人気小説家・今野敏による「任侠」シリーズの第1弾。2019年秋には西田敏行と西島秀俊のW主演で映画化することも決まり、これからさらに人気が高くなっていくこと間違いなしの作品です。 任侠派のヤクザが荒れた学校を立て直すという、異色すぎる学園小説。今回は、そんな本作『任侠学園』のあらすじと魅力を合わせてご紹介しましょう!
人気小説家・今野敏の小説。書店員の口コミなどでその面白さが広まり、今や人気シリーズとなった本作。ついにはコミック化もされました。
2019年秋には、西島秀俊と西田敏行のW主演での実写映画が公開されることも決まっており、ますます注目を集めています。
- 著者
- 今野 敏
- 出版日
- 2012-01-21
任侠と人情を重んじるヤクザ・阿岐本組。そこの組員である日村は、組長の雄蔵から、ある学校の立て直しを頼まれて……!? 経営破綻した学校の理事長になってしまった日村は、どのような行動に出るのでしょうか。
ヤクザが学校の理事になるというのも、そのヤクザが学校を立て直していくというのも、なんとも突拍子のない展開。しかし始まりこそ異色なものの、実はコミカルで王道な展開が進み、さくさくと読み進められる作品です。
ヤクザといっても、義理人情に厚く曲がったことが大嫌いな阿岐本組。最初は彼らに対して反抗的だった学園のメンバー達も、しだいにそのまっすぐさを理解し、心を通じ合わせていきます。
そんな彼らの他にも、金儲けをたくらむ勢力も関わってきて、ますます先が読めない展開になっていくのです。原作小説はシリーズになり、2019年3月現在で4冊が発刊されています。気になる方は、順番にチェックしてみてはいかがでしょうか?
ミステリーを中心に、さまざまな作品を発表している人気小説家。1978年のデビュー以降多くの小説を発表してきました。
2006年に発表した『隠蔽捜査』では吉川英治文学新人賞を受賞、さらに日本推理作家協会賞の候補に選ばれ、一躍注目を集めます。
- 著者
- 今野 敏
- 出版日
- 2008-01-29
同作は、映像化もされるなど今野作品のなかでも特に高い人気を誇り、シリーズ化も果たしました。彼の作品は他にも「同期」シリーズや「安積班」シリーズなどがあり、その多くがシリーズ化。テレビドラマや映画にもなっています。
今野の作品は、2018年に発刊された『キンモクセイ』など、ミステリーのなかでも警察小説が多い印象がありますが、実際にはオカルトやSFなども執筆。
また格闘家としても活躍していて、その経験が生きた作品も残しています。
その他にも射撃やダーツをはじめとして多くの趣味を持ち、小説家として以外の活動も積極的におこなっており、それが反映された作品も多く、多才さが感じられる作家です。
本作の見所の1つは、個性あふれるキャラクターです。
学園の立て直しをすることになる阿岐本組は、ヤクザですが任侠と人情を重んじています。彼らを率いる組長が、阿岐本雄蔵。
義理人情に厚く、昔かたぎなところのある彼は、文化事業に目がありません。これまでにもさまざまな経営再建事業に携わり、成功を収めてきました。そんなこともあり、今回もまた学園の立て直しを図ることになったのです。
そんな彼が今回、学園の理事に指名したのが、日村誠司。組のナンバー2であり、曲がったことが大嫌いな性格の男です。この2人がメインとなり、学園の立て直しへ動き出します。
他にも、個性豊かのキャラクターが勢揃い。阿岐本組に目をつけている刑事・甘糟達男は、彼らに睨みを利かせる一方で、なんだかんだと手助けをする羽目になります。その他にも元ハッカーの組員がいるなど、実にさまざまな登場人物が存在します。
メインの2人はもちろんのこと、サブキャラクターの面白さは、異色なストーリーをより一層カラフルにしているといえるでしょう。
本作を読んでいて気になるのは、日村のおでこに貼ってある絆創膏のようなもの。特にコミック版では目立つので、より気になるかもしれません。この絆創膏にはどんな意味があるのでしょうか。
日村が絆創膏を剥がす場面は、作中ではっきりと描かれることはありません。ただ、剥がしそうになっているところはあります。それは、ラストの場面。
物語の終盤では、日村達はある理由から学園を離れ、元通りのヤクザ稼業へと戻っています。それは、高校生達との交流が途絶えたということでもありました。
ヤクザと高校生。本来であれば交わるべきではないとされる関係です。それは日村もわかっていて、その結果、彼らとの連絡は控えていました。
しかし彼には、まだ学園にいた頃に交わした、高校生達とのある約束があったのです。この約束を守るべきか反故にすべきか……そんな葛藤を経て導き出した、彼の答えとは……。
そこに、彼のおでこに貼られた絆創膏の意味を読み取ることができるかもしれません。
荒れに荒れまくり、経営も破綻した学園の再建に乗り出した阿岐本組。
最初こそ組長の気まぐれに振り回されて戸惑いの連続であった日村達でしたが、高校生達との交流を経て、少しずつ学園に馴染んでいきます。それは高校生達も同じで、それまで頑なだった気持ちやひねくれていた態度が、しだいに変化していくのです。
そうして、彼らの間には少しずつ信頼関係が築かれていき、学校の乱れ切った空気も修正されていきます。
- 著者
- 今野 敏
- 出版日
- 2012-01-21
しかし、高校生達の保護者は、そう簡単にはいきません。いくら義理人情に厚いといっても、ヤクザはヤクザ。何かとクレームをつけてくる一部のモンスターペアレンツが、ヤクザであることを大義名分にして日村達を追い出しにかかってきました。
そんななか日村達にも、学園を出る理由ができ始めていて……。ここで見られる日村達と生徒の関係には、ぜひ注目してみてください。
さらに、日村達が学園を去った後に迎える結末は、読み終えた後に気持ちが温かくなるもの。ヤクザがたくさん出てくるのに、なぜか温かい気持ちになる。そんな最後を、ぜひ楽しんでみてください。
『任侠学園』からスタートした「任侠」シリーズは、その後に多くの作品が発表されています。その最新刊となるのが『任侠浴場』。タイトルどおり、銭湯を舞台にした物語です。
物語の始まりは、日村達の元を訪れた阿岐本組の兄弟分・永神でした。彼は、赤坂の路地裏にある古びた銭湯を再建してほしいと言いにきたのでした。
学園の時と同じく掃除から始まる再建話は、『任侠学園』を読んだ方にとっては、思わず「これこれ!」なんて言ってしまいたくなるような前作に通じる面白さを感じることができるでしょう。
- 著者
- 今野 敏
- 出版日
- 2018-07-18
日村の人のよさやかっこよさ、組長のタヌキぶり、そのほかのキャラクターの個性なども光るこの一冊。
最近はあまり馴染みのなくなった銭湯という場所も、どこか懐かしさを持って読むことができるでしょう。お風呂の役目について言及していたりもするので、銭湯というもののよさを知るきっかけにもなる作品かもしれません。
ただ第1巻と比べると、多少は新鮮さに欠けるところもあるかもしれません。それでもつい手に取ってしまうのは、安定した面白さと、何より阿岐本組のメンバーの活躍をまだまだ読みたいと思わせる魅力があるからなのです。
いかがでしたか?任侠ものと思いきや学園もので、学園ものと思いきやビジネスに活かせそうなお仕事ものだったりと、さまざまな魅力の詰まった本作。普段、任侠ものにはあまり馴染みのない方にとっては、少し分かりにくいところもあるかもしれませんが、そんなことは気にならないくらいのテンポのよさと面白さがあります。