『抱影』結末までの4つの見所をネタバレ!ハードボイルド恋愛小説が映画化!

更新:2019.6.26

老いていくことを嘆く人は少なくありません。しかし、人には年齢を重ねければ出せない味や渋みといったものがあり、重ねた時間の分だけ人を魅力的にしてくれるのです。『抱影』は、年齢を重ねた人間の妙味を感じる作品です。映画化される本作の見所を4つ、ご紹介いたします。ネタバレも含まれますので、ご注意ください。

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小説『抱影』が映画化!タイトルの意味とは?【あらすじ】

『抱影(ほうえい)』は2010年10月に発売された、北方謙三の小説です。2013年9月に文庫版が発売。14年ぶりの書き下ろし作品として注目を集めた本作は、「ハードボイルド小説の旗手」とも言われる作者の得意分野であるハードボイルド作品。

男性の美学と戦い、そして魅力的な女性との官能に満ちた恋が描かれています。  
 

舞台は横浜。主人公、硲(はざま)冬樹は、バーやクラブを経営している中年の男です。その一方で画家として創作活動を続けており、硲の描いた抽象画は海外でも注目され、高い評価を得ていました。自分が経営する店を自転車で巡回し、絵を描く。

そんな日常を送る硲には、出会ってから22年間、親密にしている女性がいます。 

硲と響子は、彼女が医大生のころに出会いました。彼女に出会ったころから魅了され、他の人が見えなくなるほど惹かれていきます。それは、彼女が結婚してからも気持ちが変わることはありませんでした。しかし現在は、食事をするなど距離を保った関係が続いています。

そんなある日、硲は響子から、ある事実を告げられます。「血液性の癌になり、余命が半年ほどしかない」ということ。彼女への愛を絵にしたいと願っていた硲に、響子は絵を望みます。硲は彼女の裸身をキャンバスに、刺青を彫ることで、彼女に作品を刻み付けようとするのでした。 

著者
北方 謙三
出版日
2013-09-13

響子との関係が中心に描かれますが、硲の創作描写や女性関係、ヤクザとの関わりなど、様々な要素がてんこ盛りの本作。恋愛小説ではなく、あくまでハードボイルド小説の世界を確立させています。男性がしびれるような美学を追従しているところもあり、ハードボイルド作品が好きな読者にはたまりません。  

加藤雅也主演の実写映画が2019年9月6日に公開予定となっていますが、映画タイトルは『影に抱かれて眠れ』と変更されています。

『抱影』というタイトルの意味は、はっきりと解説されていませんが、映画のタイトルから推測するに、誰かに休息が与えられる、影に抱かれているようだとイメージできる描写や展開から付けられたタイトルなのではないかと思わされます。
 

作者・北方謙三とは

作者は1947年10月26日生まれ、佐賀県Fの出身です。中央大学法学部在学中の1970年、同人誌に『明るい街へ』を発表。この作品が文芸誌「新潮」1970年3月号に掲載されたことで、学生作家としてデビュー。卒業後は雑誌の編集者をしながら執筆を続けます。 

1981年書き下ろし長編『弔鐘はるかなり』が発売され、『さらば、荒野』『檻』などのハードボイルド作品を次々と発表。「ハードボイルドの旗手」として人気作家となりました。

歴史小説も数多く執筆しており、1989年には南北朝時代を舞台にした『武王の門』を発表、さらに1996年から、全13巻の大長編書き下ろし『三国志』の刊行を開始しました。1999年には『水滸伝』の連載も開始され、歴史大長編を手掛ける作家としてのイメージも定着しました。 
 

著者
北方 謙三
出版日
2006-10-18

北方謙三自身は独自の美学を持っており、作品のテーマは「男の死にざま、すなわちいかに生きるか」で一貫しています。活躍の範囲は小説だけでなく、2004年に休刊となった雑誌「ホットドッグ・プレス」の若者向け人生相談コーナーでもその手腕を発揮。1986年から16年もの間コーナーを担当し、「ソープに行け!」という直球な名言などを生み、人気を博しました。 

現代を舞台にしたハードボイルドと、歴史小説。舞台とする年代は違いますが、描かれる「男」の姿に大きな違いはありません。大なり小なり何かを背負って戦い、独自の美学を持っている。北方作品には様々な「男」の美学が描かれており、その熱に読者も魅了されていくのです。

