物語の世界にがっつりと浸れるような、ボリュームのある読書をしたいと思うことはありませんか?この記事では、そんな欲望を満たしてくれる長編小説をご紹介していきます。日本の完結済み作品から厳選したので、チェックしてみてください。
明治時代の日本の勃興期を描いた小説、『坂の上の雲』。日本陸軍の基盤を築いた秋山好古、海軍の戦術の考案者で好古の弟の秋山真之、病に侵されながらも俳句の革新に挑みつづけた正岡子規という、松山出身の3人を中心に物語が進んでいきます。
極東の小国として世界から取り残されようとしていた日本が、明治維新を経て近代国家として生まれ変わり、日露戦争で勝利するまでがいきいきと描かれているのが特徴。当時の雰囲気を存分に味わうことができるでしょう。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1999-01-10
司馬遼太郎の代表作のひとつ。1968年からおよそ4年間かけて新聞連載されていた歴史小説です。文庫本は全8巻。本作を発表した後、映像化のオファーが殺到したそうですが、作品のスケールが大きかったこと、戦争賛美をしているのではないかと誤解を受けることを恐れ、司馬は頑なに断っていたそう。実際にテレビドラマ化されたのは2009年でした。
徹底してリアリティにこだわったそうで、国民文学と評されることもあります。大長編ですが文章は読みやすく、時代が大きく動いている躍動感を感じられるので、ぐいぐいと読み進めることができるでしょう。
日本が大きく成長していった時代、若者たちは何を思い、何を目指して生き抜いていったのか、体感できる作品です。
宮本輝の自伝的長編小説です。主人公は、自身の父親をモデルにしたという実業家の松坂熊吾。彼の激動の人生と、熊吾に翻弄される妻と子の姿を描いています。
物語の舞台は、終戦直後の日本。熊吾は50歳にして諦めかけていた子どもを授かり、「この子が20歳になるまでは死なん」と覚悟を決めるところから始まります。しかしそんな気概とは裏腹に、わがままで豪快で好色な熊吾の生活は、常に波乱に満ちていました。ハングリー精神旺盛な彼の姿は、意地や矜持を感じさせてくれるでしょう。
- 著者
- 宮本 輝
- 出版日
- 1990-04-27
1982年から雑誌「海燕」で連載された宮本輝のライフワークともいえる作品です。その後「新潮」に場を移し、約35年という歳月をかけて2018年に完結しました。
「達成感よりも肩の荷がおりた、というのかな。未完の大作、なんて何の値打ちもないですからね」(宮本輝インタビューより引用)
熊吾を軸にして描かれるおよそ20年間の物語には、なんと1200人を超える人物が登場。出会いと別れをくり返し、それぞれの人と小さなストーリーを築いていくことが人生なのだと感じさせてくれます。
人間の強い部分も弱い部分も丁寧に描き、読めば生きる力がみなぎってくる作品です。
中世のペルシャによく似た架空の王国「パルス」を舞台に、王太子アルスラーンが活躍する長編大河ファンタジー小説です。
第1部は敵対王国に征服されたパルスを、アルスラーンが忠実な臣下や協力者たちとともに奪還する様子を、第2部はパルスで国王となったアルスラーンの内政と、蛇王ザッハークとその一族との戦いを描いています。
- 著者
- 田中 芳樹
- 出版日
- 2012-04-12
1986年に1巻が刊行された田中芳樹の作品です。最終巻となる第2部の16巻が刊行されたのは2017年。およそ26年の歳月をかけて完結しました。漫画化、アニメ化、舞台化、ゲーム化と多方面にメディアミックス展開もされています。
王国同士の壮大な戦いはもちろん、それぞれの国の制度や宗教などの世界観がしっかりと構築されているのも魅力です。
アルスラーンは心優しい青年ですが、それゆえに施政者としての厳しさが足りません。いきなりの敗戦で国を失い、そこからどのようにして彼が成長していくのかが見どころです。
二階堂黎人の長編推理小説です。
物語の舞台は、ドイツとフランスの国境をまたいで建てられた双子の古城「人狼城」。ドイツ側の城に招待された10人の客が残忍な手口で殺害されたのとほぼ同時刻、フランス側の城でも招待客が次々と殺されていました。
合計20人を超える大量殺人の謎に挑むのは、名探偵の二階堂蘭子です。
- 著者
- 二階堂 黎人
- 出版日
1996年に第1部が刊行され、全4巻で完結。総ページ数は4000を超え、世界最長の推理小説として「ギネス世界記録」にも登録されています。
第1部の「ドイツ編」と第2部の「フランス編」は、どちらから読んでもよいそう。同じようなシチュエーションでどんどん人が死んでいく様子は、さながらホラー小説のようでもあります。多くの謎を残したまま物語は進み、第4部の「完結編」で次々と解決していくさまは圧巻です。
本格ミステリが好きな方には特におすすめだといえるでしょう。
平安時代中期に成立した長編物語。紫式部が作者だといわれています。
物語は大きく3部に分かれています。第1部は容姿と才能に恵まれた主人公の光源氏が、運命に導かれるように多くの女性と関係をもつ華やかな物語。一方の第2部は、光源氏が最愛の女性である紫の上を失い、苦悶する物語です。また光源氏の亡き後となる第3部では、次男とされる薫大将を主人公にして、ほの暗い物語が綴られていきます。
この薫大将は、光源氏の妻である女三の宮が、柏木という男と密通したことで生まれた不義の子でした。
- 著者
- 瀬戸内 寂聴
- 出版日
- 2007-01-12
54帖から成り、400字詰め原稿用紙にして約2400枚の大作です。作中で描かれる年月はおよそ70年。登場人物は500人を超え、また800におよぶ和歌が収録されています。
当時の貴族の生活や不安を見事に描いているのが特徴。雅な空気感を醸し出しつつ、現代と変わらない人間の苦悩を知ることができるでしょう。
学校の授業などで『源氏物語』に触れる機会は数多くありますが、たいていは一部分を読むだけなはず。しかし本作は、全体の構成がある小説的手法を用いて書かれた世界最古の物語として、世界的にも評価されているもの。1度通して読んでみるのもおすすめです。