ちょっと怖がりな男性が選んだ最愛の妻は、この上なく恐ろしい怨霊だった!? とんでもない設定と、スピード感のあるギャグ展開に予想のつかない面白さがある『怨霊奥様』。今回は設定を活かした秀逸な笑いと、ほっこりさせてくれる夫婦愛の魅力を紹介していきます。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
物腰柔らかで優しいけど、やや怖がりの会社員・二ノ瀬陸(にのせ りく)は、ひょんな事がきっかけで料理がうまくて笑顔の可愛い女性・麗美(れみ)を妻に迎えました。
優しく気が利く最愛の妻なのですが……なんと彼女の正体は正真正銘、本物の怨霊だったのです。
- 著者
- 若狭たけし
- 出版日
- 2018-11-09
感情が昂ると目や口から流血し、どうやっても怖くなってしまい感情をうまく表現できずに四苦八苦する麗美。夫の陸ですら怖がるビジュアルを持つ彼女との生活は、異常なはずなのに、案外それほどの大事件もなく過ぎていくのでした。
家族ものかと思いきや、妻が怨霊という異色の設定が光る本作。ほのぼのな日常を描いているはずなのに、麗美の苦労がちょっと笑える、そんな作品です。
表紙から秀逸な存在感を放つのが、本作のヒロインである麗美です。ホラー映画に登場する怨霊そのものな彼女ですが、内面は意外に可愛らしい人物だったりします。
彼女は陸と出会う前こそ住人を呪い殺そうとするような恐ろしい怨霊でした。しかし陸と出会い、性格は一変。彼のために誠心誠意尽くそうと頑張る、献身的な妻となったのです。
麗美が自分の意思で他人に危害を加えることはほとんどありません。しかし、陸のためや、人に頼まれてやむを得ない事情があった場合のみ、対象の相手を怖がらせることはあります。彼女の意思では人を驚かせない、優しい妻なのです。
そんな彼女は、味噌汁の味噌を変えたことに気付いてくれた事をとても喜んだり、お弁当を忘れた彼のために会社まで届けようとしたりと、とてもよくできた奥さんです。ただ、喜んだ時に流血したり、会社に向かう時に、鏡を通って移動したりするところでは怨霊らしさも発揮します。
また、ごく稀に一瞬だけ見せる彼女の笑顔は、とても美しく可愛らしいものだったりします。その笑顔はぜひ、ご自身で確認してみてくださいね。
恐ろしいビジュアルと、内面の可愛らしさのギャップで、どんどん麗美の魅力にハマってしまいます。高い画力も相まって、敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、面白さのギャップにハマる作品です。
最愛の人として怨霊の妻を迎えた夫、陸についてご紹介します。
目立った特徴がない、普通の男性です。ちょっと怖がりなところはありますが、きわめて常識的で、作中では、麗美の常識を超えた行動の数々にツッコミを入れる役割を担っています。
誠実な人柄で優しく、彼女の恐ろしいビジュアルと行動にビクつきながらも、愛する気持ちは揺らぐことがありません。怨霊であっても、自分が愛した女性の旦那として、妻に普通に接しようと考えているのです。
少々頼りないところもありますが、男としての意思をしっかりと貫こうとする面も持ち合わせています。
クセのない人物ではありますが、麗美に対するツッコミなどは、読者の気持ちを代弁しているかのようで、本作にはかかせない重要な人物といえるのではないでしょうか。
本作の魅力として欠かせないのは、麗美ならではの行動により引き起こされるドタバタ劇だといえるでしょう。とはいえ、凄惨な事件が待ち受けているわけでは特にありません。ホラー映画でよくある演出の数々がギャグ要素となっているのです。
陸たちが住むのは普通のマンション。窓から出勤前の陸に手を振る麗美……。
一見、新婚夫婦の仲睦まじい姿に見えます。しかし、事情を知らない近所の人視点でみると、血みどろの女が窓にピッタリと張りついている様子が。慌てて逃げる近所の人に、陸は不思議そうな顔をしていたり、ちょっとシュールなギャグ展開が本作の見所です。
新しい服を買ったり、髪をカットしてもらってイメチェンを図ろうとした際にも、感情が昂ぶってしまい服が朽ちていったり、髪が一気に伸びてしまったりと、怨霊としての姿に戻ろうとしてしまいます。
喜ぶことも満足にできない麗美が少し可哀そうに見えることもありますが、怨霊ならではの悩みは思わず笑えてしまうもの。
本作はテンポのよいギャグ漫画のため、サクサクと読むことができるのも魅力。日常系の作品を読みたい方も、ギャグたっぷりのコメディ作品を読みたい方もおススメな内容となっています。
陸と麗美の2人ですが、作中では仲睦まじい夫婦として描かれています。
その様子が特に分かるのは、麗美が陸の大事にとっておいたプリンを勝手に食べてしまったときのエピソード。この件がきっかけで、2人は喧嘩してしまいます。
陸はために同じものを買いに出かけたものの、麗美が食べてしまったのはとても品薄な商品だったため、お店をはしごして何件も探すことに。移動手段は鏡を通っての移動なので、通行人にとってはたまったものではなかったのでしょう。
そんな彼女の霊障の痕跡を追って、陸は麗美のことを追いかけます。そして、些細なことで怒ってしまった自分の浅はかさを謝罪して、2人の仲はより深まることになりました。
この夫婦は喧嘩することがとても珍しいため、たまに訪れる2人の危機はハラハラし、応援したくなってしまいます。ギャグもあって、ほっこりする、この緩急が読者を飽きさせない魅力なのかもしれません。
陸、麗美は、彼女の事情を知るご近所さん・花恵と一緒に海に行くことに。そこで陸は、麗美にあるサプライズを企てていました。
陸と麗美は同じ家に住み、生活をともにしていますが、実は結婚届を出せていません。夫婦の証明ができない麗美に、せめてもの想いで結婚指輪をプレゼントしようと考えていたのです。しかし……。
- 著者
- 若狭たけし
- 出版日
- 2018-11-09
麗美に見つからないように指輪を隠した後、予定通り海水浴やスイカ割りを楽しむ3人。
しかし、麗美が引き込んだ霊達によるアクシデントにより、複数の手に足を引っ張られたり、砂浜に埋まった武士の脳天をスイカ割りにしようとしたり……普通に遊ぶ事はままなりませんでした。
それでも楽しい時間を過ごし、いよいよ指輪を渡そうとした陸は、指輪を紛失してしまった事に気付きます。涙ながらに麗美に謝罪し、そんな彼の姿をみて麗美も泣き出してしまう事態に。
そんな麗美は上級霊のため、低級霊達に大きな影響を与えてしまいます。彼女の感情に反応した低級霊たちは、まさかの行動にでます。2人の危機に、どんな奇跡が起きるのでしょうか。低級霊たちのドタバタ展開と、夫婦愛の暖かさも感じられるこのエピソードはお見逃しなく。