小説『あのこは貴族』5の魅力をネタバレ!山内マリコが描く東京と地方の女子

更新:2021.11.18

「東京には貴族がいる」なんて、この現代でまさか!と思ってしまいますが、東京の中心に確かに存在する「特別な階級」の人々。その一方で「外から来た人」として彼らを見つめる人々がいます。本作は、そんな、貴族と外の人を中心に、交わるはずのなかった人々が交錯する物語です。 映画化も決定した本作。この記事では、あらすじや作品の魅力について、ご紹介します!ネタバレも含みますので、ご注意ください。

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小説『あのこは貴族』あらすじをネタバレ紹介!映画化決定!

東京生まれ東京育ち、家族の関心はもっぱら「申し分ない相手」との幸せな結婚――。そんな生粋の箱入り娘・華子は、27歳を前にして婚約していた彼から別れを告げられてしまいます。

いざ婚活を始めるものの、手応えもないまま焦りばかり募る日々の中、華子は若い弁護士・幸一郎と出会います。容姿も家柄も理想的な幸一郎に惹かれ、トントン拍子に縁談が進みますが、彼女はある違和感をぬぐえずにいるのでした。

一方、地方出身の32歳・美紀は、必死の思いで合格した慶應大学を家庭の事情で中退し、夜の仕事を転々とする時期を経験しつつも、現在は東京のIT関連会社で働いています。

彼女はラウンジバーで雇われていた時に再会した大学の同期の幸一郎と腐れ縁のような関係を続けていますが、幸一郎に誘われて出かけたあるパーティでの出会いから、まったく別の生き方をしてきた2人の女性の世界が交わりはじめます。

 

著者
山内 マリコ
出版日
2016-11-25

本作は映画化も決定しており、映画の監督・脚本は岨手由貴子です。彼女はマンネリカップルの妊娠を題材に初監督した映画『グッド・ストライプス』が新藤兼人賞・金賞に輝いた経歴の持ち主。2019年5月現在、キャストや公開時期について、まだ発表されていません。

登場人物たちと同年代の女性にとっては、「結婚」や「生き方」などのテーマは気になるところではないでしょうか。この題材を「階級」という一見耳慣れないファクターを通じてどのように映像化されるのか、気になるところです……!

『あのこは貴族』の魅力1:作者は山内マリコ!現代女性のリアルを描く

作者・山内マリコは富山県に生まれ、大阪芸術大学芸術学部映像学科を卒業後、25歳で会社を辞め上京。約1年半ほど経った2008年に『十六歳はセックスの齢』でR-18文学賞・読者賞を受賞しました。

2012年に短編「ここは退屈迎えに来て」を発表し、デビュー。その後、同名がタイトルになった短編集も刊行され、多くの著名人から賞賛の声が上がりました。他には『アズミ・ハルコは行方不明』、『さみしくなったら名前を呼んで』などがあります。

多くの作品で、地方の都市を覆う閉塞感と、その中で鬱屈した思いを持てあましながら「ここではないどこか」を夢見る女性たちの姿を描いており、特に20代・30代の女性からの共感を集めているようです。

著者
山内 マリコ
出版日
2014-04-10

上京経験者であれば一度は肌で感じているであろう故郷と自分とのミスマッチ感、キラキラした都会への憧れ、どの場所にも馴染めないときに感じるどこにも行けない感覚が描かれます。作者の鋭い観察力がリアルな表現に裏付けされているのでしょう。

そんな山内マリコが、初めて東京を舞台に書き上げた本作。これは、現代を生きる女性の「葛藤」と「開放」の物語です。

『あのこは貴族』の魅力2:華子と美紀、階級の違う2人の女性!

2人の女性、華子と美紀。彼女たちの世界を隔てる「階級」とは、なんなのでしょうか。

華子は、東京の限られたエリアの「内側」でしか生きたことのない特異な女性。代々続く松濤の実家で不自由なく暮らし、学生の頃から高級ホテルで同級生とアフターヌーンティーを楽しみ、コネで入った大企業も結婚準備のため退職したことを家族に歓迎される。

そんな生き方をごく当たり前に受け入れてきました。しかし30歳を目前に彼氏にフラれ婚活を始めることになります。そして何事にも主体性を持てずにきた自身のあり方に深く悩みます。

かたや美紀は田舎の漁師町に生まれ、父親の反対を押し切って猛勉強し慶應大学に入学。希望に満ちていたはずの学生生活では、「幼稚舎から慶應」という特権的な「内部生」の存在を知ります。実家の経済状況が悪化し水商売で生計を立てるようになりました。

自分が彼らとは相容れない「外側」の人間であること、自分と彼らとの埋めがたい「差」を思い知らされます。

「生まれながらの差」それが彼女たちを分ける階級の正体です。しかし不思議なことに、本作では真逆の世界で生きる2人のどちらにも強く共感してしまうのです。

『あのこは貴族』の魅力3:二股男・幸一郎との三角関係!恋愛も注目!

