SF関連の作品や活動に贈られる「星雲賞」。日本でもっとも歴史の長いSF賞です。この記事では、「日本長編部門」の歴代受賞作のなかから、特におすすめの作品をご紹介します。
1970年から続く、日本でもっとも古いSF賞「星雲賞」。名前は、日本で初めて創刊されたSF雑誌の「星雲」に由来しています。全国のSFファンや同人サークルが集う「日本SF大会」というイベントで、ファン投票によって選ばれるのが特徴です。
当初は、小説と映画演劇に関する部門のみでしたが、2019年現在は「日本長編部門」「日本短編部門」「海外長編部門」「海外短編部門」「メディア部門」「コミック部門」「アート部門」「ノンフィクション部門」「自由部門」と、さまざまな分野に分かれています。
SF作品に贈られる他の賞に、日本SF作家クラブが主催する「日本SF大賞」がありますが、こちらは選考委員による討議で受賞作が決定。両賞をともに受賞した例はほとんどありません。読み比べてみるのも楽しいでしょう。
舞台となっているのは2020年の近未来。主人公は、「メテオ・ニュース」という流れ星の発生を予測するWebサイトを運営している木村和海です。
ある日和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目が、おかしな軌道を描いていることに気付きました。天才的ITエンジニアである沼田明利の協力を得て、データを解析していきます。しかし、やがて国際的なスペーステロへと巻き込まれていってしまうのです。
- 著者
- 藤井太洋
- 出版日
- 2016-05-10
2015年に「星雲賞」を受賞した藤井太洋の作品です。まったくの民間人が、趣味がきっかけで得た情報から宇宙を舞台にしたテロの兆候を見つけ、あらゆる手を用いて阻止しようと奮闘します。
スマートフォンやシングルボードPCなど、身近なデジタルガジェットが「そう来たか」と思わせる使い方をされるのが見どころ。イラン、アメリカ、北朝鮮、中国の思惑が絡みあい、壮大な物語が展開されていきます。
スピード感のある文章で、一気読み必至。「星雲賞」のほかに「日本SF大賞」、「ベストSF2014」にも選ばれた、読んでおきたい一冊です。
膨張している宇宙空間を泳いでいる、「カイアク」。しっぽが何かに引っかかり、動けなくなってしまいました。多次元空間にまたがって存在しているカイアクの頭が現れたのは、2014年の北アルプス。コロロギ岳のコロナ観測所です。
一方のしっぽは、2231年の木星前方トロヤ群、小惑星アキレスの近く。そこでは放置された宇宙戦艦に忍び込んだ2人の少年が、脱出できなくなって助けを求めていました。
コロナ観測所で太陽の研究をしている天文学者の岳樺百葉は、カイアクを通じて200年後の少年たちの危機を知り、なんとか助けようとします。
- 著者
- 小川 一水
- 出版日
- 2013-03-29
2014年に「星雲賞」を受賞した小川一水の作品です。「カイアク」という不思議な存在が、200年の時を超えて2つの次元を繋ぐエンターテイメントになっています。
地球と木星、現代と未来という、距離も次元も離れた2つの場所のやり取りが見どころ。時間を空間的に認識するカイアクを通して、いかに少年たちを救えるか頭を悩ませていくのです。
過去の行動が未来を変えるという設定のため、因果連鎖を繋げていくロジカルな描写がありつつ、難しい専門用語はほとんど使われていないのが嬉しいところ。半分は現代が舞台なので、SF作品初心者でも読みやすいでしょう。
舞台は19世紀末。ヴィクター・フランケンシュタイン博士が生み出した屍体の蘇生技術が確立し、世の中の労働や産業は屍者が支えていました。
ロンドン大学で医学を学んでいるジョン・H・ワトソンは、政府の諜報機関に勧誘され、カラマーゾフという男の極秘調査をすることになります。カラマーゾフはアフガンの北方に、「屍者の王国」を築いているというのです。その王国では、人間と同様の俊敏さをもつ新型の屍者が活動をしていました。
さらにワトソンは、ヴィクターが創造した最初の屍者「ザ・ワン」が生存していることを知り、人造生命創造の秘密が記されている「ヴィクターの手記」を探すことになります。
- 著者
- ["伊藤 計劃", "円城 塔"]
- 出版日
- 2014-11-06
2013年に「星雲賞」を受賞した伊藤計劃と円城塔の共著です。伊藤計劃は2007年に作家デビューをしたものの、わずか2年ほどで早逝した作家。デビュー作の『虐殺器官』はさまざまな文学賞にノミネートされ、その後に発表した『ハーモニー』は「星雲賞」「日本SF大賞」などを受賞しました。
本作『屍者の帝国』が未完成のまま亡くなったため、親交の深かった円城塔が遺族の承諾を得て書き継ぎ、刊行にいたりました。「屍者蘇生技術」を軸にしたスチームパンクSFになっていて、人の命とは何なのか、意識とは何なのかを読者に突き付けます。
主人公のワトソンをはじめ、彼に同行するフライデーやフランケンシュタイン博士、カラマーゾフ、山澤静吾や寺島宗則など、有名作品や歴史上に実在する人物が多数登場。随所に仕掛けられたオマージュを楽しむことができます。
頭上に地面、足下に空が広がる、重力が逆転した世界。うっかりすると空に向かって無限に落ちていってしまうという、過酷な状況です。人々は、わずかな資源を分けあってギリギリの状態で暮らしていました。
村から略奪行為をくり返している「空賊」、彼らの取りこぼしを糧にしている「落穂拾い」がおり、主人公は4人組落穂拾いのリーダー、カムロギです。彼は、こんな世界はおかしい、どこかに人間が本来住むべき世界があるはずだと考え、「地国」と呼ばれるユートピアを目指します。
- 著者
- 小林 泰三
- 出版日
- 2011-04-30
2012年に「星雲賞」を受賞した小林泰三の作品。2002年に発表した短編集『海を見る人』内で描かれた「天獄と地国」を長編化したものです。
短編では重力が逆になった世界観のみが描かれていましたが、本作では世界の勢力図や超古代兵器を武器にする帝国、ロボットバトルを含んだ大冒険譚になっています。特に重力が逆転している状態での戦いの描写は迫力があり、見どころです。
果たして主人公たちは、重力が地に向かって働く「地国」に辿り着くことができるのでしょうか。
時は2025年。燃料問題を機に各国は平和路線をとり、海底にドーム型の都市が建設されるなど、技術が進んだ近未来が舞台です。
極限の環境下での建設事業を得意とする御鳥羽総合建設の青峰走也は、大手レジャー企業から建設計画を請け負いました。工期10年、予算1500億円で、月に結婚式場を作るというのです。
しかしいざ現地調査に赴いてみると、そこは想像を絶する過酷な環境で……。
- 著者
- 小川 一水
- 出版日
2004年に「星雲賞」を受賞した小川一水の作品です。タイトルは、月を地球の5大陸に続く6つ目の大陸として位置つけたもの。「どんなところにでも建造物を建てる」とし、主人公が月面開発に挑みます。
「もしも」のこととして誰もがイメージしやすい月面開発。しかし実際にはさまざまな障害が立ちふさがります。資金の調達、各国の利権、法律関係、そしてもちろん技術的な問題……。計画をなんとか遂行しようと奮闘するさまと、民間のプロフェッショナルたちの仕事ぶりが見どころでしょう。