料理が得意な男子高校生・サブローは、ある日突然、異世界に飛ばされてエルフに助けられます。しかし、そこで振る舞われた食事が「あまりにもマズい」ので、見かねた彼は自ら食事の用意を引き受けることに。今回は、「おいしい」の伝道師として、皆を笑顔にしていくサブローの活躍を描いた、異世界グルメコメディ『マズ飯エルフと遊牧暮らし』の見所を紹介します。ネタバレが含まれるのでご注意ください。
本作の主人公は、料理が得意な男子高校生・スズキサブロー。食堂の手伝いをしていたある日、キャベツを取りに外へ出ようとドアを開けると、なぜか目の前には果てしなく広がる草原が……。
わけもわからないまま草原をさまよい、行き倒れたサブローは、草原エルフのポポに助けられます。空腹の彼に、ポポは食事を用意してくれるのですが、それはお世辞にもおいしいとは言えないものでした。
肉や野菜を適当に煮込み、灰汁(あく)は取らず、味付けもなし。エルフは毎食これを食べていて、「食事はつらいもの」だと思っているようです。サブローは助けてもらったお礼も兼ねて、自分が食事の用意をすると申し出ます。
現地にあるもので作った水餃子は、「食事なのに食べたいと思う」とエルフたちに大好評。サブローによって、エルフたちに「おいしい」という感情がもたらされたのです。
- 著者
- ワタナベ タカシ
- 出版日
- 2018-04-17
本作のエルフたちは、メーメーと呼ばれる「ヤギやヒツジに似た動物」を放牧しながら暮らす遊牧民族です。サブローは調理道具の代わりに矢や槍を使うなど、工夫しながらつぎつぎと新しい料理をエルフたちに振る舞っていきます。
おいしそうに描かれた料理はもちろん、料理中の楽しそうなサブローやエルフたちの表情を見ていると、お腹が鳴ってしまいそうになります。
また、料理を通じてほかの種族と交流する様子も描かれ、それぞれの集落での多様な文化を見て楽しむこともできます。
- 著者
- 大間 九郎
- 出版日
- 2010-09-10
原作者である大間九郎は、 『ファンダ・メンダ・マウス』という作品で、第1回「このライトノベルがすごい!」大賞の栗山千秋賞を受賞したライトノベル作家です。個性的なキャラクターと勢いのある文章が特徴的で、一度読み始めると止まらなくなってしまいます。
小説のほかにも『ロックミーアマデウス』『超人間要塞ヒロシ戦記』などの漫画原作も手がけています。 クラシック音楽を用いたアクションバトルや、「もしも人間のなかに小さな宇宙人がたくさんいたら……」という、意外な着眼点から広がる不思議な世界観が魅力的です。
漫画担当であるワタナベタカシとのタッグでは、本作のほかにも、2019年7月より「少年マガジンエッジ」で『エルフデッキと戦場暮らし』の連載をスタート。ファンタジックな世界で、自由奔放に動き回るキャラクターが描かれています。
草原に暮らすエルフたちは、煮る以外の調理法を知りません。出汁をとる、灰汁を捨てる、野菜を小さく切る、肉や小麦粉をこねる……サブローにとっては当たり前の調理ですが、エルフの目には奇妙に映ります。
時には食材で遊んでいると誤解したり、「呪術では」と不審に思ってしまうことも。
しかし料理をしているサブローの笑顔や、鍋から漂ってくるおいしそうな匂いに惹かれ、エルフたちはどんどん食事が楽しみに。サブローに教わり、自分たちの手でも少しずつ料理を作れるようになっていきます。
出来上がった料理からはホカホカの湯気が立ち上り、まるでおいしい匂いが読者の鼻先にも漂ってくるようです。また、サブローは調味料となるバターや水あめ、ヨーグルトなどの発酵食品まで手作りしてしまいます。
料理に関する知識の豊富さにも、読者は驚かされることでしょう。当たり前のように口にしている食品ですが、「こうやって作るのか!」という発見ができるのも魅力のひとつです。
商人との出会いを機に、サブローの料理はエルフ以外にも伝わっていきます。農業を営むワンワン族や、岩山に住むドワーフ族、海で魚を獲るミャウミャウ族など、この世界に住む種族はさまざま。
サブローは新たな食材に出会い、それを使ったメニューに挑戦していきます。ワンワン族の集落では、巫女が口かみ酒をつくる文化があり、サブローはこの世界でお酒が作られていることをはじめて知ります。
高齢の巫女は歯が抜け落ち、口かみ酒を作れなくなり困っていましたが、サブローは動物の乳を発酵させるお酒の作り方を提案。再びお酒が作れるようになったワンワン族には活気が戻り、その後もサブローやエルフたちと友好的な関係を築いていきます。
サブローの料理は、この世界にとっては「新しい技術」。それによって食生活が変わっていく様子や、商人たちが料理で取引している場面は、見ていて興味深いものがあるでしょう。
サブローのチーズが流通したことをきっかけに、エルフの集落にルフェと名乗る女性が現れます。なんと彼女は、サブローと同じく地球から異世界に飛ばされてきたと言うのです。
ほかの地球人の存在を知ったサブローは、自分が異世界に来た理由や、帰る方法について考え始めます。さらにドワーフ族を訪ねて話を聞くと、じつは地球人が作った国があることや、かつて異世界から地球に帰ろうとした人間がいることがわかりました。
故郷への想いをますます募らせるサブローでしたが、結局地球に帰る方法はわからないまま……。地球人の国についても、まれに商人がやってくるだけで、内部の詳細は不明です。
しかし、どうやらこの世界の地球人は、多様な時代や国から飛ばされてきているようです。サブローは現代の男子高校生ですが、ルフェはイギリスから来たと言います。人間の国を作ったシューフーという人物も、現代の日本人ではなさそうです。
異なる時代や国からやってきた地球人たちが、翻訳もなしにコミュニケーションができているのは、少し考えると不思議ですね。サブローたちが異世界に飛ばされてしまった理由とは……?まだ明かされていない謎が多くあるので、今後の展開に注目です。
- 著者
- ワタナベ タカシ
- 出版日
- 2019-04-17
春は出会いの季節。商人エルフとワンワン族の商談に同席したサブローは、オリーブオイルやワインを使った料理を披露し、今回も絶好調。 しかし、このワインが意外なきっかけをもたらします。
数日後、サブローたちの集落にやって来たのは、ワインを作ったという少年・アトム。彼は古代ギリシャの時代・アテナイからやってきた地球人でした。はじめはルフェを敵視していたものの、サブローの料理をきっかけに、しだいに打ち解けていきます。
まだ幼いにもかかわらず、教養と思慮深さが感じられるアトムの言動には、目を見張るものがあるでしょう。この世界の不可解な点について、彼が考えを述べる場面は緊張感もあり、世界の謎にも迫る注目のシーンです。
そして新たな仲間や種族との出会いは、新たな食材との出会いでもあります。どんどん進化する料理のレパートリーを見ていると、エルフと一緒に読者もお腹がペコペコになってしまうかも……。
多くの仲間に囲まれ、サブローの異世界料理の道はまだまだ続きます。次はどんな「おいしい」に出会えるのか、今後の展開から目が離せません。