「文藝賞」を受賞して華々しくデビューし、その3年後には「芥川賞」も受賞した町屋良平。今後の活躍が期待される作家のひとりです。この記事では、町屋の経歴とともに、彼の著作をおすすめ順にご紹介。気になった作品があれば、ぜひ読んでみてください。
1983年に東京都で生まれた町屋良平。埼玉県立越ヶ谷高等学校という進学校を卒業しましたが、大学へは行かず、フリーターとして小説を書いていました。
2016年、『青が破れる』で「文藝賞」を受賞して、作家デビュー。同作は「三島由紀夫賞」の候補にもなっています。
その後2018年に『しき』で「芥川賞」の候補に、そして翌2019年にボクサーの試練を描いた『1R1分34秒』で「芥川賞」を受賞しました。
ダンスやボクシングなど、登場人物たちの身体的な感覚を言葉にする巧みな筆致と、ひらがなを多用した詩的な表現が魅力で、今後ますますの活躍が期待されています。
主人公は、21歳のプロボクサー「ぼく」。デビュー戦を初回KOで華々しく飾ったものの、それ以降なかなか白星を挙げられません。戦績の低迷から、ついに長年のトレーナーにも見捨てられてしまいました。
代わりに先輩ボクサーであるウメキチがトレーナーになってくれましたが、ぼくは変わり者のウメキチを信用できません。当初は指示を無視したり、距離をとったりしていましたが、トレーニングを続けるうちに2人の間に信頼関係が生まれ、本音でぶつかるようになりました。
そんな折、ぼくのボクシング生活にも転機が訪れて……。
- 著者
- 町屋 良平
- 出版日
- 2019-01-25
2019年に「芥川賞」を受賞した作品です。
本書の見どころは、ぼくのウメキチに対する気持ちの変化でしょう。実際の試合ではなく日々のトレーニングの様子が徹底して描かれています。ぼくの反発心を逆手にとって心をほぐしていくウメキチとの関係性に注目です。
また、勝負の世界で結果を残せない苦悩や焦燥感は、誰もが経験したことのある葛藤として心に響くのではないでしょうか。「芥川賞」の選考委員を務める奥泉光は、次のように述べています。
評価されたのはこの小説における徹底性で、徹底してボクシングをする若者の日常を描く。その筆の迫力、そういうものが一番評価された。仮にこれが虚構で実際のボクサーが読んだときにこんなことは全く嘘だと言われたとしても、読み手、少なくとも私はこの作家に騙されてもいいと思わせるだけの言葉の力というものがこの作品にはあった。
ともすると『1R1分34秒』は、ボクシングに興味がない方からは敬遠されがちな作品かもしれません。しかし本書のテーマは、勝負の世界で生き残る厳しさや真剣な姿といった、スポーツを超えた普遍的なものです。趣味でも勉強でも仕事でも、ひとつのことに真剣に取り組んだ経験のある方は、胸を熱くする何かを感じられるでしょう。
ボクサー志望だけれど才能がない主人公の秋吉。ボクシングの才能に恵まれたジムの友人、梅生。秋吉の親友のハルオと、ハルオの恋人で入院中のとう子。そして夫も子どももいるが秋吉と不倫中の夏澄。
主人公を中心とする5人のうち、なんと3人が死ぬという衝撃的な展開が話題となった作品です。
- 著者
- 町屋良平
- 出版日
- 2019-02-05
2016年に「文藝賞」を受賞した町屋良平のデビュー作です。
不倫や病気、死などの重たいテーマにもかかわらず、文体は軽やかで詩的な雰囲気が漂います。ひらがなを多用していて、「理詰めではなく、感覚で読む小説」ともいえるかもしれません。
物語の世界は狭く、主人公の周りの友人や恋人という限られた人間関係に焦点が当てられています。5人のうち3人が同時期に帰らぬ人となるという展開を、不自然にならないように描いた町屋の新人らしからぬ手腕にも驚くでしょう。
わずか112枚の小説で3人の身近な者たちが死ぬという暴挙を事もなげにやった。自然に、そしてリアルに。その物語の破れ目から、茫洋とした未知な感情の景色が見えてきた本作を推す。
「文藝賞」の選考委員を務めた藤沢周の選評です。「茫洋とした未知の感情」と言わしめるほど、なんともいえない、しかし心を突き動かされる力がある作品です。
特別な夢も目立った特技も、反抗期もない高校2年生の星崎。いたって普通の少年である「かれ」ですが、夜の公園でひとり「踊ってみた」動画を流し、ダンスの練習をする生活を送っていました。
やがて練習の相棒もでき、ダンスへの熱は強まるばかりです。
そんななか、河原で暮らしている小学校時代の友人、つくもから、子どもができたと告白されて……。
- 著者
- 町屋良平
- 出版日
- 2018-07-18
2018年に発表された、町屋良平の2作目の小説。「芥川賞」の候補にもなりました。思春期ならではの悩みが交錯する青春小説です。
ダンスにのめり込んでいく星崎と、彼を取り巻く高校生たちが物語の中心。彼らの関係性はふわふわとしてつかみどころがなく、コミュニケーションは常に不完全なものです。10代ならではの、アンバランスで不確かな自己が丁寧に描写されています。
主人公である「かれ」の視点もどこか冷めています。言葉と行動と思いが一致しないような独特の文体からは、全体的にちぐはぐな思春期特有のアンバランスさや、強い自意識ゆえに感じる葛藤など、10代のリアルを徹底して描こうとする気概が感じられるでしょう。
「かれ」は、動画を投稿したいとか、クラスで人気者になりたいとか、そんな欲求はありません。「踊りたい」という一心で、ダンスにのめり込んでいきます。そして、普段は言語化できないでいる悩みや家族への思いを咀嚼するように、ひたすら踊るのです。その先に、何が見えてくるのでしょうか。
主人公の岳文は、母親からメンヘラ男と言われてしまうほどの無気力系男子です。一瞬で恋に落ちては猪突猛進で突っ走るけれど、無謀な全力アタックでいつも失敗ばかり。大学で付き合った同級生の冬実にはすぐにフラれ、傷心のインド旅行で出会ったセリナにも逃げられてしまいました。
そんな彼が次に恋に落ちたのは、なんと弟の彼女!当然のごとく弟から激怒され、母親からも見放されてしまいます。さらに勤めていた会社がつぶれてニートになってしまうという最悪の状況に……。
本来は「やさしい」はずなのに、空回りばかりしてしまう岳文の青春やいかに⁉
- 著者
- 町屋良平
- 出版日
- 2019-02-15
「君の恋愛は、ほんとろくでもねえなあ」(『ぼくはきっとやさしい』より引用)
主人公の岳文は、よく言えば優しくてピュア。しかし裏を返せばメンヘラで、意気地なしの世間知らずです。
恋に落ちると全力になりすぎるあまり、周りが見えなくなってしまう姿には、読者からも「情けない」との声が多数あがりました。相手に依存し、相手に自分のすべてを受け入れてもらおうとする岳文ですが、それでも彼なりに試行錯誤する姿が見どころです。
恋愛小説としてはもちろんですが、破滅型人間の人生を切り取った青春小説としても読むことができます。町屋良平の作品ならではの、現代に生きる若者のリアルを切り取る手腕を堪能できるでしょう。