時の止まった世界で、ふたりは初めて出会う……? 初恋をかなえるために奔走する少年が、毎日1時間だけ止まる時間のなかでひとりの少女と出会う物語、『初恋ロスタイム』。警察学校出身の作者・仁科裕貴が描く恋愛小説です。 時間の止まるロスタイムの設定の妙味、泣ける展開で話題になり、2019年9月に映画が公開されることが発表されました。この記事では、そんな話題作の魅力やストーリーの見所についてご紹介していきます。ネタバレを含むので、ご注意ください。
主人公は、まだ恋をしたことがない男子校に通う高校生・相葉孝司。女子とお近づきになりたいと考えているなか、孝司は毎日1時間だけ時間が止まる「ロスタイム」という不思議な現象に遭遇します。
その現象に困惑しながらも、青春を補完するための神様がくれたチャンスと考えて、恋をするためにロスタイムを奔走することになるのです。そんななか、篠宮時音という少女と出会い、物語が進んでいきます。
なぜ、孝司と時音だけがロスタイムの中で動けるのでしょうか……?
- 著者
- 仁科裕貴
- 出版日
- 2016-01-23
本作は、2019年9月に実写映画が公開決定しました。
キャストは、主人公の相葉孝司役を人気アイドルグループM!LKの板垣瑞生が務め、ヒロインの篠宮時音役を、ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリに輝いた吉柳咲良が演じます。他にも、医師役を竹内涼真が務め、石橋杏奈、甲本雅裕などの出演も決定。若手俳優陣による映画にも、注目が集まります。
作者である仁科裕貴は、電撃小説大賞を受賞した『罪色の環 -リジャッジメント-』で2014年にデビューを果たしたライトノベル作家です。
警察学校を卒業し、作家になる前は警察官だったという異色の経歴を持っています。元警察官という経歴を活かしたサスペンス小説を得意とし、リアルな描写に定評があります。
また、サスペンスに留まらず、本作のような恋愛小説まで、幅広いジャンルを手がけているのも特徴です。
- 著者
- 仁科裕貴
- 出版日
- 2015-05-23
代表作は、人生崖っぷちの妖怪小説家・緒方司貴が、妖怪の悩みを解決していく姿を描いた作品『座敷童の代理人』が挙げられます。
気になった方はぜひ、手にとってみてくださいね。
この物語は、孝司にある現象が起きたことから始まります。
一部の人物以外、毎日午後1時35分から1時間、時間が止まってしまうというもの。この間に起きたことはすべてリセットされ、自分たちの記憶以外は時間が止まる直前の状態に戻されてしまいます。彼はそれを「ロスタイム」と呼ぶようになりました。
この現象の間を使って女子とお近づきになろうと考えた孝司は、ロスタイム中に近くの共学校を訪れました。そこで、自分と同じくロスタイム中に動ける少女・篠宮時音に出会うのでした。
その出会いから、2人の間だけで起こっているこの現象を突き止めようと、2人で街に繰り出すのでした。
なぜ、孝司と時音しか行動できないのか。なぜ、終わったあとはそれまでの行動がリセットされるのか。そもそも、ロスタイムの原因とは……?
