遥か未来、宇宙帝国に存在する砂に覆われた惑星「アラキス」(通称、デューン)を舞台に、主人公が帝国の仕組みを根本から変えるための革命を起こす壮大な物語が、。アメリカの作家フランク・ハーバートによって1965年に発表されたSF小説。2020年に再映画化もされる予定で、大叙事詩とも言われ「デューン」シリーズの第1作目。 今回は、そんな本作の魅力をご紹介しましょう。
権謀術策が渦巻く砂の惑星デューンで、主人公であるポールが使命と自分の能力に目覚めて世界に挑むまでの物語を描いたストーリーです。
人類が地球以外の惑星に移住して宇宙帝国を築いた未来世界では、1つの惑星を1つの大領家が治める厳格な身分制度が敷かれていました。
レト・アトレイデス公爵は皇帝の命を受けて、砂漠の惑星アラキスを治めることになります。通称デューンとも呼ばれるアラキスは、抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の生産地。アトレイデス家には莫大な利益がもたらされるはずでした。
しかし妻のジェシカと息子のポールを連れてデューンに乗り込んだレト公爵を待っていたのは、メランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝が結託した陰謀。父を殺された上に地位を追われたポールは、現地の自由民フレメンの中に紛れて力を着け、帝国に対する革命を起こすことを決意します。
- 著者
- フランク ハーバート
- 出版日
- 2016-01-22
ポールの活躍を描いた物語は人気を博し、『デューン/砂漠の救世主』『デューン/砂丘の子どもたち』『デューン/砂漠の神皇帝』『デューン/砂漠の異端者』『デューン/砂丘の大聖堂』などに続きます。
登場人物の心情や戦いの展開だけではなく、貴重な水を巡る問題や宗教による精神世界の違い、惑星特有の文化などの緻密な設定が読者の想像力を掻き立てます。独特な世界観は多くのファンを惹きつけ、『風の谷のナウシカ』や『スター・ウォーズ』など後世の作品にも影響を与えたと言われています。
その人気は、映画版をリメイクしたテレビドラマなどが何作も制作されるほど。
1975年にホドロフスキー監督による映画化が企画されましたが、壮大な物語を描くための上映時間が足りずに頓挫。1984年にデイヴィッド・リンチ監督によって映画化されました。
そして、2019年1月にはドゥニ・ビルヌーブ監督によるリブート版が発表されました。キャストはデビッド・バウティスタ。半世紀にわたり愛される本作が、2019年現在の技術を駆使してどう描かれるのか、期待が膨らみます。
1972年に石ノ森章太郎の表紙と挿絵を用いた4冊の翻訳本がハヤカワ文庫SFから発売されましたが、今回は2016年に早川書房から発売された、新訳版をご紹介します。
本作の見所は、登場人物たちが厳しい環境下で生き抜く様子。
ハルコンネン家の追手から逃れたポールと彼の母親は、惑星生態学者のカインズの伝手を頼りにフレメンの部族の長スティルガーの元を目指します。その道中は厳しい日差しに晒され、巨大なミミズのような生き物サンドワームが跋扈する砂漠でした。
2人は水を節約して休む場所を確保し、足音で砂虫に気づかれないように歩き方を工夫します。環境に応じた方法を取って生き残ろうとする人間本来の姿。その描写は、SF小説という枠に収まらない惑星の環境問題をリアルに感じさせます。
このような文章が描かれたのには、作者のフランク・ハーバートがジャーナリスト出身であることが背景にあります。第二次世界大戦中に写真家として従軍し、戦後は執筆活動をしながら雑誌の記者として活動しました。
1965年に『デューン/砂の惑星』を発表したところ、生態学をテーマにした初のSF小説として話題になり、ネビュラス賞とヒューゴー賞を受賞します。その後も社会学と生態学のコンサルタントやテレビ番組のディレクター、写真家などと並行して本シリーズの執筆を続けました。
