不条理な世の中を嘆くあなたに贈る『ゴーダ哲学堂』

更新:2021.11.17

仕事で、プライベートで、頑張っているのに評価されない。なんだったら頑張りが認められずに、欠点を指摘されて怒られる。そんなこと多々ありますよね。こんにちは、特に頑張りもせず、たまに怒られている筆者です。 「頑張りは報われる」「良いおこないは返ってくる」なんてクソ食らえ。この世は綺麗事ばかりではありません。そんな世の中の不条理を描き切った作品が、本作『ゴーダ哲学堂』です。

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慢性的に体がだるいです。

春になったからでしょうか。体が重く、常に眠いです。こんな時には、春の日差しに包まれながら散歩して、疲れたら原っぱでゴロゴロしたいもの。しかし経済的な理由で、私にはそれが許されません。だるい体に鞭を打ち、春の誘惑を断ち切って仕事へと向かいます。

やりたいことだけやって、ストレスを溜め込むことなく、毎日を楽しく生きる。まさに理想的な生活です。本当はそうしたいのに、日本という国で生きていくからにはお金がないと生活出来ません。だから、私たちは働きに出ます。私のようないい加減な人間からしたら、ちゃんと働いているだけで、もう100点です。

そんな100点の頑張りをしているにも関わらず、私たちはちょっとしたことで怒られます。時には相手の勘違いによって、まったくこっちが悪くないことで怒られたりもします。なんたる不条理。

「それでも、いつかは報われる!」と人は思いたくなるものですが、なかなかそうはいかないのが現実。昔はよく「良いおこないは返ってくる」だとか「頑張りは報われる」だとか「夢は必ず叶う」なんて言われたものですが、最初にこれらを言い出した奴は本当に罪深いと思います。子供相手だからって、こういう気休めを言ったら、ダメ。ゼッタイ。

著者
業田 良家
出版日
2007-08-24

そんな世の中の不条理を描き切ったのが、漫画『ゴーダ哲学堂』です。是枝裕和が監督を務めた映画『空気人形』の原作が収録されている短編集でもあります(映画のぺ・ドゥナ、可愛かったですよね!)。

本作で描かれているのは、ロボットが営業職をしていたり、性欲処理用の空気人形がレンタルビデオ店でアルバイトをしていたり、ある男が神によって人類代表に選ばれたりと、現実世界とはやや離れた内容の話がほとんど。しかし、そこにあるのは、私たちの生きる世界に転がる不条理や、理不尽な怒り・悲しみです。

映画にもなった短編「空気人形」は、空気人形がバイト先の男に恋をしてしまう話。仲睦まじく働いていた2人でしたが、ある日、空気人形に穴が開いてしまい、彼女の正体がバレてしまいます。男はそのことに驚き、その後に彼女から告白されるも、うやむやに断ってしまうのです。

その日、家に帰った空気人形。彼女の持ち主は、彼女に穴が開いていることに気づきます。そして持ち主は新しい人形を買い、空気人形は翌朝ゴミに出されるのです。彼女は、恋をすることは切ないことだった、と思うのでした。

普通だったら、「こんな人生だったけど、恋をするという経験が出来たから幸せだった」というオチで終わりそうなものですが、ここでは「恋=切ない」という結末が描かれています。しかも、主人公はなぜか空気人形。そのことによって、悲しい出来事をただ悲しいだけの物語として描くのではなく、どこかユーモラスに描き切っているのです。

人生における悲劇は、すべてオチに向けた前フリ。

上記した通り本作で描かれているのは、世の中の不条理や、理不尽な怒り・悲しみです。そういったものをテーマにしているにも関わらず、本作から感じる全体的な印象は非常にユーモラス。納得出来ない仕打ちも、どうしようもない悲しさも、すべて面白おかしく描かれているのです。

これはまさに、人生そのものではないだろうか、と私は感じてしまいます。人生はこの作品の内容通り、不条理で悲しいことだらけです。それをいちいち真に受けて、その都度凹んでいたらキリがありません。

人生で起こる悲劇は、お笑いでいう前フリだ、と私は思っています。この前フリが悲劇的であればあるほど、オチは非常に面白いものへと昇華するのです。

こう考えるようになってから、私は悲しいことや苦しいことがあればあれほど、この出来事をどうやって笑い話に変えるべきか、頭の片隅で考えるようになりました。自分が傷つくだけの恋愛をしている時、信じていた人に裏切られた時、誰かの葬式に参加している時、これをどうやったら面白く伝えることができるか、涙を流しながら、押しつぶされそうになりながら、考えているのです。

きっと本作で描かれているのも、この表裏一体になった悲劇、そして喜劇なのではないでしょうか。人生は不条理で悲しいことだらけだし、必ず報われるなんて都合のいいことはないけれど、だからこそ笑いに変えて嘘でも楽しく生きるべき、という力強さを感じることができるのです。

悲しいことを「悲しい」と受け止めて、そのまま泣き寝入りすなんて、なんだか悔しすぎるし勿体無い。どうせだったら本作のように、面白おかしく表現するべきなのです。世の中の不条理に疲れてしまった、そこのあなた。ぜひ本作を読んでみてください。そこには救いはないけど、確かな笑いがあります。

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