児童文学『ホビットの冒険』を徹底解説!登場人物やあらすじ、続編など

更新:2021.11.18

世界的にヒットした映画「ロード・オブ・ザ・リング」の前日譚となる『ホビットの冒険』。児童文学という枠を超えて、多くの読者を魅了してきました。この記事では登場人物やあらすじを紹介しつつ、作品の魅力を解説していきます。

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児童文学『ホビットの冒険』とは

 

1937年に刊行された児童文学『ホビットの冒険』。イギリスの作家J・R・R・トールキンの作品です。トールキンは大ヒット映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作『指輪物語』の作者として知られていますが、『ホビットの冒険』は『指輪物語』の前日譚にあたります。

物語の舞台は、「中つ国(Middle-earth)」と呼ばれる世界。古代ギリシャの哲学者プラトンが著書のなかに記した、伝説の島「アトランティス」が崩壊した後にあたる時代だとされています。トールキンは物語の世界観を細部まで練ることで有名で、「中つ国」においても登場人物の系図や言語、文字、暦、歴史などを含む完璧な神話体系を作りあげました。

続編である『指輪物語』が刊行されることが決まると、整合性をとるために『ホビットの冒険』はたびたび改訂。日本では、1965年以降に翻訳本が刊行されています。また2012年から2014年にかけて、3回に分けて映画化がされました。

 

著者
J.R.R. トールキン
出版日
2000-08-18

『ホビットの冒険』の登場人物を紹介!ビルボやトーリンなど

 

ビルボ・バギンズ

『ホビットの冒険』の主人公。「一つの指輪」を発見し、指輪の所持者となる人物です。ホビット村で平穏な独身生活を送っていましたが、ガンダルフの計画によって、「忍びの者」としてトーリン率いる13人のドワーフに雇われることになります。そして竜のスマウグに奪われた「はなれ山」の財宝を奪回するため、ドワーフたちの遠征に参加するのです。

ちなみに「ホビット」とは、身長1メートルたらずの小人族のこと。よく耕された土地と穏やかな暮らしを好み、何よりも食べることを愛しています。丘や斜面に居心地のよい横穴式の住居を作って暮らしていて、水と高いところが苦手です。

ガンダルフ

「灰色のガンダルフ」として知られる老人の魔法使いです。長くて先のとんがった青い帽子をかぶり、灰色の長いマント、銀色のスカーフを巻いています。「中つ国」では自分の家を持たず放浪を続け、困窮する人たちに手を差し伸べて多くの人々を苦境から救っていました。市井の者からは信頼を集める一方で、統治者などからはしばしば反感を買っています。

トーリン・オーケンシールド

ビルボを連れて、竜のスマウグから「はなれ山」の財宝を奪回するための冒険に旅立つドワーフたちの首長です。銀の房のついた青色の頭巾をかぶり、首には金の鎖をかけています。ドワーフ七氏族の最長老一族の王で、非常に誇り高い性格。頑固で、時には高慢な態度をとることもあります。

「ドワーフ」は、山や岩を好み、炭坑技術に優れている種族です。ホビットよりは大きく、人間より小さい体格。金銀宝石が大好きで、細工や鉄工も得意。戦いでは主に斧や剣を使います。

エルロンド

エルフと人間の間に生まれた半エルフ。「はなれ山」へ遠征する途上のトーリンたちを館に迎え、休息と助言を与えてくれました。トーリンたちのスマウグへの復讐や、山の下にある王国の奪回については不本意に思っていましたが、竜を強く憎んでいること、そして谷間の国の荒廃を問題視していたことから、彼らに協力することを決めたのです。

「エルフ」とは、森や星を愛する美しい種族のこと。外見は人間に似ていますが、男も女も非常に美しく、身長は人間と同じか少し高めです。肌の色は薄め、髪の毛は氏族によって異なりますが、主に黒・金・銀などの色をしています。肉体的にも精神的にも強靭かつ繊細、病気にかかることもなければ、寿命もありません。

 

『ホビットの冒険』のあらすじを紹介

 

ホビット村に住むビルボ・バギンズのもとへ、魔法使のガンダルフがやってきました。ガンダルフは、一緒に冒険に行ってくれる仲間を探していたのですが、ビルボは厄介事が嫌いなため、他の土地で探すようにと断ります。

しかし次の日、ガンダルフは13人のドワーフを連れて再びやって来るのです。ドワーフたちは高貴な血筋を引く一党で、首長のトーリンは「はなれ山」の下にある王国の王の子孫。竜によって奪われた「はなれ山」を奪還するための旅に出るという彼らの意志の強さを知り、当初は拒否していたビルボも旅をすることを決めます。

