春を感じる小説おすすめ6選!桜や別れがモチーフの優しい気持ちになれる本

更新:2019.4.5 作成:2019.4.5

春は、始まりでもあり終わりでもある季節です。新生活を送る人もいれば、大切な人との別れを迎えることもあるでしょう。この記事では、そんな季節にぜひ読みたい、心にじんわりと染み入るおすすめ小説を紹介していきます。

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春の思い出とともに読みたいおすすめ小説『檸檬のころ』

 

コンビニはない、マクドナルドもない、通勤電車は45分に1本で、街に出てもショッピングビルは2つだけ……物語の舞台は、山や田んぼに囲まれた田舎にある県立高校です。

恋愛や友情、部活、文化祭、上京など、誰もが経験したであろう「普通」の青春を、自然豊かな田舎の四季をとおして描いた傑作青春小説です。

著者
豊島 ミホ
出版日

 

若者に人気の小説家、豊島ミホの連作短編小説。2007年には映画化もされました。

本書で描かれる青春は、とても普通です。だからこそ読者は、もしかしたら自分が経験したかもしれないその日々を、愛しく思います。大人になってから客観的に考えると、取るに足らないことに悩み、苦しんでいたあの頃。青春とは、檸檬のように甘酸っぱくてほろ苦いものなのかもしれません。

それぞれの物語で登場人物がリンクしあうのも楽しいポイント。春になったら蘇る遠い昔の思い出とともに、手に取ってほしい一冊です。

春のあたたかさが心をほぐす小説『春を背負って』

 

物語の舞台は、奥秩父にある小さな山小屋「梓小屋」。仕事に行き詰っていた主人公の亨は、脱サラし、亡くなった父が経営していた梓小屋を継ぐことにしました。しかし右も左もわからず、慣れない山の過酷な環境に苦労します。

そんなある日、東京のホームレス「ゴロさん」が、やって来ました。生前の父に世話になったという彼、夢枕で「息子の面倒を見てやれ」と言われたので、梓小屋を手伝いに来たというのです。

こうして亨とゴロさんは、二人三脚での山小屋の経営をすることになりました。

著者
笹本 稜平
出版日
2014-03-07

 

ミステリーから冒険小説まで、幅広いジャンルの小説を手掛ける笹本稜平の作品です。2012年にラジオドラマ化、2014年には映画化もされました。

梓小屋に集まるのは、人生に迷っている人ばかり。ひとつの判断ミスが命取りになるかもしれない、過酷な山での生活に苦労しながらも、人の優しさに触れ、再生への道を歩んでいきます。

ゴロさんの親しみやすいキャラクターは本作の魅力のひとつ。ひょうきんな性格で山を愛し、100kgを超える荷物を持ちあげる頼もしさもあり、厳しい山の生活のなかで息抜き的存在になっています。

春のようにあたたかな人と人との触れあいが染み入り、固くなった心がほぐされるような作品です。美しい山の自然を堪能しながら読んでみてください。

どん底に落ちた主人公の光と影の物語『春の夢』

 

何不自由なく暮らしていた大学生の哲之。父親が亡くなったことで多額の借金を被ることになり、いっきに絶望の淵に落とされました。母親とは別居をし、返済をしつこく迫るヤクザから逃れるため、場末の安アパートにひっそりと移り住みます。

ある日、ひょんなことからトカゲの内臓を釘で貫いてしまう哲之。トカゲは、身動きがとれないながらも生き続けています。ひとりと1匹の奇妙な同居生活が始まりました。

著者
宮本 輝
出版日
2010-05-07

 

本書の作者は、日本を代表する小説家、宮本輝。数々の文学賞を受賞していて、芥川賞の選考委員も務めています。

本書で描かれるのは、思いがけない出来事によって借金まみれになった青年。これから仮に就職できたとしても、給料は返済で消えてしまいます。

物語に絶大なインパクトを与えているトカゲは、哲之の人生の象徴だともいえるでしょう。彼もまた、釘で貫かれたトカゲと同様に「運命」にとらわれ、どこにも行くことができず、死ぬこともできずに生き続けているのです。

