藤沢周平おすすめ文庫作品ランキングベスト10!4位は『橋ものがたり』

更新:2021.4.20

数々の時代小説を遺し、幅広い世代から愛され続けている作家・藤沢周平。映像化されている作品も多く、読みやすく分かりやすい文体で描かれた、登場人物たちの姿がとても魅力的です。ここでは、そんな藤沢周平のおすすめ作品10冊ご紹介します。

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時代小説家・藤沢周平

1927年、山形県に生まれた藤沢周平は、山形師範学校を卒業後、中学校の教師を務めます。学校でも人気者の教師でしたが、肺結核を患いやむなく休職。退院後、教員としての就職先が見つからなかった藤沢は、小説を執筆しながら、新聞記者として活動していくことになります。

1971年、『溟い海』でオール讀物新人賞を受賞すると、翌年には『暗殺の年輪』で直木賞を受賞し、藤沢周平は本格的な作家生活をスタートさせました。その後、数々の傑作時代小説を世に送り出し、その高い人気は、藤沢周平が亡くなった後も、変わらずに今日まで続いています。

10位:獄医となった青年を描く。藤沢周平には珍しいコミカルなシリーズ

若き医師・立花登が、様々な事件を解決していく連作短編集シリーズです。全4巻が発行された人気シリーズで、1982年、中井貴一主演でテレビドラマ化。2016年、溝端淳平主演でリメイクドラマが放送されたことでも話題になりました。

舞台となるのは、江戸時代中期。主人公・立花登は、江戸で医師をしている叔父を頼りに、田舎から上京してきます。叔父の家に居候する登でしたが、田舎では天才とまで言われていた叔父が、実はとんでもない飲んだくれで医者としてもお粗末だったことが判明。

著者
藤沢 周平
出版日
2002-12-13

登は下男扱いで叔母にこき使われ、娘のちえにまで呼び捨てにされる始末です。登は、叔父が副業として務めている、獄医の仕事まで押し付けられることになりました。

主人公の登が、とにかく爽やかで魅力的に描かれています。この獄医の仕事を通して、様々な事件に巻き込まれていくことになりますが、切れ味鋭い推理で事件を解決していき、あざやかな柔術で犯人を取り押さえる描写には、思わず興奮してしまいます。牢に入れられた者たちは、皆それぞれに事情や問題を抱えていますが、このシリーズにはいつでも明るさが漂っているのです。

このコミカルさは、藤沢周平の作品にはとてもめずらしく、時代小説に苦手意識のある方でも、気軽に楽しく読めるのではないでしょうか。

9位:藤沢周平の初期作品が揃う。その暗さを味わう

オール讀物新人賞を受賞した『溟い海』と、直木賞を受賞した『暗殺の年輪』を含む、藤沢周平の5つの初期作品が収録された、短編集です。

表題作・『暗殺の年輪』では、海板藩の下級武士・葛西馨ノ介が主人公。馨ノ介の父親は、重臣を暗殺しようとして、失敗し切腹していました。その出来事があってからというもの、藩の人間たちは馨ノ介に冷ややかな視線を送ります。ある日馨ノ介は、同門の貝沼金吾に声をかけられ、自宅に来るよう誘われます。そこには、金吾の父をはじめとする、4人の上士たちの姿があり、馨ノ介に暗殺の依頼をしてきて……。

著者
藤沢 周平
出版日
2009-12-04

『溟い海』は、江戸時代後期の画家・葛飾北斎をモデルとした物語です。北斎は、ここ最近評判になっている画家・安藤広重の風景画を見て、その才能に激しい嫉妬の感情を抱きます。

その他、隠居の身となった老人が、かつての兵法者としての姿を取り戻す『ただ一撃』など、藤沢周平の初期作品に見られる、独特の暗さや切なさが漂う短編集になっています。

この作品は明るい描写は一切なく、ユーモアはどこにも感じることはできませんが、それでもストーリー展開の上手さが随所に光っています。救いのないラストが印象的ではありますが、味わい深く後を引く短編集で、藤沢周平の底知れぬ才能が発揮されている作品と、高い評価を受けています。

また、初期の頃から藤沢周平の描く女性は魅力的で、この作品の女性たちは、皆美しく可憐で悲しいのです。そんな女性たちの美しさが感じられる描写にも注目です。

8位:男たちの人生を濃密に描いた傑作長編小説

筆頭家老である主人公が、かつての親友から突然届いた果し状をきっかけに、若かりし頃の様々な出来事を回想していきます。2007年、佐藤浩市主演でテレビドラマ化された作品でもあり、注目を集めました。

