『フランダースの犬』は実話だった?あらすじや、ルーベンスと天使なども考察

更新:2021.11.18

テレビアニメが大ヒットし、多くの人の涙を誘った『フランダースの犬』。主人公のネロが、愛犬パトラッシュとともに天に召されるシーンを知らない人はいないのではないでしょうか。しかし、原作の小説を読んだことがある人は意外と少ないはず。この記事では、作品の概要やあらすじ、モデルとなった場所や人、物語に登場するルーベンスや天使などを解説するとともに、おすすめの関連本を紹介していきます。作品を新たな視点で見るきっかけにしてください。

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児童文学『フランダースの犬』とは。映画化やアニメ化もされた名作

 

1975年以降、日本でたびたびアニメ化されている『フランダースの犬』。原作は、1872年に発表された児童文学小説です。作者は、イギリスの女性作家、ウィーダ。

日本では名作として知られ、またアメリカでは実写映画化がされていますが、舞台になっているベルギーではそこまで有名ではないようです。

物語は、貧しい暮らしをしながら画家を夢見る少年ネロと、彼を常に支える老犬のパトラッシュの友情を中心に描かれています。最後にはともに亡くなってしまうため、悲劇として知られています。

 

『フランダースの犬』のあらすじを簡単に紹介

 

とある小さな村に、ネロという少年が、足の不自由な祖父とともに暮らしていました。貧しい暮らしを強いられているものの、ミルクの配達をしながら生計を立てています。

そんな彼のそばに常にいるのが、パトラッシュという老犬です。人間にこき使われて捨てられていたところを、ネロと祖父に拾われ、大切に飼われていました。

またネロは絵の才能があり、「いつか画家になりたい」と考えています。そんな彼の夢は、「アントワープの大聖堂に飾られたルーベンスの絵画をこの目で見たい」というもの。しかしそのためには高い拝観料が必要で、彼にとっては叶わぬものでした。

ネロは風車小屋の一人娘であるアロアと親しくしていましたが、彼女の父親は貧しいネロのことをよく思っていません。そんななか、ある日風車小屋の敷地内で火事が発生すると、ネロはその濡れ衣を着せられてしまうのです。

また同時期に祖父が亡くなり、住んでいた家からも追い出されてしまいました。さらに応募をしていた絵画コンクールも落選。すべてを失ったネロは、絶望の淵に落とされることになったのです。

吹雪のなかを歩くネロ。大金の入った財布を拾います。それは風車小屋の一家のもので、ネロはこれを律儀に届け、パトラッシュを彼らに託すと、再び雪のなかを歩き始めました。

財布を届けられたアロアの父は、これまでネロに厳しく接していたことを恥じ、翌日に彼の身元引受人になることを決意します。またコンクールでネロの絵を見た画家が、彼の才能を見込んで村を訪ねてくるのですが……どちらも手遅れでした。

歩き続けたネロは、ずっと憧れていたアントワープ大聖堂にやって来ていました。何もかもを失い、極寒のなかで命を削られた彼は、最後にルーベンスの絵を見たいと思っていたのです。パトラッシュも彼の後を追って大聖堂にたどり着きます。

その時窓から一筋の光が差し込み、絵画を照らし出したのです。念願が叶ったネロは神に感謝の祈りを捧げ、パトラッシュと寄り添いながら天に召されていきました。

翌日、大聖堂に駆けつけた村人たちは、これまでの仕打ちを悔やみながら、彼らを祖父の眠る墓に手厚く供養したということです。

 

『フランダースの犬』は実話?モデルとなった場所や人

 

作者のウィーダは、『フランダースの犬』を執筆する前年、ベルギーを訪れていたそうです。その時立ち寄ったフランドル地方のホーボケンという村を舞台に、本作を描いたといわれています。

主人公のネロに特定のモデルはいないそうですが、ホーボケンには風車小屋が存在し、そこにはアロアのモデルになった12歳の少女が住んでいたそうです。また死後にネロを葬った教会も実存することが確認されています。

さらに『フランダースの犬』では、ネロの祖父が「ナポレオン戦争」に従軍して足に怪我をしたことや、登場人物にスペイン系の血が混じった人種の面影があるなど、当時の時代背景が色濃く反映されています。

物語が実話とまでは言い切れませんが、モデルとなった場所や人が存在することは確かです。

 

『フランダースの犬』でネロが憧れた画家ルーベンスとは。「天使」が共通点

 

ルーベンスの絵画を一目見ることを夢見ていたネロ。物語の最後にようやく念願が叶い、パトラッシュと寄り添いながら絵画の前で息を引き取るシーンは、日本のアニメ界においても屈指の名シーンに数えられています。

雪のなかを命を削りながら歩き、アントワープ大聖堂にやってきたネロ。彼がそれほどまでに憧れていたルーベンスとは、いったいどのような人物だったのか、簡単にご紹介しましょう。

本名はピーテル・パウル・ルーベンス、1577年に現在のドイツで生まれた、バロック期を代表する画家です。その作品はヨーロッパ中の貴族から愛され、1609年に宮廷画家として迎え入れられます。礼拝図像や神話などを取りあげた「宗教画」を多く手掛けました。

『フランダースの犬』においてネロが見たのは、磔刑にされるキリストを描いた「キリスト昇架」と、磔刑後に十字架から降ろされるキリストを描いた「キリスト降架」の2枚。これらは実際にアントワープ大聖堂に収蔵されています。

さらに、ルーベンスの絵画を見ることができたネロが、死の直前に祈りを捧げた神は、こちらもルーベンスが描いた「聖母被昇天」のマリア像です。この絵は、聖母マリアの霊魂と肉体が、天使によって天に召される様子が描かれたもの。そして実際にネロとパトラッシュも、絵画と同様に天使に導かれながら天に昇っていくのです。

 

アニメでは伝わりきらない物語の深みを知る

著者
ウィーダ
出版日
1954-04-17

 

アニメがあまりにも有名な『フランダースの犬』ですが、やはり文章で原作を読むのがおすすめ。作者のウィーダは、ネロやパトラッシュの生きてきた道や心情を丁寧に描写しています。彼らが背負っていた悲しみを知るために、ぜひ読んでおきたい一冊です。

翻訳は、NHKの連続テレビ小説で有名になった村岡花子。ひとつひとつの言葉が美しく、けっして古い印象は受けません。シンプルだからこそ、物語の魅力がダイレクトに伝わってきます。

また本書には「ニュールンベルクのストーブ」という短編も収録されているので、あわせてお楽しみください。

 

『フランダースの犬』から読み解く各国の価値観

著者
出版日
2015-12-11

 

実は、『フランダースの犬』がこれほどまでにヒットしたのは日本だけだといいます。舞台となったベルギーでの知名度は低く、日本人観光客が増えたことに驚き、ホーボケンにネロとパトラッシュの銅像が建設されたほど。

また何度か映画化されているアメリカでは、エンディングがハッピーエンドに書き換えられていることが多いのです。

さて、どうしてこんなことが起こるのでしょうか。ベルギー人の作者が、各国の価値観に目を向けて論じた一冊です。『フランダースの犬』についてだけでなく、比較文化の資料としても興味深く読むことができるでしょう。

 

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