『三国志』小説おすすめ5選!読みやすい作品を、作者別にご紹介

更新:2016.12.4 作成:2016.12.4

男たちが己の力を信じて戦う汗臭い時代の物語に「なんだか読みづらそう!」と思う方もいるのでは?今回は、初めての方にも読みやすい三国志関係の小説をご紹介します。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

三国志の代表選手、吉川英治作品!

日本人になじみの薄かった三国志を広く深く知らしめた、勧善懲悪の長編小説。日本では最も知名度が高い小説です。

著者
吉川 英治
出版日
1989-04-11


中国大陸を滔々(とうとう)と流れる黄河。そのほとりで一人の青年が川面を眺める場面から、物語は始まります。この青年こそ、主人公の劉備。彼は貧乏暮らしでしたが、病の母親に高価な茶を買うため、商人の船を待っていたのです。

初登場から誠実なイメージの主人公。黄河は中国の大河であり、その近くで「待つ」という第一印象は後々まで変わりません。戦は負けてばかりで世渡りも下手、ただひたすら「時を待つ」劉備。人望のある彼を中心に、関羽、張飛を始めとする豪傑、諸葛孔明など、綺羅星のごとき人材が集まり、動乱の時代にささやかな華を咲かせます。

吉川三国志は、蜀の劉備=正義、魏の曹操=悪のイメージを植え付けたともいわれています。その点では賛否両論ある小説ですが、入門としてはぴったりだと思います。読み始めたら最後、続きが気になって気になって、本が手放せなくなるでしょう。

ちょっと癖あり?シバレン三国志

エロチックな描写も出てくる本作。天下の覇者たらんとする男たちが、陰謀と策略を巡らせ、血みどろになりながら戦う世界。男達の絆の強さが力を込めて描かれます。一方、悲劇の美女・貂蝉をはじめとする女達は戦いの世界からはじき出され、破滅していきます。

著者
柴田 錬三郎
出版日


義兄弟の契りで結ばれた関羽、張飛が暗殺されたときの劉備の怒りの深さ。それは国を滅ばしかねない危険なものでした。孔明が理で説得し、趙雲が半ば脅すように説得しても、劉備は同盟国への戦を止めようとしません。結果的にはこれが、劉備自身の命を縮めることになります。

自らを信頼する主君・劉備に応えようとする孔明の誠実な生き方が、まぶしくも悲しいと感じる長編です。史実ではわかっているはずの男たちの運命が気になってしまい、辛い辛いと思いながらもやめられなくなる小説です。

孤軍奮闘するその後の孔明の姿と、蜀の運命は、続編『英雄 生きるべきか死すべきか』に描かれます。ぜひこちらも読んでみてくださいね。

読みやすい文章、含蓄のある言葉

読みやすい文章の中に、ときおり投げられる含みのある言葉。仮想キャラの言葉だからこそ、読者の心にすっと入ってきます。

三国志の時代をもたらしたきっかけは、黄巾の乱。その影には一人の女性——五斗米道のリーダー・張魯の母である少容——がいました。宗教によって国を安定させる意志を伝える部下たちは、それぞれの英雄の元で助言、画策を行います。もちろん魏も蜀も呉も例外ではなく、後漢の宮廷にも五斗米道の息のかかった人物が送り込まれていたのです。

著者
陳 舜臣
出版日
2004-02-01


少容は曹操と、どちらが人々の心を得ることができるか、賭けをしていました。そして孔明もその賭けに乗るのです。孔明は、曹操の死、劉備の死を見届け、死んでいこうとする自分の枕元に座する彼女に「あなたが勝ったのだ。私は人の心は救えなかった」と言います。彼女は「いいえ、心の安らぎだけでは人々は救われません」と答えました。

作者は、心のよりどころである宗教と、安定した生活を守る政治家という両輪が必要なのだ、と述べます。平易な文章の中に含蓄がありますよね。

三国志では最大の悪役とされる魏の曹操にスポットを当てた『曹操』もあわせて読むと、それぞれの人物像が深くわかることでしょう。

冷静な文章で熱い世界を描く

著者
宮城谷 昌光
出版日
2008-10-10


漢語の多い硬い文章の中で、男たちの友情、陰謀、裏切りなどの心理合戦が展開されます。

宮城谷作品の特徴は、漢語が多用されている点でしょう。このことが、知性的で突き放した印象を与えます。英雄、豪傑、自分に自信のある男たちが政権を巡り、熱い戦いを繰り広げる世界の中にある歴史の非情さが、より明確になるかのようです。

個人の描写、特に女性描写が少ない作品ですが、外伝『蔡琰(蔡文姫)』は、戦乱に翻弄された女性の悲劇を描きます。心ならずも異国へ連れ去られ子どもを産みながら、その子を置いて中国へ戻らなければならなかった女性。決して愁嘆場(しゅうたんば)にはならず、淡々とした文章が続きます。

意外に読みやすい、三国志

ハードボイルド的展開と思いきや、予想を裏切る人間くさい登場人物たちの物語。男も女もどこかかわいげのある人物ばかりです。男女ともに読みやすい作品といえるでしょう。

著者
北方 謙三
出版日


本作は「草原が燃えていた」という文章から始まります。燎原の炎のような時代の幕開けにぴったりの表現でしょう。

登場人物は、それぞれがキャラ立ちしています。特に、三国志時代初期の英雄呂布の描写が良い味を出しています。巨躯、勇猛果敢、単純、残酷で戦い好きな男のイメージですが、初恋の女を一途に慕う純情さもあって、愛嬌があります。

史実に忠実に、流れを滞らせることなく人間たちは死んでゆきます。滔々たる時の流れを感じさせるのが、終盤の諸葛孔明の死ぬ場面です。「人は生き、人は死ぬ、それだけのことだ」——どんなことを成し遂げようとも、失敗しようとも、ただそれだけのこと。孔明の述懐で物語は幕を閉じます。

読後は、心の中に荒涼とした風が吹くでしょう。一方で、なにかしら満ち足りたものも感じられる小説です。