主人公・桑山又左衛門が、筆頭家老の地位につき、藩政の実権を握って間もない頃、かつて同じ道場で共に稽古した仲間の野瀬市之丞から、突然の果し状が届きます。又左衛門には、市之丞がこんなものを届けた理由がわかりません。いったいこの果し状にはどんな真意があるのか。又左衛門は過去の記憶を回想します。

著者
藤沢 周平
出版日
2013-02-08

又左衛門がまだ何者でもなかった頃、名前は上村隼太と言いました。同じ片貝道場の仲間である、隼太、市之丞、鹿之助、庄六、一蔵の5人は、身分も様々でしたがよく気が合い、青春時代を共に過ごしてきたのです。物語は、隼太だった頃の仲間たちとの青春の日々や、徐々に違う道を歩みだすことになる5人の姿を描き、それと交互して、現在の又左衛門の姿が描かれます。

又左衛門は、いかにして筆頭家老にまで上り詰めたのか。市之丞との果たし合いの行方はどうなってしまうのか。

人は生きていく上で、様々な選択を迫られます。あの時違う道を選んでいたら…。多かれ少なかれ、誰でもそんなことをふと考える瞬間があるでしょう。それでもこの作品の登場人物たちは、それぞれに選んだ道で、“愚痴を言っちゃいかん”と踏ん張っています。この作品は、ばらばらの道を歩むことになる、かつての親友5n人生が濃密に描かれた、読み出したら止まらない傑作になっています。上下巻で5人分の人生を読める

7位:実は強い!藤沢周平が描くさえない侍たちの下町劇

普段はまったくさえない下級武士である主人公たちが、意外すぎる大活躍を見せる痛快短編集になっています。2002年、真田広之主演で映画化され、数々の映画賞を受賞し注目されました。8つのストーリーが収録される本作。映画『たそがれ清兵衛』の原作となったのは、『たそがれ清兵衛』と『祝い人助八』の2作品です。

表題作『たそがれ清兵衛』の主人公・井口清兵衛は、病弱な妻の看病のため、下城の鐘が鳴ると毎日そそくさと帰ってしまいます。夕方を過ぎると、いつも家事や看病で忙しくしていることから、「たそがれ清兵衛」というあだ名が付けられていました。ですがそんな清兵衛、実は無形流の達人なのです。

著者
藤沢 周平
出版日
2006-07-15

『祝い人助八』の主人公・伊部助八は、妻を亡くしてからというもの、いつも薄汚れた格好をしています。物乞いという意味の「祝い人(ほいと)」というあだ名を付けられ、陰で馬鹿にされていました。そんなある日、親友である飯沼倫之丞の妹・波津が、助けを求めて助八を訪ねてきました。

その他、必死で上役のご機嫌取りをおこなう『ごますり甚内』。極端に無口で影の薄い『だんまり弥助』などなど、なんともさえない武士たちが登場しますが、実はこれがめっぽう強い。

普段はその剣の腕を隠し、大人しく慎ましく目立たず暮らしている主人公たちが、ある時その本領を発揮する姿はたまらなくかっこよく、そのギャップはとても魅力的で惹きつけられます。人は見た目によらぬもの、とはまさにこのことで、晴れやかな爽快感の中にも、どこかじんわりとした切なさが漂う作品です。

男たちは、それぞれ何のためにその秘めた剣を抜くのか……。読みやすくとても面白い短編集になっています。

6位:数々の秘剣が飛び出す藤沢周平の人気シリーズ

様々な剣術流派の「隠し剣」と呼ばれる秘剣が登場する短編集です。『隠し剣孤影抄』、『隠し剣秋風抄』の2冊からなるこのシリーズは、藤沢周平の作品の中でも特にファンの多い人気シリーズとなっています。

『隠し剣孤影抄』に収録されている『隠し剣鬼ノ爪』が、2004年、永瀬正敏主演で映画化。『必死剣鳥刺し』が、2010年、豊川悦司主演で映画化。そして、『隠し剣秋風抄』に収録されている『盲目剣谺返し』は、2006年、『武士の一分』と題され、木村拓哉主演で映画化されました。どの作品もたいへん話題になり、数々の映画賞を受賞しています。

著者
藤沢 周平
出版日

呆れるほど臆病なもの、酒に溺れるもの、妻に逃げられるものなど、『隠し剣』シリーズの主人公たちは、皆うだつの上がらない、それぞれに事情を抱えた下級武士たちです。決して裕福ではない彼らの生活が丁寧に描かれ、その魅力的な世界観に、すっと入っていくことができるでしょう。

何と言っても注目は、様々な特徴を持った秘剣。主人公たちが、どうしても秘剣を振るわなければいけない事態に陥る時、その隠された秘剣が正体を現すのです。その瞬間の描写は、圧巻の一言。手に汗握る興奮を味わえることでしょう。

