旅行に持っていきたい小説おすすめ5選!旅のお供に最適な本は?

更新:2021.11.18

劇作家の寺山修司は「書を捨てよ、町へ出よう」と言いましたが、今回お伝えしたいのは「書を持って、旅へ出よう」。日帰り旅行から長期のバカンス、はたまた自分探しまで、本はあらゆる旅行のお供にうってつけです。この記事では、旅行に持っていきたいおすすめの小説をご紹介していきます。

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旅行に持っていくには小説がおすすめ

 

旅行に行く際は、普段あまり本を読まなくても、何か1冊カバンに入れる方も多いのではないでしょうか。旅のお供には、なんといっても小説がおすすめです。

ほどよいボリュームかつ、頭を使わず読めるものがよいでしょう。小難しい専門書や解説が多い新書、すぐに読み終わってしまう漫画は避けたいところです。また旅行は、日頃の仕事や家事から解放され、非日常を楽しむもの。有益ではあるけれど、日々の仕事に直結するビジネス本も無粋なのでおすすめしません。

これらの点を踏まえると、小説は旅のお供に最適。たとえば長時間のフライトでも、滞在先でのリラックスタイムでも、飽きずに没頭でき非日常へと誘ってくれます。

さらにちょっと嬉しい相乗効果も。旅行を終えてもその作品を読み返すだけで、楽しい思い出が蘇ってくるはずです。

壮大な旅行とともに再生していく母娘を描いた小説

 

父を捨てて家を出ていった母の絹子。娘の麻沙子は、母がよこした「ドナウを旅したい」という手紙を頼りに、西ドイツへ向かいます。しかし到着した彼女を待っていたのは、かつての恋人との再会でした。さらにやっとのことで母親を見つけると、絹子は17歳下の愛人と一緒にいて……。

こうして不思議な関係の4人は、西ドイツからルーマニアまで、7ヶ月をかけて3000kmの旅をすることになります。長い道中でさまざまな人や風景と出会い、母と娘の胸中にはどんな感情が生まれるのでしょうか。

著者
宮本 輝
出版日
1988-06-29

 

1985年に刊行された、宮本輝の作品です。本書の最大の魅力は、いきいきと描き出される各地の風景でしょう。4人の旅は西ドイツに始まり、オーストリア、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリアを経てルーマニアへといたります。

宮本は本書を執筆するにあたり、実際にこの6ヶ国へ取材へ行ったそう。街の描写はもちろん、各国で出会う人々とのエピソードもリアリティがあります。また当時は、ドイツは東西に分かれ、チェコとスロヴァキアはひとくくり。共産圏ならではの風景も興味深いでしょう。

旅の風景が移り変わるにつれて、4人の心の内にもゆるやかな変化が生まれていきます。そして壮大なドナウ旅行は、意外な結末を迎えることに。ぜひ実際に読んで確かめてみてください。

奇想天外な世界でくり広げられる、摩訶不思議な旅行

 

物語の舞台は、高度な文明が失われて科学技術や政治は未発達な一方で、人々が超能力を駆使している奇妙な世界。

主人公のラゴスは、かつての文明を再興するという目的を達成するため、あちこち旅をして回ります。数々の不思議な経験をし、命の危機を感じる修羅場を通り抜け、たどり着いた先とは……。

著者
筒井 康隆
出版日
1994-03-01

 

1986年に刊行された、筒井康隆の作品です。約200ページと小説としては比較的短い部類ですが、これは主人公ラゴスの人生絵巻そのもの。使命を背負った彼の成長を見守るうちに、読者も一緒に旅行をしている気分になります。

ラゴスの価値観や倫理観が、シンプルながらも胸に刺さるのも魅力です。

「人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれでいい筈だ。」(『旅のラゴス』から引用)

彼が生涯をかけて旅をしたように、私たちの人生もまた旅のひとつ。生きるヒントを与えてくれる作品です。

アフリカの神秘が導く生と死の物語

 

フリーライターをしているアラフォーの翠のもとに、突如アフリカ取材の仕事が舞い込みました。

愛犬の病気や、知己の社会学者・片山の訃報、彼が遺したアフリカの本……と自身の身に起こった一連の出来事に奇妙な符号を感じていた翠は、巡りあわせに導かれるようにしてアフリカへ向かいます。

