「和製スタンド・バイ・ミー」といわれることもある児童文学小説『夏の庭』。どちらの作品も、少年時代に出会う「死」をとおして成長していく子どもたちの姿をいきいきと描いています。この記事では、あらすじや主題、読書感想文におすすめのテーマ、映画「スタンド・バイ・ミー」との共通点などをわかりやすく解説していきます。
1992年に刊行された児童文学『夏の庭』。作者は湯本香樹実です。数々の権威ある賞を獲得し、映画化や舞台化、ラジオドラマ化されたほか、十数ヶ国で翻訳出版されています。
小学6年生の夏休み、「死」に興味を持った3人の少年と、生きる屍のような老人との奇妙な交流が描かれています。しかし夏休みがもうすぐ終わるという時、老人の「死」によって、彼らの関係は唐突に終わりを迎えるのです。
「死」という重たいテーマを扱っていながら、読後感は不思議と爽やか。多感な子どもはもちろん、大人も感動できる物語になっています。
- 著者
- 湯本 香樹実
- 出版日
- 1994-03-01
小学6年生「ぼく」こと木山は、クラスメイトであるデブの山下、メガネの河辺といつも一緒にいました。山下の祖母の葬式をきっかけに、人の「死」について興味を抱きます。そして、もうじき死ぬのではないかと噂されている、街はずれに暮らすおじいさんを観察するようになりました。
もう7月だというのに、おじいさんは毎日こたつに入ってテレビばかり観ています。割れた窓ガラスには新聞紙が張りつけられていて、部屋にはゴミが散乱。まるで生きる屍のようでした。
しかし、少年たちから見られていることに気付いたおじいさんは、だんだん元気になっていきます。こたつをしまい、ゴミを捨て、庭にはコスモスの種を植えて手入れを始めるのです。
夏休みになると、少年たちはおじいさんと会話を交わすようになります。やがて洗濯や草むしりを手伝うようになり、4人の距離は徐々に縮まっていきました。
とある台風の日、庭に植えたコスモスが心配になった3人は、おじいさんの家へと向かいます。そこで、かつての戦争の話を聞きました。おじいさんが妊娠している女性を殺してしまったこと、死体に触った時にお腹の子どもが動いたこと、戦争が終わった後に妻が待つ家には戻らず、行方をくらませたこと……。
少年たちは、古香弥生という名前を頼りに、おじいさんの妻を探すことにします。とある老人ホームにいることがわかり、訪ねてみますが、彼女は要領を得ないことばかり話し続けるのでした。そこで3人は、近所に住むおばあさんに妻のフリをしてほしいと頼みこみ、おじいさんと会わせることに。おじいさんはすぐに別人だと気付きましたが、楽しそうに会話をしてくれました。
8月最後の週。サッカー教室の合宿から帰ってきた少年たちがおじいさんの家に行くと、そこには横たわって死んでいるおじいさんがいました。すっかり仲良くなっていたので、少年たちは現実を受け入れることができません。
季節が進み、10月。もうすぐ取り壊される予定のおじいさんの家の庭には、小さなコスモスがいっぱい咲きました。少年たちはそのコスモスを摘み取り、庭を後にするのです。
そして小学校の卒業式の日がやってきました。ぼくは私立の中学校へ、山下は公立の中学校へ、そして河辺はチェコへ行くことになり、3人の進路はバラバラです。しかし別れの時の彼らはとても満足そうで、晴れやかな顔をしています。また会おうと約束をして、全速力で駆け出すのでした。
少年たちがおじいさんを観察し始めた理由は、「人の死を見てみたい」という不謹慎なもの。結果的には当初の目論見どおりおじいさんの「死」を見ることになるのですが、それは彼らの予想をはるかに超えて、驚きと悲しさに満ちていました。
しかしこの経験が、少年たちの心をひと回りもふた回りも大きく成長させます。ただ「死」に興味があったころの面影はなくなり、ポジティブな発言や、晴れやかな表情の描写が多くなっていくのです。
少年たちはそれぞれ、家庭内に問題を抱えています。それはいますぐ危機的な状況に陥るような深刻なものではありませんが、それでも確実に彼らの心を暗くしていました。
おじいさんの死後も根本的な問題は解決はしませんが、少年たちは「おじいさんだったらどうする?」と考え、前向きに捉えられるようになるのです。
『夏の庭』の主題は、「死」や「家庭環境」など数々のポイントを乗り越えた少年たちの「心の成長」だといえるでしょう。
小学生や中学生の読書感想文の課題として、頻繁にとりあげられている『夏の庭』。感想文を執筆する際のおすすめのテーマ例をいくつか紹介していきます。
このほかにも、読んだうえで少しでも目に留まるエピソードがあれば、読書感想文のテーマとしてぜひ採用してみてください。自分の経験や、日頃思っていることと関連付けながら書くとよいでしょう。
近代小説の巨匠スティーヴン・キングの短編小説を原作とし、1986年に公開されたアメリカの映画「スタンド・バイ・ミー」。子どもと大人の境界線で揺れ動く少年たちを描いた、言わずと知れた名作です。
オレゴン州の田舎町に住む4人の少年は、ある夏の日、3日前に行方不明になっている少年が、列車にはねられて死体になっているという噂を聞きます。彼らは「死」に興味を抱き、好奇心から死体探しの大冒険へと出かけるのです。
『夏の庭』は「和製スタンド・バイ・ミー」ともいわれていて、両作には多くの共通点があります。
まず物語の舞台が「夏」であること。夏という季節は、子どもを成長させるエネルギーにあふれている一方で、切なさや哀愁も漂い、作品の雰囲気を決定づけています。
次に、子どもたちが「死」をきっかけに「成長」すること。あれだけ興味があった本物の「死」を見ることができたのに、なんともいえない感情に襲われる少年たち。「死」に触れたことをきっかけに、それまで心の内に秘めていた悩みや不満があふれ出すのです。
かけがえのない少年時代に、忘れられない経験を共有した彼ら。心の成長を遂げ、それぞれの進む道を選択していきます。
- 著者
- 湯本 香樹実
- 出版日
- 1994-03-01