色川武大おすすめ小説ランキングベスト5!裏の顔はギャンブルの神様?

更新:2021.12.14

数々の文学賞に輝いた人気作家・色川武大は『麻雀放浪記』を大ヒットさせ、世に麻雀ブームを巻き起こしました。筆名としては色川のほかに、阿佐田哲也、井上志摩夫などを名乗りました。ここでは、2つの顔を持つアウトロー作家・色川のおすすめ作品をご紹介します。

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異色の作家、色川武大とは?

1929年、東京に生まれた色川武大は、戦後間もない頃に中学を中退。賭け事などで生計を立てる日々を送りました。サイコロ博打や麻雀の修行に没頭し、腕を磨いた色川は、後に「雀聖」と呼ばれる、麻雀界の伝説の人物となります。

1961年に『黒い布』で審査員たちからの絶賛を受け、第6回中央公論新人賞を受賞します。その後スランプに陥り、再び賭け事で生計を立てる日々が続きます。

1969年、阿佐田哲也の名前で執筆された『麻雀放浪記』シリーズが、若い世代を中心に大ヒット。空前の麻雀ブームが到来しました。

色川武大の名が再び復活したのは、1977年の『怪しい来客簿』。「色川武大」としては16年ぶりとなるこの作品で、泉鏡花賞を受賞すると、翌1978年には『離婚』で直木賞を受賞します。多くの傑作を遺し、1989年に亡くなった後も、ギャンブルの神様として崇められ、優れた作家として愛され続けています。

5位: 16年ぶりに、色川武大が復活『怪しい来客簿』

主人公の視点から、切なくも死に向かう人々の姿を淡々と綴った連作短編集です。色川武大としての復帰作であり、泉鏡花賞を受賞した本作は、色川武大自身の体験が多分に含まれる描写が非常にリアルで、あっという間に小説の世界に引き込まれてしまいます。

著者
色川 武大
出版日


空襲後の悲惨な光景を、まざまざと思い浮かべることができる『空襲のあと』から物語は始まり、「ある日不意に戦争が終わった」のです。その瞬間、まだ少年だった「私」の目に映る景色は、昨日とはまったく違ったものになりました。

主人公の「私」の元には、様々な「怪しい来客者」たちがやってきます。ある時は死んだはずの大好きだった叔父、ある時は会ったこともないプロ野球選手、そしてかつての友人や、ちょっとした知り合いなどが次々と「私」の前に客として訪れます。彼らは皆、この世界にはすでにいない人々ですが、「私」は優しく寄り添うことも冷たく突き放すこともなく、ただすべてを受け入れます。

色川武大という人間の、心の広さや温かさが痛いほど伝わってくる作品です。読後、静かで優しい気持ちになれることでしょう。

4位: 色川武大の直木賞受賞作!独特の男女仲を描く『離婚』

離婚した夫婦のその後の生活を、ユーモアを交えながら味わい深く描いた連作短編集です。表題作『離婚』は直木賞受賞作品です。『離婚』のほかには『四人』、『妻の嫁入り』、『少女たち』が収録されています。

著者
色川 武大
出版日
2011-11-10


「ねえ、あたし、お妾にしてくんない」という会津すみ子の言葉をきっかけに、フリーライター・羽鳥誠一と、すみ子の同棲生活がスタート。2年後には、婚姻届を提出します。とりあえずの夫婦となりますが、6年後にはお互いの不満が募り、離婚することになります。しかし離婚した途端に心のつかえが取れ、お互いがお互いを求め合うように。結局2人は一緒にいることになるのです。

男女の仲は、いろいろな形があるのだと痛感します。初めから普通の夫婦になる気などなかった2人ですから、離婚の形もまた個性的です。お互いが自由気ままで、束縛されるのを嫌い、それゆえ離婚した後の方がずっと上手く一緒にいられるというごく自然な流れがあります。