現地で片山の足跡を辿るうち、人々や風習に感化され、彼女は『ピスタチオ』という小説を書きあげました。

著者
梨木 香歩
出版日
2014-11-10

 

2010年に刊行された、梨木香歩の作品です。タイトルの『ピスタチオ』は、作中で翠が書いた物語のタイトルと一致しています。

本書の舞台となるアフリカは、多くの日本人にとって薄ぼんやりとしたイメージしか抱くことのできない、未知の場所ではないでしょうか。翠に舞い込んだアフリカ旅行も、そして『ピスタチオ』の執筆も、何かに仕組まれたような気がするのですが、さもありなんと納得してしまうあたりが不思議です。西洋医学とは正反対の呪医や精神憑依など、独特な文化や風習を興味深く読めるでしょう。

その一方で、アフリカは内戦の爪痕が残る地でもあります。ここに暮らす人々は、争いや感染症による死と常に隣り合わせ。日本とはまるで違う環境で、翠は生と死についても考えを巡らせるのです。

「ねえ。人って不思議なものね。生きている間は、ほとんど忘れていたのに、死んでから初めて始まる人間関係っていうものがあるのね。」(『ピスタチオ』から引用)

死は壮大な自然の摂理のごく一部に過ぎません。万人が自分の望む方法で死を迎えられるわけではいけれど、死んだ後も「物語」は続いていくことに翠は慰めを見出します。ちょっぴりスピリチュアルで不思議な読書体験が、旅行にぴったりの一冊です。

ルーツを辿って大陸を旅行する家族の小説

 

祖父の死をきっかけに、家族のルーツに興味を持った藤代良嗣。「うちに帰りたい」と言う祖母のヤエと、引きこもりの叔父を連れ、中国の大連へ過去を探る旅行に出発しました。

すべての始まりは、昭和15年に祖父の泰造が開拓団として満州へ渡ったこと。そこから、昭和と平成にまたがる藤代家3代の物語が紡がれます。

著者
角田 光代
出版日

 

2011年に刊行された、角田光代の作品です。激動の時代を生きた祖父母、というと逞しいイメージが先行しますが、本書の泰造、ヤエ夫妻は「どうにか生き延びた」といった形。時代に流されるままそれなりに適応していった藤代家は、おそらく日本の普通の家庭でしょう。

そんな彼らの物語をドラマチックに仕立てているのが、ほかでもない時代性です。混乱の戦中戦後、復興を遂げた高度経済成長、浅間山荘事件や地下鉄サリン事件など、作中には実際の事件や出来事が登場。いかにめまぐるしい時代だったかを思い知らされるでしょう。

旅の終盤で、ヤエはこう語ります。

「だってあんた、もし、なんてないんだよ。後悔したってそれ以外にないんだよ、何も。私がやってきたことがどんなに馬鹿げたことでも、それ以外はなんにもない、無、だよ。だったら損だよ、後悔なんてするだけ損。それしかなかったんだから。」(『ツリーハウス』から引用)

自身の生き方を考えさせられる一冊です。

旅行の代行屋が愛を繋ぐ、あたたかい小説

 

主人公は、売れないアラサータレント「おかえり」こと丘えりか。スポンサーの名前を間違えたせいで、唯一のレギュラー番組を降板し、いよいよ崖っぷちに立たされました。

そんな彼女が新しく始めたのが、誰かの代わりに旅行をする「旅屋」の仕事です。

おかえりのもとには、さっそく病床の娘に代わって秋田の桜を見てきてほしいという依頼が舞い込むのですが……。

著者
原田 マハ
出版日
2014-09-19

 

2012年に刊行された、原田マハの作品です。旅行の代行という、ちょっと変わった職業を生業にするおかえりは、タレントとしては鳴かず飛ばずですが、旅屋として家族の絆を結び直し、笑顔を作り出していきます。

旅行が大好きで、誰かを笑顔にしたいという真っ直ぐな性格のおかえりはもちろん、依頼人や旅先で出会う人々、プロダクションの社長など、登場人物は人情味あふれる人ばかり。おかえり自身にも、人生の目的が見えてきます。

旅行の醍醐味である人との繋がりにフォーカスを当てた作品。読後はきっと旅立ちたくなってしまうでしょう。

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