児童文学『飛ぶ教室』のあらすじや名言、当時の時代背景をわかりやすく解説!

更新:2021.11.30

児童文学小説の『飛ぶ教室』。30ヶ国以上で翻訳されていて、世界的に有名な作品です。この記事では、登場人物やあらすじ、執筆当時の時代背景、名言などを解説していきます。ぜひチェックしてみてください。

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『飛ぶ教室』とは。作者や映画化など概要を簡単に紹介

 

1933年に刊行された児童小説『飛ぶ教室』。作者はドイツの作家であり詩人でもあるエーリッヒ・ケストナーです。ドイツでは3回映画化され、日本でも公開されています。

物語の舞台は、第一次世界大戦後のドイツ、キルヒベルクにある寄宿学校。寄宿舎で生活する高等科1年生の少年たちを中心に描かれています。

「飛ぶ教室」とは、作中で彼らが演じる、クリスマス劇のタイトル。主要人物のひとりヨナタンが制作したものです。この劇や、大小さまざまな事件をとおして、少年時代特有の繊細な感情を丁寧に表しているのが魅力でしょう。

 

著者
エーリヒ ケストナー
出版日
2006-10-17

『飛ぶ教室』の主な登場人物を紹介!

 

マルティン・ターラー

高等科の1年生で、貧しい家の出身ながら奨学金で学校に通う苦学生です。成績は優秀で主席。絵の才能もあります。正義感が強く、曲がったことが大嫌いで、やや短気な性格の持ち主です。

マチアス・ゼルプマン

高等科の1年生。大柄で腕っぷしが強く、ボクサーを志望している少年です。成績はよくありませんが、明るくて優しい性格をしています。いつもお腹を空かせているのが特徴で、よくお菓子やパンを食べています。1袋20ペニヒの「お菓子のくず」を買うのが日課です。

ウリー・フォン・ジンメルン

高等科の1年生。貴族出身のお坊ちゃんです。小柄でかわいらしい顔立ちをしていて、クリスマス劇「飛ぶ教室」では、女装をして女の子役を演じました。勇気がなく臆病な性格を級友たちに馬鹿にされ、ずっと気に病んでいます。

ヨナタン・トロッツ

高等科の1年生。生まれはニューヨークですが、子どものころに実の親に捨てられ、船に乗せられました。その船の船長の妹夫婦に引き取られ、育てられます。文学青年で作家志望。本のタイトルにもなってる作中のクリスマス劇「飛ぶ教室」の作者です。冷静で達観したようなところがあります。

セバスチャン・フランク

高等科の1年生。皮肉屋でひねくれた性格をしています。読書家で頭の回転が速く、ひと言余計なことを言ってしまうタイプ。ただ実は人一倍繊細な感性をもっています。実業学校の生徒たちと喧嘩をした際は、軍使として活躍しました。

正義先生(ヨハン・ベク)

舎監の先生で、少年たちの憧れの人。マルティンがクリスマス休暇で家に帰るための切符代がないことを知り、実費よりも多くのお金を彼にプレゼントしてくれました。

禁煙先生(ローベルト・ウトホフト)

学校の近くに住んでいる男性で、少年たちのよき理解者。元医者ですが、現在は料理店でピアノを弾いて賃金を得ている変わり者です。廃車になった鉄道の禁煙車を譲り受けて改造した家を自宅にしているため、「禁煙先生」と呼ばれています。子どもの世界のルールを尊重し、子どもたちの目線に立って話をすることができる人物です。

 

『飛ぶ教室』のあらすじを詳しく紹介

 

クリスマス休暇が近づく寄宿学校では、少年たちが上演する劇「飛ぶ教室」の稽古をしていました。作家志望のジョニーが書いた戯曲で、学校が将来どのように運営されるかを5幕構成で描いています。

しかし、その最中に事件が起こりました。敵対している実業学校の生徒たちが、以前旗を奪って破かれたことの仕返しにと、寄宿学校の同級生を拉致したのです。

マルティンたちは先生の許可も得ずに学校を飛び出し、禁煙先生のもとを訪れます。禁煙先生は学校の近くで世捨て人のように暮らしている人で、少年たちは、学校の先生には言えないようなことを彼に相談していました。今回もアドバイスを受け、捕らえられた同級生の救出に向かうのです。

作戦を計画したマルティン、交渉を担当したセバスチャン、冷静な判断力をもつヨナタン、力強いマチアス、そして臆病な自分を克服できないウリーなど、個性豊かな少年たちが鮮やかに描かれます。

門限を破って罰を受ける覚悟を決めた少年たちに、正義先生は自分の少年時代の思い出を語りました。先生は多感な少年たちに、罰ではなく友情の大切さを教えようとしたのです。

その話を聞いたマルティンたちは、今度は失踪してしまったという正義先生の友人を見つけ出そうと奮闘します。

 

『飛ぶ教室』執筆当時の時代背景は?

