ラノベといえば萌えなキャラとハイテンションな勢いと思うことも多いのではないでしょうか。実はそんなことはありません。しんみりと、せつなく、感動する、そんな作品もあります。「泣ける」と評判の恋愛ライトノベル作品を今回はご紹介します。
高校3年生の夏、篠原智は転校生の森山燐という少女と出会いました。微妙な時期に転校してきた燐の目的は文化祭でライブをすること。
智の高校はバンド活動禁止でしたが、燐は暴走機関車のような行動力で仲間を増やし、数多の壁を乗り越えてついにライブを成功させます。しかし、燐は不治の病を患っていて……。
- 著者
- 赤城 大空
- 出版日
- 2015-01-20
少しネタバレになってしまいますが、序盤でヒロインの燐は亡くなります。
燐亡きあと、家に引きこもっていた智は、久しぶりの外出の際に土手を転がり落ちた衝撃で、燐と出会う前にタイムリープしてしまいます。
本作は、燐と二度めの出会いを果たした智が、自身の気持ちに整理をつけるまでを描いた物語です。
タイムリープを扱っていますがSFとは言えず、バンド活動を描いていますが音楽ものとも言えない本作は、いわゆる難病ものと言うのが最もしっくりくる作品でしょう。ただ、本作が他の難病ものと一線を画す点は、主人公が、ヒロインが死んでしまうことを知っていることです。
ヒロインが死んでしまうことを主人公も我々読者もわかっているのです。変えることのできない未来があるがゆえに、ひとつひとつのセリフは重みを増し、青春まっただなかの高校生の冗談は空虚に響きます。
すべてのセリフ、描写が切ないのです。
タイムリープものに期待されるタイムパラドックスの説明やどんでん返しなどはありません。主人公が大好きな女の子に3ヶ月かけて別れを告げる話です。
シリアスで切ない、だけど読みやすい。そんな物語をご所望の方におすすめです。
舞台となるのは広島の全寮制高校です。主人公の松永四朗は理不尽な三人の姉に振り回される生活を抜け出すため、東京から一人その高校に入学することを選びます。初めての生活に心躍る四朗でしたが、彼のルームメイトとなった織田未来は、なんと女の子。彼女は性同一性障害を抱えていて……。
二人の奇妙な生活を描く、切ない青春ラブストーリーです。
- 著者
- ["森橋ビンゴ", "Nardack"]
- 出版日
本編は全部で6巻構成を取り、二人の出会いから高校卒業までの三年間が丁寧に描かれています。性同一障害である未来と秘密の共有という過程の中で、友情を育む四朗ですが、彼の中でどうしても未来は女の子であるという思いが捨てきれません。四朗は未来のことを、大切な男の親友であると思うと同時に、異性として意識してしまうのです。
未来からのずっと友達でいてほしいという最高の信頼に対して、四朗は恋心をひた隠しにしながら接するしかないという、つらいすれ違いが描かれています。性同一障害として抱える問題と思春期特有の心の動きを双方うまく捉えまとめられた作品です。
最終第6巻がファミ通文庫より出版されないということが一時ネットをざわつかせましたが、ファンの熱い声にこたえる形で第6巻の発売が決定したというエピソードがあります。
本記事でチョイスした作品はいずれもライトノベル史にその名を刻む名作ばかり。『この恋と、その未来。』もそれらも名作に比肩する傑作であることは読めばわかります。
人と吸血鬼という題材を使い、官能的な青春ラブストーリーに仕立て上げられた、石川博品による傑作ライトノベルです。
人と吸血鬼、この街において彼らは、昼と夜に別れ生活を営んでいます。人間の「山森頼雅」は、昼は学校に通い、夕方からは両親の営むコンビニを手伝う高校生。ある日彼は、夜の学校に通学する吸血鬼の少女「冴原綾萌」と出会います。住んでいる街も学校も、通学路も同じでありながらまったく異質な世界に生きる2人はやがて惹かれ合い、甘く官能的なラブストーリーが展開されていきます。
- 著者
- 石川博品
- 出版日
- 2013-07-29
人と吸血鬼が昼と夜に別れ、生活を営む街を舞台に描かれる本作は、ある意味、異文化交流を描いた作品ともいえます。互いの種族のことをよく知らない2人は、お互いがお互いのことを美化して様々な妄想をふくらませていくのです。
率直な文章で語られる彼らの想いは、読んでいて悶えるほど恥ずかしい内容であることも。しかも、吸血鬼という題材ならではの血液や汗、匂いなどの要素を上手く使った官能的な描写も多く、そういう意味では二重に身悶えできる内容でもあるでしょう。
読み終えた後には、恋をしたくなると話題の本作。血や汗の匂いなどのリアルで艶かしい描写で表現される恋の物語は、読者の心に強い印象を残すのかもしれません。身悶えするほどの甘酸っぱいラブストーリーを、あなたも体感してみませんか?