『春の夢』というタイトルには、どん底にいる哲之が思い描く光や夢が詰まっています。ひとりと1匹は自由を手に入れることができるのでしょうか。

桜が舞う季節に出会った仲間たちの小説『風に桜の舞う道で』

 

大学受験に失敗したアキラ。翌年の合格に向けて、予備校が営む桜花寮に住むことになります。入寮式の日に、桜並木のバス停で出会ったリュータやとヨージの2人は、彼にとってかけがえのない仲間となりました。

それから10年後、社会に出て立派に働くアキラのもとに、リュータが死んだという噂が届きます。友人の死の真相を探るため、アキラは当時の寮生とひとりずつ会っていきますが……。

著者
竹内 真
出版日
2007-09-28

 

人情味あふれる物語に定評がある竹内真の小説です。ストーリーは、浪人時代と、その10年後である現代を行ったり来たりしながら進みます。

時に励まし、時にばか騒ぎをしながら、ひとつ屋根の下で苦楽をともにした彼ら。男同士の友情はさっぱりしつつも強い絆で繋がっていて、読んでいて清々しいです。

そんな大切な友人が死んだという衝撃的な噂の真相は何なのでしょうか。過去と現在を行き来することで、徐々にパズルのピースが埋まっていく構成に惹き込まれるでしょう。

読後感は気持ちよく、桜が舞うバス停の景色がありありと浮かんでくる、春の季節にぴったりの一冊です。

坂口安吾の代表作!怪しく幻想的な世界に酔いしれる小説『桜の森の満開の下』

 

昔、鈴鹿の山に、通り過ぎる人々を襲っては、持ち物や女を奪っていたひとりの山賊がいました。山奥には桜の木がたくさん茂っているのですが、山賊はその桜の木に、自分でもよくわからない恐ろしさを感じていました。

ある日、美しい女を連れた旅人を見かけた彼は、旅人を殺して女を奪いますが……。

著者
坂口 安吾
出版日
2017-10-18

 

1947年に刊行された、坂口安吾の代表作のひとつ。その幻想的な世界は彼にしか描けないといわれ、高く評価されています。

華やかなタイトルとは裏腹に、展開されるのは怪しく奇妙な物語。終盤で、山賊は思いがけない出来事から女を殺してしまいます。

「ただひっそりと、そしてひそひそと、桜が散りつづけているばかりでした。彼は初めて桜の森の満開の下に座っていました。いつまでもそこの座っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。」(『桜の森の満開の下』より引用)

何の音もない静けさのなか、一面桜のピンク色に染まる森に横たわる女と、座り込む男。彼に残されたのは、「孤独」しかありません。その情景は切なくも圧倒的に美しく、読者の心に強く残ります。

ページ数も少ないので、近代文学に苦手意識がある方でも大丈夫。あっと驚く結末をぜひ実際に確かめてみてください。

自身の青春を描いた島崎藤村の自伝的小説『春』

 

教え子との実らぬ禁断の恋や、尊敬する人の自殺、落ちぶれてしまう家族たち……作者の島崎藤村自身をモデルとした「岸本捨吉」のまわりでは、次々と不幸な出来事が起こります。

捨吉は、どうしようもない運命に翻弄されながらも「自分は一体何者なのか」と苦悩し続けるのです。

著者
島崎 藤村
出版日
1950-11-30

 

島崎藤村初の自伝的小説である本書。1908年に「東京朝日新聞」で連載され、その後自費出版されました。藤村が30代なかばで記した、20代の時の経験です。

理想の自分と現実の自分との矛盾に苦しむ登場人物たちは、かなり過激。自分で自分を破壊しながら、新たな道を模索します。こんなにも苦しくて青くさい青春があるのかと、圧倒されてしまうかもしれません。

答えが出たようにも出ていないようにもとれる結末は、自叙伝ならでは。若き藤村を感じられる一冊です。