「このミステリーがすごい!」国内の大賞から文庫で読めるおすすめ作品を紹介

更新:2019.3.31 作成:2019.3.31

ミステリー作家の登竜門として知られる「このミステリーがすごい!」大賞。バラエティに富んだエンターテイメント作品が多く、毎年発表を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。この記事では、歴代の受賞作のなかから特におすすめのものをご紹介します。

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「このミステリーがすごい!」大賞を紹介!「隠し玉」とは?

 

宝島社が発行しているミステリー小説のランキングブック『このミステリーがすごい!』。1988年から年に1回発表されていて、過去1年間に出版されたミステリー小説のなかから国内・海外に分けて順位付けをしています。公平を期すため、宝島社から出版された作品は対象になりません。

2002年からは、新しい才能や面白い作品を発掘するために、一般公募の賞が創設されました。「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」が対象で、ホラー要素やSF要素が強いものであってもOK、時代小説であってもミステリー要素を含んでいればOKと、広い間口を設けています。

大賞受賞者へは賞金1200万円が贈られ、それまでもっとも高額とされていた「江戸川乱歩賞」の1000万円を超えると話題になりました。

「このミステリーがすごい!」大賞の特徴に、「隠し玉」という賞があります。大賞や優秀賞には選ばれなかったものの、編集部が「作品にしたい」と思ったものに贈られるのです。また2018年からは、映像化を前提とした「U-NEXT・カンテレ賞」も新設されています。

 

「このミステリーがすごい!」第1回受賞作!『四日間の奇蹟』

 

ピアニストとして将来を期待されていた敬輔。留学先のオーストリアで強盗事件に巻き込まれ、とある少女をかばったことから薬指を失ってしまいました。夢を絶たれた敬輔は、両親をなくした少女を引き取ることにします。

千織という名の少女は知的障害があり、サヴァン症候群により優れたピアノの才能をもっていたのでした。2人は演奏をしながら各地をめぐる生活を始めます。

そんな折、敬輔はとある療育センターで、高校時代の後輩だった真理子と出会います。3人は親交を深めていきますが、真理子が事故で意識不明の重体に。そして真理子の心が千織の身体に宿り……。

 

著者
浅倉 卓弥
出版日
2004-01-01

 

「この小説の核となる唯一の仕掛けは、ミステリーファンならほとんど誰もが知っている有名作品のネタと同じものだ。この点に関しては、是非をめぐって非常に突っ込んだ議論が行われた。が、ネタそのものは前々からすでにあったものだし、物語自体は作者の完全なオリジナルに仕上がっている。むしろ、あえて同じネタに挑戦した作者の意欲こそを買うべきだろう」(「最終審査講評」より引用)

2002年に第1回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した浅倉卓弥の作品。癒しと再生をテーマにしたファンタジーミステリーです。

真理子は1度農家の息子に嫁いだものの、子どもができないという理由で夫の家族から一方的に離婚を言い渡された過去があります。そんな彼女の心が千織の身体に宿り、4日間という限られたなかで人生を見つめなおしていくのです。

講評にもあるように、事故によって少女の身体に女性の心が宿るというのはすでにあるモチーフですが、その後の展開を読ませる筆力の高さが魅力でしょう。ファンタジー色と人間ドラマを楽しめるミステリーです。

 

「このミステリーがすごい!」はハードボイルドも楽しめる『サウスポー・キラー』

 

人気プロ野球球団「オリオールズ」に所属する、ピッチャーの沢村。全体主義を嫌い、コーチの指示を無視して独自のトレーニングをするなど、敵も多い人物です。

ある日、彼が「約束を忘れるな」という言葉を発する男に襲われる事件が起こりました。また、球団のパーティーでは複数の男から暴行され、さらには沢村が暴力団と癒着して八百長試合をしているという告発文が出回る事態に。

まったく身に覚えがないにもかかわらず、謹慎処分を受ける沢村。潔白を証明するために、自ら調査をすることにしました。

 

著者
水原 秀策
出版日
2007-01-01

 

「ほとんど時代錯誤的にオーソドックスなハードボイルド。(タイトルに反して)ひねりのない直球のプロ野球ミステリで、笑っちゃうほどそのまんまな臆面のなさが今は逆に新鮮だとも言える」(「最終審査講評」より引用)

2004年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した水原秀策の作品です。なによりも沢村のキャラクターが素晴らしく、クールなのにユーモアがあり、体力もあり、頭脳明晰と、ハードボイルドの主人公として申し分ありません。チーム内で孤立しつつも奮闘する様子や、美女とのちょっとだけエロティックな絡みも楽しめるでしょう。

死体が登場しないサスペンスミステリーで、ぐいぐい読ませる文体が魅力。沢村を陥れようといしていたのは、誰だったのでしょうか。

 

ベストセラーとなった「このミステリーがすごい!」受賞作『チーム・バチスタの栄光』

 

東城大学医学部付属病院における、心臓移植の代替手術「バチスタ」を専門とする「チーム・バチスタ」。成功率100%を誇る天才集団でしたが、ある時から3件続けて原因不明の術中死が起こります。

