「メタフィクション」小説おすすめ5選!定義や意味、パラフィクションも解説

更新:2019.3.29 作成:2019.3.29

本来ならば交わることのない物語の世界と読者ですが、「メタフィクション」という手法を用いた小説は、両者の間にある壁を曖昧にしていきます。この記事では、不思議な感覚を味わえる「メタフィクション」の定義や意味、「パラフィクション」との違い、そしておすすめの作品を紹介していきます。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

「メタフィクション」とは。定義や意味、「パラフィクション」との違いを解説!

 

「メタフィクション」とは、それがフィクションであることをあえて明言する物語のことです。

本来ならばフィクションである創作の世界と、現実の世界は、交わることはありません。演劇などにおいて、舞台上と観客席の間に概念として存在する壁を「第4の壁」というように、2つの世界は隔てられているのです。しかしメタフィクションはこの壁を打ち破り、フィクションと現実の境界を曖昧にしていきます。

たとえば、物語に登場するキャラクターが、自分は架空の存在であることを知っていたり、創作物の作者が物語中に登場したり、作中のキャラクターが読者に問いかけをしてきたり……わざと「これはフィクションだ」と強調することで、読者をフィクションの世界に巻き込む手法です。

またメタフィクションと並んで議論される手法に、パラフィクションがあります。メタフィクションは作者が「書く」ことでフィクション性を強調していましたが、一方のパラフィクションは読者の存在や、読者が「読む」ことに軸を置き、読者自身をフィクションに介入させる手法です。

作者の絶対性が強く出るメタフィクションに比べると、読者それぞれの解釈を許容するため、より自由で新しいジャンルだといえるでしょう。

おすすめ!メタフィクション小説の金字塔

 

櫟沢は、新聞に小説を連載している作家です。オンラインゲーム「まぼろしの遊撃隊」に夢中な夫と、株で大失敗をした妻の物語なのですが、話をどう展開させるべきなのか悩んでいました。

というのも櫟沢は、読者から新聞社に寄せられた投書や「パソコン通信」への投稿を、ストーリーに反映させていたのです。

しかし読者たちのさまざまな希望に板挟みになるうち、知識人のためのゲームだった「まぼろしの遊撃隊」は、しだいに野蛮な殺し合いのゲームに変わってしまいます。そしてなんと、次元の壁を越えてプレイヤーのいる現実世界へ……。

かくして、妻の危機を救うべく立ち上がった夫ら「まぼろしの遊撃隊」と、債務取立代行のヤクザたちの戦いが始まります。

著者
筒井 康隆
出版日

 

「まぼろしの遊撃隊」という劇中劇の登場、その劇中劇が作中の「第4の壁」を打破すること、さらに投書や投稿を通じて読者を物語に巻き込む手法など、メタフィクション要素の集合体ともいうべき作品です。

さらに驚くべきは、この『朝のガスパール』自体が、櫟沢の手法をそのまま用いて筒井康隆が「朝日新聞」に連載していたということ。つまり、「まぼろしの遊撃隊」の世界、夫婦のいる世界、櫟沢が執筆している世界、読者からの投稿や投書という形で櫟沢に影響を与える筒井康隆の世界、そして『朝のガスパール』の読者の世界という5つの世界が交錯しているのです。

この複雑な構成と斬新な執筆方法から、メタフィクションとしての評価はもちろん、非常に実験的な作品としても知られています。

子どもも大人も楽しめるおすすめメタフィクション小説

 

ひょんなことから、何気なく開いた『船乗りクプクプ』という本の主人公になってしまった、勉強嫌いの少年タロー。作者のキタ・モリオが執筆を途中で投げだしたため『船乗りクプクプ』は4ページしかなく、元の世界に戻るには続きを書いてもらわなければなりません。

しかしキタ・モリオは、タローの要求をのらりくらりとかわし、鬼のように怖い編集者からも逃げるばかりです。

不思議な世界で、個性豊かな仲間たちとともにくり広げられるクプクプの大冒険は、どのような結末を迎えるのでしょうか。

著者
北 杜夫
出版日
2009-05-20

 

本書は、作者が物語中に登場するメタフィクションです。

しかしキタ・モリオはなんとも無力。なにしろ4ページしか書いていないため、物語の基盤となる世界観の設定が曖昧です。本来であれば何でもできるはずなのに、編集者の前に成す術がありません。

