心に染み入る繊細な表現と、女性らしい細やかな筆致で描いた登場人物が魅力の大島真寿美の小説。「直木賞」の候補にもなり話題を集めています。この記事では、そんな彼女のおすすめ作品を紹介していきます。
1962年生まれ、愛知県出身の大島真寿美。高校生の時から脚本の執筆をはじめ、20代前半には劇団を主宰しました。その後小説家に転向し、1992年に『宙の家』でデビューをしました。同年『春の手品師』で「文學界新人賞」を受賞しています。
その後も精力的に作品の発表を続け、2011年に『ビターシュガー』がテレビドラマ化、2015年には『チョコリエッタ』が映画化。女性ファンを中心に人気が広がっています。
また2014年には『あなたの本当の人生は』で、2019年には『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で「直木賞」にノミネートされました。
主人公は、小学生の有加。両親が離婚したことをきっかけに、母親と一緒に祖母の蕗の家で暮らすことになりました。蕗はかつて有名な舞台女優として活躍していて、いまでも凛とした立ち振る舞いが美しい女性です。
彼女のもとへは今でも、付き人やデザイナー、ファンなど昔なじみの人が訪ねてきます。本書は、そんな祖母と彼女を取り巻く大人たちとの日々を、有加の目線から綴った作品です。
- 著者
- 大島 真寿美
- 出版日
- 2011-10-06
2007年に刊行された作品です。舞台女優だった蕗は、実は有加の父方の祖母。そんな彼女のもとに母親とともに住むことになるので、少し複雑な家庭事情です。
タイトルからわかるとおり、物語に一貫しているテーマは「生と死」。いつか誰にでもやって来る、目覚めない朝について淡々と記しています。
その一方で、登場人物はみな明るく個性的なので、暗い雰囲気はありません。壮絶な過去を経験しつつも、かっこいい歳のとり方を貫いているのがポイント。老いに向かってどのように生きるのか、そしてどのように死んでいきたいのかを考えさせられる一冊です。
物語の舞台は、18世紀のヴェネツィア。孤児を受け入れているピエタ慈善院では、音楽の才能がある子どもを集めて音楽教育をおこなっていました。指導していたのは、作曲家やバイオリニストとして有名な、ヴィヴァルディです。
ある日、音楽院の生徒であるエミーリアのもとに、ヴィヴァルディが亡くなったという報せが届きます。そして同じくヴィヴァルディに師事していたヴェロニカから、ある特別な楽譜を探してほしいという依頼が届きました。
- 著者
- 大島真寿美
- 出版日
- 2014-02-05
2011年に刊行された作品。2012年には「本屋大賞」で3位に選ばれました。ピエタ慈善院は実際にあった施設で、ヴィヴァルディは音楽教育だけでなく、さまざまな楽曲の提供もしていたそうです。
本書の魅力は、ヴィヴァルディを中心とする教え子や姉妹、愛人など女性たちの人生を、ヴェネツィアの風景とともに美しく描き出しているところでしょう。大島真寿美の細やかな筆致が世界観とマッチしています。
消えてしまった楽譜を探し求めて、見つけたものとは何だったのでしょうか。
短大を卒業して20年。同窓会の連絡をきっかけに、6人の女性たちが連絡をとり始めました。
失業したうえに彼氏とも別れた人、夫の連れ子が自分を「あいつ」呼ばわりしていることに気付いた人、子どもができないことに悩む人……みなそれぞれの事情を抱えています。
- 著者
- 大島 真寿美
- 出版日
- 2017-02-03
2013年に刊行された連作短編集です。物語はまず、短大時代に自殺をした友人は、実は殺されたのではないかと疑っている則江を主人公に始まります。同窓会について、友人の領子に電話をかけました。そこからかつての友人たちに次々と電話が繋がり、6人が抱える問題が浮き彫りになっていくのです。
女同士の友情なので多少の見栄やプライドはありますが、ドロドロとはしていないのが他の作品と一線を画すところでしょう。
やがて彼女たちは、則江が暮らす東北で集まることになったのですが、その日は2011年の3月11日。東日本大震災が起こるのです。人生にはたくさんの分岐点があり、6人はそれぞれの人生を生きています。そして東日本大震災は、みなの人生を一変させました。ただの群像劇では終わらない、友情と生を描いた物語です。
「書く」ことを仕事にする3人の女性たちの物語です。
新人賞はとったものの、その後がぱっとしない新人作家の真実。担当編集者のすすめで、大御所のファンタジー作家、森和木ホリー先生に弟子入りすることになるのです。
弟子といっても、実際は住み込みのお手伝いのようなもの。そこでは秘書の宇城が日常を仕切っています。ホリー先生は人気シリーズの執筆途中に物語を紡ぐことができなくなり、代わりに宇城が筆をとっていました。
- 著者
- 大島 真寿美
- 出版日
- 2017-10-06
2014年に刊行された作品。「直木賞」にもノミネートされています。
ホリー先生は真実のことを、自身の作品に登場する猫の名前で読んだり、真実はコロッケ作りの名人だったりと、ファンタジー要素と妙に現実的な要素がいっしょくたに描かれている作品。ふわふわとした優しい雰囲気が物語を包んでいます。
書くことができない真実、書くことができなくなったホリー先生、代わりに書く宇城……3人の女性は、「書く」ことを通して交錯し、自分の人生を模索していきます。真実がやって来たことによって、それぞれにちょっとした変化が起こり、また三者三様の人生が進んでいくところが見どころでしょう。
主人公は、実在した江戸時代の人形浄瑠璃作家、近松半二です。
儒学者の次男として生まれた少年は、父親とともに芝居小屋に通ううちに浄瑠璃の魅力に取りつかれ、作家を目指すことにしました。しかし、かつては歌舞伎と浄瑠璃が人気を二分して盛り上がっていましたが、いつしか浄瑠璃は下火になってしまうのです……。
- 著者
- 大島 真寿美
- 出版日
- 2019-03-11
2019年に刊行された、大島真寿美初めての時代小説です。「直木賞」の候補になりました。人間の役者ではなく、人形が虚構の世界を演じる浄瑠璃の世界に飛び込んだ、近松半二の半生を描いています。
何度も書き直しを命じられ、あとから入った弟子にも先を越され、困難な日々が続きますが、それでも彼は書き続けます。文章で物語を紡ぐ人の生きざまをありありと感じることができるでしょう。
物語の舞台は、大阪の道頓堀。心地よい関西弁で文章が綴られ、さらさらと読み進めることができるのも魅力です。