1994年から15年という長きにわたって刊行された「夢水清志郎」シリーズ。はやみねかおるの超人気児童向け推理小説です。この記事では、登場人物や心に残る名言、そして世代を超えて読み継がれる名作の魅力を紹介していきます。
児童向け推理小説「夢水清志郎」シリーズ。作者は三重県出身の男性作家、はやみねかおるです。本シリーズは1994年に1作目の『そして五人がいなくなる』が刊行され、2009年に全12巻で完結。その後2011年からはセカンドシーズンが始まっています。
シリーズの累計発行部数はなんと360万部を突破する大人気作。対象年齢は小学校高学年以上ですが、漢字にはルビが振ってあるので、小さい子どもでも読みやすいでしょう。
物語は、三つ子の三姉妹、岩崎亜衣・真衣・美衣の家の隣に、謎の元論理学教授、夢水清志郎が引っ越してきたところから始まります。名探偵を名乗る夢水清志郎は、ひとたび事件が発生すれば、驚きの推理力で誰よりも早く真相にたどりつくのです。
夢水清志郎(ゆめみずきよしろう)
本シリーズの主人公で、自称名探偵。探偵の美学は「みんなが幸せになるように事件を解決すること」です。元論理学の教授だったため、岩崎三姉妹からは「教授」と呼ばれています。探偵としては一流ですが、一般的な常識がなく、自分の年齢や生年月日、過去に解決した事件などは覚えていません。
岩崎亜衣(いわさきあい)
「夢水清志郎」シリーズの語り手役で、岩崎家の三つ子の長女。教授の「飼育係」を自称しています。しっかり者の心配性で、推理小説が大好きな女の子です。教授が引っ越してきた時は、中学1年生でした。
数々の男の子にラブレターを貰うモテっぷりですが、本人は鈍感で、同級生の中井麗一からデートのお誘いがあっても気がつきません。
岩崎真衣(いわさきまい)
岩崎家の三つ子の二女で、教授の「保護者」を自称しています。体を動かすことが大好きな、さっぱりとした性格。姉や妹と同様に外見は可愛いのですが、少々がさつな一面があるのが特徴でしょう。
岩崎美衣(いわさきみい)
岩崎家の三つ子の末っ子で、教授の「しつけ係」を自称しています。ちょっと天然ボケなところがある甘えん坊で、三姉妹のなかでは教授の影響を1番受けやすいです。「運動神経を全部真衣にとられた」と疑うほどの運動音痴です。
中井麗一(なかいれいいち)
三姉妹の同級生で、亜衣とは中学3年間ずっと同じクラス。「レーチ」と呼ばれている男の子です。亜衣に好意を抱いています。
レーチの由来は知識がゼロを指す「零知」から。ずぼらな性格で校則違反をし、周りの女子からは野蛮人と呼ばれています。しかし実は頭脳明晰。夢水清志郎を尊敬し、自ら第一助手を名乗っていて、事件解決にもひと役買っています。
上越警部(じょうえつけいぶ)
夢水清志郎や岩崎三姉妹と仲のよい、小太りな中年警部です。当初は夢水清志郎のことを嫌っていましたが、やがてその高い推理力を評価するようになりました。
岩清水刑事(いわしみずけいじ)
上越警部の部下で、おしゃれな刑事。仕事熱心ですがいつも空回りで、すぐに拳銃や手錠をちらつかせてきます。かなり自信過剰なタイプで、夢水清志郎とは仲よくありません。
数々の名言が登場する「夢水清志郎」シリーズですが、もっとも重要なキーワードは「幸せ」でしょう。夢水清志郎はいつもみんなが幸せになることを1番に考えた行動をとる人物なのです。
「ぼくは名探偵です。みんなが幸せになれるように事件を解決してみせますよ」
これは、夢水清志郎がシリーズをとおしてくり返す言葉。彼にとっては、ただ素早く事件を解決することだけが名探偵の仕事ではありません。名探偵を名乗るのであれば、犯人を裁くだけでなく、事件に関わったすべての人たちがこれからの人生を幸せに生きていけるように配慮しなければならないのです。
「夢水清志郎」シリーズ1作目の『そして五人がいなくなる』にも、印象深いシーンがあります。「昔の子供と今の子供、どっちが幸せだと思う?」という質問に対し、夢水清志郎は「どっちも幸せだよ」「いつの時代だって子供は幸せなんだ。幸せでなくちゃいけないんだ」と答えるのです。
作者のはやみねかおるによる強い想いも感じることができるでしょう。