東を目指す一行。しかし追手と戦っている最中に、ビルボだけがはぐれてしまいました。道に迷い、暗闇のなかを進んでいる途中、不思議な指輪を拾います。その指輪は、地底湖で出会ったゴクリという生き物の持ち物。ビルボはゴクリの独り言から指輪に特別な力があると知り、そのまま盗んでしまうのです。

なんとかドワーフたちと再会したビルボ。その後は、指輪の力を使って何度もピンチを切り抜けます。そしてようやく「はなれ山」に辿り着き、一行は秘密の入り口を見つけ出しました。そして宝の山に寝そべる竜スマウグを発見し、力をあわせて倒すことに成功します。

しかし、遠征によって被害が出た湖の町の人々と、同様に財宝を求めたエルフたちも「はなれ山」にやって来ます。トーリンは彼らの要求を退け、戦う構えを見せました。和解の道を探したビルボは裏切り者とみなされ、追放されてしまうのです。

さらに、財宝を奪うことに成功したトーリンたち、財宝の分け前を要求する湖の町の人々、エルフたちが対峙している隙をみて、スマウグが死んだことを聞きつけた「オーク」と「ワーク」という種族が襲来。新たな戦いが始まることになります。

 

続編となる『指輪物語』の概要とあらすじを紹介!

著者
J.R.R. トールキン
出版日

 

『指輪物語』は『ホビットの冒険』の続編。1937年から1949年という長い時間をかけて執筆され、1954年から全3巻が刊行されました。

物語の舞台は『ホビットの冒険』と同じく、「中つ国」。人間、ホビット、エルフ、ドワーフ、オーク、トロルなどが住む架空の世界です。

かつて悪の冥王サウロンは、すべてを支配するという「一つの指輪」を作りました。指輪を使って「中つ国」を支配しようとしましたが失敗し、サウロンは指輪と肉体を失います。しかしその精神は滅びることはなく、完全復活を目指して世界を漂流していました。サウロンの復活を防ぐ方法はただひとつ、「一つの指輪」を完全に破壊することです。

偶然か必然か、指輪はホビット族の青年フロドの手に渡ります。危険な任務を引き受けることになったフロドは、悩みながらも、辛く苦しい冒険の旅に出ることを決意しました。長い旅のなかで9人の仲間と出会い、心を通わせますが、彼らには多くの困難と苦しみが待ち受けているのです。

 

『ホビットの冒険』は何度も改訂されている!内容の変化を解説

 

1937年に初版が刊行された『ホビットの冒険』。この成功にともない、作者のトールキンは、出版社から続編の執筆を依頼されます。これが後の大ヒット作となる『指輪物語』です。

『指輪物語』の執筆が始まると、物語の整合性を図るために、トールキンは何度か『ホビットの冒険』の改訂をおこなっています。

1951年の第2版では、重要な改訂がなされました。初版では、ゴクリが魔法の指輪を自らビルボにプレゼントし、仲良く2人が別れるシーン。第2版では、「指輪の抗しがたい魔力」という新しいアイデアを反映させるため、ゴクリがビルボに対して攻撃的になり、指輪を失くすと取り乱すように描かれているのです。

トールキンは1960年にも新たな改訂作業に取り掛かりましたが、こちらは第3章までいったところで作業を放棄しています。

その後、細かい言葉の変更などをおこない、1966年に第3版が刊行されました。

 

『ホビットの冒険』は映画化も!原作に登場しないレゴラスとは?

 

書籍が大ヒットした『ホビットの冒険』ですが、2012年から2014年にかけて映画化もされています。映画は三部作で、それぞれ第一部が「ホビット 思いがけない冒険」、第二部が「ホビット 竜に奪われた王国」、第三部が「ホビット 決戦のゆくえ」というタイトルです。

『ホビットの冒険』や『指輪物語』には、原作には描かれておらず、映画で初めて登場するキャラクターが何人かいます。エルフ族の王子、レゴラスもそのひとりです。闇の森にあるエルフ王国の王スランドゥイルの息子で、映画ではオーランド・ブルームが演じたことで話題になりました。

優雅で素早いレゴラスは、道に迷って蜘蛛に襲われていたトーリンの一行を捕まえます。この時、ドワーフに対して強い侮蔑を示している様子が描かれました。同じく原作には登場しないタウリエルへの恋心や、ドワーフたちへの複雑な思いなど、若さゆえの感情が繊細に表現されているのが魅力でしょう。

また第三部の名場面、五軍の合戦では、弓矢を使って数多くのオークを仕留める大活躍をしています。原作と映画、どちらもそれぞれのよさがあるので、ぜひ両方楽しんでみてください。

 

著者
J.R.R. トールキン
出版日
2000-08-18
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