しかし『デューン/砂丘の大聖堂』が出版された後、1986年2月11日に膵癌のため亡くなります。当時シリーズは完結されておらず、シリーズは未完成で終わるかと思われました。
そんな折にフランクのメモを発見した彼の息子・ブライアンと、SF作家のケヴィン・アンダースンとの共著で続編が執筆されたのです。
本作は、様々な勢力が関わり、争いをしています。主な勢力や登場人物について、簡単に紹介します。
本作の世界観は、独特な設定から成り立っています。
イックス …… 機械文明が発達したことで有名な惑星。生産された科学工芸品は全惑星で使われており、多くの植民星を所有しています。宇宙帝国では肉体と精神の訓練が重視されているため、思考する機械を復活させる可能性がある惑星として宗教的な嫌悪感を向けられることが多いです。
メランジ …… 抗老化作用を持つスパイス。惑星アラキスのみで採掘され、帝国では高値で取引されます。過剰に摂取した人間は眼の色が青く変化するという特徴があり、原住民であるフレメンの眼はみんな青いです。
サンドワーム …… アラキスの砂漠を支配する巨大なミミズのような生き物。大きい個体は全長数百メートルにもおよび、振動する物全てを飲み込んでしまいます。その存在は原住民の生活に根付いており、フレメンの子どもは12歳になるとサンドワームの背に乗って御する試練を課され、成功すると一人前の大人として認められるのです。
物語の始まりは、ポールの父であるレト公爵が惑星アラキスを統治するように皇帝から命じられ、家族を連れて砂の惑星を訪れる場面から始まります。実はその命令は、人望が高まっているレト公爵を排除するために、皇帝と宿敵のハルコンネン家が仕組んだ陰謀だったのです。
レト公爵は陰謀の可能性に気づいていましたが、家族を連れて移住することを余儀なくされます。そして、殺害されてしまうのでした。
ポールとジェシカは父の知人に救われ、フレメンの地へと辿り着き、皇帝とハルコンネン家の目から逃れます。そして2年間の潜伏期間を経て、2人はそれぞれ肉体的・精神的訓練を受けて新たな能力を手に入れました。軍勢を率いて、皇帝に反旗を翻すのです。
少年だったポールが父の死をきっかけに救世主として成長していく過程は、負の側面に簡単に転がり落ちてしまいそうな危うさもありました。
しかし自身の驕りからくる危機に会う度に、母・ジェシカや、フレメンを束ねる一族の長・スティルガー、彼の姪であるチャニなど周囲の人々に戒められながら、確実に力をつけていくのです。
何度も危機に陥りながら、苦難を乗り越えて人々を導く者としてポールは成長します。そんな中、過去から現在、そして未来までの時間の流れを見ることができる超常能力を手に入れ、しだいに未来を予知するようになりました。
それを見たフレメンの人々は、ポールこそが古くから伝えられている預言者であると信じます。そうして、フレメンの一族に認められたポールは、帝国へ反乱を起こすために軍の指揮を執るのでした。
一方で、皇帝とハルコンネン家の陣営では、経済的利益や出世欲、後継者争いなどが複雑にからみ合いながら反乱にも対応します。組織の中は、様々な思惑が渦巻いていました。
正反対の2つの軍がぶつかるとき、ポールは大きな力を発揮するのです。
- 著者
- フランク ハーバート
- 出版日
- 2016-01-22
皇帝に決戦を挑むため、公爵家の後継者として学んだことを活かして戦力を立てるポールとフレメンの人々。敵の不意打ちを付きながら、信頼関係を築いたフレメンの仲間とともに進んでいきます。揺るぎない信頼関係で結ばれた彼らの戦いぶりは必見です。
最終的に、ポールは皇帝と対峙することになります。帝国の重鎮たちとの交渉でも一切の隙を見せず、初期では想像もつかないような成長を遂げているのです。
帝国に戦いを挑んだ、ポールたちの勝敗の行方とは……。最後まで目が離せません。
壮大な物語の中の序章にあたる本作。ポールの成長物語と見るも良し、政治の駆け引きを楽しむも良し。様々な楽しみ方ができる「デューン」シリーズをぜひご覧ください。