小説『抱影』の見所をネタバレ解説1:北方流デッサン術に引き込まれる

硲はバーやクラブを複数経営する傍ら、絵を描いています。趣味の範疇というわけではありません。スケッチブックに絵を描き始めると、寝食を忘れて没頭してしまう。しかし、芸術家としての顔を店の従業員たちは知りません。 

硲が絵を描いている描写は随所に登場します。絵を文字で説明することは可能ですが、絵の表現を的確に文章として伝え、読者にイメージさせるのにはテクニックが必要です。同様に、硲に見えている世界、描いている世界を読者に伝えるのには、ただ硲の動きや考えを書くだけでは伝わりません。  

いま何を考え、描いているのか。無駄の省かれた文章で簡潔に書かれているからこそ、彼を取り巻く世界が見えてきます。絵を描いているときの、無駄な音が削ぎ落された空間、ピンと張りつめた空気に思わず読者は息をひそめてしまうでしょう。

文字を追うごとに、絵を描いている硲の姿が一枚の絵のように想像でき、脳裏に焼き付いて離れません。 
 

小説『抱影』の見所をネタバレ解説2:本作ならではのハードボイルド世界に浸る

ハードボイルドとは、暴力的、反道徳的な内容を、批判を加えず客観的に、かつ簡潔に描いた文体を言います。本作は、およそ社会抗争や暴力とは無縁そうな画家が主人公なのに、どうハードボイルド展開になるのか、首をかしげてしまった読者も多いのではないでしょうか。 

硲は元従業員である若者のトラブルを助けたことがきっかけで、自身もトラブルに巻き込まれてしまいます。しかし、彼らとの戦いが本作の「ハードボイルド成分」の本質ではありません。

北方謙三が「男の生きざまを書く」ことをテーマにしているのならば、本作のハードボイルド成分は硲の生き方だといえるのではないでしょうか。

自分の命を燃やすほどの情熱を傾け、絵に取り組んでいく。己が表現したいことにひたすら力を入れていくという男、硲冬樹の生き方が、ハードボイルド世界の空気を作ることに一役買っているのは間違いありません。

小説『抱影』の見所をネタバレ解説3:濃密な空気に侵食される官能描写

本作では硲のクラブで働く女性や画家志望の美大生も登場しますが、なんといっても魅力的に映るのは響子でしょう。硲が長い間思い続けている女性ですが、2人に肉体関係はありません。ただたまに食事をする関係とはいえ、2人の間には長年の付き合いだからこその濃密な空気が流れています。 

直接的な性描写もありますが、見所となるのは響子の身体に刺青を彫っていく描写。硲からすると、長年の願望が叶った瞬間です。響子は裸体。硲に妙な熱が宿り、彼の熱がそのまま行間からも滲み出ているように感じられるでしょう。作品を彫っているのに、その描写はどこかエロティック。響子の肌に浮かび上がる模様を想像し、読者もどこか高揚した気分になります。

官能的な表現だけでなく、直接的な描写も登場。女性目線では抵抗のある展開もあるので、苦手な方はご注意ください。 
 

小説『抱影』の見所をネタバレ解説4:北方流の王道な結末!ハードボイルドな恋愛の最後とは?

著者
北方 謙三
出版日
2013-09-13

硲は画家ではあるものの、実は喧嘩がめっぽう強いという設定の持ち主。トラブルに巻き込まれてしまいますが、読者として気になるのは響子との関係なのではないでしょうか。

響子は余命半年を宣告され、その病状を覆すのは容易なことではありません。硲自身もなんとか響子を延命させようとするものではないため、彼女に待っているのは緩やかな死です。

20年以上もずっと想い続ける硲はどうなるのか。一種の心の支えであった響子を失ったことで受ける衝撃は相当なものでしょう。硲は響子を描くために生きるのか、それとも命を終えようとするのか。彼が、最後どうなったのか明確な描写はありません。しかし、失ったものの大きさや、彼の嘆きと悲しみが伝わってくる結末になっています。  

北方流の美学が詰め込まれた本作。大人の恋愛とに派手なアクションとエンタメ小説として様々な要素が堪能できます。映画はタイトルが変わりますが、大人の恋愛がどう表現されるのか、要注目です。

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