仕事のこと、お金のこと、人付き合いについて。たとえ1つ1つは瑣末なことであっても、日々の不安は積もり積もって、やがて無視できない存在となっていきます。そんな不安に押しつぶされそうになったときは、とりあえず上を見ずに下を見ましょう。そして気持ちを落ち着けてから、これからについて考えましょう。それでいいのです、きっと。
26歳になる年は「アラサーに突入だ!」とは言ったものの、まだまだ若いつもりでした。20代半ばだし、気楽なものだったのです。
しかし、そんな私も今年で27歳。いや、たった1歳しか違わないじゃん、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この1歳の差が意外と大きい。なんたって、もう20代半ばではありません。20代後半です。これで名実ともに、立派なアラサーの仲間入り。
そうなってくると、いや〜な現実問題にも、目を向けざるを得ません。まったく貯金をしていない私の将来はどうなるのか、そもそも貯金をできるほどの余裕がない現状をどうするか、仕事はどうするべきか、健康保険は……。
たとえ1つ1つは小さなことでも、積もり積もると無視できません。そのせいなのか、最近、睡眠の質が著しく低下しています。誰かに追われる夢を毎晩のように見て(鎌や日本刀など、もれなく巨大な刃物を持っている)、朝起きれば歯が痛い。きっと緊張と恐怖から、歯を食いしばっていたのでしょう。起きた瞬間は、寝ない方がマシだったと思えるほどに疲弊していることもしばしばです。
不安が夢に反映されるようになると、眠りが浅くなるため体にも影響が出てきます。常にダルさを感じるようになり、食が細くなりました。そして夜眠りに着くと、また悪夢を見て……と無限ループがくり広げられるのです。寝ても覚めても地獄。
そんな状況に危機感を抱いて、まず私がしたことは、とりあえず自己暗示をかけることでした。
貯金はないため最低限の暮らしであることは否めませんが、とりあえず死ぬことはない、と自分を落ち着かせます。死なないから大丈夫、死なないから大丈夫、死なないから大丈夫……と自分に言い聞かせるのです。
その後、この金なら削れるかも?と現実的なところに目を向けます。まずは気持ちを落ち着かせないと、考えられることも考えられません。そして仕上げに、町田康の『夫婦茶碗』を読んだのです。
本作の主人公は、金がない、仕事もない、うるおいすらないと、ないない尽くしの男。ひょんなことから家の内装・修理の仕事に就くことになるのですが、そこも早々と辞めてしまう始末です。そんな彼に、妻は当然のごとく愛想を尽かしてしまいます。
そして、その後に彼がとった行動はメルヘン作家……つまり絵本作家を目指すというものだったのです。
- 著者
- 町田 康
- 出版日
- 2001-04-25
塗装の仕事で10万円の貯金ができて夫婦仲もよくなったのに、なんで急にメルヘン作家?彼の頭には、「子熊のゾルバ」が冒険する物語を描いて、大儲けすることしかありません。挙句の果てに有り金を全部はたいて夫婦茶碗を買い、そこに緑茶(しかも安くないやつ)を入れ、願を懸けながら茶柱を立てようと奮闘します。これぞ、現実逃避。
さすがに、これよりはマシ!本作を読んだことで、私は少しの勇気を手に入れたのでした。言い訳ばかりで働くこともせず、現実的ではない方法での金儲けを企み、子供が産まれてもそのスタンスを崩さない男。何かとダメダメな私でも、きっとこの主人公よりは幾分まともでしょう。
不安に襲われるときは、周りと見比べて、自分のダメなところについ目がいくもの。そんなときには1回、上ではなく下を見てみてはいかがでしょうか。これよりはマシ!と、自分の気持ちを落ち着かせることができるかもしれません。まぁ、自分もいつかこうなるのでは、という考えに至ったら最後ですが……。
町田康の独特の文体によって、暗い内容にも関わらずコミカルに仕上がっているところもおすすめのポイント。こんなやつでも生きていけるんだなぁ、と笑いながら、そしてちょっと恐ろしさを感じながら、それでいてほんの少しだけ力をもらえる一冊なのです。
自己暗示が功を成してか関係ないのか、とりあえず悪夢を見る頻度は少し減りました。しかし未だに、知っている土地(しかし天気は曇り空で、知っているはずなのに、どこか違っている風景)で刃物を持った男に追いかけ回される夢を度々見ます。
夢占いに詳しい方。これは何を暗示しているのか、ぜひ教えてください……。
困シェルジュ
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