったファーガスは、どのような行動にでるのでしょうか。

著者
シヴォーン ダウド
出版日

 

2009年に「カーネギー賞」を受賞した作品です。作者のダウド・シヴォーンは、1960年にロンドンで暮らすアイルランド系の家庭に生まれました。2006年にデビューをして活躍が期待されましたが、2007年にがんのため亡くなっています。後に書きためていた作品が刊行されて評価されるようになり、本書も死後の受賞となりました。

主人公のファーガスは、故郷への愛はあるものの自由も求めていて、心を揺らがせます。政治活動に参加する兄を中心に、家族の物語が紡がれていくのです。

その一方で物語は、湿地で見つかった遺体をめぐっても進行。ファーガスは遺体を「メイ」と名付け、死の真相を探ります。

紛争や政治問題に翻弄される過酷な状況で、心身ともに成長していくファーガス。明るい未来はあるのでしょうか。

映画化もされたダークファンタジー小説『怪物はささやく』

 

上述した『ボグ・チャイルド』の作者、ダウド・シヴォーンが遺したアイディアを、作家のパトリック・ネスが受け継いで書きあげた作品です。

主人公のコナーは、13歳の少年。不治の病を抱えた母親と2人暮らしをしています。母親の命が長くないことに怯える彼のもとに、ある夜、庭の「イチイの木」が怪物となってやってきました。

「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す……そのためにこのわたしを呼んだのだから」(『怪物はささやく』より引用)

著者
パトリック・ネス
出版日
2017-05-28

 

作者のパトリック・ネスは、2008年に『心のナイフ』で「ガーディアン賞」を受賞。2011年に『人という怪物』で、そして2012年には本作で「カーネギー賞」を受賞しています。

学校でも母親の病気のせいでいじめられるコナー。大切な人との別れが近づくことも簡単に受け入れられず、悩み、自分自身を信じられなくなります。そんな彼にイチイの木は、人は善か悪の2種類に分けることはできず多面的で、それを受け入れることが必要だと語りかけるのです。

怪物が登場する物語ですが、コナーはファンタジーの力で辛い現実から逃れるわけではありません。怪物が語る3つの話を受けて、自分の心とまっすぐ向き合うコナー。4つ目にどんなことを話すのでしょうか。

戦争を描いた歴史フィクション「カーネギー賞」受賞作『凍てつく海のむこうに』

 

第二次世界大戦末期。ソ連の侵攻を受けるナチスドイツは、東プロイセンからバルト海を経て、国民を避難させる計画をたてました。

ヴィルヘルム・グストロフ号は1万人以上の避難民を乗せ、バルト海を進みます。しかし、ソ連の潜水艦によって撃沈されてしまうのです。海運史上もっとも悲惨な事件となりました。

著者
ルータ・セペティス
出版日
2017-10-25

 

2017年に「カーネギー賞」を受賞した作品。1945年に実際に起こったヴィルヘルム・グストロフ号沈没事件を描いた、歴史フィクションです。

物語は、避難民として船に乗りあわせた4人の語りで進んでいきます。彼らはそれぞれに秘密を抱えていますが、自由を手に入れるために、どうにか船に乗り込んだのです。そこでさらなる悲劇に見舞われてしまうのは、あまりにも悲惨で胸が痛みます。

そんななか、物語に一筋の光を与えてくれるのが、2人の若者の淡い恋物語。沈没船ということもあり、タイタニック号のローズとジャックを彷彿とさせるような美しさを感じるでしょう。

同じくセペティスが手掛けた『灰色の地平線のかなたに』という作品には、本書に登場する4人の若者のひとりヨアーナの従姉妹が登場します。あわせて読むと、当時の世界状況を広い視点で見ることができるのでおすすめです。

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