主人公の八重樫太一は、ある日突然驚きの話をされます。同じ文化研究部(通称文研部)に所属している桐山唯と青木義文が、「昨日魂が入れ替わった」と言ってきたのです。他の文研部員の永瀬伊織や稲葉姫子も、唯や義文の言葉をすんなりと信じることはできず、むしろふざけているのだと思ってふたりをちゃかします。
- 著者
- 庵田 定夏
- 出版日
- 2010-01-30
しかし、今度は太一と伊織の魂が入れ替わってしまいます。このことで唯と義文の話を信じたふたりでしたが、姫子はまだ信じきれません。そこで伊織と太一にそれぞれ質問を投げかけ、その反応から入れ替わっていることを確認しました。
結果、姫子も入れ替わりの話を信じるのですが、もちろん原因がわかるわけもありません。不可思議な現象に見舞われながら、文研部は何とか日常生活を送ろうとするのですが……。
「入れ替わり」というファンタジー要素が入っているものの、内容は少年少女の青春ストーリーです。
「『お』から始まる『アレ』を揉むたびに、こそばゆい感覚が自分に伝わってきている。つまりこれは、ただくっついているだけの飾りではなく――」(『ココロコネクト ヒトランダム』より引用)
主人公の太一が部員の女の子と入れ替わった直後に、動揺しつつも行うこの行動。思春期らしい、そして男性なら多くの人が夢想したであろうものに思わず笑えてしまいます。
一方で、部員たちの心の傷や悩みの心理的な描写も丁寧に書かれています。
「誰もわたしをわたしと気づいてくれなくなって……わたし自身にもわからなくなって……そんな……そんな風にして、わたしはこの世から消えてしまうんじゃないかなっ」(『ココロコネクト ヒトランダム』より引用)
シリアスのような雰囲気もありつつ、笑いと心理描写を巧みに使い、ぐいぐいと引き込まれて読むことができる本作品。最後まで一気に読んでしまうおすすめ恋愛ラノベです。
タイトルにもなっている主人公の1人、少女アリソンと、幼馴染の少年ヴィルが、敵対する2つの大陸の謎を解き明かします。アリソンとヴィルは様々な人と出会い、大陸のことだけでなく、自身達の秘密にも触れていく冒険物語です。
- 著者
- 時雨沢 恵一
- 出版日
世界は2つの大陸に分かれており、敵対していました。互いに忌み嫌う理由が存在し、どちらの大陸でも都合のいい正義が掲げられ、戦争が続いていたのです。
そんな中、主人公・アリソンとヴィルは、ホラ吹きと呼ばれるおじいさんから「戦争を終わらせることができる、それだけの価値がある宝」の存在を知らされます。アリソンは興味を持ちますが、おじいさんは役人と名乗る男性に連行されてしまいます。
2人はおじいさんは誘拐されたのではないかと疑い、犯人を追跡することにします。サバイバルが苦手なヴィルも、シリーズを通して銃を握るシーンが出てきます。
アリソンもヴィルも孤児として育ちました。彼らはそれぞれの信念のもと、行動を起こしていきます。正しいことはなんなのか、真実はどこにあるのかということを勇敢に知ろうとする姿に感動すること間違いなしです。
主人公の比企谷八幡は高校2年生。優秀な能力を持っている少年ですが、幼い頃から友達がおらず、また高校入学時に交通事故にあってしまったこともあり、友達のいない高校生活を送っています。そのうえ友達を作ろうという気さえなくして、とうとう「ひとりぼっち」を極めようとさえしてしまうのです。
- 著者
- ["渡 航", "ぽんかん8"]
- 出版日
そんな八幡を見かねたのが生活指導であり教師の平塚静でした。静は八幡をある所へ連れていきます。そこは「奉仕部」と呼ばれる、悩み相談所のような部活動でした。八幡はそこで、たったひとりの部員であり部長でもある雪ノ下雪乃と出会います。ひょんなことから美少女と出会うという今にもラブコメが始まりそうなシチュエーションなのに、なかなかそう上手くいかないのがこの物語です。
主人公の八幡は、自らが「ぼっち」であることに対してつらつらと理屈をこね、「リア充爆発しろ」と常々思っています。そのため「高校生活を振り返って」というテーマの作文では、静に「犯行声明か」と言われるようなものを書きあげてしまいます。
