ウェブコミック配信サイト「ガンガンONLINE」で連載されていた横山知生の作品。大工に憧れる小学生男子が工業高校に通う女子高生と出会い、DIYの楽しさを体験していく日常漫画となっています。 本作はスマホアプリでも無料公開されているので、気になった方はぜひそちらからどうぞ!
主人公の「ボク」は、秘密基地と称する廃工場に入り浸る小学生男子です。彼は密かに大工に憧れていて、秘密基地に古材を集めて独学でベッドを作っているところでした。
- 著者
- 横山知生
- 出版日
- 2018-03-22
ある日、彼が廃工場に向かうと、見知らぬ女子高生が作りかけのベッドで寝ていました。工業高校に通っているという彼女の指導で、「ボク」はベッドより優れたハンモックを一緒に作ります。
この経験から彼女を「師匠」と呼び始め2人で放課後に秘密基地に集まり、さまざまなモノを手作りするようになるのです。そこから彼らは、楽しい時間を共有していくことになります。
横山知生(よこやま ともお)は年齢非公開、3月9日生まれで栃木県出身の漫画家・イラストレーター。宇都宮アート&スポーツ専門学校マンガ・アニメ科の卒業生です。
2009年前後から商業作家活動を開始し、「ガンガンONLINE」を中心として「ガンガン」系列の雑誌で連載を持ちます。商業以前には、時期は不明ですが『スクールランブル』の小林尽や、『ソウルイーター』の大久保篤のアシスタントをしていたようです。
- 著者
- 横山 知生
- 出版日
- 2010-09-22
連載2作目の『漫専魔王少女エナ様』はファンタジーなので毛色が少し違いますが、1作目『私のおウチはHON屋さん』と本作『ボクと師匠の秘密工房』はほのぼのとしたやりとり、コメディ展開が共通しています。
横山の作品は総じて、可愛らしい絵柄とマッチした日常描写に魅力があります。
本作の主要キャラは「ボク」と「師匠」だけです。たまにゲストキャラや、「師匠」の会話のなかに大工の祖父が登場しますが、基本的には2人しか出てきません。
そのせいかはわかりませんが、主役2人の名前が一切出てこないのも特徴でしょう。個人情報もほとんど明かされず、かろうじて「ボク」が両親と暮らす小学6年生であること、「師匠」が近所にある私立の六角工業高等学校の1年生であることくらいしか読み取れません。
「ボク」は大工を夢見る少年で、「師匠」から教わってメキメキと上達していきます。熱意だけは一人前ですが、経験不足からくる手際の悪さは否めなく、彼自身はそんな現状を歯痒く思っています。
とても努力家で向上を怠らないことから、年齢相応の子供らしい無邪気さと同時に、男らしさを感じる瞬間もしばしば。
「師匠」は同じ高校を目指すという「ボク」を「後輩くん」と呼び、弟や親戚かのように親しく接します。顔つきはまだまだ幼さがあるものの、体つきはとても女性的。それにも関わらず「ボク」以上に無邪気なせいで、夏場は「ボク」も目のやり場に困るようです。
「ボク」より知識はありますが、彼のひたむきな情熱や工夫に影響され、彼女自身も成長していきます。
彼らがさまざまなモノ作りにチャレンジしていくのが、見ていてとても楽しいところでしょう。
「ボク」と「師匠」は、傍目には年の離れた姉弟のように見えます。実際のところは「師匠」の精神年齢が低いせいか、ほとんど同世代で仲のよい友達同士といった関係に近いでしょう。
とはいえ、「ボク」の気持ちは違います。彼は「師匠」を尊敬し、憧れの念を抱いています。そして同時に、魅力的な異性として意識し始めるのです。彼はその両方の想いから、最初に共同で作ったハンモックの端材を大事に取っておき、ペンダントに仕立てているほど。
一方「師匠」はといえば、彼を気安い友達か弟扱いしています。少なくとも序盤は。服が濡れても気にしなかったり、水着着用とはいえドラム缶風呂で混浴しようとしたり、「ボク」を異性としてはまったく見ていないようです。もしかすると彼を信頼しているからこそかもしれませんが……。
「ボク」は共同作業で糸を使った際、赤い糸を連想するほどはっきり意識しているのですが、果たしてこの想いが報われる時はくるのでしょうか?
本作は、手作りを楽しむDIY(Do It Yourself、自らやる)漫画です。
DIYとは、平たく言えば「日曜大工」。ちょっとした小物や棚などをホームセンターで調達した素材を使用して、自分の手で作り上げてしまうことです。
本作の場合はもうちょっとレベルが高く、DIYで使う材料はすべて現地調達。古材や廃棄品を拾ってきては、網と木枠から丈夫で寝心地のよいハンモックを作ったり、レンガを組んでロケットストーブ(燃焼力の強いかまど)を作ったりと、新しいモノに作り替えてしまいます。
そこまで実用的で手のかかるモノ以外にも、竹を素材とした水鉄砲やタイヤのパンク修理など、ちょっとその気になれば出来そうなモノまで多種多様に登場します。
DIYのよさは単なるモノ作りだけでなく、なんでもやってみようと挑戦する前向きな姿勢にあるでしょう。
このすべてを「ボク」と「師匠」は楽しそうにこなすので、本作を読むと思わずホームセンターへ道具を揃えにいきたくなるかもしれません。
秘密基地は、「ボク」にとって「師匠」と同じ時間を過ごし、いろいろなモノを作ってきた大切な場所でした。
その秘密基地――いや、廃工場が突然取り壊しになってしまったのです。頭でわかっていても、やりきれなさは拭えません。
ハンモックも、ロケットストーブも、水鉄砲も、光る泥団子も、すべて無惨に壊されたのですから。
- 著者
- 横山知生
- 出版日
- 2018-10-22
しかし、いつまでもめげていないのが「ボク」です。なんといってもDIY精神の持ち主。秘密基地がなくなったのなら、新しい秘密基地を作ればいいのです。そんななか、ちょうどよく知り合いの物件が見付かったのですが……。
「ボク」が成長し始めていた矢先に訪れた大変化。読者にとっても、非常にショッキングな出来事でしょう。そうでなくとも子供にとって特別感のある秘密基地で、楽しいことばかり過ごしていただけに余計につらいものです。
前向きに考えれば、これは子供の「ボク」が大人になる第一歩の暗喩といえるかもしれません。
そう思えば、新しい秘密基地にも希望が感じられます。最終回で彼らの人生が終わるわけではなく、むしろ心機一転した新しいスタートが始まるのです。
彼らが次にどんなモノを作っていくのか、そこに思いを馳せずにはいられません。
いかがでしたか?最初から続けて読むと、少年の逞しい成長を感じられる作品。彼らが頑張ってるDIYの数々が、本当に面白そうに見えてくるでしょう。本作を機に、DIYを始めてませんか?