レオ・レオニの代表作『スイミー』。世界的にも名作の絵本だといわれています。みんなと力をあわせること、個性を尊重すること……本書にはさまざまな学びがありますが、実はレオの人生と密接に関わるもうひとつのメッセージが込められているのです。この記事では、作品の概要やあらすじを紹介するとともに、その意味を考えていきます。おすすめの本も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
オランダ出身の絵本作家レオ・レオニ。アメリカやイタリアで活躍した現代アーティストのひとりです。戦争に翻弄される波乱万丈な人生を歩みながらも、数々の素晴らしい作品を世に送り出し、多くの賞を受賞しました。
なかでも絵本『スイミー』は、彼の代表作だといえるでしょう。1963年に刊行され、世界中で翻訳されました。いまでも国や世代を超えて愛されています。
主人公は、ちいさな赤い魚の兄弟たちのなかで、なぜか1匹だけ黒い身体をしている魚「スイミー」。大きなマグロに兄弟たちが飲み込まれ、ひとりぼっちになってしまいますが、そこから彼の成長と冒険が始まります。
また、かわいいちぎり絵や貼り絵、淡い色彩の水彩画など、さまざまな趣向を凝らした広い海の世界は美しく、思わずうっとりしてしまうでしょう。
日本では、詩人の谷川俊太郎によって翻訳されました。1977年から小学校2年生の国語の教科書にも掲載されていて、多くの人にとって馴染み深い物語です。
- 著者
- レオ・レオニ
- 出版日
- 1969-04-01
とある広い海で、小さな魚の兄弟たちが楽しく暮らしていました。彼らはみんな赤い身体をしていましたが、そのなかに1匹だけ真っ黒い身体をした魚がいます。名前はスイミーです。
ある日大きなマグロがお腹をすかせてやってきて、兄弟たちを飲み込んでしまいました。泳ぎが得意だったスイミーだけが助かりましたが、ひとりぼっちになってしまいます。
悲しみに暮れながら、暗い海の底を泳ぐスイミー。しかし、「にじ色のゼリーのようなくらげ」や「水中ブルドーザーのようないせえび」「やしの木みたいないそぎんちゃく」など、素晴らしく美しいものをたくさん見るうちに、だんだんと元気を取り戻していきました。
ある時スイミーは、岩陰に兄弟たちにそっくりの赤い魚たちを見つけます。しかし遊ぼうと誘っても、彼らは大きな魚が怖いと言って出てきません。
スイミーは考えて考えて、みんなで一緒に、「海で1番大きな魚」のふりをして泳ぐことを提案します。
みんなが、一ぴきのおおきなさかなみたいにおよげるようになったとき、スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」(『スイミー』より引用)
スイミーと赤い魚たちは力をあわせて泳ぎ、ついに大きな魚たちを追い出し、自由で平和な海を手に入れるのです。
1977年から、光村図書出版の小学校2年生用の国語の教科書に掲載されている『スイミー』。
自然の摂理のなかで生きることの厳しさや、力をあわせることの大切さ、自分の個性を受け入れて自分らしく生きることなど、子どもたちにとって多くの学びがある物語だといえるでしょう。
多感な時期に小学校で集団行動をする彼らは、大なり小なり悩みを抱えています。『スイミー』を読んで感じたことは、その後の学校生活にも大きく影響するはずです。
ちなみに教科書だと、イラストが一部省略されているのをご存知でしょうか。幻想的な水彩で描かれる美しい海の世界も、『スイミー』の魅力のひとつです。教科書で読んだことがあるという方も、ぜひあらためて絵本も手に取ってみてください。
本作から読み取れる教訓として、仲間と協力しあうことの大切さが挙げられることが多いですが、実はそこに至るまでの過程も同じくらい重要なんです。それは、作者レオ・レオニの人生を振り返ってみるとわかります。
1910年にオランダで生まれたレオ・レオニ。両親ともにユダヤ人です。学生時代は、ベルギー、アメリカ、イタリアと場所を移しながら学びました。
1939年、イタリアでムッソリーニによるファシスト政権が誕生し、ユダヤ人を排斥する法が制定されると、アメリカへ亡命することになりました。しかし、国籍が異なる妻と子どもにはビザがおりず、レオはひとりでアメリカに降り立つことになるのです。ある日、広い海の中で突然ひとりぼっちになってしまったスイミーの姿と重なるでしょう。
それから1年、レオはファシズムの恐怖に耐えながら、並大抵ではない努力をして職を見つけます。スイミーも孤独を乗り越え、さまざまなものを経験して、新しい仲間に出会い、最終的には大きな魚を追い払うことができました。たくさんの出会いが自分を成長させ、未来を切り拓くことに繋がったレオからのメッセージだといえるでしょう。
レオ・レオニの人生を考えてみると、本作において、ひとりぼっちになった後のスイミーの行動からも、学べることがあるとわかります。
『スイミー』の日本語訳を担当しているのは、詩人や絵本作家など幅広い分野で活躍している谷川俊太郎です。谷川が初めて翻訳を手掛けたのは1967年の『あしながおじさん』で、以降『スイミー』も含めて50作以上の訳を務めています。
「翻訳にあたっては、原本のもつ視覚的な美しさを損なわぬことを、まず第一に心がけました。文章のレイアウトを、できるだけ原本どおりにするために、その内容の一部を省略せざるを得ない場合もありましたが、これは俳句的な凝縮された表現を好む日本人には、かえってふさわしいと考えています。」(『スイミー』より引用)
こう本人が語るとおり、簡潔でありながらも味わい深い文章が、読者に日本語の美しさを教えてくれます。
「スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。」(『スイミー』より引用)
リズムのよい文章は気持ちよく、思わず声に出して読みたくなるほど。透明感が漂う言葉たちは、レオ・レオニのイラストとの親和性も高く、読者の心にすっと染み入ってくるでしょう。
- 著者
- 松岡希代子
- 出版日
- 2013-06-17
作者の松岡希代子は、1996年にレオ・レオニの展覧会を開催したことをきっかけに、晩年の彼と交流をもちました。
本書には、世界的アーティストであるレオの人生や作品にまつわる生き生きとしたエピソードが記されていて、これまで知らなかった一面をうかがい知ることができるでしょう。
また、ほとんど公開されたことのないポルチニアーノの自宅とアトリエの写真も掲載。より近くに彼を感じることができます。
「どんなときでもポジティブに、芸術の力を信じ、芸術家の役割をきわめていたレオ。
レオに出会うことができて幸せだった。
ありがとう、レオ!」(『レオ・レオー二 希望の絵本を作る人』より引用)
晩年はパーキンソン病に悩まされ、身体も思うようにも動かなかったレオ。それでも希望を捨てず「今できる最善」をしようとする前向きな姿勢に胸を打たれます。本書を読めば、『スイミー』をはじめ素晴らしい作品を世に送り続けた彼のルーツがわかるはず。おすすめの一冊です。