資本主義が確立される前の世界で、イギリスやフランスなど絶対君主制の国では「重商主義」にもとづく政策がおこなわれていました。一体どういうものだったのでしょうか。この記事では各国の特徴や、批判を唱えたアダム・スミスの『国富論』などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
貿易を通じて、貴金属や貨幣などの富をたくわえることを目指す思想、政策を「重商主義」といいます。16世紀から18世紀にかけて、西ヨーロッパの絶対君主国が採用していました。
重商主義の考え方は、15世紀のイタリアですでに存在していました。フィレンツェ共和国の外交官だったマキャヴェリが記した『君主論』にも記されています。重商主義を唱えた代表的な人物は、イギリスの財政家トーマス・グレシャム、オリバー・クロムウェル、フランスのジャン・バティスト・コルベールなどがです。
「富とは金であり、国力の増大とはそれらの蓄積である」という認識を軸に、時期によって「重金主義」「貿易差額主義」「産業保護主義」に分類することができます。
重金主義は、金や銀などの貴金属を国富とみなし、外国との取引の規制、略奪、鉱山の開発などでこれを蓄積しようという政策。主に16世紀のスペインやポルトガルが採用していました。重工主義、取引差額主義といわれることもあります。
貿易差額主義は、輸出を促進して輸入を制限し、その差額で貨幣を蓄積しようという政策。東インド会社の役員でもあった経済学者のトマス・マンが主張し、主にイギリスが採用していました。
また貿易差額主義が主流になるなかで、産業保護主義が提唱されるようになります。これは自国の産業を国富の源泉とみなし、保護しようとする考え方。高額な関税をかけたり、国内の鉄道を整備したりと国によってさまざまな保護政策をとりました。主にドイツや日本で採用されています。
18世紀の後半になると、重商主義を批判する主張が登場します。代表的なのは、フランスの医師で経済学者でもあるフランソワ・ケネーが唱えた「重農主義」です。農業が富の源泉だとし、農業生産を重視する政策を唱えました。
大航海時代の主役だったスペインやポルトガルが重金主義にもとづく政策を採用したのに対し、出遅れたイギリスで主流となっていたのが、重商主義のなかの貿易差額主義です。
1648年にオランダが独立すると、イギリスは貿易面でオランダにも圧倒されるようになります。そこでこの状況を打破するために、1651年に「航海法」が成立。イギリスとその植民地への輸入品は、イギリス船、またはヨーロッパであれば現地の船で輸送するよう制限をしたのです。これによって、中継貿易を担っていたオランダを排除しようとしました。
1652年、航海法に反発したオランダとの間に「第一次英蘭戦争」が勃発。イギリスはこれに勝利し、貿易を通じて富を蓄積していきます。「イギリス商業革命」と呼ばれる大きな成長へと繋がり、帝国の拡大に寄与しました。
フランスにおける重商主義の担い手は、ルイ14世の側近として財務総監を20年以上務めたジャン・バティスト・コルベールです。このことから、フランスの重商主義を「コルベール主義」とも呼びます。
フランスの財政を再建するために、国内の産業を保護、育成し、輸出を奨励しました。具体的には、中心産業だった毛織物や絹織物、絨毯、ゴブラン織などの産業を保護。また国立工場を設立して兵器やガラス、レース、陶器など新しい産業の育成に努めたのです。
さらに、フランス東インド会社、フランス西インド会社、ルヴァン会社、セネガル会社などを相次いで設立。市場の開拓と植民政策を推進し、新たな植民地を開発していきます。
コルベールの重商主義によって蓄積された富は、王立科学アカデミーの設立やヴェルサイユ宮殿の建設費にあてられ、フランスの全盛期を支えることになります。
フランスの医師で経済学者でもあったフランソワ・ケネーが唱えた重農主義が、重商主義に対する批判の始まりだといわれています。そして重農主義に刺激を受けたのが、『国富論』を記したイギリスの経済学者アダム・スミスです。
アダム・スミスは1723年にスコットランドで生まれ、フランシス・ハッチソンのもとで道徳哲学を学びました。1751年にグラスゴー大学の教授に就任。1759年に人間個人の「共感」について記した『道徳感情論』を刊行し、大きな話題を呼んでいます。
その後は貴族ヘンリー・スコットの家庭教師として3年間旅行に帯同し、この時にフランソワ・ケネーやジャック・テュルゴーなどの重農主義者と交流をしました。イギリスに帰国をすると執筆活動を始め、1776年に『国富論』を刊行します。
『国富論』の「序論および本論の構想」では、富を「生活の必需品と便益品のすべて」「労働によって得られるもの」と定義。これは「富は金である」と定義する重商主義を批判する内容だと捉えられています。
『国富論』にはそのほか、理論、経済史、経済思想史、経済学史、経済政策論、財政学などが記されていて、経済学における着想のすべてが含まれており、近現代の経済学の出発点と位置づけられているのです。
- 著者
- I・ウォーラーステイン
- 出版日
- 2013-10-15
本書で描かれるのは、「ヘゲモニー国家」の移り変わりです。ヘゲモニー国家とは、特定の人物や組織が、不動の権力を握ること。作者は、単なる強国ではなく「圧倒的に強力な超大国」だとし、歴史上ではオランダ、イギリス、アメリカの3ヶ国のみが該当するとしています。
本書では、17世紀から18世紀にかけて、重商主義を駆使しながら覇権をめぐって争っていたオランダ、イギリス、そしてフランスが抱いていた構想を詳細に解説。ヘゲモニー国家という一見揺るぎないものが、いかにして移り変わっていったのかがわかるでしょう。そのダイナミックさに、思わず手に汗を握ってしまいます。
- 著者
- アダム・スミス
- 出版日
- 2007-03-24
近現代の経済学の出発点といわれる、アダム・スミスの『国富論』。本書の翻訳は、ミルの『自由論』の翻訳にも携わった山岡洋一が担当しています。注釈を取り除いて読みやすさを重視しているのが特徴。無理のない日本語でスムーズに読むことができるのです。
刊行されたのが1776年ということを考えると、本書に書かれている内容がまったく古びていないことに驚くでしょう。TPPやアメリカの保護貿易的政策など、これからの世界経済を考えるうえでも読んでおきたい一冊です。