「青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。(中略)彼らは悪だ。ということは、逆説的に青春を謳歌していない者のほうが正しく真の正義である」(『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』より引用)
冒頭からかなり自虐的な印象を受ける八幡ですが、その思考にリアリティがあり、共感を覚えるものになっています。
ライトノベルというジャンルでありながら、高校生達の心理描写をもとに人と人とのコミュニケーションとは何かを考えさせられる、普遍的なテーマが盛り込まれています。
とはいえ、もちろんライトノベルらしく笑えるところやテンポの良い会話もたくさんあるので、気負うことなく読むことができます。「このライトノベルがすごい!」では1位を獲得したこともある実力派のライトノベル作品です。
神田空太は、水明芸術大学付属高校の2年生です。1年の頃は学生寮で生活していましたが、ペット禁止の寮で猫を飼っていたことがバレてしまい、学校から呼び出し。校長は空太に対し、「猫を捨てるか」、「さくら荘に住むか」の2択を突き付けてきます。「さくら荘」は学園の変人が集まるという悪名高いアパート。しかし大の猫好きである空太は、猫を捨てることなんかどうしてもできず、さくら荘への引っ越しを決意します。
- 著者
- 鴨志田 一
- 出版日
- 2010-01-10
そして空太が2年になった春、さくら荘に椎名まことという可愛く清楚な美少女が入居してきます。しかも彼女は世界的に活躍する天才画家でした。変人ばかりのさくら荘では少女が危ない、天才美少女を守らなくては!!と張り切る空太ですが、ましろについて衝撃的な事実が明らかになります。
彼女は、着替えも掃除もできない、すぐ迷子になる、勉強も苦手という、生活に関することは全く何もできない少女だったのです。空太はそんなましろの「世話係」に任命されますが、相手は何もできないことを除けば天才の美少女。着替えまで世話するのか!?と、健全な男子高校生である空太は動揺しますが……。
ヒロインのましろを始め、登場する女の子のキャラクターはどれも濃くて、いわゆる「萌え」が強調された雰囲気です。そんな個性的なキャラクターがたくさんいることもあって話のテンポは軽快で、ラブコメとしてさくさくと読み進めることができます。
一方で、高校生達の思春期特有の悩みや葛藤もしっかりと描かれており、青春ストーリーとしても読ませてくれます。主人公の空太は、自分の将来、自分が何をやりたいのかということに悩んでいます。
「芸大の付属校という少し特殊な環境のせいか、すでに将来の目標を見定め、そこに向けて努力を続ける生徒は少なくない。(中略)人生設計が明確な彼らとは違い、空太は進路調査を白紙で提出した」(『さくら荘のペットな彼女』より引用)
そんな平凡な主人公の隣にいるのは、天才のましろ。天才を前に凡人の空太は悩み、葛藤していきます。誰でも一度は感じたことのあるような感情を丁寧に描いてある、共感度の高いライトノベルです。その身近なもやもやとした気持ちがストーリーでどう消化されるのか。泣ける展開をお楽しみください。
主人公の高須竜児は、父親譲りの三白眼が特徴な高校生です。その見た目からヤンキーと思われがち。そんな彼にはひそかに思いを寄せている女の子がいます。女子ソフトボール部部長の櫛枝実乃梨です。
二年生に進学した竜児は彼女や親友の北村雄作と同じクラスになれたことを喜びますが、そのクラスには竜児の想い人の親友であり誰彼構わずかみつくことで有名な逢坂大河の姿もありました。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2006-03-25
特に接点のない彼らの関係は、ある日大河が祐作に出すはずだったラブレターを、間違って竜児の鞄へと入れてしまったことから始まります。ラブレターを取り返すために大河は竜児の家へ侵入し、それがきっかけで二人は恋の共同戦線を張ることになるというストーリーです。
お互いの想い人がそれぞれの親友であり、お互いの恋が成就するために協力し合うというタイプのラブコメディ作品です。基本的にはライトノベルらしいドタバタラブコメディで、個性的な、奇人変人とも呼べるキャラクターがコミカルに動き回る青春群像劇のような印象を受けるでしょう。