華子と美紀の間にいる、弁護士・青木幸一郎。美紀が憧れた、慶應の「内部生」であり、政治家も輩出している青木家は、華子の家よりさらに格式の高い家柄です。

ラウンジで再会した美紀と10年もの間はっきりしない関係を続けているのでした。生来の勉強熱心な性分に、夜の商売で培ったコミュニケーション力が相まって、あしらい方が上手な美紀。幸一郎はそんなかけあいを楽しみつつ、彼女を都合のよい相手としていました。
 

本当に気が合うのは美紀のような女性であると分かっています。しかし、幸一郎が婚約者として選んだのは華子。

そして美紀自身、自分は結婚相手には絶対に選ばれないだろうと理解しつつも、学生時代の自分のコンプレックスを埋めてくれる彼との関係を断ち切れずにきました。しかし、2人の女性はあるめぐり合わせによって出会い、三角関係が動き出します。

ハイステイタス二股男・幸一郎をめぐる女同士のドロドロした対決か?と思いきや、実は3人の関係は意外な方向へ。そこが、本作がありきたりな恋愛物語とは一線を画す理由でしょう。彼女たちは何を選び、何を得て、何を失うのでしょうか……。

『あのこは貴族』の魅力4:描き出される東京と地方の違い!「東京には貴族がいる」の意味を考察

東京に生まれ育ったハイクラスな華子の日常と、上京した美紀の故郷との対比が、より鮮明に2人の違いを表現しています。

華子が友人らとよくお茶をする「ウェスティン」や「マンダリンオリエンタル」といった高級ホテルのロビーラウンジ。ふかふかのソファがゆったりと配置された店内は、ご婦人たちの話し声でいつも賑やかです。美しい内装も品よく盛られたサンドウィッチやスイーツも、彼女にとっては見慣れた光景。同じ世界の人々に囲まれたこの場所こそが華子の「地元」なのです。

一方美紀の「地元」は、かつて活気のあった商店街もシャッターが目立ちます。市内で指折りのホテルも閑散としており、カフェは昭和の喫茶店のような様相。東京の味に慣れた今では、一口で残したくなるような甘いだけのケーキ。思春期に固定されたままのカースト、チェーン店ばかりのビル、子どもが走り回る同窓会。

いわゆる「地方の空気感」に覆われた美紀の故郷の風景は、華子のそれとはまったく対照的です。だからこそ美紀は東京に、幸一郎のような「特別な階級」の人々に憧れてきました。

家を守り、格式を守り、ごく狭いコミュニティの中から出まいとする生き方を代々続けてきた華子や幸一郎たちは、紛れもない貴族。東京の「外側」からそんな彼らを見てきた美紀は、政治や経済といったこの国の中枢も、固定化された人々によって保たれてきたことを悟ります。

「東京には貴族がいる」それは紛れもない事実。外側である美紀からみた、皮肉とも取れる言葉だったのではないでしょう。しかし、彼女はまた別の事実にも気づかされることになるのです。

『あのこは貴族』の魅力5:爽やかな結末!【ネタバレ注意】

華子と美紀は、幸一郎という1人の男を通して出会い、互いの人生を見つめます。自分にないものを「ここではないどこか」や他の誰か――たとえば恋人や結婚相手に求める生き方がどこへ行き着くのか、彼女たちは自分自身で確かめていくのです。

著者
山内 マリコ
出版日
2016-11-25

華子はスポットライト照らされながら招待席を見渡し、
小さなころから思い描いていたのとは違って
結婚式が幸せのピークであるというのはまやかしであることに、
たったいま気づいていた。
盛大な式の主役というのは、気持ちがひどく空虚だ。
(『あのこは貴族』より引用)

華子は幸一郎と結婚の道を選びます。意外だなと思いつつ、ある意味想像通りと思えるその後の生活とは……。結婚後も彼女は悩み、救いを求めますが、最終的にはある決断をします。

そして美紀も幸一郎との関係を断ち、忘れていたものを取り戻そうと前を向きます。東京に憧れ、故郷を捨て、それでも「外側」の人間としてしか生きられなかった彼女が選んだ次のステージ。

最終章で、2人の女性の物語は再び交錯するのです。

持って生まれたものは変えられない、けれど苦しみながらも何かをつかみ、自分で自分を肯定するべく女性たちは行動します。そして、彼女たちをずっと縛っていたものから自らを解き放っていくのです。

東京の街を舞台に山内マリコが描く、生き方の異なる2人の女性の「葛藤」と「解放」の物語。読了後に待っているなんとも爽やかな後味を、ぜひ味わってみてほしいと思います。

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