主人公に寄り添う女性たちもまた、とても魅力的に描かれていて、時代小説は苦手という方にもおすすめできる、娯楽性の高いシリーズになっています。

5位:主人公の若々しさが微笑ましい藤沢周平作品

仲裁屋を営むことになった主人公が、時に失敗しながらも様々な問題を解決していく、コミカルな連作短編集です。1998年に高嶋政伸主演、2007年に中村俊介主演で二度テレビドラマ化されている作品です。

主人公・神名平四郎は、旗本である神名家の子息ですが、父が身分の低い女中に手を出して生まれた子であるため、ずっと肩身の狭い思いをしてきました。そんなこともあり、道場仲間の明石と北見と共に、新しい道場を立ち上げる計画を立て、意気込んで家を出て行ったのです。ところが明石が出資金を持ったまま夜逃げ。今更家には戻れない平四郎は、生活の為仕方なく「よろずもめごと」として仲裁屋を始めることにしました。

著者
藤沢 周平
出版日

まだまだ若く人の良い平四郎は、お金にならない仕事を引き受けてしまうこともしばしば。失敗をすることも多いですが、それでも自慢の剣術を活かし、様々な問題を解決していきます。作品通して、元許嫁の早苗との関係や、1度は頓挫してしまった道場開きの行方なども描かれ、物語はテンポよく進んでいきます。

庶民のもめごとを、武士が仲裁して回るというなんとも斬新な物語で、様々な場面に藤沢周平のユーモアが光っています。少々世間知らずで、悪気なくずうずうしくなってしまう主人公の姿には、初々しい魅力を感じることができるでしょう。思いもよらぬ権力争いにも巻き込まれることになり、歴史の流れや当時の町の混乱なども読むこともできます。

様々な出来事を通して、平四郎の成長していく姿が微笑ましい、コミカルで読みやすい時代小説になっています。

4位:藤沢周平が描く男女の姿。橋の上でくり広げられるドラマ

橋にまつわる、10の物語が綴られた短編集です。藤沢周平が、自身の作品の中でも特にお気に入りだったというこの『橋ものがたり』は、様々な出会いと別れが繰り広げられる橋を舞台として、男女の心情を丁寧に描いた魅力的な短編集です。

『約束』の主人公・幸助は、幼馴染みの女と会う為、待ち合わせ場所となっている萬年橋へと向かいます。5年前、深川に引っ越すことになったお蝶は、別れを伝えるため幸助のもとに突然会いにきました。2人は、5年後この橋で再び会おう、と約束を交わし別れます……。

著者
藤沢 周平
出版日

『思い違い』の主人公・源作は、両国橋の上で、毎日のようにすれ違う女が気になっていました。橋を渡るときには、ついきょろきょろと探してしまいます。あることがきっかけで、その女・おゆうと言葉を交わせるようになり喜ぶ源作でしたが、ちょうどその頃、親方の娘・おきくとの縁談が持ち上がっていて……。

その他、結婚の決まった女が、なぜか追われている男を匿うことになる『小ぬか雨』。7年ぶりに江戸に戻ってきた男が、ある女と関係を持つことになる『吹く風は秋』など、様々な男女の物語が綴られ、読後どこかあたたかい気分を与えてくれる短編集になっています。

古今東西、橋では様々なドラマが繰り広げられてきたことでしょう。町と町を繋ぎ、人と人を繋いできた橋は、切ない別れの場となることもあり、その人間模様にはうっとりさせられるばかりです。江戸にかかる幾つもの橋の上で起こる、優しい人間物語。短い短編集なので、1度気軽に試してみてはいかがでしょうか。

3位:老いてもなお輝くために。藤沢周平が描くご隠居さん。

隠居生活を送る主人公が、町奉行からの相談を受け、様々な問題を解決していきます。15のストーリーが収録される連作短編集で、2016年、北大路欣也主演でテレビドラマ化されました。優れた時代小説として、たいへん高い評価を受けている作品です。

主人公の三屋清左衛門は、藩主の用人を務めていましたが、藩主が亡くなり新藩主に代わることを機に、引退し隠居生活を送ることを決めます。ですが、これまで多忙な毎日を送り、務めをまっとうしてきた清左衛門は、隠居生活になんとも言えないむなしさを感じてしまいます。

著者
藤沢 周平
出版日

そんな中、清左衛門のもとには、友人の町奉行・佐伯熊太から様々な相談事が持ち込まれるようになりました。難題を次々と解決し、30年ぶりに剣術の稽古も再開させ、次第に活力を取り戻していく清左衛門は、思いがけず藩の政権争いにも巻き込まれることになります。一方物語には、小料理屋の女将・みさという魅力的な女性も登場し、作品に花を添えています。