しかし、ただのラブコメではない切なさがこの作品には存在しています。後半は序盤の雰囲気とは変わってシリアスな展開になっていくのです。登場人物全員が周りを想いやっているからこその切なさを感じられると思います。
肝炎を患って入院した主人公、戎崎祐一は日々の入院生活を退屈に感じ夜な夜な病院を抜け出します。そんなある日、抜け出し行為を黙っている代わりに話し相手になるという取引を、同じ入院患者である秋庭里香と行います。
話すうちに、少しずつ距離を縮めていくことになる二人、特に里香は当初は人に見せなかった笑顔を祐一に対して見せるようになります。次第に仲が深まって行く二人。祐一は里香への想いを募らせますが、彼女の病気が思っていた以上に重いことを知らされるのです。不治の病に侵された少女と少年の交流を描く、いつかの終わりに向かう恋愛小説です。
- 著者
- 橋本 紡
- 出版日
この作品の一巻が発売されたのは2003年のことですが、当時のライトノベルの中では非常に珍しい、ファンタジー要素の一切ない日常の中での命を扱った作品です。
序盤にあたる一巻、二巻では祐一たちが病院という特殊な場所で少しずつ絆を育むところが楽しめますが、彼女の秘密が明かされる三巻からは一気に物寂しげな雰囲気が作品を包みます。切ない、ですが苦しいものはなく全体的にとても綺麗で、美しい物語です。
主人公・浅羽直之は中学二年生の男の子です。非公式であるゲリラ新聞部に所属している彼は、夏休みすべてを費やし裏山でUFOを探し回りますが、結局UFOは見つかりませんでした。
しかし、せめてもの思い出にと夏休み最後の日の夜に学校のプールへと忍び込みます。そこで浅羽はイリヤという謎の少女に出会いうのです。その翌日からクラスメイトとなるイリヤに、浅羽は水泳の練習相手になったり、クラスで孤立した彼女を気にかけたりと交流を深めますが、その中で浅羽は彼女が普通の少女でないことに気づいてしまいます。ボーイミーツガールなSF青春ラブストーリーです。
- 著者
- ["秋山 瑞人", "駒都 えーじ"]
- 出版日
よくある青春学園モノ、と思いきやどちらかというとSFの要素が強いシリーズになっています。この作品は所謂セカイ系と呼ばれるジャンルに分類さえ、主人公とヒロインの恋愛の後ろで世界を巻き込む大きな出来事が起きています。
物語としては夏のボーイミーツガール以上のことはなく、ヒロインが抱える事情も世界の問題も特別詳細は明かされません。主人公の浅羽は本当にただの学生で、ヒロインのために世界のためにも何かができるわけではない人物ですが、だからこそ身近に感じられ、彼らの恋愛模様がひどく胸を打つのです。
全四巻という無駄のない構成で完結しているこの作品は2000年初期のライトノベルの中で、記憶に残り続ける傑作でしょう。
ライトノベルらしい異世界を描いたファンタジー作品です。この世界では二つの国が戦争を続け
ており、主人公のシャルルという青年はこの戦争している二つの国「レヴァーム皇国」と「天ツ上」のハーフである複雑な身の上です。
そのため迫害されてしまった彼は、一人の神父に拾われ成長し、傭兵の飛空士(パイロット)としてレヴァーム皇国に仕える日々を送っています。そんな彼に下された一つの命令、それは傭兵であり、たしかな実力を持つ彼にしかできない、次期皇妃ファナを1万2千キロ先の皇都へと送り届ける重要任務でした。
- 著者
- 犬村 小六
- 出版日
- 2008-02-20
孤児であり、身の上から迫害されもした主人公と、皇国の時期皇妃であるヒロインとの身分違いの恋を描いた物語です。皇都を目指す道中、彼らは少しずつ互いに惹かれ合っていきますが、それは1万2千キロという長いような旅。
しかしあっという間に過ぎてしまう時間の中でしか彼らはともにいることを許されません。あと少しでいなくなってしまうという状況が二人の恋を掻き立てます。
またシャルルがファナを送り届ける任務も一筋縄ではいきません。たくさんの人々の思惑が、彼らを苦しめ追い詰めていくのです。彼らの旅の結末はいったいどうなってしまうのか、主人公としてシャルル選んだ行動に思わず胸を打たれます。愛と悲しい別れの物語です。
いかがでしたでしょうか。どれも甘く切ない恋物語だったかと思います。しかしどの作品も爽やかな気分になれるような美しい話ばかりです。感動と涙のあとに笑顔でいい話だったと思える、そんな魅力が溢れています。