 

作者のケストナーが、物語に登場する少年たちと同じ年齢のころ、ドイツは第一次世界大戦に参戦。学徒出陣をした先輩たちもいたそうです。その経験からかケストナーは第二次世界大戦やユダヤ人の虐殺に反対し、物語を書くことを禁じられています。

本作が書かれた1933年は、ドイツがナチスの支配下にあった時代です。ケストナーをはじめ自由主義の作家は本を書くことを制限されていました。

しかし彼の作品は人気があり、文学としても優れていたことから、児童文学のみ書くことを許され『飛ぶ教室』が刊行されることになったのです。

当時の寄宿学校は日本の名門私立校に近いイメージで、ホワイトカラー層の子どもたちが通っていました。マチアスは友達からお金を借りても家から送られてくるお金ですべて返済でき、ウリーは貴族出身、セバスチャンは家族へのクリスマスのお土産を抱えるほどたくさん買います。社会的に見ても富裕層だといえるでしょう。

そんな少年たちのなかで、苦学生をしている主人公のマルティンの辛さは察するに余りあります。また実業学校の生徒のなかにも、労働者階級とみられる家の描写があり、児童文学ながら随所に複雑な社会問題が絡められている作品です。

『飛ぶ教室』の名言を紹介!

 

物語の後半で、寄宿学校の生徒たちは帰省の準備を始めます。しかし実家が貧しいマルティンは、母親から送られてきた手紙で、交通費を工面することができなかったため帰れないことを知るのです。

強がりからか、この事実を誰にも話さずにいたマルティンですが、とうとう正義先生に事情を話しました。すると正義先生は、20マルクを手渡してこう言うのです。

「クリスマスイブに旅費をプレゼントするんだよ。返してもらおうなんて思っちゃいない。そのほうが、うんとすてきじゃないか」(『飛ぶ教室』より引用)

さらに、マルティンたちが正義先生の友人を見つけ出したことに触れ、こうつけ足します。

「きみたちは私に禁煙さんをプレゼントしてくれたんだよ」(『飛ぶ教室』より引用)

本作では、子どもが大人を助け、大人も子どもを助けます。一方的な関係ではなく、両者が助け合って生きていくものだと自然と描かれているのです。

また『飛ぶ教室』は、作者ケストナーによるまえがきが素晴らしいことでも有名です。かなりボリュームがあるのですが、ケストナーの思いがストレートに表現されていて、これから読む物語をより心の深いところで感じることができるようになっています。なかでも特に印象的な一文がこちらです。

「人生、何を悲しむかではなく、どれぐらい深く悲しむかが重要なのだ。誓ってもいいが、子どもの涙は大人の涙より小さいということはない。大人の涙より重いことだってある」(『飛ぶ教室』より引用)

この文章には、子どもの時に感じたものをいつまでも大切に覚えていてほしいという、ケストナーの強い願いが込められているといえるでしょう。

 

『飛ぶ教室』は角川つばさ文庫の新訳で読むのがおすすめ

著者
エーリヒ・ケストナー
出版日
2012-09-15

 

クリスマス間近の寄宿学校を舞台に、5人の少年たちの周りで起こるさまざまな事件を描いた『飛ぶ教室』。近隣の学校との対立があったり、雪合戦で闘ったりする青春物語に、刊行当時のドイツの子どもたちの間で人気が爆発しました。

角川つばさ文庫から刊行された本作は、新訳で文章が読みやすくなっているのが特徴です。また非常にかわいらしく親しみをもてるイラストが60点も収録されているため、日頃あまり本を読まない子どもでも手にとりやすいでしょう。

訳者のあとがきでは、『飛ぶ教室』が執筆された当時の社会状況や、作者ケストナーの生い立ちなどが、子どもにもわかりやすく解説されています。世代を超えて愛されている名作、ぜひ読んでみてください。

 

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