Web少女漫画誌「comicフレーバーズ」で連載されている、六多いくみの作品。お洒落に気を遣ってこなかったアラサー女子の主人公が、同年代の意識高い女子と相互に影響し合い、人間的に磨きをかけていく成長ストーリーです。
失業中だった浅黄秋(あさぎ みのり)は、不幸に追い打ちをかけられるように同棲中の彼氏に浮気され、失意のどん底にいました。
そんななか従兄の山田冬磨(やまだ とうま)がマスターを務めるバーで飲んでいると、いろいろな意味で惨めな自分と違って、キラキラ輝く意識高い系の青井春乃(あおい はるの)と出会います。
- 著者
- 六多いくみ
- 出版日
- 2018-07-09
春乃に言われた「みっともない」の一言で、秋は奮起。彼女はがむしゃらに職探しに勤しみ、その結果とある化粧品会社のデザイン部の派遣に受かるのです。
しかし、そこは奇遇にも春乃の勤める会社でした。教育担当になった彼女は、密かに狙う冬磨に口添えする見返りとして、秋へ自分磨きの方法を伝授することを持ちかけるのです。
可愛いは作れるのよ?
知りたくないの? 作り方
(『カワイイ私の作り方』1巻より引用)
秋は春乃に教わりながら、身も心も別人へと変化していきます。そして、春乃の方も秋のひたむきな性格に影響され、少しずつ丸みのある人間になっていくのです。
物語は一見すると、高飛車で意地悪な春乃が面白半分に秋を導いているように見え、春乃の思惑がどこにあるのか不明瞭です。しかし作者曰く、本作は「女子同士の成長ストーリー」なのだそう。
そう意識して読むと、変化の大きな秋に隠れがちですが、春乃の方も当初はお高くとまった鼻持ちならないキャラだったのが、段々と人間的な厚みのある女性になっていくのがわかります。
社会で働く大人の女性の成長というのが、本作を楽しむ1つ目のポイントなのです。
2つ目は、化粧品メーカーに勤めていた経験があるという作者・六多いくみによる各種メイク、スキンケアのテクニックにあります。
女性でも、ちゃんとした技術を誰かに教わる機会というのは、意外とないのではないでしょうか?その点、本職を現場で経験した作者によって、漫画というわかりやすい表現でテクニックを学べるというのは大きなポイントといえるでしょう。
浅黄秋、27歳。冴えないアラサー主人公の彼女が、春乃の指導や仕事を通じて、徐々にステップアップしていく様子が面白い作品なのです。
デザイン部に配属早々、秋は仕事を1件仕上げます。速さといい完成度といい、申し分ない出来映えではあったのですが、女性向けコスメ商品のPRとしては文章の硬さやフォントの選定に、やや難がありました。
秋は部署内での数少ない男性社員・夏樹友介(なつき ゆうすけ)の完璧な修正に感動するものの、つい「自分より女性らしい」と僻みに聞こえる言葉を漏らしてしまいます。
無意識とはいえ、彼へ言ったことへの自己嫌悪に陥る彼女に、春乃がそっと入れ知恵するのです……。それはただ謝るだけでなく、次に繋げるための、可愛げのあるコミュニケーションのやり方でした。
- 著者
- 六多いくみ
- 出版日
- 2018-07-09
意識して、可愛げを作る。それによって自分と他人の関係を円滑に繋げ、気持ちよく過ごすテクニックが描かれます。意識1つで立ち居振る舞い、印象ががらっと変わるというのが驚きです。
一歩間違えば媚びスレスレの言動になってしまいますが必要なのは気の持ちようだけなので、かなり実践的といえるでしょう。
夏樹との微妙な関係もここから始まるので、恋愛面も見逃せません。
誰が言ったか「髪は女の命」という言葉があります。実際に命に関わるかはともかく、女性の印象を大きく変える重要な部分であることは間違いありません。
秋はカットも適当なら、手入れも雑。そのせいで貧相に見えてしまっています。一方の春乃は、その美貌でまだ手をかけるかというほど、念入りにヘアケアをおこないます。
シャンプーの前には粗めのブラシで髪をほぐすところから始まり、仕上げにはヘアオイルを馴染ませたうえで、乾燥と髪が傷むのを防ぐためにナイトキャップで就寝するのです。
シャンプーの仕方だけでも細かく説明されるので、なんとなく頭を洗っている方は目から鱗が落ちるかもしれません。
そして美容院でのカットは、下手に自分で考えるより、敏腕プロに委ねてしまうことの大事さも描かれます。普段のお手入れに加えて、その人にあったぴったりな髪型にしてもらうことで髪の美しさは2倍にも3倍にもなるわけです。
このエピソードは3話ですが、3話の後には髪に関するワンポイントアドバイスも載っています。ぜひご確認ください。
立ち居振る舞いを見直し、美容院に行き、服装もいいものを購入した秋。外見につられて、内面も徐々に華やかになっていきます。春乃と行動することの増えた彼女は、洗面所での化粧直しを見ながら、自分はしたことがないと告白しました。
メイクポーチも持ち歩かず、化粧直しの経験もないという彼女に、春乃は愕然。そこから始まるレッスンは、まさに必見です。アイブロウペンシルとマスカラ、チークとリップで、目元と頬と唇の3点を直すだけで劇的に変わるテクニックが披露されます。
ただ、化粧直しについては、あくまでも練習あるのみ。要点を押さえれば簡単に出来ますが、仕上がりのよさには熟練の手並みが要求されます。その点もきちんとフォローされており、毎日の化粧落としの前に、安価なコスメで練習することが勧められています。失敗してもメイク落としすればいいだけ、というスゴ技。
人との付き合いで、顔というのは非常に重要な要素。常に美しく保つというのが外見だけでなく内面にも影響してくるというのが、物語からよく伝わってくるでしょう。
春乃の影響で心身ともに変わっていった秋は、仕事もバリバリこなして充実した生活を送るようになります。その一方で、私生活が段々と疎かになっていき、体調不良で倒れてしまうのです。
原因は、美容にかかりきりになったせいで、充分な食事・栄養接種を怠っていたためでした。仕事に加えてヘアケアやスキンケアなどなど、やることが山積み状態だったのです。
そこで春乃から明かされるのが、美容に手抜きをするという驚きのテクニック。オールインワンを謳った時短コスメアイテムを揃えておき、洗顔や保湿、ベースメイクをそれぞれ1種類ずつでやってしまいます。こうしてケアの簡易、代替手段を用意しておいて、状況に応じて切り替えるのです。
カワイイ私の作り方 (2) (ニチブンコミックス)
2019年02月09日
美容は普段から心がけるのが大切ですが、そればかりに時間を取らられると、かえってストレスに繋がってしまってよくありません。継続のためには、こうした手抜きも必要なことが春乃の口から語られます。
こうした意外な切り口は、やはり元プロならではなのではないでしょうか。読むだけで勉強になります。
また、公私ともに秋と夏樹が急接近していくストーリーにも要注目。かなりいい仲に発展しているように見えますが、果たしてすんなりいくかどうか……。
秋にとって厄介な恋のライバルが現れる予兆もあり、ラブストーリーにも一波乱ありそうです。
いかがでしたか?本作は女性はもちろん、女性の日々の努力を知りたい男性にもおすすめ出来る美容漫画となっています。