2人の姿は微笑ましく、語り部・誠一の独特の語り口調にはおかしさがこみ上げてきます。しみじみと読める作品になっています。

3位: 父子の関係を綴った名作『百』

100歳も間近に迫り、心身ともに衰えを見せる父と、自由で無頼な人生を生きてきた主人公の奇妙な親子関係を綴る連作短編集です。自身をモデルにしたと思われる本作は、4つのストーリーが収録され、表題作の『百』は川端康成文学賞を受賞。優れた純文学作品として高い評価を受けました。

著者
色川 武大
出版日
1990-01-29


主人公「私」の父は、元軍人。厳しく頑固で、支配力の強い人です。戦争に敗れたことで恩給がもらえなくなり、生活が苦しくなりますが、母が働きに出ることがどうしても気に入りません。「私」はちゃんとした職もなく、ギャンブルで生計を立てる日々。下の弟は「私」とは違い、真面目な生活を送っています。

本作は真逆の生活を送りながらも、決して悪い関係ではない兄弟の姿や、反抗を繰り返しながらもどこか共感する父親と関係が描かれます。家族それぞれの心情を読み取ることができ、どうしようもない切なさが漂っています。今作でもやはり色川武大は、すべてを冷静に受け入れようとしています。客観的な文体が、読者により深い悲しさを感じさせる傑作になっています。

2位: 色川武大流・人生の指南書『うらおもて人生録』

10代の少年だった頃から、賭博場に出入りしていたという色川武大。若いうちからいくつもの名勝負を観察し、自身も数々の修羅場を切り抜けてきたことでしょう。本書ではそんな色川武大が、博打で身につけた人生の哲学を紹介しています。上手に生きていくためのコツが一冊の中に詰まっており、若い方にもぜひおすすめしたい作品です。

著者
色川 武大
出版日
1987-11-30


色川いわく、何事も大事なのはバランスなんだとか。13勝2敗や12勝3敗は目指さず、いつも9勝6敗を継続させる勝負をするんだそうです。大きく勝ちすぎていると、いつかしっぺ返しに合うもの。だから手痛い負けにならないよう、たまには上手に負けることが大事だと色川は言います。

本作には、目からウロコの人生哲学がぎっしり。色川武大の語りかけるような文体は、優しさに満ち溢れています。成功者の自己啓発本が苦手だという方も、このようなアドバイスならすっと心に響くのではないでしょうか。自分に劣等感を持っている方や、仕事で失敗続きの方にも、勇気を与える一冊になっています。意外な発見があり、考え方が変わるかもしれません。

1位: 狂気を見つめる色川武大渾身の一作『狂人日記』

幼い頃から、幻覚や幻聴に悩まされ続けてきた主人公の苦悩を描いた作品です。狂人でありながら正常な思考力を持ち、その狭間で徹底的に自身を見つめるこの衝撃作は、読売文学賞を受賞し、高い評価を受けた長編小説になっています。

著者
色川 武大
出版日
2004-09-11


物語は、精神病院に入院している主人公の手記によって進んでいきます。男が見る現実世界の中には、様々な幻覚や幻聴が現れます。その凄まじい現象が、淡々と綴られていきます。狂人な自分と正常な自分という2つの世界を行き来しながら、完全な狂人になれたらどんなに楽だろうと願い、他者と自分の違いについても突き詰めて考えていきます。

家族との関係や、病院で出会った患者・圭子との交流も描かれ、苦しくなるほど他者を求める主人公の姿には、胸が詰まる思いがするでしょう。他者と分かりあうことのできない寂しさや悲しさが、作品全体に流れています。

人とは違う部分を、他人に説明するのは難しいものです。うまく伝わらないもどかしさを体験した方も多いことでしょう。色川武大の作品の中でも、みなさんに1番におすすめしたい名作です。

色川武大のおすすめ作品をご紹介しました。淡々と描かれているにも関わらず、優しさを感じる作品ばかりです。多くの人を魅了して止まない色川作品の世界に、ぜひ1度触れてみてはいかがでしょう。

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