「夢水清志郎」シリーズの記念すべき1作目です。岩崎家の三姉妹である亜衣・真衣・美衣の家の隣に、自称名探偵の夢水清志郎が引っ越してきます。ある日4人は、アミューズメントパークを訪れました。
そこで手品ショーの最中に、ひとりの少女が空中で消えるのを目撃します。少女は近く世界的なコンクールに出場する予定のある、天才ピアニストでした。彼女を消した「伯爵」と称する仮面の男は、その後も大胆な手法で、天才と名の付く少年少女をたちを次々に誘拐していくのです。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 1994-02-15
無事に謎を解いた夢水清志郎は、なぜか口を閉ざしてしまいました。それは、犯人の動機が「思うように遊べない天才児たちに夏休みをプレゼントしたい」という優しさだったからです。
「夢水清志郎」シリーズは、三姉妹が変人の夢水清志郎を「世話する」コメディ要素もありますが、ミステリーの醍醐味である謎解きや事件の真相などもしっかりと描かれているので、読みごたえがあるでしょう。本格推理小説の入門編としてもおすすめです。
『機巧館のかぞえ唄』は、「夢水清志郎」シリーズの6作目。3つの短編から成っています。メインは第2部の、「霧に包まれる機巧館(からくりやかた)」。
夢水清志郎一行は、ある推理作家のパーティーに招待され、館を訪れました。しかしパーティーの最中に、ホストである推理作家が忽然と消えてしまうのです。机には『夢の中の失楽』という題名の推理小説が残されていました。
やがて作中のかぞえ唄のとおりに、見立て殺人が起きてしまい……。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 1998-06-16
凝った叙述トリックと、夢なのか現実なのかわからないような終わり方をしていることから、シリーズのなかでは異色と呼ばれている一冊です。そのトリックは大人が読んでも難解でしょう。
「この世界が本当に現実だといえるのか」というテーマは小学生には少し難しいかもしれませんが、正解のない「解釈を考える読書」というのも大切な経験になるのではないでしょうか。
『人形は笑わない』は「夢水清志郎」シリーズの7作目。物言わぬ人形たちの物語です。
G県にある小さな村、毬音村の伝説を取材することになった、夢水清志郎。夜更けに「歩く人形」が目撃されるこの村では、なんと天才人形師の栗須寧人が作った「人形の塔」から会社の社長が転落死、さらに寧人の孫が人形に切られるようにして死んでいたのです。
その一方で文芸部の部長である亜衣は、何とかして部費を調達しなければならず、レーチの提案で映画製作をすることになりました。
三姉妹は夢水清志郎の取材に同行するのですが、夜の撮影でついに「歩く人形」に遭遇し……。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 2001-08-24
本作は、自分の作った人形で自殺を図る、悲しい人形師のお話です。しかし最後は優しい気持ちになれるミステリーとして完成しているのが「夢水清志郎」シリーズの特徴でしょう。
また映画製作をする亜衣たち文芸部メンバーの青春物語も展開し、爽やかな印象を与えてくれる一冊です。
亜衣・真衣・美衣たちの卒業が間近に迫る季節。彼女たちの通う虹北学園の古い木造校舎にあった「開かずの教室」を、なんとレーチが開けてしまいました。内側から大量のお札が貼られていたのですが、「夢喰い」の封印が説かれ、40年前の亡霊がさ迷い歩きます。
このままみんなの夢は「夢喰い」に食べられてしまうのでしょうか。名探偵夢水清志郎、最後の謎解きです。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 2009-03-14
『卒業』は、「夢水清志郎」シリーズの12作目、最終巻になります。亜衣たちは、かつて姿を消したというひとりの学生の事件について、真相を探ろうとします。その謎を解明することは、卒業を控えた彼女たちの「夢」を守ることでもあったのです。
三姉妹もとうとう中学校を卒業し、高校からは別々の道を歩むことになります。レーチもフランスへ留学することになりました。これから大きく羽ばたいていこうとする子どもたちへ、夢をもつことの大切さを教えてくれる一冊です。