なんかしらん怖そうなイメージばかりが先行し、わたしの中でもはや架空の生き物と化している柳美里。貧乏について書かれたエッセイ『貧乏の神様』が大変おもしろいんす。
これまで手にすることのなかった作家の本を読む、きっかけ、というのはいろいろあると思うのですが。
たまたま本屋で見かけて、装丁がすてきだったりとか。
なんとなくタイトルに惹かれたりとか。
好きな作家が、その作家をすすめてたりとか。
テレビで見て面白かったドラマの原作者だったりとか。
あとあれだ、好きなひとが本持ってるとこ見て、こっそりその作家の本一気読みしたりね。そんで、何気なくその作家の話題ふってみたりしてね。
えー、そうだったの? このひとの本好きなんだ~? わー、やだ偶然~わたしも~、えー、どれが1番すき~? あ、ほんと~? わかるわかるぅ~あれ面白いよねえぇ~、なんつって。小芝居したりなんかして。あーはいはい。きゅんきゅんしとけ。
まあそういう、なんかしらの、ご縁? ひっかかり? があって、そこで初めて本を手にとるわけですが。
ところが一方、何度そのひっかかりを感じても、あえて、ずっと手を出さずにきた本、作家、というのもあるわけで。
わたしにとっては、その中のひとつが、柳美里です。
岸田國士戯曲賞を最年少で受賞、とか、作家でかつ劇作家、とか、映画やドラマの原作にもなってるし、なんやかんや、まずは読んでみていて当然なくらいたくさんのひっかかり、ご縁、があるのですが、それでも、どうしても手を出せなかったのです。なぜなら。
なんか、こわいから。※あくまで個人の感想です。
本屋の棚にならぶ背表紙、「命」「魂」「生」「声」の並びがこわい!
具体的にどういう種類の怖さなのかはしらんが、「柳さんはこわいよ~?」という話ばかりが耳に入ってくる! わりと近いところから!
どんな顔のひとなのか、あえて、知らないままでいます! ヘタに劇場で見かけたりなんかしたら、なんかこわいから!
こうなるともう、実像を知らないだけに余計、恐怖はふくれあがります。恐怖ってそういうもんでしょ。もはやなんだかわたしのなかでは、決してさわってはならん怖ろしい祟り神の位置づけなのです。架空の生き物、柳美里。敬称略。
わたしのなかの想像上の柳美里が書く本は、「おんなの情念」や「スキャンダル」や「血の系譜」、「虚栄」、「堕落」、「貧困」、「おとことおんなのどろどろ」、他なんかそんなかんじのいやあなもので、ぱんっぱんです。
読んだ者はひとり残らず、諦念の底なし沼に引きずり込まれます。
ふと本から顔を上げると、世界はもう灰色。
楽しいことなんて全部終わってしまった。
そういう呪いの本。ジャンルとしてはあれだ、ジャパニーズ・ホラーだ。らせんだ。
なのに、なんでこの本読んだんですかね。
完全に、怖いもの見たさ、としか。
- 著者
- 柳 美里
- 出版日
- 2015-03-28
やー、とてもとても、面白いです。エッセイなので、あっという間に読めますが。
とてもいいタイトル。すてきな装丁。表紙に小銭。やっほう。
第1部:日々是貧乏
月刊「創」での連載「今日のできごと」に加筆修正を加えたもの。
第2部:原稿料を払ってください ~月刊「創」編集部と柳美里の交渉記録
柳美里公式ブログ「今日のできごと」、「ガジェット通信」インタビュー。
本読むとき、とくに目次とか気にせず、頭から順に読んでいく派ですが、ほらなんせ、わたしの頭の中の祟り神(仮)なので。
うかつにページ開いていきなり「おんなの情念」が吹き出してきたら困るので、まずはそおおっと、なんとなくルポルタージュっぽい第2部から。
2014年10月17日「自棄食い」は、こんなかんじ。
腹が立つと、甘いものをメチャ食いする癖があるのです。
一昨日は、サーティワンのアイス・ダブルを食べた後、ロールケーキを食べました。
昨日は、マカダミアナッツクッキーと不二家のルックチョコと源氏パイを食べました。
今日は、ジャムバターたっぷりトーストとキャラメルポップコーンを食べました。
あれ? いまのところ、貞子感は、ない。
むしろかわいいじゃねえか。まるで、はらぺこあおむしだ。しかも食べてるブツのラインナップに、庶民感があふれすぎてる。
晩ごはんのおかずに買ったカンパチの刺身が腐っていたり、水道料金が払えなくて水道局から最終通告がきたり、家中の切手やらカードやらを金券ショップに売って現金を作ったり、キャッシングを試みたクレジットカードがATMの機械に吸い込まれていったり。
極めつけは、新刊出版の取材を前に、しかしどうしても美容院へ行くお金がなくて、やむなくカット後に財布を忘れた芝居をし、その日の支払いを回避したり。あああ。
結局そのお金は、相方が、中学生の時からお小遣いで買い集めたCDやDVDをブックオフに売って作ってくれて、翌々日払うんですけど(翌日は定休日だった)。ああああ。
大変身につまされる。そして笑っちゃう。水道が止められるって、ほんとにほんとの、ギリ瀬戸際ですのでね。
芥川賞作家でしょ。本いっぱい出してる売れっ子さんでしょ。なのに。
貯金なし借金あり、毎月支払いが綱渡りで、この本の時点では高校受験を控えた息子がいて、財政かっつかつ、というかもう破綻しているんだけど、その貧乏っぷりがそれでも読んで笑えるのは、あとがきでふれられている山折哲雄氏の言の通り、
貧乏と貧困は違う、日本語の「貧乏暮らし」や「貧乏者の子だくさん」などは、必ずしも悪い意味の言葉ではない、むしろそれが誇りであったり、生きる支えとなったりする。
という貧乏、だからなんだろうなと。筆1本で家族養う大変さと、外界に立ち向かってる様が、ものっすごく雄々しくて、ものっすごく危うくて。
貧乏語りをへらへら笑って読んでたら、希死念慮が昂じて精神科駆け込んでたりとか、息子からのSOSとか、家出してあちこち転々としながら携帯電話で原稿書いてたりとか、いろいろやらかしてくれますのでね。どっきりしますよ。
何なんだこのひと。そっちの意味で、まじでこわいじゃないか。いったいどういう人なんだ、どうやって生きてんだ。どうやって生きてきたんだ。
柳美里を、俄然もっと知りたくなってきました。
そして! このひとの場合、それらすべて、もう本に書かれてるんすよね。よっ、私小説!読みさえすれば、いいのです。知ることができるのです。でも。
いいんだろか。迂闊にこの扉あけちゃって。
読んだら、諦念の底なし沼ならぬ、澱んだ精神世界に、引きずり込まれるんじゃなかろうか。あ、やっぱり貞子。
好奇心は猫を殺す、という言葉が、ここんとこずっと頭の中を回っています。
が、読む、のか。読むな。読んじゃうんだろな。たぶん、きっと、近々。
ではまた次回。どうかご無事で。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。