お互いが持っている知恵を合わせながら、原因を突き止める2人。「時間が止まっているから、この時間だけ、2人だけがとてつもない速さで動いている」と考える孝司に、時音はある方法でこれを否定。その後も、「ロスタイムは一種の並行世界」という可能性を考えますが、記憶だけが残っていることの説明がつかず、2人の推理は難航します。
孝司と時音が考えを巡らせる姿も、『初恋ロスタイム』の見所のひとつです。この現象はなんなのか、一緒に考えてみると面白いかもしれません。ロスタイムの正体は、物語の終盤で明らかになっていきます。
孝司は、ずっと勉強詰めだった16歳の男子高校生。男子校に進学したこともあり、女子との縁が一切ありませんでした。限りある高校生活に焦りを感じた孝司は、なんとか女子とお近づきになりたいと考え、ロスタイムを利用して女子と触れ合おうと考えます。
そのロスタイムのなか、孝司が出会ったのが本作のヒロイン・篠宮時音。見た目は琥珀色の目をした美少女で、さらに名門校に通う秀才という、彼の人生では考えられなかったであろう人物です。初めは警戒されながらも、話していくなかで徐々に打ち解け、やがて恋心を抱くようになります。
しかし孝司にとっては初めての恋も同然。何度も悩みます。
ロスタイム中の友達でしかない時音に恋をしてもいいのか。リアルで会ったら拒絶されるのではないか。名門校に通う時音と自分は釣り合わないのではないか……と、さまざまなことに悩みながらも、孝司は時音との距離を縮めるために試行錯誤します。
青春時代を思い出すような孝司の行動は、つい応援したくなってしまうでしょう。思春期真っただ中の2人による、くっつきそうでくっつかない、そんなもどかしい王道ストーリーは、本作の魅力の1つといえるでしょう。
本作に登場するキャラクターのセリフも、本作の魅力の1つ。胸を打つよう名言を、いくつかご紹介します。
「わたし? わたしはそういうのはないよ。
いつも一瞬に全てを賭けて生きてるから。刹那主義ってやつ?
宵越しの銭は持たないと決めてるの」
(『初恋ロスタイム』より引用)
進路相談がうまくいかない孝司から、将来の夢を聞かれた時音が返した言葉です。フランクな時音らしさを感じられるセリフであり、終盤の展開につながるキーフレーズでもあります。
「いまだって痩せ我慢は続けてる。
あたしはそうやって自分のイメージを守ってきたわけ。
だから積み重ねてきたものを奪われるのが、何より辛い。それだけよ」
(『初恋ロスタイム』より引用)
孝司の姉・綾芽に「みんな姉さんみたいにわかりやすかったらいいのに」と言った後、彼女から返ってきた言葉。孝司は初めて、姉が己のプライドを守るために努力を隠し、涼しい顔をしていたということを知ります。
それから、時音の秘密を知ってしまい悩んで行動せずにいた自分の考えを改め、時音を救うため奔走することになるのです。
「人が人を救うことには、理由なんていらないの」
(『初恋ロスタイム』より引用)
引き続き、孝司に投げかけられた綾芽の言葉をご紹介します。この言葉をキッカケに、孝司は自分にできることをやろうと走り出します。ここから、物語は怒涛の展開をくり広げていくのです。
期末テストで学校が早く終わった日、孝司はロスタイムまでの時間を潰すため、街中へと繰り出します。そこで見かけたのは、まだ授業中のはずなのに、学校とは違う方角から歩いてくる時音の姿。これを機に、孝司は時音の抱える「秘密」へと迫ります。
姉の助力もあり、秘密の正体を知った孝司。時音のことを救おうとしますが、彼の思いとは裏腹に、時音からは「もう会うのは終わりにしよう」と告げられてしまいます。
そして彼女からは「ロスタイムに巻き込んでしまって申し訳ない」という言葉が……。
- 著者
- 仁科裕貴
- 出版日
- 2016-01-23
時音を救うため、孝司はひとつの解決へのカギをみつけ、実行することに。それはロスタイムのなかで見たある「違和感」によって気づいたものでした。
自分にできる全力を尽くした孝司は、ロスタイムの長さが段々と短くなっていくのを実感します。孝司と時音だけにこの現象が起きていた理由も明かされ、話は予想だにしていなかった方向へ転がっていきます。
時音に隠された秘密とは……?物語は、どんな終結を迎えるのか。息もつかせぬ展開で話が進み、読む者の感情を揺さぶります。ラストは、涙なしで読むことはできないほど心が締め付けられるでしょう。
最後まで読んだあと『初恋ロスタイム』というタイトルに、読む前とは違った印象を抱くかもしれません。
ある男子高校生の初恋の様相を描いた『初恋ロスタイム』。まさに今、思春期を迎えている人でも、青春の過ぎ去った大人でも楽しめる一冊に仕上がっています。