清左衛門の送る隠居生活は、なかなか理想的なものなのではないでしょうか。当初こそ虚無感に苛まれていたものの、剣術の稽古や釣り、馴染みの小料理屋で飲む酒に、充実感を感じられるようになる清左衛門の姿が印象的です。たとえ仕事を引退したとても、当然人生は続いていくのだとしみじみさせられます。

清左衛門の人格に敬意を感じ、これからの人生に、清々しい希望を感じるラストが待つ、感動できるおすすめの名作になっています。老いてもこのように輝いていられたら、と思わずにはいられません。

2位:藤沢周平が初めてユーモアを見せた作品

脱藩し、江戸で浪人暮らしをすることになった主人公が、用心棒をしながら様々な事件を解決していきます。ストーリーは軽快に進み、主人公のキャラクターが魅力的で、全4巻が登場する人気シリーズとなりました。初期の頃、暗く重い作品の多かった藤沢周平でしたが、このシリーズから世界観がぐっと明るくなったと話題になり、注目されるきっかけとなった作品です。

主人公・青江又八郎は、藩の政争に巻き込まれ、許嫁の父である平沼を切ってしまいます。そのまま脱藩し江戸に逃げてきましたが、日々の暮らしもままならない又八郎は、相模屋の吉蔵が紹介してくる、様々な用心棒の仕事を引き受けていくことになりました。

著者
藤沢 周平
出版日
1981-03-27

そうこうしているうちにも、藩の秘密を知る又八郎のもとには、国許から次々と刺客が送られてくるのです。

又八郎というキャラクターが、用心棒という殺伐とした環境に身を置きながらも、どこか自由気ままで面白いのです。その他の登場人物も皆個性的で、作品を明るいものにしています。シリーズの中では、又八郎を襲いにやってくる女刺客との恋なども描かれ、読み応え充分なストーリーになっています。

端々に散りばめられたユーモアに頰が緩み、命がけの剣術シーンでは手に汗握る、エンターテインメント性に富んだ描写は必見です。長い年月が過ぎるシリーズの中で、又八郎もまた年を取っていくことになり、1人の男の濃密な人生を見ることができる、ロングヒットシリーズになっています。

1位:時代小説の筆頭に挙げられる藤沢周平の名作!

悲運に見舞われた少年が、藩の政争に翻弄されながらも、たくましく成長していく姿を描く長編小説です。藤沢周平の代表作であり、優れた時代小説として多くの人から愛され続けている本作は、1番におすすめしたい感動の物語です。2003年、内野聖陽主演でテレビドラマ化。2005年、市川染五郎主演で映画化され、どちらの映像化作品もたいへん話題になりました。

主人公・牧文四郎は15歳。海板藩・普請組に務める助左衛門の、養子として引き取られた子どもです。文四郎は、隣家に住む幼馴染みの少女・おふくが、最近徐々に大人びてきたこともあり、気になっていました。

同じ道場の友人たちと共に、日々剣術の稽古に励み、尊敬する父の手伝いなどをしながら平和に

暮らしています。ですが、父が海板藩の権力争いに巻き込まれ、切腹を申しつけられたことで、文四郎を取り巻く環境は一変するのです。

著者
藤沢 周平
出版日

家禄は減らされ、周囲からの目は冷たく、想いを寄せるおふくも、江戸の屋敷に奉公に出され離れてしまいました。辛い状況の中、ただただ剣術に励む毎日を送る文四郎は、その後、自らも藩の政争に巻き込まれていくことになります。問題を抱え、国許に戻ってきたおふくとの関係は複雑なものとなり、物語はますます目の話せない展開へと進んでいきます。

この作品には、細かい心理描写があるわけではなく、登場人物たちの行動が淡々と綴られているだけなのですが、そこにそれぞれの想いを感じることができる、秀逸な文章力があります。切腹で父を失った後の文四郎の姿は、強烈に印象に残り、その情景が鮮明に浮かび上がってくるため、涙腺の緩む方も多いことでしょう。風景描写も卓越されていおり、江戸の町の様子を容易に想像することができます。

切なさと感動で胸がいっぱいになる、藤沢周平の傑作長編小説になっています。時代小説が苦手という方にも、ぜひおすすめしたい作品です。

藤沢周平のおすすめ作品をご紹介しました。歴史に名を残した有名武将たちではなく、時代に翻弄される、下級武士や庶民の姿をしみじみと描いた傑作ばかりになっています。時代小説は苦手だと思っている方も、良作ばかりですので是非挑戦してみてはいかがでしょうか。

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