北杜夫は、自分の分身であるキタ・モリオを面白おかしく批判することで、自身をキャラクター化しています。文明批判や理想とする人間像が、ユーモアを交えてさりげなく盛り込まれているのも特徴です。

児童文学ですが奥が深く、大人も楽しめる作品になっています。

夏目漱石も魅了された、おすすめメタフィクション小説

 

完璧な自伝を作ろうと思い立ち、自らの半生を振り返るトリストラム・シャンディ。しかしとにかく完璧であることにこだわる性格をしているので、どんな些細なことでも書き留めずにいられません。脱線に次ぐ脱線の連続で、話が一向に進まないのです。

その結果、トリストラム本人の話ではなく、博識で饒舌な父のウォルターと、包囲戦マニアで退役軍人の叔父、トウビーの挿話だらけになってしまいました。

しだいに、書いても書いても終わらない作業に追い詰められていったトリストラムは……。

著者
ロレンス・スターン
出版日
1969-08-16

 

本書は、キャラクターが直接読者に語り掛けるタイプのメタフィクションです。18世紀に書かれた未完の小説で、日本では1897年に夏目漱石によって紹介されました。

「怪癖放縦にして病的神経質なる「スターン」を後世に伝ふべきものは、怪癖放縦にして病的神経質なる「トリストラム、シャンデー」にあり、「シャンデー」程人を馬鹿にしたる小説なく、「シャンデー」程道化たるはなく、「シャンデー」程人を泣かしめ人を笑はしめんとするはなし。」(夏目漱石『トリストラム、シヤンデー』より引用)

漱石がこう評価したとおり、「トリストラムの自伝」という本題からどんどん逸れていくストーリー展開に加え、追悼のための真っ黒なページや、読者の想像に任せるという白紙のページ、タイトルだけのページなど表現方法も奇抜です。

小説とは何たるかを読者に問いかける、型破りの作品です。

読みたくても原書はない?架空の書評本

 

元ナチスの親衛隊員だった男がジャングルの奥地にフランス王国を作る様子を描いた『親衛隊少将ルイ16世』、人間の性欲を奪う未知のウイルス「NOSEX」について書いた『性爆発』、ゲーム理論を用いて宇宙と物理法則を説く『新しい宇宙創造説』。

これらは、書評である『完全な真空』内で取りあげられた作品ですが、原書は絶対に手に入りません。なぜならば……。

著者
スタニスワフ・レム
出版日
1989-12-01

 

『完全な真空』は、架空の書評本。作者のスタニスワフ・レムが、執筆には至らなかった自身の没案を、作中作の書評という形で消化したメタフィクションです。

本書内で扱われている16冊は、ジャンルも作家もバラエティに富んでいて、架空の書評という体裁を取ってはいるものの、作品としてしっかりと成り立っています。

レムは本書以外にも、同じく架空の書評である『挑発』や、架空の本の序文を集めた『虚数』など、メタフィクション要素を含んだ作品を発表しています。

チェコの奇才が紡ぐおすすめメタフィクション小説

 

作者である私が、プールサイドで見かけた老婦人に感銘を受けたことをきっかけに生まれた、美しい女性キャラクターのアニェス。

本書は、彼女を取り巻く1980年代のパリに生きる人と、文豪ゲーテと彼の恋人ベッティーナを主軸にして、さまざまなエピソードを対比しながら、人間の生き方や自己と他者の関係、性愛などについて考察を深めていきます。

著者
ミラン クンデラ
出版日

 

作者自身が登場し、キャラクターの行動や潜在意識、その後の展開を解説するメタフィクションです。加えて物語ができていく過程そのものが小説となっている、不思議な構造をもった作品でもあります。

チェコスロバキアを代表する作家、ミラン・クンデラは、音楽家の父の影響を受けて、小説にも音楽的な作法を取り入れています。

複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちながらも調和するように重ねあわせる「対位法」を用い、一見バラバラに見える7つのエピソードが互いに呼応して、表題である『不滅』に集約されていくさまは秀逸。まさにクンデラが目指した「小説のポリフォニー(多声音楽)」の真骨頂だといえるでしょう。

世界観を理解するにはちょっと難解なものもありますが、だからこそ虜になってしまう人も多いのがメタフィクションです。ただの小説では物足りないという方、ぜひお手に取ってみてください。