『社畜と幽霊』はWebコミック配信サイト「となりのヤングジャンプ」で連載されていた日日ねるこの作品です。ブラック企業に勤める社畜サラリーマンの主人公と、夜な夜な現れて邪魔する謎の女幽霊とのかけ合いを描いたショートギャグ漫画。 本作は無料の漫画アプリでも掲載されているので、気になった方はそちらからどうぞ!
連日残業のサラリーマン・背山。自分が原因なわけでもないのに、仕事が終わらず孤独に居残り作業していました。ある日、残業中のふとした瞬間に別の人の気配を感じることがありました。他の従業員は、全員退社しているはずなのに。
歩く音、壁を叩く音がしたかと思えば、筆記用具や資料の位置が変わり、視界の端で何かが動く。その気配は、もはや気のせいでは済まないレベルで存在感を増していき……。
その現象はすべて、女の幽霊の仕業でした。毎夜恨めしげに出没する女幽霊は、なぜか背山につきまとって、悪戯レベルのちょっかいをだし残業の邪魔をしますが、背山は仕事が終わらないためまさかの無視。
幽霊を構わない社畜サラリーマンと、構って欲しい女幽霊による、ちょっと笑えるホラーギャグ漫画となっています。
- 著者
- 日日 ねるこ
- 出版日
- 2016-09-16
本作の主な登場人物は主人公格の男性・背山と、名もなき女幽霊です。彼は普段からまともに帰れていないことから、健康管理もままならず、頬はこけて目の下にはクマが浮いています。ブラック企業に勤める社畜のイメージを全てぶち込んだかのようなキャラ。
そんな彼に構ってほしい女幽霊は「幽霊」としか呼ばれず、名前があるのかは不明です。全巻の表紙を飾る本作のメインキャラクターでもあります。ぼさぼさの長い髪、がさがさの唇、目はずっと見開いたままの四白眼。
常に顔をしかめており、険しい表情……のはずが、これが読んでいると可愛らしく思えてくるから不思議です。
女幽霊は基本的に喋ることはなく、唸ることしか出来ません。顔も苦悶の表情ばかりなのですが、なぜか感情豊かに感じるのも不思議な魅力です。しかめっ面のままで喜んだり、嫌がったり、不満そうな様子が手に取るようにわかるのが面白いところ。
幽霊は本来、不気味で気味が悪いものですが、後述するギャグ要素に絡んで、女幽霊が可愛く見えるのが本作最大魅力と言えるでしょう。
背山の働く会社をメインに、残業中の彼に女幽霊がちょっかいをかけるのがお決まりのパターンとなっています。
そこで面白いのが背山のリアクション。基本的に女幽霊のすることには無視を決め込み、無反応でいようとします。ボールペンが動いても、ラップ音がしても、コップに長い髪の毛が入っていてもノーリアクション。
なぜなら、ブラック会社の社畜だからです。幽霊現象にいちいち驚いていては、残業が終わらないからです。彼が幽霊の悪戯に反応するのは、PCが止まったりして、作業を続けられない時のみ。もちろん、納期に間に合わなくなるからです。これぞ社畜の鏡。
彼女は彼女で、手を変え品を変え、あれこれ背山に迫ります。どれも小学生レベルの他愛ない悪戯ばかりなので、怖いというよりむしろ微笑ましく思えてくるでしょう。しかも、背山が無視すると目に見えて不満げになり、たまに構われると満足そうになるのが可愛いです。
こうした世間一般の幽霊に関する認識とのズレが本作のユニークな魅力となっています。
ある日の夜遅く、背山は薄暗いオフィスで1人残業していました。資料作成に集中する彼の周囲で、異変が起こり始めます。飲み干したコーヒーカップの底に髪の毛が絡まっている……夜とはいえ奇妙に冷える……どこからか女の笑い声がする……。
背山はそんな異変を全て華麗にスルーし、女幽霊に気付くことはありませんでした。
別の日、同僚の原田と残業する背山は、雑談の中でオフィスに幽霊が出る噂を耳にします。同時に、またも背山の周りで異変が起き始めました。今度こそ、背山は女幽霊を目撃する……のですが、仕事を優先して相手にしません。
背山の無意識、あるいは意識的な幽霊スルーが光るエピソードです。この話に本作のエッセンスが詰まっていると言っても過言ではありません。背山の極まった社畜っぷりや、哀れにも無視され続ける女幽霊の悲哀が、得も言われぬ面白さとなって笑いを誘います。
連日連夜の激務が続き、さすがの社畜・背山でも作業に支障が出るほど限界に近付いていました。あまりにも追い詰められた彼は、すっかりお馴染みとなった女幽霊に対して、試しに仕事を手伝えないか聞いてみます。
彼女は相手にしてもらえたのが嬉しかったらしく、張り切って入力作業をするのですが……幽霊という性質のせいなのか、PCにまともに反映されず、背山から戦力外通告を受けました。
そんな彼女は、何を考えたのか別の日に動物の幽霊をオフィスに連れてきました。しかも、犬でも猫でもなく、狸の霊。さすがの背山も警戒しますが、狸は背山も女幽霊にも構うことなく、原田に乗り移ってしまい…… !?
- 著者
- 日日 ねるこ
- 出版日
- 2017-05-19
女幽霊のペット(?)として狸が登場したエピソードです。狸は動物のせいなのか女幽霊でも制御することができず、思いも拠らない行動をして、背山どころか女幽霊も困惑させていく新たなレギュラーキャラ。
通常は獣っぽい行動しかしないこの狸、原田に取り付くと仕事をてきぱきこなして途轍もない有能さを見せます。原田や女幽霊が基本無能なだけに狸の活躍が際立ち、物凄く笑えるのです。
経営者が入れ替わり、新入社員が入ったことで背山の職場の雰囲気は一変しました。それと連動するように、女幽霊の姿も見かけなくなります。残業も減って良いことずくめだったのですが、それはそれで寂しいものがありました。
……と思ったのも一時のこと。2ヶ月経つころには全てが元通りになり、女幽霊も再出没するように。
- 著者
- 日日 ねるこ
- 出版日
- 2018-01-19
女幽霊が2ヶ月間何をしていたかと言うと……実はオフィスを離れて、あちこちぶらぶらしていました。適当なおじさんを驚かせ、ビビられ過ぎたことを不本意に思ったり、彼女を性的に狙う霊能力者から逃げたり……。
ずっと背山と女幽霊のコンビ+αで物語が進んでいただけに、女幽霊単独で色々な出来事(ハプニング含む)が描かれていくのが新鮮です。2ヶ月後、背山の下に戻ってきた女幽霊が、いつも以上に楽しそうなのも見ていてほっこりします。
塩対応のサラリーマンとめげない女幽霊のかけ合いが楽しい本作ですが、最終回にはちょっとしんみりさせてくれます。どんな最後になるのかは、是非実際にご覧下さい。
いかがでしたか? ブラック企業のあるあるネタと幽霊のオカルトネタが融合し、よくわからないのに不思議に面白いのが本作ならでは魅力。何も考えずに読めば癒やされること間違いなし!?