世間からも注目されている手術なだけに、病院長は内部調査を実施。神経内科学の講師で、不定愁訴外来の責任者をしている田口に依頼をします。さらに田口の助っ人として、厚生労働省の役人、白鳥も登場。

出世街道から外れた田口と、ロジカルモンスターと名高い白鳥がコンビを組み、「チーム・バチスタ」の栄光の裏に隠された真実に迫ります。

 

著者
海堂 尊
出版日
2015-09-19

 

「主人公をはじめとする登場人物のキャラが、ここまで立ちまくっている小説は近年記憶にない。専門知識を駆使した、細部の確かさ、リアリティ、シリアスな部分がしっかり描き込まれている。その一点でも近年出色の医学ミステリーとして充分評価に値するが、それを上回るキャラクターの面白さ、語り口の巧さ、設定の斬新さは読み手の脳髄を深くえぐるものだった」(「最終審査講評」より引用)

2005年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した海堂尊の作品です。海堂は現役の医師でもあり、作家としてデビューをした後も病理医として働いていました。事件解決のツールとして「Ai」と呼ばれる死亡時画像診断が用いられているのですが、「Ai」の普及は海堂のライフワークでもあるそう。手術中の細かい描写や、医師が抱える苦悩、病院内の政治的やりとりなどもリアリティがあります。

しかし講評にもあるとおり、本作の魅力は個性的なキャラクターたちです。田口と白鳥の掛け合いが、医療ミステリーというシリアスな物語に色を加え、エンターテインメント性を高めています。

「東城大学」シリーズとして続編も多数発表されているので、ぜひ読んでみてください。

 

硬派すぎない警察小説『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』

 

主人公は、警視庁捜査二課で主任代理をしている郷間彩香。32歳、独身です。

知能犯罪を専門としていて、数字に手掛かりを求める贈収賄や詐欺、横領などの犯罪に対処しているため、電卓を叩く日々を送っていました。

ある日刑事部長から、「渋谷で銀行立てこもり事件が発生している。至急現場に向かい、指揮をとってくれ」という特命を告げられます。なんと立てこもりの犯人が、現場の指揮および交渉役を彩香にするよう指示してきたというのです。困惑しながらも渋谷に向かう彩香ですが……。

 

著者
梶永 正史
出版日
2015-01-08

 

「警察捜査の常識をことごとく打ち破る、逆転の発想に驚嘆した。白昼の渋谷で発生した銀行立てこもり事件。通常、経済事犯を扱う捜査二課の女性刑事が、立てこもり現場の陣頭に立つことなど有り得ない。それも“電卓女”を自称する三十路の一警部補が、警視庁捜査一課特殊犯係のSIT精鋭を指揮することなど、絶対に有り得ない。(中略)もう、破天荒も破天荒、無茶苦茶な設定である。ところが作者は、この破天荒な設定に、警察関連の豊かなディテールと様々なエクスキューズを加えることによって、あっても不思議ではないリアリティと説得力を構築しているのだ。脱帽である。」(「最終選考選評」より引用)

2013年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した梶永正史の作品。立てこもり現場に跳ねっかえりの女刑事が挑むというコミカルな設定です。

彩香はタイトスカートにハイヒールという身なりをしているものの、刑事だった父親の魂をしっかりと受け継いでいます。美形なのに女の幸せを捨ててしまっているところもあり、悩みながらも日々奮闘しているのが魅力です。

映像が目に浮かぶような生き生きとした描写が特徴。硬すぎない警察小説を読みたい方におすすめです。

 

がんが治る⁉驚きの「このミステリーがすごい!」受賞作『がん消滅の罠 完全寛解の謎』

 

余命半年を宣告した末期がん患者の4人が、生命保険の生前給付を受けた後も生存している、それどころかがんが治っている……。

日本がんセンター呼吸器内科に勤務する夏目典明は、生命保険の不正受給を調査している森川からこんな相談を受けます。病巣ごとがんが消え去る「完全寛解(かんぜんかんかい)」は異例の事態です。不審に思った夏目は、同僚の羽鳥と調査を始めました。

一方で湾岸医療センター病院では、がんの早期発見と治療を得意とし、再発した場合もがんを完全寛解に導くと謳って有力者たちからの支持を集めています。

 

著者
岩木 一麻
出版日
2018-01-11

 

「医療ミステリーは数あれど、医学的知見と、本格ミステリー的な“驚愕の大トリック”とがダイレクトに結びついた、ほんとうの意味での“医学トリック”はめったにない。その意味で、岩木一麻『救済のネオプラズム』は、史上最高レベルの医療本格ミステリー。この謎がちゃんと解けたら大賞確実なんだけどなあ……と思いながら読んでたら、ほんとにちゃんと解けたので仰天しました」(「最終選考選評」より引用)

2016年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した岩木一麻の作品。受賞時は『救済のネオプラズム』というタイトルで、後にあらためられました。作者の岩木は国立がん研究センターに勤務していた経験もある人物。豊富な知識はもちろん、がんに向き合う患者と医師それぞれの立場や思いを描いています。

ミステリーにおける消失トリックといえば、死体や凶器が消えるのが一般的ですが、本作は前代未聞の「がん消失」。果たしてそんなこと、トリックで可能になるのでしょうか。伏線とどんでん返しに留意しつつ読んでみてください。