『俺たちつき合ってないから』は、原作・宮崎摩耶、作画・山崎智史の恋愛漫画です。年収3,000万円の男と結婚することに執着する主人公が、騙されていると知らずにセレブ男と関係を持ち、そして転落していく……というストーリー。嫉妬と願望、虚栄と虚飾にまみれたドロドロの男女関係を描いた作品となっています。
主人公の「ゆりか」は、上昇志向の強いアラサー女性です。贅沢で優雅な暮らしに憧れるものの、行動のすべてが噛み合わず、キャバクラ嬢としてなんとか食べつなぐ日々。
そんな彼女の夢は、玉の輿に乗ること。年収3,000万円の男と結婚する……そう豪語しても、場末のキャバクラにいる限り、そんなチャンスはありません。
しかしある日彼女の勤め先のキャバクラに訪れた新規客の1人が、偶然にも年収3,000万円だということが発覚。ゆりかを気に入ったといい、連絡先を交換しますが、なぜか男は「ピュンピュン」という偽名を使います。
ようやく捕まえたセレブへの切符。意外なほどウブなゆりかは、胸をときめかせるのですが……。じつはこのピュンピュン、複数の女性にたかるヒモ男でした。
こうして身の程を考えないダメ女と、女を食いものにするクズ男による、破滅一直線の物語がスタートします。
こちらは、スマホアプリcomicoで無料で読むことができます。気になった方はどうぞ。
- 著者
- 宮崎 摩耶
- 出版日
- 2019-02-20
物語の主人公は、読者に好かれるというのがほとんどの創作物のセオリーでしょう。なぜなら好感度が高かったり、共感できたりする人物でなければ、物語を読んでもらえないからです。
ところが本作は違います。主要人物のゆりかとピュンピュンは、2人そろってどうしようもないクズ人間なのです。
ゆりかは28歳の女性で、昼は声優業、夜はキャバ嬢という二足のわらじを履いています。かなりの美貌とナイスバディ。今は落ちぶれていますが、かつては名の知れた作品に出るなど、声優で売れた過去もあって、極貧生活に似つかわしくない高いプライドの持ち主でもあります。
また嫉妬深い性格でもあり、結婚相手に妥協した友人や知人を見下します。しかしその裏には、安定した生活を羨ましがるという一面も見せる、少し面倒くさいタイプの主人公です。
ゆりか以上にヤバいのが、ピュンピュンという男。見た目はスマートな美形眼鏡青年ですが、じつは妻子ある身。しかも年収3,000万円と嘘を吐いています。年収3,000万円どころか無職なうえ、複数の浮気相手がおり、その全ての女のヒモという超地雷男。
当然、本名ではありません。高校時代からやり逃げの常習犯で、逃げ足が速いことから「ピュンピュン」とあだ名がつけられました。
このどうしようもないクズ人間が出てくる物語……キャラの好感度がゼロでも、どんな結末を迎えるのか気になり、ついつい読み進めてしまう作品です。
本作では、ゆりかの視点とピュンピュンの視点、それぞれの視点で物語が進みます。2人はお互いの真実を知りませんが、俯瞰(ふかん)できる読者だけが真実を知っているという構成です。
ゆりか側から見ると、彼女は悲劇のヒロインで、これから成功していくシンデレラストーリー仕立て。一方ピュンピュン側は、クズ男が女を食いまくり、破滅に突き進むゲスい物語に見えます。
このように、同じ作品でも視点によってまったく見え方が違います。両方の視点を見られるからこそ、ドキドキ・ハラハラする感覚が、本作の面白さをより強く感じさせてくれるのです。
本作には、基本的にクズ人間しか登場しません。たまにクズでないキャラも出てきますが、口直し程度の脇役でしかありません。つまり救いようのない登場人物による最低な行為が、ストッパーなしにどんどん展開されていきます。
身の程をわきまえず、ピュンピュンに騙されて消費者金融に手を出して衣服などを着飾るゆりか。その反面、ひとり暮らしの生活は汚部屋とカップ麺。彼女は自業自得の泥沼にはまっていきます。
さらに、幼少期に父親から虐待されていた過去もあり、DVを受け入れてしまう厄介な体質で、ダメ男ばかりに捕まるので救いようがありません。
ピュンピュンの突き抜けたクズさは、いっそすがすがしいほど。浮気相手に10万円単位で貢がせるも、とくに見返りを渡すこともなく、甘いマスクと巧みな話術、そして性行為のテクニックだけで女たちを満足させ、刹那的に生きています。
しかし、私生活になるとよい夫・よい父親を演じる場面もあり、その姿は生粋の詐欺師を思わせます。
他の人の前では完璧なセレブになりきるのに、食べ物の好みはとんでもなくお子さまで、コロッケを崩して食べる悪食な一面には、ついドン引きしてしまうでしょう。
またピュンピュンはとても性欲が強く、外出時を除けば、常に女性とベッドインしているというのも注目すべき点です。ゆりかも例外ではなく、まともなデートはなく、ひたすら性行為をくり返します。
本作はあくまで一般漫画ですが、成年漫画並みのセクシー表現が描かれることも。クズのストーリーとエロチックな展開、この2つをまとめて楽しめるのも本作の魅力でしょう。
ゆりかは仕事で切羽詰まり、親からは結婚をせっつかれ、私生活では金銭面でカツカツ……と、八方塞がり。どん詰まりの彼女が這い上がるには、「年収3,000万円男」のピュンピュンと結ばれるしか、少なくとも彼女の頭のなかではありませんでした。
さらに彼との関係を続けるために、消費者金融に手を出し、クレジットカードのリボ払いをし、なんとかピュンピュンに見合う服装を見繕っていました。それもこれも翌日に迫ったデート、ひいては玉の輿の先行投資と割り切って……。
ところが、デートはピュンピュンの急用でキャンセル。しばらく会う機会がないからと、横浜に呼び出されてしまいます。ここでは努力の方向を完全に見失った、涙ぐましいゆりかの行動が見所です。
彼女はまるで何かに導かれるように、悪い方へ悪い方へと進んで行きます。どうしてこの行動力をほかに活かせないのかと同情しつつも、あまりに哀れで逆に笑えてくるでしょう。
ピュンピュンの滲み出るクズ男っぷりも必見です。なんとゆりかを呼び出した場所は、ほかの女と寝たあとのラブホテルだでした……。
- 著者
- 宮崎摩耶
- 出版日
- 2019-05-20
ピュンピュンと付き合いたい一心で、かいがいしく世話したラブホの連泊。ラブホにわざわざオーブントースターを持ち込み、慣れない手料理で出迎えるも、冷たい反応をみせるピュンピュン。さらには恋人と明言してもらえず、ついには喧嘩別れの状態で帰ることに。
茫然自失状態で帰宅したゆりかでしたが、はっきりしたこともありました。彼女が心の底から望むものは、イケメンの恋人でも人が羨む財産でもなく、真心こもった愛であることに。
ゆりかは間違いなくダメ女ですが、同情すべき点はあります。もともと貧乏であることや自分の力ではうまくいかない仕事、それらを支えてくれるパートナーもいません。すなわち愛情に飢えていました。
ここまでのストーリーでかなりひどい目にあっていますが、なんとか持ち直してほしいと応援したい気持ちにもなります。
果たしてゆりかは報われるのでしょうか?そして本名の姓が判明した「ピュンピュン」こと、草刈に罰が下るのか必見です!
どちらかといえばゆりかに同情したくなりますが、彼女も彼女でどうしようもない性格。ダメな性格の登場人物しかいない恋愛漫画が、どんな結末を迎えるのか気になって仕方がありません。